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N-072 兵力の再編

 

 「ライナス様は、黒9つのハンターにゃ。ネコ族一のハンターにゃ」

 

 炉の回りで食後のお茶を飲んでいる時に、ライナスさんのことを聞いたらアイネさんがそう応えてくれた。

 

 「でも、噂ではそろそろ引退と聞いたにゃ。そうなると、同じチームのデミオス様が筆頭にゃ。今は黒6つの筈にゃ」

 

 いったい、女風呂ではどんな会話が流れれるんだ?

 あそこで半日聞き耳を立ててれば、ネコ族の村の様子が隅々まで分る気がするぞ。


 「でも、子供がいるにゃ。確か、ミーネって言ったにゃ」


 その名前はどっかで聞いたことがあるな。

 確か、レイクの相棒の女の子がそんな名前だったぞ。


 「それで、どんな話をするにゃ? 迷宮の大掃除なら私等も出なきゃならないにゃ」

 

 そんな行事があるんだろうか? 後で誰かに聞いてみよう。


 「実は、ハンターで民兵を組織するんです。その相談を近々行なうので、長老がライナスさんの名前を出したんです」

 「前にサンドミナスが来た時は皆で行ったらしいにゃ。その時は白レベルは断わられたにゃ」


 組織がキチンとしなければ、各自のレベルで対応しなければならない。それはそれでいいのだが、それだと絶対数が足りなくなりそうだ。

 

 「エルちゃんも教室に通うことになったら私等は何をしようかにゃ?」

 「周辺で狩ができるじゃないですか。これからは盛夏ですし獣も増える筈です」


 そういうと、寂しそうに笑ってる。

 余り気乗りしないのかな? となれば、俺と一緒に長老の部屋ってことになるぞ。


 数日が過ぎて、長老の使いがやってきた。

 どうやら、軍とハンターの主だった者が集まったらしい。早速、エルちゃんとともに長老の部屋へと出掛けていく。


 長老の部屋に入ると、何時になく人が多い。長老の前の席は2段になって人が座っている。

 俺達はその後ろを回りこむようにして何時もの席に着いた。

 俺達を品定めするような視線で何人かの者達が睨んでいる。まぁ、若造が長老の隣だからな。


 「これで全員じゃ。さっそくじゃが、アルトス。話を進めてくれぬか」

 「分りました。……此処に集まったのは旧パラム王国の軍を束ねる者達と王国で名のあるハンター達だ。その意見は村の誰もが尊重してくれる。

 そして、俺から1つ提案がある。

 知っている通り、前回のサンドミナス王国の侵攻は何とか退けた。だが、再びやってこないとも限らない。現在、奴等の侵攻を許した東の入り江は連合王国が港を作っている。港の建設をあえて邪魔はすまい。サンドミナスとて、連合王国と敵対する愚は避けたいだろう。

 となると、南の森からと言うことになる。偵察部隊の報告によると、森の沼地の水位が低下しているそうだ。これは、破壊したパラム王国への水路を復旧したことに他ならない。今度は南の森からやってくるだろう。

 できれば全軍を南の森に向かわせたい。だが、それでは北の荒地の防衛がままならない。

 ハンターの三分の一を臨時に傭兵として徴用しその任を任せたいのだ」


 「できる限りの協力はしよう。だが、所詮俺達はハンターだ。指揮系統が明確でなければ戦はできぬぞ」


 アルトスさんが意見を述べた男を見てニヤリと笑みを浮かべた。

 話の誘導が上手く行ったようだな。

 皆に運ばれてきたお茶を一口飲むと、話を続ける。


 「それだ。確かにハンターの技量は兵隊よりも上なのだが、統制を取るという事がない。全体としての行動に難があるのだ。それは俺も承知している。

 だが、良い方法を思いついた者がいる。

 ハンターを個人ではなく、チームとして捉えたらどうかとな。

 最小の行動単位はチームになる。そのチーム何組かを上位のチームが統率する。更にその上位のチームが……、とこんな感じだ。今までの狩りと同じように作戦を立てられるぞ。そして最上位のチームから、作戦は直ぐに最下位のチームにまで伝えることが可能だ」


 「おもしろい。それを何段階にするのだ?」

 「3段階で十分だろう。それでも200人を超すことになる。丁度中隊と同じだな」

 

 「ならば、それを3つ作れば常に1つの部隊を休ませることができるな。少し見入りは減るが、その分は補填してくれるのであれば問題はなかろう」

 「わし等から通達を出そう。この体制を続ける間は税率を3.5割とする。傭兵に加わったものは以前の通りの税率じゃ。その差の5分で迷宮に入れぬ期間の稼ぎを補填すれば良いじゃろう。それに現在軍に優先的に渡している散弾銃も先が見え始めているじゃろう。その後の製作は傭兵に参加するハンターを優先させればよい」


