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N-074 新しい見張り所


 朝から、空は晴れ渡っている。

 朝食を終えたエルナーお爺さん3匹のガルパスを連れて村へと帰って行くのを皆でみ送る。

 そしてら何と、エルナーお爺さんは1匹のガルパスの背中に乗って山を下って行く。竜宮城にでも行くような雰囲気だが、ちゃんと乗れるんだな……。


 「エルナー爺さんは、数日後には再度やってくるはずだ。中隊の連中も今日は麓から上がってくるだろう。たっぷりと木材を運んでな。

 レムル達は早速にも見張り所の選定を始めてくれ」


 「「了解です!」」


 俺達は早速、山の斜面を登りはじめた。

 若いからといって体力に任せて登ると、とんでもない目に合うのはわかっている。1歩1歩確実にが山登りの基本だよな。

 それほど斜度はきつくはないが、1時間程登ると結構エクレムさん達のいる場所が下に見える。標高差は300mはあるんじゃないかな。


 「どんな場所に見張り所を作るんだ?」

 「そうだな……、あの場所が見えて距離は20M(3km)ってところだな」

 「ならこの辺になるにゃ。此処を上がると急に斜面がきつくなるにゃ」

 

 俺達が作る見張り所は山側に大きく迂回して侵入してくる者達を見付けるためのものだ。そして、発見したら迅速にその情報を伝達して、ネコ族の軍隊に対応を取って貰うことで対応措置とする。

 まぁ、場合によっては銃撃戦もあるだろう。その時は見張り所が砦の役割を果たすことになる。

 此処に駐留するのは精々1分隊の10人程だ。3人位で交代しながら退屈な任務をこなすことになるだろう。

 出来るだけ快適に暮らせるように作らなければなるまい。


 「そうだな、確かにこの辺りで良いと思う。雪崩の危険の無い尾根で、傾斜が少なく、下の監視場所が見える場所を探してくれ」

 「意外と条件があるんだな」


 俺達は互いの距離を取って広範囲に場所を探す。

 条件が厳しいのか中々適地が見つからなかったが、昼近くになってやっと、妥協できる場所を見つけることができた。尾根の外れだから見通しも良い。そして何よりも、近くに大きなガレ場がある。屋根以外は石を積み上げて作るつもりだから、材料が近くにあるのは望ましい限りだ。

 少し気に入らないのは、余り平でないことと、かろうじて下の見張り所が見えることだが、まぁこれは工夫で何とかなるだろう。


 「だいぶ斜めにゃ。家も斜めになるにゃ!」

 「それは、こっちに石を積み上げて平にすればいいんです。だいたい、2D(60cm)位は積まなければなりませんね」


 「相当、石を運ばなくちゃならないぞ。大丈夫なのか?」

 「それは兵隊さんに手伝って貰うから大丈夫だと思う。俺達だけで作るのは無理だよ」


 「それで、どんな形にするんですか?」

 「こんな感じだな」


 バッグからメモ用紙を取り出して簡単な絵を描く。

 長方形の建物で、東西に3.6m、南北に7.2m。真中に2本の柱を置く構造だ。


 「小さく見えるにゃ」

 「見張り所ですから、数人が起きていればいいんです。この柱からこっちは床を2段に張って、寝られるようにすればいい」


 早速、紐を使って縄張りをして見る。アイネさん達の持つ散弾銃のバレルの長さが2D(60cm)だから、それを基準にミーネちゃんが持っていた杖に印を付ける。

 紐を東西に張って、杖で長さを計って大きさを決める。


 「これは厄介だぞ。かなりこっちが下がってる」

 「それはしょうがないよ。山なんだから。だけど、これでどれぐらい石を運ばなきゃならないか見当がつく」


 「確かにそうだな。どうする、早速運ぶのか?」

 「いや、一旦帰って場所を決めたことをエクレムさん達に話しておこう。それに、石を固定する方法があるかどうかを確認しなければならない」


 俺達は、下の見張り所予定地まで降りることにした。

 エクレムさんの指示は場所の選定だからな。


 登るのに1時間以上掛かっているが、降りるのは結構早い。俺達が下の見張り所に着いたのは丁度昼過ぎだった。

 エクレムさん達は焚火を囲んでお茶を飲んでいる。俺の知らない人達もいるぞ。

 

 「どうだ?」

 「見つけました。簡単な縄張りをしてきました。近くに大きなガレ場がありますから石は豊富です。ですが、石を接着する方法が思い浮かびません。粘土でもあれば良いんですが」


 「それは、明後日に届く筈だ。石を積み上げて【クリーネ】を使え。その後は、石を積み上げてその隙間に接着剤を塗りつければ石は固着する。後は数年に一度塗ればいいんだ」


 どんな接着剤だ? そんなに科学は発展してないんじゃないかな?

