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N-068 先ずは村作り


 やはり、後装式の散弾銃は使い心地が段違いだ。

 前衛3人が発射した後に、後衛のエルちゃん達が撃つのは今まで通りなのだが、この間に俺達は次の薬莢を入れ終わっている。

 間断なく射撃を継続できるから、魔物を寄せ付けないで済む。それだけ安全に狩ができるのは嬉しい限りだ。


 「槍がいらないにゃ」


 そんな言葉さえ、アイネさんは呟いている。

 だが、それは慢心だと思う。やはり、近接武器は銃が壊れたり薬莢が切れた時には必要だ。

 とはいえ、それは意外と簡単な手で解決ができる。バヨネットを付ければ、散弾銃を槍としても使えるはずだ。前装式だと邪魔になるだけだが、後装式ならそれほど邪魔にはならないだろう。

 

 早速、村に帰ってから、俺達3人の前衛の散弾銃にバヨネットを取付けられるようにした。

 バヨネットはアイネさん達がラクト村で手に入れた短剣を使うことにして、長さ30cm程の刀身だけを使ってネジでバレルの先に取り付けられるように加工してもらった。

 これ位の加工は若いドワーフでも簡単にできるらしく、頼みに行ったアイネさんが戻って来た時には、革のケースに入ったバヨネットを手にしていた。


 「これはてっちゃんにゃ」


 そう言って1本のバヨネットを俺に渡してくれた。

 

 「昔、前装式のライフルにこれを付けたんです。動物に乗って襲ってくる人間をしたから突き刺すためにね」

 「と言うことは、実戦で使われたということにゃ?」


 俺が頷くとアイネさん達の目が大きく見開く。

 まさか、これで白兵戦を行なっていたとは思わなかったようだ。


 「こんなので戦ったのかにゃ?」

 「あぁ、これならカートリッジがなくなっても使えるしね」

 

 昔の銃は弾丸の装填に時間が掛かったようだ。そして黒色火薬だから何発も連続して撃つことは難しかったらしい。

 長剣を使って相手を斬るよりも、バヨネットで突き刺す方が簡単だったんだろうな。


 そんな装備をして、迷宮に挑んで見たところ思ったよりもバヨネットは効果がある。

 死んだ振りしてる魔物をちょんちょんと突付いて、襲おうとしたところをドォン!ってやるのに丁度良いみたいだな。

              ◇

              ◇

              ◇


 そんな、ある日のこと。長老から呼出しがあった。

 急いで長老の部屋に行ってみると、ユングさん達が長老の前に座っている。

 俺と一緒に来たエルちゃんは何時もの席に座って長老を見た。


 「そう畏まるな。ユング様達は港の建設のためにいらしたのだ」

 「そういうことだ。戦闘工兵を作ったのは明人だ。今では直接指揮を執る事は無いが、明人が頼めば彼らは動く。戦闘工兵の指揮官に明人がしっかりと指示をしているから彼らだけでも良いんだが、明人に頼まれてな。てっちゃんの考えを形にしてやってくれって……」


 結構仲の良い友人みたいだな。

 

 「実は、俺なりに考えはあるんですが……」

 「見せてみろ!」


 俺が、港の簡単な絵を描いていたのを何故知ってるんだ?

 そんなことを思いながらも、バッグの中から地図に挟んだ港の絵をユングさんに手渡した。


 「なるほど、美月さんの言ったとおりに、準備はしていたようだな。良いだろう。これ位の港を作るのは彼らに任せれば容易い。これは預かっておくぞ」

 

 そう言って2人が席を立つ。

 長老に軽く頭を下げると、部屋を出て行く。

 早速始めるのだろうか?

 その内、見学に行ってみよう。


 「やはり、腹案を持っていたか。この間のハンターじゃな。あのサーシャ様を指導しただけのことはあるのう」

 「確か、連合王国に昔いたという指揮官でしたね」


 「僅か2万に満たない軍勢を指揮して、20万を超える侵略軍を全滅させたそうじゃ。残念じゃが、我がネコ族にはそのような指揮官はおらん」

 

 天才的な軍略家ってことだな。たしか俺の名前のレムルもサーシャ様の子孫じゃなかったか?

