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N-075 助っ人がやってきた


 次の日は、朝からガレ場から石を運ぶ。

 革手袋をして、レンガ2つ分程の大きさの石を運ぶのは楽じゃない。

 数回往復すれば1時間が過ぎてしまう。

 1人で石を肩に担いでいる俺に対して、レイクは籠に3個ほど入れて運んでるし、アイネさん達は小さな石を笊に入れて運んでいた。

 確かに、籠があれば便利だな。

 1小隊が登って来る時に持ってきてくれればいいんだけどね。


 大きな石を土台より少し広げた位置に置く。これが床の目安で、この範囲を水平にしなければならない。

 山裾側は50cm以上石を積まねばならないから、結構時間が掛かりそうだな。


 「これは疲れるなぁ」

 「まだまだ続くぞ。少し休むか? 次ぎは俺が担ぐ」

 

 「あぁ、頼む」

 「お休みですか?」

 「私等も休むにゃ!」


 初めて1時間ちょっとで俺達は休憩だ。まぁ、力仕事だし、こんなものだろう。

 焚火の脇に置いておいたポットで御茶を飲む。デガラシだがそれなりの味はでるから、疲れた体には甘く感じるな。

 焚火でパイプに火を点けると、風下に座ってレイクと一服を楽しんだ。


 「しかし、大変な作業だな」

 「あぁ、何せ水平を出さなきゃならないからな。それが終ってからが本格的な見張り所作りだ」


 「それはずっと、石運びが続くという事なのか?」

 「まぁ、そうなるな。でも、明日から軍隊の人達が来るんだ。そうすれば少しは楽になるんじゃないかな?」


 そうは言ってみたが、実際はもっと忙しくなりそうだ。40人が運ぶ石を組み上げていくのは大変な作業だぞ。


 一服を終えて俺達は再び石を運ぶ。

 そういえば、一箇所に集めて【クリーネ】を掛けておくように言われたな。

 皆にそのことを注意して、運んだ石は区画の中に山積みにしておく。

 

 昼食は、簡単なスープのみ。そして石を運ぶ。

 夕暮れまでそれを繰り返したが、互いの顔を見合わせる程に、その量は微々たるものだった。


 「まぁ、5人だからな。こんなものだろう。明日は人数が多くなるから手分けして進めなければな」


 そんな事を言いながら、具沢山のスープに薄いパンを浸しながら食べる。

 同じようにパンを頬張っていたレイクが相槌をうつ。


 「確かに……。だが、それはミーネの姉さんがやってきてから相談だな」

 「結構、気が強い隊長にゃ。言うことを聞いてくれるかにゃ?」


 アイネさんの言葉にミーネちゃんが頷いてる。

 お姉さんは絶対だって感じだな。まぁ、姉貴を持ってる友人の話ではそんな感じだったな。逆らえない。兄貴の方が良かった。何て何時も聞かされてたからな。

 アイネさんだって、下の3人には何時も命令口調だからな。

 お姉さんって存在は、皆同じなんだろうか?

 

 「まぁ、これが役に立ってくれることを期待するしかないですね。根っからの軍人なら階級で話をしますから大丈夫だとは思うんですが……」


 例の幕僚のバッジがどれだけ役に立つかは分らないけど、軍のトップであるアルトスさんに進言できる立場だから、認めてくれるといいんだけどね。


 食事が終ると、御茶を飲みながら迷宮の狩りの話等をしながら時を過ごす。

 俺とレイクは風下で一服しながらそんな話に相槌をうつ。


 そして、夜は昨夜と同じように交替で焚火の番をする。

 何も無いとは思うが、此処は山の上だし、今はネコ族を狙う敵軍もいるのだ。用心の上に用心を心掛けておくことが必要になる。

              ◇

              ◇

              ◇


 そして、2日目の朝が来た。

 朝食を早々に済ませると、アイネさん達は下の見張り所に水を汲みに出かけた。

 俺と、レイクは周囲の偵察を兼ねて薪を拾いに出掛ける。

 何せ40人増えるんだからな。焚火も1つでは足りないだろう。少し南の方に足を伸ばしてなるべく太い薪を集めて帰って来た。


 「足りるかな?」

 「連中が来た時に相談すればいいよ。これだけあれば俺達だけなら2日は持つぞ」

 

