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N-071 情報を伝えるもの


 ユングさんの話を聞いていると軍港のような感じがするぞ。

 かなり、防御を重視した港だ。こんなんで、商船が来るのだろうか?

 入り江を見ると大型の舟が3隻止まっている。

 昔見た海賊映画の船のようだ。2本マストの帆船の長さは50m近い。これなら、外洋も航海出来るんだろうな。


 「あれが、この辺りの商船の標準型だ。3~5隻が船団を組んで航海している。工事が終了すれば、岸壁に3隻は接岸できるから商いは活発になるだろうな。

 そして、これは大事なことだから教えておくが、商船ならば通常はどの国への出入は自由だ。港に商人達が居を構えても問題視することはない。例え敵対する国の商人であってもだ。

 と言う事だから、港を作れば商人達がやってくる。俺達はその商人達の依頼もあって、あそこに商館と倉庫を建てている。もっとも土台だけだけどな。それでも商人達にはその場所の権利を主張できるんだそうだ」


 おもしろそうにそう言ってタバコを取り出して火を点ける。

 エルちゃん達はフラウさんの案内で港の工事風景を見学に行ったから、此処には俺とユングさんそれに少しはなれた場所に立っている従者のようなトラ族の青年の3人だけだ。


 ほれ!って出されたタバコの箱から1本取り出すと、ユングさんの指先から出た火花で火を点ける。


 「俺は、指先の電気スパークで火を点けるんだが、明人は今でもジッポーだ。あれは魔道具なんだろうが、誰にもその原理は分らん。後でタバコと一緒にライターを送ってやるよ。それなりの伝手はあるんだ」

 「助かります。そろそろ100円ライターがガス欠なんです。

 ところで、ユングさん達は通信手段をお持ちですか?」


 俺の言葉に、ユングさんは腰のバッグから魔法の袋を取り出した。俺達の持つバッグよりもかなり大きい。特注なんだろうか?


 そして、ティッシュボックス2個を横に並べた位の金属製の箱と、2ℓサイズのペットボトルを半分にしたような革製の筒を取り出した。


 「大きく情報通信を考えると、バビロン、ユグドラシル、明人達、それに俺達の間で行なわれる通信は、科学衛星を介したマイクロウェーブで行なわれる。明人達は専用の端末を使い、俺達はフラウが直接受取っている。

 連合王国の州単位に設けた大型通信設備は、200kmを超える通信を可能にしている。これはその端末なんだが、基本はモールス信号だな。

 此処からだと、このタイプの通信機では届かないから、科学衛星を介して通信を行なってるんだ。

そして、これが明人が考えた通信機だ。

中に、光球を閉じ込めてこのレバーでシャッターを開閉すると数kmの距離で通信を行うことが出来る。ただし夜間だけなのが問題だな。日中は上手く場所を考えれば遠距離通信が出来るんだが……」


 そう言って俺に革のケースを渡してくれた。

 蓋を開けて中を見ると、ユングさんが頷いている。取り出して見ろってことかな?

 引き抜くように中の物体を取り出した。


 「この筒を、この開口部に差し込むんだ。そして、この金具を此処に入れれば、これがレバーになって先程差し込んだ筒の中のブラインド部分が開閉する」


 カシャ、カシャっと何度か動かしてみると確かに筒の中にある板がバネで動くのが分る。


 「問題は、モールス信号を覚えることが必要だということだ。とはいえ、これだけでもかなりなものだぞ。明人達はこれを使って20倍の敵と戦って勝利している。機動戦をやったらしいな。その時に作ったのが亀兵隊らしい」

 「騎兵隊ですか? 確かに機動戦になりますね」

 

 「いや、馬ではなくて亀だ。それまでは亀に乗って戦うことなど誰も考えなかったらしいが、明人達はそれを行なった。今でも連合王国の主力部隊は亀兵隊だ。今回俺と一緒に来ている戦闘工兵達も亀兵隊なんだぞ」

 

 あの体形で亀に乗って行動する工兵って俺には想像できないな。

 

 「まぁ、大陸ならではの兵種だろう。この島国では余り役にはたたないんじゃないかな。

 話を元に戻すが、迅速な部隊の展開には通信手段が必要になるということで、最初に考えたのがこの通信機だ。互いに見通しができる場所でしか使えないが役に立ったようだな。現在は小型の無線機を使っているが、モールス信号を使うのは同じだ」


 無線機ではなくとも、光で通信網を構築すれば敵の侵攻を早期に知ることができるだろう。だが、問題はモールスなんて俺は知らないぞ!


