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N-077 森の異変


 「これだけのイネガルを見るのは久しぶりです。後は我等が運びましょう」

 「お願いします。俺達は薪を持って帰りますから」


 結局、イネガルはガレ場で石を運んでいた兵士に頼むことにした。数人で丸太にくくりつけられたイネガルを担いでいく。

 そして俺達は林の中に入っていった。

 

 雑草は多いのだが、泉は湧いていない。水脈が地上付近まで来ているのだろうが、外に出ることはないようだ。

 早速、斧で雑木を倒す。

 籠に入るくらいに斧で切っていくと数本で籠が一杯になる。

 ちょっと重くなったが、明日から少しずつ切って行けば数日で林はなくなるな。

 

 「これは、ちょっと重くないか?」

 「そうだな。少し落としておこう。明日も此処から切ればいいからな」


 籠の四分の一程を林に残して、俺達は見張り所に帰ることにした。生木だから重くなるのは当たり前だな。

 

 日がまだ高いから、少しでも軽くしようと数本の雑木を新たに切り倒しておく。

 そして、日が暮れる前に、俺達は見張り所の建設場所に戻っていった。


 薪を調理場に届けて、少しを自分達の焚火用に持ち帰る。まだまだ薪はあるから、少しでも大丈夫だ。夜の明かりとお茶を作る位だからな。


 俺達が戻って焚火の周りに座り込む地、早速アイネさん達が少し早い夕食を取りに出掛けた。

 

 「イネガルには散弾銃では無理なんだろうか?」

 「いや、弾を変えれば何とかなるかも知れない。2発撃って1発は頭に当ってたよな。そして頭蓋骨にヒビを入れてた。散弾銃で使うスラッグ弾は鉛でしかも大きいよな。これは貫通よりも衝撃力を重視してるんだ。頭蓋骨を貫通させるんだったら、弾の大きさを小さくして弾の速度を上げなくちゃならない。俺のライフルがそんな感じだな。

 だけど、レイクの散弾銃でもスラッグ弾の構造を変えれば出来ないことはない。

 こんな感じの弾を作ってカートリッジに入れておけばいい」


 バッグから取り出したメモ帳に鉛筆で簡単な絵を描く。

 弾芯を持つスラッグ弾。弾芯は先の尖った鉄の棒だ。その弾芯を上下2つの鉛の輪で固定する。

 輪はカートリッジの爆発エネルギーを受止めて鉄の棒を発射する為のピストンの役目を果たす。

 これなら、イネガルの頭蓋骨でも貫通する事が出来るだろう。元ネタは対戦車砲弾だからな。


 「おもしろそうな弾だな。武器屋で作れるだろうか?」

 「これぐらいなら簡単だと思うよ。この弾芯は鋼鉄で作るんだ。鉄板でも貫通するんじゃないかな」


 「戻ったら早速作ってもらうよ。アイネさん達も使えるだろうし……」

 「そうだな。だけど余り広めないでくれよ」


 俺の言葉に微笑むと、俺の描いた紙を大事そうにポケットに仕舞いこんだ。

 2人でのんびりとタバコを楽しんでると、アイネさん達がお鍋を持ってやってきた。

 

