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N-065 迷宮と連携


 俺達の目の前で、ガルバンとグロッグが砂地に吸い込まれるように消えていく。

 残ったのは数個の魔石だ。

 アイネさん達が回収した魔石は中位の青。このまま数日いれば結構な額を稼げそうだ。


 【クリーネ】をエルちゃんに掛けてもらって、俺達は此処で野営の準備を始める。

 籠でつくった障壁の影に天幕用のシートを移動すれば、そこが寝床になる。

 携帯用コンロでスープを作りながら傍にポットを置いておく。

 食後のお茶はこれで出来上がる筈だ。


 乾燥野菜と干し肉で作るスープに薄いパンが1枚。

 ちょっと足りない気がしてたら、薄いパンを半分に千切ってミイネさんが渡してくれた。

 

 まぁ、そんな食事が終ると交替で見張りをしながら夜を明かす。

 最初は俺とエルちゃんだ。

 何時ものように、エルちゃんは俺の隣で編み物をしながら時おり通路の奥に目を向ける。

 俺はのんびりとパイプを口にしながら軽く長剣と槍を研ぐことにした。

 砥石を軽く何度も刃先に沿って滑らせていく。

 シャー……っと小さな音がするけど、少しはなれた場所で寝入っているクァルのお姉さん達は気にならないようだ。

 そんな感じで迷宮の時間は過ぎていく。


 スープの匂いで目が覚めた。

 寝床を起きだして皆のところに行くとエルちゃんが熱いお茶を入れてくれる。

 ふうふうと息で冷ましながらカップのお茶を飲ん出いると少しずつ頭がハッキリとしてくる。


 「今日は、こっちに進んでみるにゃ。地下1階にはトカゲのカルドムもいるはずにゃ。皮が硬いからスラッグ弾を散弾銃に詰めておくにゃ」


 トカゲだと遭遇戦になるってことだな。

 昨日のようなストーカーのようなカエルや蛇も嫌だけど、遭遇戦で固い奴も嫌だぞ。

 そんなことを思っていても、俺が食事をしている間に準備は整えられていく。

 食事の終えた俺の食器を回収して、皆の食器と一緒にエルちゃんが【クリーネ】で食器をきれいにして籠に詰め込込んでいる。


 とっくに携帯コンロやポットは片付けられてるから、水筒の水を飲んで俺も準備完了だ。


 「良いかにゃ? 出発するにゃ」


 アイネさんの声で俺達は少し戻るような感じで分岐路の広場へと歩いていく。

 今度は左側にどんどん進んでいくそうだ。そしてその先はやはり広場があって終点になるとエルちゃんが教えてくれた。


 途中には12個の広場があるそうだから、最後まで行き着いた時にはさぞかし大勢のストーカーが押し寄せてくるだろう。

 また、カエルと蛇なら昨夜と同じように対処すれば問題あるまい。

 そんなことを考えながら、たまに後を振り返りストーカーがいないことを確認する。


 4つほど広場を進んで通路を歩いていた時だ。もうすぐ次の広場になるというところで、アイネさん達の足が止まった。

 俺は直ぐに後方に体を向ける。3つも広場を移動してくればストーカーだって来るだろう。20m程後ろで輝く光球で後方30mは確認できるが、今のところ異変は無い。


 「カルドムが3匹いるみたいにゃ。結構大きいにゃ」

 「後ろは俺が見てるから、アイネさんの作戦が決まったら教えてくれ」

 「分ったにゃ」


 ミイネさんの話に俺が応えると直ぐに前の2人の所に行ったみたいだ。

 

 「私より大きかったよ。そしてマイデルさんみたいに太ってた」

 「トカゲってスタイルは良いんだけどね。餌を食べ過ぎたのかな?」

 

 そう言ってエルちゃんに笑いかける。

 でも、太ったトカゲなんて想像できないな。皮下脂肪が厚いんだろうか? それとも別の理由で丸まったんだろうか?


