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N-007 小屋作り


 次の日、朝食を取ってお弁当を持ち、2人で南門の広場に向かって歩いて行く。

 まだ広場にリスティナさん達は来ていないようだ。日陰のベンチに腰掛けてのんびりと待っていると、此方に歩いてくる3人に気がついた。


 エルちゃんが立ち上がって手を振ると、サンディが手を振ってくれる。

 「待った?」

 「それ程でもない。…直ぐに出かけよう。」

 

 門番さんに挨拶して5人でマケム湖の方に下りていく。林を抜け出て草原に出ると、今度は湖を迂回するように歩いて行く。

 草原だから、獣が出ても直ぐに見つけることが出来るし、5人でいるから獣も俺達を襲おうとしないみたいだ。

 2時間位歩いた所で休憩を取る。


 「この辺りも薬草が豊富なの。…何の依頼を受けてきたの?」

 「え~とね。デルトンが30だよ。45Lになるの」

 エルちゃんの言葉にリスティナさんが微笑んで聞いている。

 「そう、良かったわね。私達はフェイズ草という薬草よ。変わった薬草で球根と茎の両方とも売ることが出来るわ」

 

 そんな薬草もあるんだ。1つで2度美味しい、って奴だな。

 俺達はリスティナさんが周囲を警戒する中で、安心して薬草を探す事が出来た。

 依頼数を早くに達成した俺は、リスティナさんと見張り役を交代してあげる。それでも、エルちゃんが引き続き採取しているから、結構な数になったに違いない。

 

 太陽が真上に昇ると、かなり熱く感じる。

 俺が空を見てると、お昼だよ。ってエルちゃんが教えてくれた。

 

 適当に薪を集めてお湯を沸かす。

 焚火に2つのポットが掛かっているのはちょっと可笑しくもあるけど、2つのパーティだからこんな感じになるんだよな。

 「皆で暮らす時には、ポットも大きなのが必要ね」

 サンディの言葉に俺達は頷いて賛意を示す。


 何時ものようにピザのようなお弁当を食べながらストローでお茶を飲む。このお茶にも大分慣れてきたな。

 食後の一服をルミナスと皆の風下で楽しむ。もう、最後のタバコに手を付けたから、この箱が無くなれば、後は俺もパイプでの喫煙となる。


 「てっちゃんの方も依頼は達成してるんでしょ?」

 「バッチリだ!」


 俺がそう応えると、リスティナさんが焚火を消し始めた。カップに残ったお茶の葉っぱやお弁当の包み紙も穴を掘って埋める。


「じゃぁ、出かけましょう。……実は心当たりがあるの。皆の意見も聞きたいんだけどね」


そう言うとリスティナさんが先頭を歩いて行く。俺達はその後をぞろぞろと付いて行った。

 リスティナさんは野原をパリム湖に沿って歩いて行く。1時間程歩くと今度は湖の岸辺に広がる森の中に入っていった。森を30分ぐらい歩くと、突然立止まり俺達の方に振り返る。


 「ここよ!」


 そこは、ちょっとした丘のように周囲に比べて土地が盛り上がっている。大きさは直径15m程はある。

 周囲は森の木々だけど下草が少ないせいか、30m程は見通すことが出来た。


 「問題は水場ですね」

 俺の言葉に、リスティナさんがニコリとする。

 「こっちに来て。……ほら、あそこ!」

 

 リスティナさんに付いて西に1分も歩かない場所…丁度丘の麓というような場所に小さな泉が湧いていた。流れはマケム湖の方に注いでいるようだ。


 「理想的ですね。後は、この土地を掘り下げなくてはなりません。大きな石なんか出てくると面倒なんですけど……」

 

 そんな事を言いながらも、俺はメモ用紙を取り出して大まかな縄張りをする事にした。

 基準となる杭を1本軽く打って、小屋の大きさを決める。


 「小屋の中央で焚火が出来るように炉を作ります。炉の大きさは、この位になると思います。その周囲で寝る事になりますが、どのように寝るかで小屋の大きさが決まります」


 俺の言葉に全員が頷く。


 「片方は、てっちゃん達でもう片方は私達になるのね。でも、3人で寝るとなると端の方は寒くなるでしょうね」

 「私達は今までも一緒に寝てましたから、此方で寝ます。リスティナさんは奥を使ってください」

 「そうさせて貰うわ。でも、少し広そうだから荷物も置いて置けそうね」


 俺は中央に炉を置き左右と奥に寝るための空間を持つ間取りを次々と杭を打って決めていく。


 「ちょっとこの炉の回りに座ってみて」


 俺の言葉に皆が集まってきた。俺の隣にエルちゃん。炉の対面にはルミナスとサンディ、そして奥にはリスティナさんだ。


 「こんな感じで暮らすんだな…。ギルドの部屋よりずっと良い感じがする」

 「そうね。焚火を囲んで暖かく編み物が出来そうだわ」

 ルミナスとサンディには好評のようだ。


 「随分と大きくなるわね。私達で出来るかしら?」

 「ここまで来たらやるしかなさそうです。もう、残り3ヶ月、依頼をこなしながら小屋作りをするより、依頼をする日と小屋を作る日を分ける必要がありますね。

 後、確認なんですが、この森の木は勝手に切って良いんですか?」

 

