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N-061 届けられた木箱


 秋の収穫が終ると、長い冬の準備が始まる。

 作物の収穫はそれほど無いから、商船が運んで来た食料を村の倉庫に次々とガルパス達が運び込んでいる。

 南の柵は岩山の遥か上まで伸びて、道路に作られた関所には1中隊が駐屯できる宿舎も出来上がった。岩山の監視所も天幕ではなく、ログハウス風の小屋が岩に寄り添うように建てられたから、冬場でも安心して1分隊が監視を行うことができる。

 北の石塀は高さ1.5m程の塀が3km程作られただけらしい。

 材料が石だから、3年近く掛かるんじゃないかな。それでも確実に伸びていることは確かだ。

 たまに村の外の森に向かうと、炭焼きをしている者達に出会う。

 村の暖房や調理は炭火が基本だ。その炭を得るために切られる立木の数はかなりのものだが、アイネさんの説明ではそれに倍する苗を森に植えているらしい。

 森を育成しながら炭を焼くのは大変だろうな。


 そして、俺達6人は再開された迷宮の1階で魔物を狩っている。

 魔物を狩って得た魔石は村の貴重な財源だ。3割の税金は高い気がするけど、食住がタダなんだから仕方がないのかもしれない。

 それに、俺達が魔物を狩るのはレベルを上げるためでもある。

 少しでもレベルを上げればそれに見合った肉体機能も上昇するし、何といっても魔力量が上がる。

 俺の持つM29は魔力を使うから、魔力量の上昇は是非とも行なわなければならない。エルフとのハーフとなった俺は人間よりも2,3割魔力が上昇するらしい。その内頭打ちになるとしても、まだまだ上がるだろう。まだ白レベルだしね。


 「だいぶケルバスを倒すのが楽になったにゃ。やはり散弾銃の威力は絶大にゃ」

 「シイネおねえさんが撒いた骨も役にやったね。あれでこっちに注意が向かなくなったもの」

 

 アイネさんの言葉にエルちゃんが続ける。

 あの骨をばら撒くのは確かに、目から鱗だったな。

 先を争って骨を奪い合っている所に散弾が6発放たれるんだから、楽勝だよな。

 ロアルを抜いて向かってくるケルバスに備えていても、殆ど使うことはない。 俺とアイネさんが槍で止めを刺すことで殆どが処理できてしまった。


 「もうすぐ、次の市場が開かれるにゃ。これで少し装備を整えられるにゃ」

 

 そんなことを呟いたマイネさんは、トラ模様の尻尾を嬉しそうに揺らしながら俺の前を歩いている。

 何を買うんだろう? 4人で合計すれば今までの魔石の報酬は確かに結構な額になるだろうけど……。


 「お兄ちゃんは欲しい物が無いの?」

 「そうだな……。タバコはあるし、特にないな。でも、エルちゃんは買いたい物があればちゃんと買っておくんだよ。もうすぐ冬だからね」


 エルちゃんの目当ては毛糸球だと思うな。俺にはちょっと難しいけど、さすが女の子、ちゃんと色々編めるようになっていた。

 ミイネさんやシイネさんも編み物をするから、分からないところは色々と教えて貰ってるみたいだ。


 そんな迷宮での魔物狩りを2回ほど行なった後、俺達は少し長めの休養を取る。

 アイネさん達がエルちゃんを連れて市場に出掛けている間、俺は長老の呼び出しを受けて、長老の部屋に出向くことになった。


              ◇

              ◇

              ◇


 「お前の名前で荷が届いているそうじゃ。荷箱は10個を越える。後で確かめるがよい。送り主はネウサナトラムのアキトとある」

 

 明人さん達が村を去ってから2月も経っていない。そんな短時間でライフル銃ができたのだろうか? それとも、バリスタが届いたのか?