 ふと、ユングさんを見ると俺の顔を見て笑っている。

 欲しいけど、使えないってことが顔に出てるんだろうか?


 「まぁ、そんなに深刻になるな。モールスを知ってる奴なんて、俺達の時代には殆どいないよ。明人と美月さんは米軍と関係してたみたいだから知ってたようだ。俺は、まぁオタクと呼ばれる種類の人間だから知ってて当たり前ってことなんだけどね」


 となると、この通信機の供与を受けても、モールス信号を学ばねば使い物にならないってことだよな。

 

 「これは、美月さんから言われたことだが、これを使いたいなら16歳以下の子供達なら直ぐに覚えられると言っていたぞ。俺も覚えるのに苦労したんだが確かにあれは16の時だったな」

 「それじゃぁ、モールスを教えてくれると……」


 「明人は反対してたんだが、美月さんは必要だろうって言ってたな。だが、明人を悪く思うなよ。あいつはこの星の未来を考えている。急速な技術の拡散には慎重なんだ」

 「助かります。でも、明人さんがそうなるのは理解できますね。でないと美月さんが……」


 「まぁ、そうだろうな。ある意味、美月さんのアンカーってことだろう。2人の性格が反対だから丁度いいのかもしれない。とはいえ、明人の無双も相当なものだぞ。俺でどうにか止められるってところだろう。

 あの2人、道場で教えていた時代よりも遥かに高度な技を使えるようになったからな。

 ちょっと、通信を送るから、タバコでも楽しんで欲しい」


 そう言って俺の前にタバコの箱を投出した。マールボロか、前はラッキーストライクだったけど、銘柄にはこだわらないってことかな?

 ありがたく1本を抜き出して、ライターで火を点ける。

 本当に、ガスが残り少なくなってきた。このままでは来月にはすてるしかないだろうな。


 ユングさんが通信機の蓋を開けて電鍵とレシーバーを取り出した。

 方耳にレシーバーを押し付けて電鍵を操作するのは何か形になってるな。

 

 カタカタ……ひとしきり電鍵を打つと、聞き耳を立てている。箱にある緑のライトが目まぐるしく点滅しているのは相手からの通信が返って来ているのかな。

 そんな交互の通信が数分間続くと、ユングさんが通信機を片付けだした。


 「指導員と発光式通信機を30台送ってくれるそうだ。てっちゃんは少なくとも30人の通信兵を集めておいて欲しいと言っていたぞ。早ければ次の商船に乗ってくるだろう。10日後になるだろうな」


 それは、急ぐ必要があるな。

 だが、30人を集めることができるだろうか?


 「ほら、お前のお姫様達が帰って来たぞ。今日は此処に泊まって明日帰ればいい」


 ユングさんの視線の先にはフラウさんと一緒に此方に近付いてくるエルちゃん達の姿が見えた。


 夕食は豪華だ。

 普段食べる事がない魚料理が中心だし、この世界で初めて食べるパエリアは食材の調達にどれだけ商船が各地に散っていることが分る。連合王国は武力ではなく商業で発展しているみたいだな。

 

 エルちゃん達は久し振りの魚料理に舌鼓を打っている。

 そんな中で、湖の釣りの話が出るのは当然だったのだが、それを聞いたユングさんは、この入り江でも沢山の魚が獲れることを教えてくれた。

 明人さんの釣り好きも、有名らしく連合王国の漁村はその恩恵に与ったらしい。


 「今夜にでも明人に教えておくよ。たぶん釣りの道具を送ってくれるだろう。上手く行けば、この地に漁村が出来るかも知れないぞ」

 

 そんな話を聞いてアイネさん達は嬉しそうだ。

 漁村ができれば、毎日とは行かずとも月に何度かは魚が食べられるようになるんだろうな。

              ◇

              ◇

              ◇


 次の朝。朝食をご馳走になって俺達は村へと帰る。

 

 「たまに遊びに来いよ」

 

 そう言って俺達を見送ってくれるユングさんに、手を振りながら坂道を登って行く。

 ここから村までは20kmはないだろう。昼過ぎには着く筈だ。

 丘の隘路を抜けると真直ぐな道が西に続いて遠くに見える木々の疎らな森へと続いている。

 森なのか、林なのか微妙な光景だな。森って言う人もいるし、林と言う人もいるぐらいだ。

 林にしては範囲が広いから森で良いんじゃないかと思うんだけどね。

 