 俺の問いにリスティナさんが頷いた。


 「ハンターが小屋を作るための伐採は認められてるわ。但し場所をギルドに登録しないといけないの。ギルドの地図に書くんだけど、ここは、あの湖の大岩が目印になるわ。

 後は、何か無い?」


 「そうですね。出来れば竹が欲しいんですが」

 「竹ってこれの事だよな?」


 ルミナスがバッグから竹細工の籠を持ち出した。


 「それが大量に欲しいんだ。無くても何とかなるけど、あれば大幅に小屋作りが楽になる」

 「ここから距離はあるけど、竹が森のようになってるぜ。あれも、俺達が切る分には文句は言われないはずだ」


 時間を聞くと、午前中に2回は往復できる距離らしい。これは助かる。


 「じゃぁ、ここに柱を立てるわよ。私とサンディで穴を掘るから、エルちゃんは周囲を見張って」


 俺は小型のスコップを取り出した。ルミナスの取り出したスコップも同じ物だ。早速2人が俺の決めた位置に穴を掘り出した。


 「深さは、これくらいでお願いします」

 近くにあった枝を折り取って、深さ50cm位の所に印を付ける。

 

 俺とルミナスは早速バッグから斧を取り出すと森の中に入っていく。


 「どれ位のを切るつもりだ?」

 「そうだな…。4角の柱は丈夫にしなくちゃならないから、これ位かな」

 そう言って、直系20cm位の杉のように見える針葉樹を指差した。


 「これは俺に任せろ。もう1本を頼む」

 そう言うと早速、杉の幹に斧を叩き込みはじめた。


 俺も近場で適当な太さの杉を見つけると、根元に斧を叩き込む。

 斧で木を切り倒すなんて初めての経験だ。それでも斜めに上下に切り込みを入れていくとズン!っと杉の木を切り倒す事が出来た。

 最低でも3mは柱が必要だから、枝を適当に払って引き摺りながら皆の所に2人で運んで行く。とても1人で無理なので1本ずつ2人で運んだ。


 2本の丸太を運んだ時には穴がすっかり掘り終えていた。


 「ここに立てればいいんだな」

 「そうだけど。これじゃ長すぎるだろ」

 そう言って、4m位になるように、斧で一撃して印を付ける。


 「この位置で、切って欲しい」

 早速、ルミナスが斧を振るい始めた。

 

 「丸太は後何本必要なの?」

 「今日取って来た太さの丸太が6本。後はもっと細い物で十分です」

 「じゃぁ、今日は丸太を1本立てればお終いね。柱が1本立っていれば権利を主張出来るから」


 ルミナスが切り倒した丸太を穴の1つに入れて倒れないように穴に木切れを詰め込んでおく。こうすれば倒れる事は無いだろう。

 3時を回っているので足早に村に帰ることにした。


 ギルドで依頼品を換金すると、皆で食堂に出かける。

 夕食は何時も通りのシチューにビスケットのような硬いパンだけど、腹が減っているから美味しく食べられる。


 「明日の予定は?」

 「そうね。早めに骨組みを作っておきたいわ。それと距離が遠いから明日は野宿にしましょう」


 「あの辺りに危険な獣はいないんですか?」

 「今の季節なら、野犬位だ。狼は冬にしか出てこないし、熊は滅多に山から下りてこない」


 「でも、依頼もしないとね」

 「また途中で薬草を集めればいい。だけど目的は小屋作りだから依頼は1件だけだぞ」


 サンディにルミナスが注意してる。

 でも、依頼こなさねば収入が得られない事も事実だ。


 「明日の作業はどんな予定になるの?」

 「そうですね。竹がある程度欲しいですね。それと何とか柱を全部立てたいんですが、そうなると3日程度掛かるかも知れません」

 「依頼を2つ受けましょう。行きと帰りで採取すればいいわ。雑貨屋で保存食を買う事が出来るわ。とりあえず5食分を購入しておきなさい。明日の昼はお弁当を頼めば良いわ」

 

