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N-067 後装式散弾銃

 年が明けて3ヶ月も経つと、迷宮の途中にあるテラスの氷のカーテンが少しずつ融けてくる。

 氷で覆われてた方が暖かいような気がするのは、氷のカーテンの隙間から風が入るためだろう。次に迷宮を訪れる時にはすっかりカーテンが開かれているに違いない。


 そんな時期に、明人さんから俺宛の木箱が届いた。

 エクレムさん、アルトスさんの立会いの元で梱包を開けると、中にはライフル銃が50丁入っている。金属製の薬莢も600個入っていた。100個は予備ということらしい。

 そして、散弾銃の部品が箱を違えて入っている。わざと完成した姿を分らなくしているみたいだな。ということは、この散弾銃は銃としてではなく単なる金属部品として作られたようだ。

 いったい、何丁分に相当するんだろうな。


 その中に、俺宛の木箱が木箱の中に入っていた。中にあったのは……


 「散弾銃か? だがバレルが横ではなく縦だな。そしてハンマーが無い!」

 「後装式の散弾銃です。迷宮でちょっと危ない目に合いまして、全員分を新調しました。俺達の使っていた散弾銃は後で届けます」


 「そうしてくれると助かるが、今度頼む時は相談してくれ」

 「了解です。ですがたぶん明人さんに頼むのはこれが最後になるでしょう」


 散弾銃は何故か10丁ある。その内4丁は少し小さいような気がするな。

 1丁を手に取り見比べると、その違いが分った。

 

 これは、縦2連のライフルだ。使う弾丸はロアルだな。

 俺のライフルよりもバレルが短いが迷宮で使うには都合がいい。


 「さて、このライフルと散弾銃の部品は俺達の部隊で運ぶ。どうにか同じような大隊を2つ作ることができるぞ」

 「一度様子を見に行っても良いでしょうか?」


 「あぁ、構わんぞ。そうだな……、適当な階級を与えておいた方が良さそうだ。後で長老と相談しておこう」

 「俺達はハンターでいいですよ」


 「そうも行くまい。俺達にできぬ作戦を立案できるのだ。少なくとも俺達と同じ天幕で指揮を取れる身分が必要になる」


 そんなことを言いながら一緒に来た部下数人に指示を与えて俺達の荷物を持たせてくれた。部屋まで運んでくれるらしい。

 俺達はエクレムさん達と分かれて自分達の部屋へと戻りことにした。

              ◇

              ◇

              ◇


 「これってどう使うにゃ?」


 アイネさんが散弾銃を箱から出して色々やっている。

 とりあえず全員に1丁ずつ銃を持たせて、その使い方を教えることになる。

 

 「先ず、この散弾銃はカートリジではなくて薬莢を使うんだ。この金属の筒にあらかじめカートリッジを入れて置く。弾丸が上になるように入れるんだ。

 次に、このトリガーの上にあるレバーを下に押す。すると、ほら。銃が折れるだろう。そしたら、このバレルにさっきの薬莢を押し込む。あとはバレルを持ち上げるようにして元に戻すんだ。カチってちゃんと戻ると感触が伝わるからね。その後は、狙って撃つだけだ。

 この銃にはハンマーがないから、撃つ時にはこの手前のレバーを赤い方にするんだ。このレバーが赤い位置にあるときだけ銃を撃つことができる。青にしておくとトリガーを引いても弾は発射されないんだ」


 「ちょっと面倒な気もするにゃ。でも、形はすっきりしてるにゃ」

 「エルちゃんはこっちを試してみてくれ。使うのはロアルの弾丸だ」


 俺の言葉にエルちゃんが銃を交換する。やはり重かったようだな。散弾銃を使うのは後3年後位かな。

 皆が試射をするためにぞろぞろと出て行った後で、俺はのんびり一服だ。

 これで、とりあえず形はできてきた。

 

