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N-069 エルちゃんのピグレス狩り


 ピグレスがいるって言ってたけど、この荒地で何を食べてるんだ?

 そんなことを考えながら俺は歩いているんだけど、アイネさん達やエルちゃんは真剣な眼差しで周囲を観察している。


 中々見つからないみたいだけど、そもそも此処に住んでるのか?

 2時間もアイネさん達が探していて、そろそろ諦めるかな? なんて考えていた時だ。

 エルちゃんの歩みがピタリと止まった。


 「お兄ちゃん……、あれ!」


 エルちゃんが腕を伸ばした先にいるのは、紛れもなくピグレスだ。それほど大きくは無いけど、まぁエルちゃんには手頃な大きさかな。

 アイネさん達もエルちゃんの声を聞きつけてその姿を確認してる。


 「エルちゃんが最初にゃ。私とミイネは右手に、マイネとシイネは右手にゃ。てっちゃんはエルちゃんの援護にゃ!」


 ピグレスの大きさは1mちょいだぞ。援護っているのかな?

 それでも、「分った。任せとけ!」って言ったら、エルちゃんが頷いてくれた。ちょっと心細かったのかな。


 籠を下ろしてエルちゃんに上下2連のライフルを取り出してあげる。

 アイネさん達はもう既に出掛けたみたいだ。200m程離れた場所で身を屈めているのだが、尻尾が出てるぞ。


 エルちゃんが身を屈めて、ピグレスに近付こうとしている。

 俺は槍だけを持つとエルちゃんの後を追う。


 尻尾を水平に倒しながら、銃を手に少しずつピグレムに近付く姿は正しくネコそのものだな。生まれながらの狩猟民族って感じだ。

 その足が止まった時、エルちゃんとピグレムの距離はおよそ200D(60m)だ。

 腰を下ろして、片膝を立てる。膝撃ちは射撃姿勢が安定するからだな。

 立っていた尻尾がゆっくりと横になる。


 ドォン! っという音が辺りに響き、ピグレムがドサリと地に倒れた。

 エルちゃんがゆっくりと立ち上がり、音を立てずに獲物に近づいていく。俺も槍のケースを外してその後を追った。


 後3mという所にエルちゃんが近寄った時、いきなりピグレムの後ろから大蛇が鎌首を上げてエルちゃんに飛び掛ろうとした。

 エルちゃんが驚いて身を屈めた時、咄嗟に左手の槍を投げる。


 槍は運よく大蛇の胴体に突き刺さる。仰け反った大蛇の顎の下からエルちゃんがライフルで頭を撃ちぬいた。

 

 ドサリっとピグレムよりも大きな音を立てて大蛇が地に倒れる。

 まだピクピクと動いている大蛇の頭を駆けつけたアイネさんが散弾銃を撃って止めを刺した。


 「ドライズにゃ。保護色だから見付け難いにゃ」


 そう言いながら、近くにあった潅木に2匹を吊るして素早く皮を剥いで肉を切取る。その肉を布で包んで専用の革袋に詰めている。

 手馴れてるな。こういう時はアイネさんが率先してやるんだ。普段の食事の時は殆ど手伝わないんだけどね。


 「お兄ちゃん。さっきはありがとう」

 「気を着けるんだよ。でも、直ぐに反撃できたのは感心したよ」


 そう言って、エルちゃんの帽子の上から頭を撫でる。

 この帽子もだいぶ年期が入ってきたな。新しいのを買ってあげよう。


 「ドライズは魔物じゃないにゃ。でも肉は美味しいにゃ」


 蛇って食べられるのか?