 1時間程歩くと北に伸びる道があった。

 その分岐路でちょっと休憩だ。


 「この道は古い神殿跡に続いてるにゃ。今でも月に1度3日間の市が立つにゃ」


 アイネさんがそんなことを教えてくれた。

 港が整備されて商館ができればそんな市場はなくなるんだろうな。

 そうなれば、この先の神殿跡は誰も訪れることも無くなるのだろう。小さな獣達が詣でるだけの、忘れられた神殿になるのもそれほど先では無さそうだ。


 道は少しずつ上り坂になる。

 適当に休みながら歩いて行くと、ようやく森の中に入った。

 エルちゃん達が辺りをしきりに見渡しているのは、獲物を探してるんだろうけど、往来のある道付近には大型獣は出てこないんじゃないかな。


 そして、昼を過ぎた頃に、ようやく村の入口である大岩の裂け目に出る事ができた。

 洞窟の入口の逆茂木が滑り出て、出入り口が現れる。

 見張り番の人に礼を言って通路を歩き出した時、アイネさんがバッグから肉の塊を見張り番に手渡している。

 あれは、大蛇の肉だよな。ちょっとしたお裾分けってことかな。


 アイネさん達は食堂に寄るらしい。

 俺とエルちゃんは長老の所に寄ってから戻ることにした。

 報告は早い内が良いからね。


 長老の部屋の扉を叩き、早速部屋に入る。

 何時もの席に着くと、長老達が俺の話を待っているように俺を見詰める。


 「山の斜面を移動しながら南の森に展開するアルトスさんの部隊を見てきました。次の日に、入り江に移動して港の状況を見て戻ってまいりました」

 「ご苦労じゃった。それなりに得ることもあったじゃろう。それを話して欲しい」


 世話役が出してくれたお茶を飲んで、早速に話し始める。


 「まず、貯水池ですが、山の上に作る事は難しそうです。畑に近い場所に分散して作るしかなさそうです。アルトスさんが協力を約束してくれましたので、試験的に森に近い集落に貯水池を作ってみようかと思っています。

 次に、南の森の柵ですが、予想よりも低い物でしたが、強度は十分です。

 見張り所が低いので、あらためて櫓を建てることと、森までの距離を2M(300m)とし、銃の射程に合わせて、低い柵を作ることを進言してきました。

 最後に港ですが、かなり大規模なものになるようです。トラ族の人達が働いていましたが、大きな石を積み木でも扱うように運んでいました。

 商館は土台だけを作ると言っていましたがそれでも大きな物になるでしょう。

 将来的には、現在の市場がなくなり、港での取引になると考えています。

 ユングさんに、通信手段を相談したところ光を使って互いに連絡する方法があることを教えていただきました。その通信機と使い方を教えてくれるそうですが、通信機の操作を覚えるのは16歳以下が望ましいと言っていました。

 次の船便は10日後で、それに教える者と通信機を運んでくるそうです」


 「3日でよくも、それだけのことをしてきたものじゃ。明日以降はしばらく休養するが良い。

 早期に考えねばならんことは、通信機の操作を学ぶ者を集めることじゃな。たぶん場所も決めねばなるまい。それはわし等に任せるがよい。人数は如何程じゃ?」


 「30人と言っていました」

 「その中に、私を含めてください。今年、14歳です」

 

 エルちゃんが名乗りでた。確かに俺達の中でもその技能があれば役に立つ時があるに違いない。


 「分っておる。ちゃんと含めておく。そして、南の森はそれで十分かのう?」

 「やはり、兵力が足りません。2大隊を派遣する必要があるでしょう。ですがそうなると……」


 「北の守りが手薄になるか。だが、アルトスが近々此方に来ると使いを出して来たぞ。エクレムにライナスを呼んでおるようじゃ。その話はレムルに聞くようにとも言っておったが?」

 「ハンターの一部を傭兵として使用する案です」


 「それは、エクレム達も考えておったが、良い案があるのじゃな。楽しみに待つとしよう」


 アルトスさんは早速動き出したみたいだな。

 ライナスさんの名前は初めて聞くがどんな人なんだろう。帰ったらアイネさん達に聞いてみよう。




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