 「今夜はシチューにゃ。イネガルの肉は久しぶりにゃ。皆喜んでたにゃ」

 「それに、今夜はこれが付きます」


 そんなことを言いながら焚火の周りに串を刺していく。ドライズの切り身だな。あれは美味かった。

 前に食べた味を思い出して涎が出てくる。今日はご馳走だな。


 アイネさんがたっぷりと盛ったシチューの椀を渡してくれる。

 薄いパンを食べながら、マイネさんが渡してくれた蜂蜜酒のお茶で割った飲み物を飲む。

 狩りの様子を話すミーナちゃんとレイクは楽しそうだな。今度は俺が先だからな。


 食事が終るとお椀と、カップを回収して笊ごとミーネちゃんが【クリーネ】を掛ける。ホントに便利な魔法だよな。主婦必携の魔法だ。

 改めてお茶を飲むと風下でレイクと一服を楽しんだ。

              ◇

              ◇

              ◇


 昨夜は、遠くで野犬の遠吠えが聞こえてきた。

 襲ってくる時は遠吠えなんかしないし、かなり遠くから聞こえてきたので、俺達はちょっと他人事のようにその声を聞き入っていた。


 イネガルを倒してから5日も過ぎているから、俺達が薪を取っていた林は雑木が全て切り倒されている。

 今日もそんな雑木を適当に籠に投げ入れて、さぁ帰ろうかと籠を担ぎ上げた時……、ふと、南に目がいった。

 そして、キラリと光るものを見た。


 急いで、立ち上がったレイクに腰を下ろすように告げると、籠を下ろして俺の所に中腰でやってくる。


 「どうした?」

 「あそこだ。見てみろ」


 レイクに押し付けるように双眼鏡を渡して、指先で方向を教える。


 「あれは!」

 「先遣隊ではないな。偵察部隊だろう。人数は10人前後だ」

 「どうするんだ?」


 そう言って俺に双眼鏡を押し返す。

 ゆっくりとした動作で、再び藪の中から敵情を視察する……。

 革鎧に、片手剣を佩いてその反対側にはパレトか?革の帽子を被って2m位の槍を手にしている。

 移動方向は岩山の見張り所の方向だぞ。

 此方には気が付いていないし、こっちの方向のは興味がないようだな。

 最後の1人が尾根に隠れた所を確認して、俺達は急いで作業現場に戻って行った。


 急いでサリーネさんを探すと、事のあらましを告げた。


 「本当ですか! 早速、伝令を出します。簡単なメモを2つ作ってください」

 

 俺にそう告げると、直ぐに副官を呼んで作業の中断と、迎撃態勢作りと伝令の召集を指示している。

 まぁ、軍人なんだからこんな時に動転しても困るけど、落着いて副官に指示しているのを見ると何か安心できるな。

 

 「伝令を連れてきました」

 「ご苦労様、貴方はエクレム様のところへ、そして貴方は遠いですけどアルトス様にこの文を届けてください」

 

 サリーネさんが片手を俺に伸ばしてきたので、その手に今書いたばかりのメモを載せた。

 若い兵士だな。俺と同い年位じゃないか。

 そんな兵士にサリーネさんがメモを折って渡してあげる。2人の伝令はサリーネさんに向かって右腕で胸を叩くと、サリーネさんも答礼をする。

 そして、俺達に軽く頭を下げると、山裾に向かって歩いて行った。


 「問題は、此処を発見されたかどうかです。幸いにもカマドや焚火で大きな煙りを上げていませんから、遠目では分らないでしょうけど……」

 「たぶん大丈夫でしょう。少なくとも30M(4.5km)は離れています。それでも、夜間の焚火は気を付けないといけないでしょうね」


 「我等の天幕は茶色ですし、布は厚手の2重張りです。これを張った中で炭を使って調理すれば夕食は問題ありません」

 「朝食も同じでいいでしょう。灯りを付けずに早めに就寝すれば良いでしょう」


 「そうなるわね。そうすると……、第1分隊は待機してもらうことにしましょう。半分ずつ、見張りを立てなさい。場所は……」

 「見張り所の上は俺達が見張ります。第1分隊の方々は、皆が休んでいる天幕の西、あの茂みを拠点にしてはどうでしょうか?」


 其処は2本の短い雑木と草丈の長い茂みがポツンとある場所だ。


 「良い場所です。早速監視兵を送り出します。サリーネ様とレムル様は、この場所においで下さい。周囲を天幕で囲いますから、明かりが漏れることはないでしょう」


 そう言って俺達の傍を離れていく。

 

 「少なくとも早めに食事を取っておいた方が良さそうね。レムル様も食事を終えたらいらしてくださいな」

 

 俺は席を立つと、サリーネさんに頭を下げて俺達の焚火の場所へと移動した。

 皆が俺の帰って来るのを待っていたようだ。

 早目の食事を取りながら、俺達の役割を皆に伝えておく。

 