 急いでバッグから図鑑を取り出して調べてみた。

 其処にあった絵柄は確かに太ったトカゲだ。そして……太ったように見える体の秘密はその口から液体を噴出すための機能を持っているためらしい。口の慮端から吐き出される液は数m先で交差混合して高温の炎となるらしい。

 炎は10m程飛ぶらしく、トカゲ自体も高温に耐えられると書かれていた。

 

 まるで怪獣だな。アイネさんは攻めあぐねてるのかな?

 そんなことを考えてると、ミイネさんが再び俺の所にやってきた。


 「後ろは私とシイネで見張るにゃ。アイネ姉さんが呼んでるにゃ」


 方針が決まったのかな。

 急いでアイネさんのところに行くと、アイネさんの肩を叩く。


 「決まりましたか?」

 「決まったにゃ。3匹は奥に固まってるにゃ。てっちゃんがあっちの方に素早く移動して大きな銃でカルドムを撃つにゃ。怯んだスキに此処から私等がスラッグ弾を撃って倒すにゃ」


 囮になれってことだよな。

 確かに、トカゲと広場の端までの距離は20mはある。その場からは炎が届かないから大丈夫だということか。


 「なら、この散弾銃を置いていきます。これで1匹に2発ずつ発射できますよ」

 「済まないにゃ。幸運を祈ってるにゃ」


 祈る位なら、迷宮の1階で狩りをすべきだと俺は思うぞ。

 まぁ、それ位しか俺にも考え付かないから、ここは囮になるしか方法はなさそうだ。


 エルちゃんがやってきてアイネさんと相談しているようだ。

 ライフルを構えるとアイネさんの方を見る。俺もM29を取り出した。


 「良いかにゃ? 3、2、1……今にゃ!」

 

 俺が広場に飛び出ると同時に、光球の1つがトカゲに向かっていく。

 目くらましで怯んでいるところをトカゲの反対側の壁に張り付いた俺がM29を3連射した。

 マグナム弾の轟音が広場の物音を全てかき消したところに、アイネさん達がスラッグ弾を発射した。


 暴力的な音はしばらく耳をおかしくする。

 ミイネさん達がカートリッジを装填している間にアイネさんが俺の散弾銃をまだ動いているトカゲに発射した。

 

 時間にして10秒も経過していない。

 トカゲはどうにか倒したようだな。頭を下げてジッとしている。


 マイネさんとエルちゃんが銃を構えて広場に足を踏み入れる。

 アイネさんも自分の散弾銃に急いでカートリッジを装填すると広場に入ってきた。


 まだ、尻尾が動いているな。

 そう思ったときにいきなりエルちゃんに向かって一匹のトカゲが首を上げた。

 ドォン!

 散弾銃がトカゲが口を開けると同時に発射されその口が盛大に爆発した。

 自分の口の中で2つの液体が混じったらしい。

 

 「危なかったにゃ」


 そう口にしたアイネさんは、まだトカゲから目を離していない。

 ほっと胸を撫で下ろしていると、トカゲの体が砂地に消えていった。後には小さな魔石がポツンと残っている。


 「終ったにゃ。直ぐに此処を離れるにゃ」


 俺達は次の広場に向かって歩き出した。

 俺の傍にやってきたエルちゃんに、余り前に出ないようにって注意しておく。

 そんな俺に小さく頷く事で応えてくれたけど、次もそんな場があるんだろうな。


 行き止まりの広場で野営の準備をしながらストーカーを待ち受ける。最初と同じようにしばらくするとグロッグがやってきた。


 こんな魔物狩りを3日程続けてから、俺達は迷宮を抜け出して村に戻ってきた。

 やはり、迷宮の地下は1階とはまるで違う。

 トカゲが数匹の時には躊躇無く爆裂球を使ったぞ。少し静養してから再度向かおうと、俺達は風呂場で汗を流す。


 偶然にも風呂場で会ったのはレイクだった。

 2人でのんびりと大きな湯船でくつろぐ。


 「そうか、地下1階に行ったのか」

 「あぁ、まったく1階とは魔物が違うぞ。トカゲは火を吹くし、カエルや蛇の大きな奴が後ろから来る」


 「それでも倒したんだろう?」

 「どうにかね。2連の散弾銃が3丁ある。初撃でかなり損害を与えられるからな」


 「やはり、2連は有利なんだな。どうにか、エリルに散弾銃を買ってやったが、俺はどうしようかと迷ってたんだ。やはり俺も2連を買おう。しばらくは1階で魔物狩りが続くけどな」