 俺にそんな期待を持たれても困るんだけどね。


 「アキト殿は約束を守って連合王国を動かしてくれた。この恩をネコ族は忘れる訳にはいくまい。たまに、工事を見て報告してくれぬか?」

 「もちろんです。ついでに南の森も気になるんで見てきます」


 「そうしてくれると助かる。そうだ、アルトスが幕僚の身分を与えてくれと言っていたな。このバッジを装備ベルトの左胸に着けるが良い。姫様も一緒じゃ。クァルの娘達は従者扱いになるじゃろう」


 長老が俺に渡してくれたのは、銀貨のような銀の地金に黒い石が填め込まれたものだ。

 ん? これって、キャッツアイじゃないか。オヤジのネクタイピンがたしかこんなネコの目のような光を放っていたな。宝石の色はまったく違うけど……。


 「長老、教えて頂きたいのですが?」

 「何じゃ」


 「この村には水が流れていますが、南の森と北の荒地の間にはまったく川がありません。ラクトー山には地表を流れる川はないのですか?」

 「レムルの言うとおりじゃ。川はない。……ラクトー山はこの島でも2番目の高さがある。それだけ山に降る雪や雨は多い筈じゃが、山肌が小石混じりの荒れた地面じゃ。降っても、融けても直ぐに大地に滲みこんでしまう。だから、このような地面の下の村に川の流れがあるのじゃ」


 「となれば、農業はあまり成果は上がりませんね」

 「それが、パラム王国の悩みじゃった。森を切り開いて山に貯水池を作り、用水路を王都までひいてはいたのじゃが、農業用水として使用できる量がなかった」

 

 これは、ユングさん達に相談したほうが良いだろうな。

 貯水池を作り、農業用水を引けば農作物の収穫量も増えるんじゃないかな。


 「村の外に農業の拠点を作るためにも、ラクトー山に貯水池を作り農業用水を得ようと思うのですが……」

 「南の森の途中で集落を見た筈じゃ。その集落の若者が言っておった。水があれば作物は育つとな。

 アルトス達は、一月交代で部隊を入れ替えて休養させると言っておったが、休養の半分を貯水池作りに駆り出すのも良いかも知れぬ。それはアルトスと相談してみよ。我等も農業を振興させたいのじゃ」


 「長老の賛同は得ていると伝えても宜しいでしょうか?」


 俺の言葉に、3人の長老が大きく頷いた。

 これで、少し先が明るくなったな。

 後は、貯水池の場所の選定だが、これは地図から場所をある程度決めている。一度場所を見る必要はあるのだが、なだらかな谷間が一番良い。あまり急峻だと土砂が直ぐに堆積してしまうからな。


 「それでは、明日にでも南の森に向かってみます」

 「そうするが良い。貯水池を作る場所が決まったならば伝えるのじゃぞ」


 軽く頭を下げてそれに応える。

 これで、長老の用事は終わった筈だな。

 エルちゃんと一緒に部屋を出て、通路を歩き出す。


 「山を歩くんですか?」

 「そうなるね。迷宮はちょっとお預けだ。明日は山伝いに南の森の柵に行って帰りに港を見てこよう。2、3日の旅になるよ」


 旅と聞いてエルちゃんは嬉しそうだ。

 この所、出掛けると言っても迷宮だけだったからな。やはり、健康的にお日様の下を歩きたいに違いない。

 部屋に戻って、アイネさん達にその事を話すと、直ぐに賛成してくれた。

 

 「外は、しばらくぶりにゃ。狩りもしておかないと骨が手に入らないにゃ」

 