 「明人さんに、少し強請ってみました。2M(300m)以上爆裂球を飛ばす仕掛け、前装式ではなく後装式の銃それと、遠くを見ることができる仕掛けに方向を正確に知る仕掛けです」

 「それが届いたというのか?」

 「たぶん。エクレムさんやアルトスさん立会いの元で梱包を解きましょう。2人が使えないと判断したならば、そのまま廃棄すればいいと思います」


 「ふむ。武器を送ってきたのじゃな。我等としてもありがたい話じゃが、見返りはどうなるのじゃ?」

 「この場で明人さんが話した内容で変わりはありません。妹がネコ族だったと言っていましたから、亡くした妹への思い入れなのかもしれません」


 「金や名声を得るために動く者ではない。場合によっては連合王国の施政に対しても堂々と意見をいうことができる立場にあると聞く。義によってのみ行動すると昔聞いたことがあるが、まさにその言葉通りじゃのう。……エクレム達の意見で使うか廃棄するかを考えるが良かろう」

 「分りました。ところで、周囲の様子に変わりはありませんか?」


 俺の問いに長老の1人が顎髭を撫でる。

 やはり、少し気になる動きがあるのだろうか?


 「この前の巡察隊の報告に気なることが書かれておった。南の森の沼の水位が下がっておるとな。そに気付いた巡察隊が数箇所の沼を探ったところ、皆同じように水位が低下していたということじゃった。

 何かの前触れではないかと3人で危惧しておったのじゃ」


 確か南の沼は、王都へ供給する水道の水路を破壊してできたんだよな。

 その水位が下がったということは、供給される水が断たれたと考えるのが普通だろう。水路を修理すればそうなるよな

 たぶん、長老もそれは気付いているだろう。

 その目的とするところは……、森の乾燥化に違いない。まぁ、以前からの森だから、森が無くなることはないだろうが、壊れた用水路からの漏水でできた沼は無くなるに違いない。

 南の森を魔の森と化しているのは、そんな沼をダラシットと呼ばれるカタツムリのオバケみたいな魔物が徘徊しているからに他ならないが、ダラシッドの行動を制限できれば、大軍を移動することが容易になるな。


 「その危惧はもう少し先、少なくとも1年後でしょう。サンドミナスの再来は南の森から来ると見るべきです」

 「だが、あの森には……そうか、そういう訳じゃな」


 俺は小さく頷く。

 やはり、小さな不安が形あるものとして、長老の脳裏に映し出されたようだ。


 「たぶん、そういうことを考えて用水を修理したと考えられます。ですが、湯水路の場所をサンドミナス王国が知っていたことが俺には驚きです」

 「そこまで、ボルテム王国に入り込んでいるということじゃろう。将来、ボルテム王国はサンドミナス王国に併合されるやも知れぬな」


 ボルテム国王がサンドミナスから妃を娶ったということも、その理由の1つなのだろう。日和見な貴族は直ぐにサンドミナス王国に寝返るだろうな廃都の用水路もそんな貴族からもたらされた情報に違いない。


 やはり、サンドミナスの野望はネコ族の持つ迷宮に違いない。

 とことんやるつもりだな。

 早めに柵ができて良かった。今なら、もう1つ柵を作れそうだぞ。


 「南の備えは柵と、関所に駐屯所があります。岩山の見張り所も整備が終ってますし、岩山からの稜線に沿って柵も延びています。

 今度来るとすれば兵力は倍以上でしょう。となれば、大軍を移動するための進路は自ずと限られてきます。其処に更に柵を作り、見張り小屋を作って備えておけばいいでしょう。

 銃を持つ軍同士が対峙すれば直ぐに膠着状態に陥ります。柵を破られぬようにこちらの兵を配置すれば、後は輸送力の差で戦に決着が付くでしょう」


 輸送力は重要だ。サンドミナス王国はかなり遠方の国の筈だから、かなり無理をして出兵しているだろう。

 この前の船での兵員輸送もそうだったが、サンドミナス王国はネコ族を過小評価しているのかな。

 大軍で来るのは、短期決戦で済むと思っているからなんだろう。

 

 「アルトスと良く相談するのじゃ」

 