 夕食が終ると早速雑貨屋に出かけた。


 「あのう保存食はありますか?」

 「家で扱ってるのは、これなんだけど……」


 そう言って出してくれたのは、乾燥野菜と干し肉それにビスケットのように硬く焼いたパンだった。


 「どうやって使うんですか?」

 「この野菜と干し肉をお湯で戻せばスープが出来るわ。そのスープに浸してこのパンを食べるのよ」


 味は干し肉についているからそのまま鍋で煮込めばいいって教えてくれた。

 後は、分量だな…。5食って言ってたけど量が判らんぞ。


 「5食分欲しいんですけど」


 俺がそう言うと天秤を持ち出して量り始めた。それぞれ紙袋に入れて、カウンターの上に出してくれた。


 「1回分ってどれぐらいなんですか?」


 そう言うと、小さなカップを取り出した。

 「これを皆さん使ってますね。カップ1杯が1人分みたいです」


 商売がうまいなぁ、て感心しながらもそのカップと保存食を買い込んだ。保存食は1食分が2Lに相等するようだ。そしてカップは3Lだった。


 自分達の部屋に戻る前に中古武器の部屋に寄ってみた。

 欲しいのは片刃の折れた剣だ。あっちこっちと物を退かしながら探して、やっと目的の物を見つけた。片手剣が途中で折れている。刃の厚さは5mm以上あるからこれでいい。ついでに革紐があったので貰っておく。

 エルちゃんと部屋に戻って、剣を分解すると付属品を取り払って、刀身だけにする。それをボロ布で包んで今日はお休みだ。


 次の日、また俺達は北門前の広場でリスティナさん達を待っていた。

 そこに籠を担いだルミナスを先頭に3人が歩いてくる。

 

 「出かけましょう」って俺達に声を掛けてくる。

 「お前達は野宿の用意は要らないのか?」


 早速、ルミナスが俺に聞いてきた。


 「魔法の袋に入れてあるよ。どうせ交替で焚火の番だから1人分で十分さ」

 「雨が降ったら困るだろうに……」


 そう言ってるけど、雲ひとつ無いぞ。

 そんな事を話しながら、野原に着いたところで薬草採取を始める。今回も俺達はサフロ草とデルトン草を探す。ある程度は自分達で確保してあるから、あまり取れなくても依頼は完了できるからだ。


 2時間程で30個程採取したとところで採取を終えて、マケム湖を迂回するように歩いて行く。小屋作り予定地を過ぎて更に歩いて行く。1時を過ぎた所で竹が生い茂った森が見えてきた。竹を取る前に昼食にする。


 「所で、てっちゃんの長剣は切れ味が良いのか?……俺のはあまり良くないんだ。竹は一撃で切り倒さないと割れてしまうんだ。」

 そういえば俺は剣を背負っていたんだ。使った事は無いけど、切れ味はどうだろうか…。そんな事を考えながら背中から剣を抜いてみた。


 刀身が50cm程の剣を片手で構える。うん、何とかなるな。軽いから……って、これは鉄じゃないぞ。色が少し黄色がかっている処と、この軽さは…チタン?

 刃は……。そう思って指を滑らすと切れた!親指の腹から一直線に血があふれ出す。

 【サフロ】ってエルちゃんが俺に魔法を掛ける。指に白いひかりが集まりそれが消えると、傷口が見当たらない。

 でも、俺は確かサフロ体質これ位は自力で直せると思うんだけどね。

  

 「ありがとう。助かったよ。」

 そう言ってエルちゃんの頭を帽子越しに撫でてあげた。


 大体、剣って剣の重量で斬るんじゃ無かったか?こんなに軽いんじゃ自力で斬るしか無さそうだ。

 軽くクルクルと回しているとルミナスがそれを見て驚いている。


 「凄い力だな」

 「まぁ、持ってみろよ」

 ルミナスに剣を渡した途端に、彼の目が大きく開く。


 「何だ、この剣は?」

 「俺にも分からん。何時の間にか持ってた物だし……」


 「そんなに凄い剣なの?」

 リスティナさんが興味深げにルミナスに訊ねる。


 「凄いかどうかは微妙だけど、1つだけはっきり分かる。この剣は軽すぎるんだ」

 「剣は軽い方が扱いやすいと思うけど……」


 「そんな次元の話しじゃない。持ってみれば判る」

 そう言って俺の剣をリスティナさんに渡すと、リスティナさんの顔が驚きに変わる。


 「これは、魔道具なの?」

 「多分違うと思う。これは材質が俺の知っている中で一番強度があって軽い金属で作られているみたいだ」


 返してくれた剣を背中のケースに入れる。

 そんな事で時間を潰す訳にも行かないので、直ぐに森に入ると竹を数本切取った。流石チタン!一撃で切取れるぞ。

 ルミナスは慎重に節に狙いを定めて長剣を打ち下ろして2本切取った。

 1人2本ずつ竹を引き摺って小屋を建てる場所に戻る。エルちゃんには俺の槍を持って貰った。


 時間はまだ3時過ぎだ。

 森に入ってルミナスと杉を切り出してくる。

 エルちゃんはリスティナさん達と薪を集めに出掛けた。


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