 「それじゃぁ、何かあれば見張り所の北にある焚火に向かえばいいんだな?」

 「そうだ。俺とサリーネさん、それに副官が待機している。もっとも、何かが起きることはないと思うが念のためだ。あるとすれば、南の森の方だな。そっちには伝令を走らせてある」

 「分ったにゃ。何かあれば連絡するにゃ」

 

 4人を残して、俺はサリーネさんのところにライフルを持って出掛けて行った。

 焚火の場所に行ってみると、西から南を天幕用のシートが覆っている。

 シートの色は土色と言うよりも黒に近いような感じだ。これなら小さな焚火を隠すのは容易だな。


 「レムル様は其処に腰を下ろしてください」

 

 副官の言った席はサリーネさんの隣だ。少し離れた右側に副官が腰を下ろす。焚火を挟んで前にいる2人は第1分隊の分隊長らしいな。部下を隣に座らせていた。


 「さて、今夜は長くなりそうね。ポットのお茶は自由に飲んで頂戴。もう1つポットがあるから、喉が渇くことはないわよ」

 「お茶よりも、パイプは大丈夫ですか?」


 「問題ない。このシートがあればこの場所を出ない限り、パイプの火が見つかることはない筈だ」

 分隊長がそう言ってパイプを取り出す。

 なるほど、この場所では吸えるってことだな。俺にはそっちの方が大事だぞ。


 パイプを取り出して革袋のタバコを詰める。焚火の燃えさしを使ってタバコに火を点けると、ゆっくりと煙を吐き出す。

 後は、のんびりと楽しむだけだ。サリーネさんがそんな俺をにこにこしながら見ていた。


 「だいぶ余裕がありますね」

 「まぁ、敵の主力はこっちではありませんからね」


 俺の話を聞こうと、副官が俺にお茶のカップを渡してくれた。

 まぁ、夜は長いんだし、少し俺の考えを披露しておくか。違っても、この場所の西を監視しているんだから、何かあれば分るだろう。


 「たぶん、今夜は森の西に沢山の明かりが現れると思いますよ」

 「それは、敵の主力が森を通って来るということ?」


 「はい。実際は森の東側からだと思いますが、一応偽計を使う筈です」

 「森の西は偽計で、森の東が本命?」


 「森は見通しが利かないですから、結構有効な手ではあります。ですが、少し考えれば、大軍を野営させるのは困難と言うか止めた方がいいんです」

 「火攻めか?」


 分隊長の言葉に俺は頷いた。


 「なるほど、その危険を押して野営をするのは問題ですな。森の外れの荒地は海辺の断崖まで続いています。その荒地を通って来ると?」

 「十中八九っていうところでしょうね。あえて、森を抜けるということも考えられます。荒地を通ると思わせて……」


 「どれもが考えられるとなれば、全てに備えなければならないわ」

 「其処に俺達の弱点があるんです。パラム王都陥落で国力が低下しています。軍隊もかろうじて2大隊と3中隊ですからね。

 アルトスさんはかなり薄い防衛線を引くことになります」


 「我等も馳せ参じた方が良いのでは?」

 「いえ、ここで待機していることが重要なんです。薄い防衛線ですがそれなりに対応できる筈です。しかし、敵に背後を取られたら……」


 「挟撃されるということか。確かに問題だな」

 「それが俺達が此処にいる理由です。此方に回りこむ部隊を発見して、本隊に連絡。この見張り所に何かあれば1中隊を素早く動かせます。敵の状況を知る為の見張り所であり、敵が迂回してきたらそれを打つ前線基地ともなるのは俺達の作っている見張り所なんです」


 敵がどのように動くかが分らない以上、全てに対応を打って奥必要がある。

 偵察機がない以上、物見を放って状況確認をするしかない。

 たぶん何組かを森に放っているんだろうけどね。

 その報告が来れば、どちらかなのかが分るのだろうが、現状での対応は此処までだな。


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