 「それと、仲間4人では少し足りないぞ。レベルが低い俺たちも6人だから何とかできたが、4人ではどうだったか分らない」


 「あぁ、それは俺も感じてる。できれば【メル】と【シャイン】が使える仲間が欲しいな」


 前衛、中衛それに後衛。俺達がレベルが低くても何とか迷宮で狩ができるのはこの関係が綺麗にできているからかもしれない。中衛は何時でも後衛や前衛に回る事ができる。魔物に応じてメンバーを入れ替える事も可能だ。


 「仲間か……、だが、多ければ良いということではないぞ」

 「そうだ。確かに4人でもっと深いところまで行く者もいる。チームの連携も重要なのだ」


 そう言って、2人の男が俺達に近付いてきた。立派な身体には傷が無数に走っている。

 

 「爆裂球は貴重だが、うまく使えば魔法を使う仲間を補える。前衛が素早く動けば、それに注意を向けた魔物を後衛が攻撃できる」

 「だが、さっき聞いた前、中、後という考えも悪くない。どうだ、前衛と後衛のどちらにも使えそうな奴を探すのは?」


 「うむ。確かにおもしろそうだ。魔物に応じて前にも後ろにもなれる奴だな。だいぶハンターが集まって来ている。そんな中にはいまだに1人の者もいるだろう。上がったら食堂で探すのもいいだろう」


 そんなことを言いながら俺達から離れて風呂から出て行った。

 ベテランのハンターなんだろうな。

 その言葉を思い出してみると、俺達にも十分応用ができる。要するに連携ができなければ迷宮の地下には行けないということだな。


 ユングさんにフラウさんはたった2人だけど最深部まで行って帰って来た。美月さんもそうだ。確かに美月さんは強いけど、明人さんやディーさん、それに剣姫さんの連携で魔物を倒したんだろうな。

 連携か……これが俺達の今後の課題だろう。


 「どうした?」

 「いや、さっきのハンター達の会話を考えてたんだ。まだまだ俺達のチームの連携は考えないといけないところがあるなってね」


 「まぁ、それは俺にはまだ先の話だな。俺は新たな仲間を探してみるよ」

 

 そんな会話を屈託無くできるのも同じ位の年齢だからだろう。

 後は下らない話をしながらゆっくりと2人で温まる。


風呂を出ると、零区と一緒に途中のテラスで熱った体を冷ましながらパイプを楽しむ。

 もう直ぐ此処も雪で埋まるんだろうが、まだ雪は降っていないようだ。

 此処で屋台でも出したら売れそうな気がするな。

 今度、長老に提案してみるか。ベンチとテーブルが数個に簡単な飲み物と甘い物それだけで十分な筈だ。


 レイクと片手を振って分かれると、部屋に戻る。

 扉の前には、長老の使いが俺を待っていた。


 「長老がお待ちです。緊急ではありませんから、朝食後にお来しください」


 そう言って、通路を遠ざかっていった。

 何だろう?

 急用ではなさそうだが、何か困った事でも起こったのだろうか?

 夕食の食事を取りながらもその事が頭から離れない。。


 「何かあったの?」

 「あぁ、長老からの呼び出しだ。明日出掛けてくる」

 「シイネ、一緒に行くにゃ。ひょっとして伝令がいるかもにゃ」

 

 お茶を飲んでいたシイネさんが小さく頷いた。

 この季節に軍が動くとは思えない。

 そして、村に異変があったとも思えない。もしそうなら風呂でレイクが教えてくれる筈だ。

 だとしたら……、村の外、外交的なものか?

 残り4カ国の間に何らかの異変があったのだろうか?


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