 その言葉に俺は頭を下げると、長老の部屋を退出した。

 ある意味、明人さんからの荷物は渡りに船だ。

 人の手で投げる爆裂球は精々30mも無いだろう。それが200mあれば、膠着した戦線に穴を開けられる。

 まぁ、梱包を解かない限り中の品物は分らないんから、あまり期待をするのも良くはないだろうけどね。

              ◇

              ◇

              ◇


 「これがそうか?」

 「よくも、我等に援助してくれたものだ」


 「ネコ族には、ハンター成り立ての頃に散々世話になったそうですよ」

 「ハンターなら新米を助けるのは当たり前だが、その恩義を今も忘れんということか。人間にしては珍しい奴だ」


 俺とアルトスさん、それにエクレムさんで20個近い大きな木箱を眺めながら話をしていると、後ろから声が掛かる。


 「早く、開けるにゃ。皆待ってるにゃ!」


 待ちきれないのはアイネさんだと思うけど、俺達の後ろにはクァルのお姉さん達とエルちゃん、それにレイミーさんが俺達と木箱をずっと見ている。


 「そうだな。先ずは開けてみないと分らん話だ」


 アルトスさんがそう呟くと、腰の片手剣を抜いて木箱を厳重に縛っているロープを切断して木箱の蓋に片手剣を刺して抉じ開ける。

 隣では、エクレムさんも別の木箱の梱包をばらし始めた。


 「これは?」

 「こっちは、太い槍のようなものと爆裂球だ」


 次々と梱包を開けていくと、分解されたバリスタがその中には入っていた。丁寧に組み立て図と使用方法の簡単な絵まで箱の中には入っていた。

 全部で18個の箱の中には、バリスタが12台と発射するボルトが200本。それにボルトの先端に取付ける爆裂球が200個入っていた。

 さらに、ボルトアクションに良く似たライフル銃が50丁と金属製の薬莢のようなものが500個程。伸縮式の望遠鏡は6倍の物が20個、それにミリタリーコンパスのような磁石が20個入っている。


 「どうやら、武器らしいがどうやって使うのだ?」

 「これを悪戯されることはありませんか?」

 

 「大丈夫だ。俺の部下に見張らせる」

 「なら、この銃から試験してみましょう」


 俺はライフル銃と金属製の薬莢、それに望遠鏡とコンパスを持って倉庫を後にした。

 

 試験をするというのでアイネさんが先頭になって案内してくれる。

 2度分岐路を曲ると、横幅3m程の出入り口に出る。ここは始めてくる場所だ。


 出口から5分程歩くと直径200m程の広場が見えてきた。

 10人程の青年がハントを構えて30m程先の直径1m程の的を狙っている。

 どうやら、訓練場のようだな。


 「ここなら、銃の練習に丁度いい。確か300M(90m)を狙えると言っていたな。あの分隊が撃っている場所が100D(30m)だ。

 丁度、この辺が300D(90m)と言うところだろう」


 アルトスさんがそう言って、的を指差す。

 

 「では、此処から撃ってみます。アイネさんも、その銃で的を狙ってみてください。散弾銃ですが強装弾の1発弾も撃てる筈です」

 「やってみるにゃ。当らなければ200D(60m)でもう一度撃ってみるにゃ」


 「そうだな。その散弾銃の性能も見てみたい。似た銃はだいぶ出回っているが、それほどバレルは長くないし、太くも無い」

 

 エクレムさんも興味があるみたいだな。


 デモンストレーションをアイネさん達に任せて、俺は金属製の薬莢にカートリッジを捻じ込んだ。それを5発分作る。

 金属製の薬莢の後ろには本来雷管が入るのだが、これには5mm程の穴が開いている。この穴から小さな火炎を魔道具で作り出し中のカートリッジに着火させるのだろう。金属製薬莢は壊れないから何度でも使えるみたいだ。


 ボルトを起こし手前にガシャンと引く。

 バレルの後ろに薬莢を入れる窪みが現れた。薬莢を其処に入れてボルトを戻すとバレル内に薬莢が送り込まれる。

 この薬莢とバレルの精度を出す為にどんな工作機械を使ったのだろう。

 明人さん達の住む連合王国を攻める国は無謀の一言だ。だが、確かどこかと戦っているようなことを言っていたな。

 10丁を作る毎に1丁と言っていたから、500丁を作っていることになる。いったいどんな連中と戦っているのだろう。


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