 頭と骨だけになった大蛇を見ながらそう思う。てっきり迷宮で餌にするのかと思ってたぞ。


 そんなアイネさん達の作業が終わった所で、俺とエルちゃんで作ったお茶を飲む。ちょっとした充実感を味わいながら飲むお茶は格別だな。


 焚火を埋めて、再び西を目指す。

 とりあえず狩が出来たからか、皆の足取りは軽やかだ。

 

 そんな山の風景は相変わらずだ。

 やはり、山の上に貯水池を作るのは難しそうだな。

 そして、麓に点在する林もある意味不思議な感じだ。何故、森のように広がらないんだろう。

 林を少し調べてみる必要がありそうだ。


 夕暮れ近くになって遠くに見張り所の天幕が見えてきた。

 どうにか日暮までには辿り着けそうだな。


 「もう直ぐにゃ」

 「何とか間に合った。道と違って歩きづらいから途中で野営かと思ってた」


 俺は長老に貰ったバッジを俺とエルちゃんの装備ベルトの右の吊り具に取り付けた。

 相手は軍隊だからな。怪しまれては元も子もない。

 

 天幕に近付いた俺達を数人の兵隊が取り囲む。

 俺達に銃を向けるが、その銃はパレトのようだ。


 「アルトスさんに会いたいんですが?」

 「我等が将軍に何の用だ?」


 俺に銃を突きつけて若い兵士が問う。

 その時、俺とエルちゃんのバッジに気が付いたようだ。


 「待て、これは?」

 「長老から頂いた物です。アルトスさんの所に行くなら持って行けと言われて……。」


 「幕僚のバッジ……、パラム軍で昔使われた物だ。長老が渡したなら問題無かろう。こっちだ!」


 壮年の兵士がそう言うと、俺達を囲んでいた兵士達が銃を下ろす。

 かつて知ったるって感じではあるがここは案内されることにしよう。

 

 壮年の兵士が俺と余り年が違わない兵士に指示して俺達を案内してくれるようだ。

 ロープを使って森へ続く道に下りると、直ぐ南に柵が連なっていた。高さは2m位だが、ずっと東へと伸びている。

 そんな道の脇に小さな小屋が立っていた。たぶんあれが関所の番小屋なんだろう。


 少年はどんどんと東に歩いていく。

 やがて、俺達の前にログハウスが現れた。だが、普通の人家と違ってその屋根は平になっている。

 数人がその屋根で、柵越しに森を見詰めている。見張り所として使ってるみたいだ。


 少年はログハウス前の衛兵に何事かを告げると、その場を去って戻っていく。

 衛兵は俺達を手で招くと、ログハウスの扉を開けて中に来客を告げる。


 「入って良いそうだ。アルトス将軍が待ってるぞ!」


 俺達は衛兵に礼を言ってログハウスに入った。


 「レムル達か? 古いパラムのバッジを付けた者がやってきたと聞いたから、誰が来たかと思っていたのだが。……まぁ、確かに昔のバッジだな」

 「長老からアルトスさんの所に行くなら、と頂いた物です」


 「長老らしいが、そのバッジの意味を知るものはこの軍に半分もいないだろうな。まぁ、そこに座れ。今、お茶を出す」


 そう言って部屋の片隅のベンチで待機している兵に準備させる。

 

 「ところで、こんな場所に何の用だ?」


 俺達が、大きな作戦机の椅子に腰を下ろしたのを見て聞いてきた。


 「至急の用事と言う訳ではありません。柵がどんな感じに出来たかを見てみたかったんです」

 「そうか。もう暗くなったから明日にでも見るが良い。此処まで歩いてきたなら概略は判ったろうがな。これが、俺達の部隊配置だ。レムルの意見を聞かせて欲しい」


 アルトスさんが後ろの籠から大きな地図を取り出して机に広げた。

 確かに、柵が岩山の上から東の海まで続いている。

 そして、柵の南側は1.5M(約220m)まで森の木を切り払ったようだ。それを利用して柵を作ったんだな。そして、バリスタの射程とも合致する。中々考えてるな。

 

 見張り所は5km程の間隔で4箇所作ってある。

 兵の駐屯地は4箇所だが、これは中隊で分けているようだ。

 しかし、5kmを160人で防衛するのはかなり難しいぞ。

 