 前に集めた薪の上に籠から薪を載せておく。そして、焚火に薪を継ぎ足してポットを傍に置いた。

 互いにパイプを取り出してタバコを詰める。

 一仕事を終えた後の一服は格別だよな。


 そんなところへ、3人が帰って来た。小さな籠をアイネさんが担いでいる。

 近くに籠を下ろすと、天幕に荷物を降ろしに行った。食料も運んできたのかな?


 「疲れたにゃ」

 

 そんな言葉と共に焚火の回りに腰を下ろすと、ポットのお湯で御茶を入れてくれた。


 「20人が先行して昼頃に着くにゃ。残りの20人は場所が少し傾斜してるって話したら、杭を運んでくるって言ってたにゃ」

 「お姉さんが、私達に水と薪それに見張りをお願いしたいって言ってました。見張り所は何とかするって……」


 俺としてはありがたい申し出だが、ちゃんと小屋を作れるんだろうか? ちょっと心配になってきたな。

 そんな話をしていると、レイクが下の方を見て指を差した。


 「やってきたぞ。籠を担いでいる者が多いな」

 「たぶん野営の天幕や食料を担いでるんだろう。此処に40人だから、天幕も沢山建つぞ」


 「少し下がった場所が平にゃ。たぶんあそこに建てることになるにゃ」

 「炊事場も作らないといけませんね。それに雨が降っても困ります」


 確かに良い天気が続いているけど……雨は困るな。天幕用のシートでターフのような屋根を作っておくか。

 それに、雨の日の見張りも良い場所がない。同じように何とか考えないとな。


 サリーネさんが数人の兵士を連れて俺達の所にやってきた。

 俺の向かい側に座ると、ミーナちゃんがお茶のカップを渡している。俺のカップにはマイネさんがポットから御茶を継ぎ足してくれる。


 「良い所を選びましたね。ここなら、森の方まで見通しが利きます」

 「ありがとうございます。それでも少し、問題があります。これからご案内しますが、少し傾斜地です。見張り所を作る前に床を平らにする必要があります」


 「それ位なら、問題はないわ。後で来る連中が杭を持ってくるから、それを打ち込んでその上に石を積み上げれば大丈夫よ。幸いにも私の部隊には元石工が2人もいるから、その辺は想定内よ」


 お爺ちゃんから聞いた、昔の軍隊にもそんなことがあったそうだ。召集された人達で作られた軍隊には様々な職業の人がいたので、その場に応じて色んな事が出来たらしい。簡単な掘っ立て小屋ならすぐに作れたと言ってたな。


 「それなら安心ですね。それじゃぁ、こっちです」


 俺が立ち上がると、レイクが一緒についてくる。その後ろにサリーネさんと2人の兵隊が付いて来た。3人程残った兵士はアイネさん達と話をしている。天幕を張る場所を確認しているみたいだ。


 そんなに離れている訳ではない。直ぐに目的地に着くと、状況を説明する

 一緒に来た兵士が元石工みたいだな。もっぱら質問は2人からだ。それに一々答えると2人とも感心して聞いている。


 「なるほど、良く分かりました。レムル様の考えで問題となる箇所も我等にはありません。確かに、石を運ぶのは大変ですが良い見張り所が出来ると思います」

 「本職に言って貰えると嬉しいですね」


 「ところで、この大きさでは少し小さいんじゃないですか?」

 「いや、何もないのでそう思えるんです。これで、10人は入れますよ。それに見張り所ですから、休んでいる者もいる筈です。この縄張りを見張り所の内壁として作れば問題はありません」