 まぁ、理由はともかく一緒に来てくれるのはありがたい。

 そんなことで、旅支度と狩りの準備を整えると、俺達は明日を待つ。

              ◇

              ◇

              ◇


 朝早く、食堂へお弁当を取りに出掛けたミイネさん達を俺達は準備万端で待っている。

 皆のバッグに入らないものは俺の担ぐ籠に入っている。天幕にも使えるシートと毛布が2枚だからそれほど重くはない。

 その毛布に俺とエルちゃんの銃が突き刺してある。

 アイネさん達は背中のケースに入れて担いでいくようだ。

 

 しばらく待っていると、アイネさん達が帰って来た。水筒の水は昨夜の内に入れ替えているから、これで出発できるな。


 アイネさんの合図で杖をつきながら、外へ出るために通路を歩いて行く。

 皆、杖や槍を持って意気揚々と進んでいるんだけど、狩が主目的ではないんだよな。


 出入口を守る若者に挨拶すると、ソリのような逆茂木を押して俺達を通してくれた。

 まだ、朝が早いから山に登ったところで朝食を取る予定だ。少し遅めの朝食は昼食兼用になる。


 南の森に続く道を通らずに、直ぐに林の中を南へと歩き出す。

 林が尽きると、荒地が広がる。ラクトー山の山頂に沿って荒地が広がっているのだ。所々の谷間に林が広がってはいるが、森と呼べる大きさにはなっていない。

 岩交じりの荒地には潅木が疎らに生えている。

 これじゃぁ、川は出来ないよな。水源となる豊かな森がないんだからね。


 アイネさんに聞いてみると、南と西は比較的林が広がっているそうだ。ちょっとした地質の違いなんだろうけど、ラクト村から見たラクトー山との違いに驚くばかりだ。


 「この辺りで朝食にゃ」

 

 アイネさんの声で俺達は準備を始める。

 俺とアイネさん達で薪を集め、ミイネさん達が朝食の支度を始める。

 焚火を作り、お茶のポットを載せると朝食までもう少しだ。

 俺は、少し離れた場所でタバコに火を点けると周囲を見渡す。

 

 山裾へ2km程離れたところに集落がある。

 近くに小さな林があるから、薪取りはそこからしているのだろう。だが家がふえればたちどころに林が無くなりそうだ。

 村作りはそんな事も考えなくちゃならないみたいだな。


 「お兄ちゃーん!」

 「あぁ、今行くよ!」


 エルちゃんが焚火の傍に立って俺を呼んでいる。片手を上げて応えると皆の所に歩いて行く。


 「集落を見てたにゃ?」

 「あぁ、あの集落を大きくするには、どうしたら良いのかなってね」

 「簡単にゃ。水を引けば良いにゃ」


 その位の知恵は皆持ってるみたいだな。

 でも、この場所に実際に立つと、そう簡単でないことが分る。貯水地に流れ込む水源がそもそも此処には無いのだ。


 エルちゃんが渡してくれた黒パンサンドをお茶を飲みながら食べていても、そのことが頭から離れない。

 それでも、何時の間にか黒パンサンドを2つも食べたようだ。

 新たにエルちゃんが入れてくれたお茶を飲んでちょっと休憩だな。


 「これから、真直ぐ西に向かうにゃ。南の森の見張り所近くに出られる筈にゃ」


 そう言って、散弾銃を折りながら薬莢が入っていることを確認している。

 これから狩りをしながら南に行くってことだな。

 エルちゃんのライフルを取ると同じように薬莢が入って、安全装置が掛かっていることを確認しておく。

 俺の散弾銃は薬莢が入っていない。獲物に応じて弾丸を選ぶために抜いているのだ。

 

 食器を片付ける間に、俺は焚火の傍に穴を掘ると、焚火の残り火をその中に埋める。

 

 「さて、出掛けるにゃ。この季節ならピグレスが狩れるってお風呂で聞いたにゃ」

 

 風呂はハンターの情報交換の場でもあるようだ。俺も今度風呂に行ったら聞いてみよう。


 

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