 「かなり厳しい状況ですね」

 「それが分ってくれればありがたい。この図から改善点があれば教えて欲しいのだが……。」


 そもそも、防衛線の長さに対して兵力が少なすぎる。

 そして、森との距離をもう少し開けておきたい。出来れば300m以上欲しいところだ。早期発見はそれだけ此方の兵力集中の時間を確保できる。


 「質問が少しあります。昨年より兵力は増強できたんでしょうか? それと、村のハンターの数はどの位いるのでしょうか?」

 「最初の質問だが、2小隊程増えた。そして、村のハンター総数は兵員を除けば1,500人程になる」

 

 扉が開いて、食事が運ばれてきた。

 俺は食事を頂きながら、アルトスさんと会話を進める。


 「場合によっては、この場所に全軍を集中させることも考えなければなりません。北の守りはハンターに依頼する事も視野の内です」

 「やはり、レムルもそう考えるか……。エクレムも同じことを言っていた。だが、全軍をこの森に展開すれば北の守りが手薄になる。ハンターを使うのは俺も考えたが、数十人ではな」


 考える事は同じか……。

 だが、何故数十人なんだろう? 俺としては200は展開できると考えていたんだが。

 

 それを聞いてみると、指揮系統の問題があるって応えてくれた。

 軍隊のように迅速に命令が伝わり、その指示に従うってことをハンターに望むのは難しいらしい。ハンターとは自由人である代名詞のようなところもあるらしい。

 思い出せば、リングランを倒した時も数十人での波状攻撃だったな。あれ位ならば、それなりに指揮に従って戦うことが出来る訳だ。

 

 「アルトスさんがどのような想定をしてハンターを数十人と言ったかわかりませんが、このような形で指揮系統を作れば200人以上のハンターを展開できると思いますよ」


 そういって、作戦机の端に置いてあったメモ用紙に俺のアイデアを描きはじめた。

 分隊をハンターのチームとみなす。分隊の構成員は赤と白レベルの連中だ。それを青の高レベルのチームが纏める。これが小隊になる。小隊の構成は4から6の分隊編成になるがこれはしょうがない。

 その小隊を黒レベル以上のチームが纏めて中隊とするのだ。

 

 無理にチーム編成を変えないから、ハンターとしては今まで通りに戦えるだろう。チーム内の協調は出来るし、レベルの低いハンターは自分達よりレベルの高いハンターには従う筈だ。

 この形にすれば、中隊の規模は200人前後になる。できれば3中隊程を編成して置けば、ハンターを止めずとも北の守りを任せられる筈だ。


 「無理に軍隊のような編成を取らずに、ハンター達のチームとレベルの違いを利用して編成するのか……」

 「どうでしょう。ですが、この編成の問題もあるんです。ハンター達の相手は獣や魔物。人を相手にすることは殆ど無い筈です。幾ら高レベルのハンターでも、迷いや躊躇が起こる筈です。この編成の上位である、このチームのには将軍の幕僚で古参の者を相談役として派遣しておくほうが安心です」


 「それは理解できる。だが、精々中隊に2人で良い筈だ。この件はエクレムとも相談せねばなるまい。だが、反対はしないはずだ。どちらかというとその編成を任せられる人材を相談することになるな」


 「ライフル銃と散弾銃を装備した部隊をどこに配置しているかは気になるところですが、それよりもこの柵の見張り所です。この屋根に数名登っていましたが、できれば更に高い櫓を作ってください。そして、森と柵との距離を更に広げて2M(300m)に、その間に柵から100D(30m)間隔で柵を作ります。高さは2Dもあれば十分です」


 「あの柵だな。確かに足止めした敵を殺るのは簡単だ。3つ作るのは……、銃の性能の違いか?」

 

 アルトスさんの言葉に俺は黙って頷く。


 「まったく、何時も此処にいてほしいものだ。長老が手放さぬ訳だな。だが、何時でも来い。そのバッジはそれができる」

 「分りました。サンドミナス来襲時には馳せ参じます」

 

 そう言って俺は席を立つ。

 エルちゃん達も俺に続いて立ち上がると、部屋の隅にいた兵隊が立ち上がって俺達の近付いてきた。


 「宿舎にご案内します。こちらです」

 そう言って、先に部屋を出る。

 俺は片腕を上げてアルトスさんに別れを告げる。


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