 「貴方達がそう言うなら、これで行きましょう。2人に監督を任せたわ」

 「了解です」


 そんな話をした後で、再び焚火の所に戻って来ると、アイネさんが言っていた場所に天幕が並んでいる。

 そんな場所の片隅に三角の大天幕が張ってある。よく見ると、下側の布が無い。

 其処に石を積み上げたカマドが設えてある。あれが調理場になるんだな。40人もいるから作るのも大変だろうな。


 「レムルさん達には、この周辺の見張りと水汲みと薪の調達をお願いします。食事は私達と一緒にしてください。それに夜の監視もです」

 「それ位で良いのか?」


 「十分です。それに、幕僚のご一行に力仕事はさせられません」

 「いや、俺達はハンターとして此処にいるんだけど……」


 と言っても、サリーネさんは聞いてくれない。思い込みが激しくて、信念を曲げないというとっても困った性格だな。

 よく小隊長になれたもんだと感心してしまう。

 

 という事で、俺達はこの焚火の近くに天幕のシートを使って簡単なターフを作る。小さな炉をその中に作ってあるから、雨の日はそっちに移動だな。


 アイネさん達が水汲みをしている間は、俺とレイクが見張りに立つ。

 俺達が薪を集めている間はアイネさん達は見張る番だ。


 籠を2人で背負って集めるから、大量に集められるな。少し離れた場所まで出掛けても大勢いるから安心できる。

 

 薪を少し俺達の焚火の傍に置いて、残りは下の調理場へと持っていく。

 大鍋を掛けたカマドだから、たっぷりと薪がいるな。明日は少し太い物を集めよう。


 薪を届けた後は、のんびりと焚火の傍で一休み。

 見張り所はどうなったかなと行ってみると、なるほど人数が多いから集める石の数も凄い。小山が2つも出来てるぞ。

 その中の大きな石を先程の2人が積んでいるのだが、その積んでいる箇所は少し広い溝が掘られて、其処には50cm程の間隔で杭が打たれていた。その杭は焚火で炙られたように表面が炭化している。

 大量の石が積まれるからな。幾ら荒地でも沈むことを危惧しているみたいだ。やはり本職は違うと感じる次第だ。


 俺達が見ている傍から新たな石の山が出来る。ある程度貯まったところで、兵士の1人が【クリーネ】を唱えると、石の表面の汚れが綺麗に落ちる。

 そういえば、石を接着するって言ってたな。

 どんな接着剤を使うんだか後で見てみよう。


 「此処にいましたか。そろそろ今日の作業は終了です。今夜の見張りはよろしくお願いしますよ」

 「あぁ、大丈夫だ。やはり、兵隊には敵わないな。よく統制が取れてるし、あっという間に石が集まる」


 俺の言葉を聞いてニコリと笑顔になる。

 自分の部隊を褒めて貰えたと思ったのかな?

 まぁ、敵対してるよりは互いを認め合っていた方がいい。俺の方はそれほど褒めるようなところが無いのが辛いところだけどね。


 焚火に戻って一服してると、アイネさん達が鍋と大きな布巾が掛かった笊を運んで来た。

 どうやら、調理場から貰ってきたようだな。

 5人で焚火を取り巻くと、少し早いけど夕食を取る。

 具沢山のスープは、肉が多いな。そんなスープをスプーンで頂きながら、焼き立ての薄いパンを食べる。いつものパンより厚く感じるな。これも、軍隊用って事なのかな。


 食事が終ると、一緒に貰ってきた干し杏のような果物を齧りながら御茶を飲む。

 何時の間にか夕日が西の尾根に隠れて、空を赤く染めていた。

 下の焚火の周りでは兵士達が食事を始めたみたいだな。賑やかな話し声と笑い声が聞こえてくる。

 

 「最初は私等にゃ。夜は頼むにゃ」

 「えぇ、分ってます。でも、ちゃんと起こしてくださいね」


 そう言って、俺とレイクは席を立つ。傍らのライフルを手に取ると天幕に入った。眠れれば良いんだけど……、まだ寝るには早い時間だよな。




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