 現状では反攻作戦なんて考えるだけ無駄だと思う。

 何といっても軍勢が少なすぎる。ハンターを含めても2千人には達し無いだろう。総人口が8千人ちょいだからな。

 あれから、他国からこの村にやってきた人々もいるだろうが、それでも9千人を超えることはない筈だ。


 サンドミナスの侵攻軍の規模は3千を越えていたようだ。

 それが全軍である筈がない。良くて半分、場合によっては三分の一と考えられる。そんな状況では攻めること敵わず、ひたすら耐えることで再起を図る外に手は無い。


 如何に自軍を疲弊させずに兵を増やすかだが、富国強兵は年月が掛かりすぎる。

 先ずは、小国でも安全に暮らせれば良しとするべきだろうな。

 

 そんな目でバッグから出した地図を眺める。

 この地図によれば、北の荒地に作っている石塀と南の森に作った柵が現在の版図といえるだろう。

 ラクトー山の東側、東西80km、南北100km程が俺達の国だ。村が1つに船着場が1つ。これが出発点になるわけだが、今年中には農村と港を何とかしたいな。


 灰皿代わりの小さな素焼きの皿を持ち出して、タバコに火を点ける。

 皆が帰ってくる頃には、タバコの煙も部屋から消えるだろう。

 そんなことを考えながら地図を眺めている時に、ふと気が付いた。


 水が無いぞ。

 この俺達の版図には小川さえ無いのだ。

 この村には洞窟内に小川が流れているようだ。その上、温泉だって湧いている。だが、それは地下の話であって地上ではない。

 国作りの基本は農業だろう。自給自足が可能であれば国を維持するための貿易を他の産品に振り替えられる。そして、貿易が何らかの事情で途絶えたとしても国民を飢えさせずにすむだろう。

 村には井戸を掘るにしても、安定した農作物の生産には農業用水を抜きにはできないぞ。


 そういえば、南の森に繋がる道の西側斜面に農家の集落があったな。何を育ててるんだろう。そして、水はどうしてるんだろう。

 後で、長老に聞いてみよう。


 とりあえず、水だ。それが国作りの基礎になるな。旧王都もラクトー山から用水路で水を手に入れいていたから、山に水が無い訳ではないのだろう。場合によっては用水路の流れを変えるのも視野に入れる必要もあるだろうが、生憎と用水路の基点となる水源地は現在考えている版図からだいぶズレている。


 部屋の外が騒がしくなったかと思ったら、エルちゃん達が帰って来た。

 早速、コタツに足を入れてるけど、そんなに潜り込むと俺のところから足が出るぞ。


 「十分に使えるにゃ。バレルの先からカートリッジを押し込む必要が無いから、3発目が今までの半分で撃てるにゃ」

 「ライフルも装填が楽にできる。これで地下1階はだいぶ楽になるよ」


 エルちゃんもご機嫌だな。

 今までのライフルは2発目の発射に手こずっていたからね。

 ミイネさん達もこれを機会に2連式を使うようだ。強装弾じゃなくて通常弾を使えば大丈夫って言っている。


 「カートリッジポーチを少し改造するにゃ。この金属の筒を入れられるようにするにゃ」

 「お兄ちゃんのポーチは私が作ったげる」

 

 持つべき者は多芸な妹だな。ありがたく作ってもらうことにした。


 「ちょっと、お願いがあるんだ。こっちのポーチはそのまま改造して欲しいんだけど、もう1つはこのストックに取り付けて欲しいんだ。4発入れとければ十分なんだけど……」

 「分った。たぶん出来ると思うよ」


 そう言って俺のカートリッジポーチを受取ってくれた。

 ちょっと、俺の頼みごとが嬉しいようだ。


 「それで、私等の散弾銃はエクレムに渡せば良いのかにゃ?」

 「そうなんだけど、散弾銃2丁は残しておいてくれないかな。知り合いにあげたいんだ。今、武器屋は散弾銃の組み立てで手一杯の筈だ。ハンターが頼んでも入手するにはしばらく掛かるからね」


 「分ったにゃ。レイクにあげるにゃ? あいつはいい奴にゃ。きっと喜ぶにゃ」

 