 「其処まで事態は進んでいるということか? ならば長老の達しで我等は直ぐに動くことが必要になろうが?」


 ほっほっほ……。

 乾いた笑いを長老の1人が上げた。

 残りの2人もおもしろそうな顔をして発言者を見ている。身なりからしてハンターのようだ。


 「確かに……。以前の我等ならばそうしていたじゃろう。起ってから迅速に行動するのが我等ネコ族の危機に際した場合の対処法じゃ。

 じゃが、それであれば前回のサンドミナスの侵攻で我等は全滅しておったろう。アルトスの軍は背後から襲われていた筈じゃ。

 しかし、どうじゃ。結果はその敵を更に背後から襲って南の森へ追いやり、後続の侵攻軍すら入り江から逃げ出す始末じゃ。

 まこと痛快であったのう。じゃが、これは我等の戦のやり方ではない」


 「それは、私も不思議に思っておりました。およそ、ネコ族らしくない。話に聞く連合王国の軍略家のようだと、我等の仲間内で噂が立っております」

 「その通りじゃ。噂ではなく、連合王国のヨイマチチームにおるミズキ殿に教えを受けた者が其処にいるレムルじゃ。故あって我等がネコ族の一員でもある」


 「ですが、ミズキ殿が軍略を教えたというのは遥か昔、その後は一切の弟子を取らぬと聞いております」

 「十分承知じゃ。じゃが、ミヅキ殿がこの地に来た時に、確かにレムルを教えていたと本人が言っておった」


 「では、先程のアルトス様の案も……」

 「俺が、こんなことを考えられると思うか? レムルより教えて貰ったんだよ」


 アルトスさんの言葉に全員の厳しい顔が俺に向く。小さく頷くと安堵したような表情に戻っていった。


 「基本的に間違っているとは思えません。確かに200人を自分のチームのように動かすことが可能でしょう。編成は我等に任せて貰えるのでしょうか?」


 「ライナスに全てを任せたい。できれば、ハンターを廃業したときにはそれを専業として欲しいものじゃ」

 「まだまだ、一介のハンターでいたいものです」


 そうは言っているが、これでライナスさんの将来は決まったな。

 

 「さて、これでどのように軍を配置するのじゃ?」

 「そうですね」


 俺は地図をバッグから取り出した。長老の前の席から人が立ち上がり2つのベンチをくっ付けて、低い机が其処にできた。

 其処に地図を広げると、配置の案を話し始める。


 「この地図で一番安全なのは、この港です。ユングさんの指揮の下、連合王国の戦闘工兵が300人程駐留しているのと変わりません。

 ですから、港の守りは彼らに代替して貰います。

 森の守りは2大隊。アルトスさんにお願いするとして、問題はこの部分です。

 ここは、エクレムさんに残りの2中隊を率いてお任せします」


 「敵の山岳部隊を迎撃するのか……、おもしろそうだな」

 「エクレム。俺と替われ。俺だって其方の方がいい」

 「いや。お前には敵を正面から迎え撃って貰わねばならん。我等が軍師殿は適材を見抜くのが上手い」


 「宜しいですか? そして、この区域がライナスさんに対応して貰う場所です。一番防衛線が長いんですが、敵の攻撃の有無は半々です。そして、来たとしても大隊規模にはなりません」

 「何故にそう思う?」


 「補給線が長すぎます。そしてレムナム王国はボルテム王国と戦の最中です。北を回るよりは王都パラムから来るでしょう。

 それ考えると、ボルテナン山脈を越えてくる部隊は中隊規模でしょう。ですが、ガリム王国が食指を伸ばすことも考えなければなりません。ガリム王国の軍の規模は小さいと聞いています。レムナム国境を守備する必要がある以上、このような大遠征を行なうだけの兵力はさほど取ることができないでしょう」


 「問題はこの森です。ボルテナン山脈の北側には町や村がありません。大部隊の移動にはどうしても道を作る必要があります。

 そういう意味でガリム王国は有利なんですが、レムナムもこの南北に連なる森に道を作れば、大部隊の移動が可能になります」

 

 だが、それほどの国力があるのだろうか?

 ボルテム王国の王都を攻めあぐねているようにも見える状況に思える。俺達がラクト村を追われたからだいぶ経つが、ボルテム王都が陥落したという話は聞こえてこない。 それが不気味なんだよな。


 「状況は理解したつもりだ。早速チームの連中を集めて傭兵を募集しよう。それで、散弾銃の優先配布についても良いのだな?」

 「後、10日過ぎたら、完成した散弾銃はハンターと軍で半分ずつだ」

 「それでいい」


 アルトスさんとライナスさんがそんな合意をしているけど良いんだろうか?

 たぶん次の便には散弾銃の部品はないと思うんだけどね。そうなると、武器屋の工房で作れる散弾銃は1日で2、3丁のような気がするぞ。


 「それともう1つ、あります。今度の連合王国からの船便で、通信機が手に入ります。これで分散した皆さんの機動運用が可能になりますが、その操作を覚えるのは子供達です。大人では覚えるのに時間が掛かるようなので、覚えた子供達を派遣することになります。できれば、ハンターとしてレベルを上げてやってください」

 「確かに子供達なら覚えが大人よりも早いことは理解出来る。だが、役にたつのか?」

 

 「やってみないと何とも言えません。ですが、連合王国ではこれを使って大規模な部隊運用を行なっているそうです。現在彼らが使っているものは供与して貰えませんが、1世代前の物を供与してくれるそうです。スマトル軍との戦はそれで勝利したようなものだとも言っていました」


 情報戦についてはその役割をまだ認識するものはいないだろうな。

 だが機動力と情報網があれば、少ない兵力で戦ができるのは昔からもそうだった。戦を左右することも度々だ。たぶん、その重要性が少しずつ分ってくるんじゃないかな。


 「問題は、レムル達だな。確かクァルの娘達も一緒の筈だ。どの部隊に派遣するかで、俺とエクレムでもめそうだぞ」

 「レムルはハンターの筈だ。俺達の傘下に入るのが妥当だろうが……」


 ライナスさんが名乗りを上げたぞ。

 これはちょっと、問題だな。

 

 「さて、これで殆ど決まったようじゃな。3人でゆっくり話し合うが良い。レムルは、今のところ我等が相談役で、軍の幕僚でもあり、ハンターでもある。

 ゆっくり話し合えばその配属先も自ずと決まってくるじゃろう」


 完全に丸投げじゃないか。

 今晩、3人で喧嘩にならなければいいんだけど。だけど、3人の互いを見る目は、既に戦闘モードに入ってるぞ。尻尾だって膨らんでるし……


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