 となれば、膠かもしれないな。あれは臭うんだよな。


 「そうだ。紹介しておく。右からレイク、ミーネ、レイムだ。こっちの男が中隊の指揮をしているジェイムと第1小隊を率いているカシルーンだ」


 俺達は互いに頭を下げる。

 アイネさん達は姿を見せないんだよな。其処に数人の兵士が俺達にお茶のカップを渡してくれた。


 「こっちが第2小隊を率いているサリーネだ。ミーネの姉だったな」

 「そうですが、此処では姉妹ではありませんからね」


 サリーネさんがミーネさんにピシって指を刺して言っている。

 それだけ普段は仲がいいんだろうな。


 「確か1中隊と聞いていましたが?」

 「あぁ、先ずは先行部隊がやってきた。ここに野営地を築くのが彼らの任務だ。後の部隊は、工事道具と材料を運んでくるから、つくのは夕方だろう」


 1中隊は4小隊だったな。

 たぶんもう1中隊はお休みなんだろう。見張り所作りが終わった所で交替するんだろうな。


 「となると、実際の工事は明日からってことですか?」

 「いや、石運びは少しでも早い方がいい。そっちも距離があるなら今日中に天幕を作っておいたほうが良いぞ。天幕は小さいのが2つある筈だ」


 「明後日は、私の部隊が接着剤を持って手伝いに行きます。それまで石を運んでおいてください」 

 「でしたら、籠を1つ貸していただけませんか?」


 「それなら、借りておいたにゃ。水も汲んでおいたから、2、3日は上の場所で暮らせるにゃ」

 「食料はあるな。ならば、明後日に1小隊を資材と共に送り出す。サリーネいいな?」


 「私ですか? ご命令とあれば行きますけど」

 「命令だ。天幕も忘れずに持っていくんだぞ」


 これは喜んで良いのかどうか、ちょっと迷う所だが40人の兵隊が来てくれるなら簡単に出来てしまうような気がするな。一回り見張り所を大きくしてもいいのかもしれない。


 俺達は、お茶をご馳走になって、再び山へ登っていく。

 途中で薪を拾っては俺の担いだ籠に入れていくから、段々と重くなってきたが、1時間程の辛抱だ。

 どうにか、見張り所の建設予定地に着いたときは、籠から溢れる位の薪が載っていた。

 丸く石を並べて簡単なかまどを作り、早速焚火を始める。前に集めた分と合わせればかなりな量だ。一晩中焚火をしてもかなり余りそうだぞ。


 「私等が夕食を作るにゃ。レムルは籠の中の天幕を張って欲しいにゃ」

 

 アイネさんの一言で、俺とレイクで天幕を張る。

 ただ、問題が1つ。この場所はあまり平じゃないんだよな。

 それでも、出来るだけ建設場所の近くの平らな場所を探して2つの天幕を張り終えた。

 もう1つ天幕用のシートがあったので、雑木を4本切り倒して簡単なトイレを作っておいた。親しき仲にもって言葉があるしな。

 

 そんなことをやっているとだいぶ日が傾いてきた。

 アイネさんの作る食事はどんなかな? そんなことを楽しみに俺達は焚火の回りに腰を下ろす。

 

 はい!って渡されたスープは何時もの味だった。まぁ、典型的なハンターの食事だからアイネさんにも出来るのかも知れないな。

 そして、一緒に渡された薄いパンは焼き立だった。

 やはり、焼き立ては美味い。3枚を平らげてお茶を飲む。


 「そういえば、レイクの妹はどうしたんだ?」

 「村で急遽伝令の訓練を子供達にすることになったらしい。俺のところとミーネのところの弟もそっちに参加だ。訓練と言っても一月それに出れば銀貨1枚を貰えるらしい。喜んでたよ」


 と言うことは、エルちゃんと一緒ってことだな。

 直ぐには始まらないだろうが、この見張り所が出来上がる頃にはそっちの訓練は終っているだろう。

 

 焚火の番は4時間交替ということで、アイネさんが例の蚊取り線香型の時計を取り出した。

 早速端に火を点けて焚火の傍に置いている。

 最初はアイネさん達で、俺達はその後だ。ミーネちゃんに【クリーネ】を掛けて貰って、レイクと共に天幕に入って一眠りということになる。


 ゆさゆさと体を揺すられて俺は目覚めた。


 「レムル達の番にゃ」

 「分りました。後は任せてください」


 アイネさんにそう言うと、隣で寝ているレイクを起こして焚火の所に歩いて行く。

 ミーネさんが熱いお茶を入れたカップを渡してくれた。

 頭をかきながらのそのそとやってきたレイクにも同じようにカップを渡して、アイネさん達は天幕に入っていく。

 ちょっと渋目のお茶はたちまち俺達を覚醒してくれる。


 そんなお茶を飲みながら持ってきたライフルを隣に置いて周囲を観察してみる。

 真夜中だが、半月の2つの月で荒地の見通しは以外に良い。

 これなら、たまに周囲を眺めるだけで焚火の番は俺にもできそうだな。もっとも、レイクは生粋のネコ族みたいだから、勘は良い筈だ。頼りにさせてもらうぞ。


 そんなレイクは散弾銃を脇においてパイプを楽しんでいる。

 それを見て俺もパイプを取り出した。パイプならタバコよりも長く楽しめるからね。


 「レムルは此処にサンドミナスの軍が来ると思うのか?」

 「間違いなく来る。たぶん森を抜けてくる筈だが、別働隊がこっちに来る可能性もあるんだ。だから此処に見張り所を作ることになったのさ」


 「大勢で来るんだろうか?」

 「来ても数十人ってところだろう。それを村に向かわせないことが俺達の任務になる」


 「何時まで続くんだ?」

 「少なくとも1、2年は見張る必要があるぞ。俺達の村は小さく兵力だって少ないんだ。あの村を蹂躙されたら俺達には行く当てがない」


 「くそう……。パラムではボルテム。そして今度はサンドミナスか!」

 「そしてレムナムもだ。周囲は完全に敵国になってる」


 場合によってはガリムだって動きが怪しいぞ。

 魔石を生む迷宮はそれ程の冨をもたらすのだろうか?


 だが、迷宮を手に入れただけではダメなのだ。地下に潜って、魔物を狩り、魔石を手に入れられるだけの優秀なハンターだって必要だ。

 レムナム、ボルテム、サンドミナス……。現在3カ国の戦闘は別なところで進んでいる。

 共倒れになってくれれば良いのだけれどね。

 この状態で何時まで続くのか分らない。だが、それほど長くはないだろう。

 

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