 おもしろそうに俺を見詰めてるアイネさんに頷いた。

 2丁で十分だろう。レイクなら使いこなしてくれる筈だ。


 「ちょっと行って来るにゃ!」ってアイネさんとマイネさんが散弾銃の残りを持って部屋を出て行った。

 ちゃんと自分でカートリッジを入れるポーチを改造するのかと思ってたけど、やはりって感じでミイネさんとシイネさんに仕事を預けてる。


 まぁ、そんなところもアイネさんらしんだけど、お嫁さんに行くのはミイネさん達が先になりそうだな。


 コタツでエルちゃん達が、厚い革のポーチの中にあるカートリッジのホールド用の革を縫い直している。

 革を縫う針は太いし縫うにも力がいるみたいだが、短いドライバーのような器具を使うとエルちゃんみたいな少女でも難なく縫えるみたいだ。


 俺は再び地図を広げると、気付いたことをメモして春先の作業を考えはじめた。

 将来を考えるのは、結構楽しいな。

 

 しばらくすると、部屋の扉を叩く音がする。

 シイネさんがコタツを抜け出して扉を開けると、部屋に入ってきたのはレイクだった。


 「通りでアイネさんにあったんだ。レムルが話があると言ってたけど……」

 「まぁ、入ってくれ」


 俺の言葉に、レイクはシイネさんにコタツの入り方を教えて貰ってる。

 コタツに入ると、軽く口笛を吹いた。


 「こりゃいいな。あったかだし、此処で寝れたら気持ちいいだろうな」

 「まぁ、そうだろうな。部屋に炉があるならこれができるぞ。たぶん次の冬には広まると思うからな」


 「ところで、話って何だ?」

 

 そう言ってレイクはエルちゃんが出してくれたお茶を飲んだ。


 「散弾銃は手に入れたか?」

 「いや、武器屋の方も予約で一杯だ。一応予約はしておいたが軍の方で大量注文があったらしく、俺に回ってくるのは早くて今年の秋だろうな」


 やはりハンターからも注文が殺到してるようだ。


 「俺達の散弾銃が余った。2丁あるからレイク達が使え」

 「いいのか? 今なら1丁銀貨20枚だぞ!」

 「いいさ。一緒にリングワームを狩った仲じゃないか。これだ!」

 

 そう言って、後ろから2丁の2連散弾銃をレイクに渡す。

 

 「2丁なら、片方を相棒のミーネに上げてもいいな。彼女はパレトの強装弾も撃てるんだ」

 「なら問題ないはずだ。サーフッドの群れなら2丁あれば倒すのも簡単だぞ」


 「あぁ、そうだろうな。ありがたく頂くよ。だが、俺にこれをくれるという事は……」

 「新しい散弾銃を手に入れたんだ。それは横にバレルが並んでるが、新しい方は縦に並ぶ。それで、お古なんだがレイクなら使ってもらえそうだと思ったんだ」

 「使いこなすとも。どれ、早速ミーネに届けてくるよ。それじゃぁ……」


 嬉しそうに、レイクは部屋を出て行った。

 偽善のような気もしないではないが、今まで散々使ってきた物だ。どうせなら

同じハンターに使ってもらいたい。


 そして、アイネさん達は小さな鍋を下げて帰って来た。

 そろそろ夕食時のようだ。

 コタツ板の上に、スープ皿と薄いパンを並べて俺達は夕食を取る。


 「届けてきたにゃ。喜んでいたにゃ。後一月も経つと中隊に散弾銃を渡せるって言ってたにゃ」

 「結構早く組み立てられるみたいだね。そういえば、レイクが訪ねてきたよ。喜んでた」


 「散弾銃は品薄にゃ。ハンター達も順番を待ってるみたいにゃ」


 とはいえ、ハンター達に散弾銃が渡されるのはレイクが言っていたように秋以降になるだろう。何といっても軍の規模は千人以上。あの木箱で組み立てられる散弾銃の数は精々300前後だろう。


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