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N-006 冬越しの計画 2nd

 

 あれから1月程過ぎて、どうやら魔法の袋を購入出来る程の報酬を蓄える事が出来た。

 カウンターのチェリーさんの所に魔法の袋の購入を希望すると、早速、カウンターの下から1個を取り出して俺に見せてくれた。


 「最初に買うのは皆、一番大きいのにするみたい。これがそうよ。部屋にあった箱の3倍位の収容能力があるわ。中に入れてしまえば、クルクルと丸めてバッグに入れておける優れものよ」


 値段を聞くと300Lだと応えてくれた。


 「最初の1個は300Lだけど、次に買う時は1,000Lになるわ。最初の1個の値段が特別安いのよ」


 そう言ってカードの提示を求められる。

 チェリーさんは俺の名前の横にバッテンの刻印を入れた。これが最初の1個を購入した印らしい。


 次にリスティナさんが俺達に言ったのは、寝具の調達だ。最低でも毛布2枚は必要らしい。2週間程、依頼報酬を貯めて雑貨屋にエルちゃんと出かけた。


 「毛布ですか…。皆さんこれを使ってますよ」

 そう言って持ち出してきた毛布はギルドの2階で俺達が使っていたものと同じものだった。

 「もっと大きいのは有りますか?」

 「これの横幅が2割、5割大きい物があります。特注で2倍というのも作れますよ。値段は、普通サイズが50Lです。大きくなるにつれて、65L、80Lそして特注が110Lになります」


 「出来れば、3倍の横幅でこんな風に袋状に出来ませんか?」

 「ボタンで袋にするんですか。面白そうですね。値段は……、180Lになりますね。」

 「それでは、1.5倍と3倍でお願いします」


 エルちゃんが銅貨で260Lを支払い、お姉さんから控えを受取った。1週間位で出来上がるらしい。

                ◇

                ◇

                ◇


 エルちゃんとコツコツ薬草採取を続けていると、ある日の採取依頼完了を報告した時に、ギルドカードの提出を求められた。


 「はい。これで、貴方達は赤の2つになったわ。てっちゃんは少し前にその資格があったんだけど2人一緒の方が良いでしょ」


 そう言って、俺達にカードを返してくれた。カードの下にはしっかりと穴が2個空いていた。

 

 そんなことがあった次の日。朝からどんよりと空が曇っていて今にも振り出しそうな感じだ。2人で裏の井戸で顔を洗いながら顔を見合わせる。

 朝食を食べていると遠雷の音がした。お弁当を1個だけ購入して急いでギルドに戻ってきた。

 ホールには数人のハンターがいたが、依頼書を手にカウンターに並んでいるところを見ると、こんな天気でも狩りに出かけるようだ。

 

 そんなところにリスティナさん達が階段を下りてきて、俺達に壁際にあるテーブルを指差した。ちょっと待ってて欲しいらしい。

 ルミナスがギルドを出て行ったところを見ると、彼女達も今日は薬草採取を休むみたいだ。

 テーブルの上に皆のカップを並べると、今日はサンディがお茶の葉っぱを入れていく。そこにエルちゃんが水筒の水を入れていった。


 「寝具は揃ったの?」

 「あぁ、特注になったけどね。欲しい物が手に入った」


 「次はいよいよ小屋がけを始めるけど、道具は小型のスコップと鉈でいいのね?」

 「スコップはリスティナさんと俺とで2個あればいい。交替で作業が出来るからね。鉈は小型の斧でも良いと思うよ」


 「結構太い木を倒す必要があるから斧の方が良いかもね」

 「では、スコップと斧を1個ずつお互いが購入すると言う事で」


 俺の言葉にリスティナさんが頷いた。

 そこにルミナスが帰ってきた。


 「直ぐに降りだすぞ。今日はやはりお休みだ」


 リスティナさんはルミナスに頷くと、お茶のカップを持って2階に上がっていった。

 俺達はお茶を飲み終えると、依頼掲示板を眺めてみる。


 「お兄ちゃん…。これ!」


 エルちゃんが指差した依頼書は、至急と赤で書かれていた。中身は、デルトン草が20個で報酬は40L……。これって、美味しくないか?

 確か、デルトン草は30個以上持っていた筈だ。

直ぐに、依頼書をチェリーさんの所に持って行き、受領印を押して貰う。2人で2階に駆け上ると部屋の中の木箱を開けて、肩掛けバッグからデルトン草を笊に拾い出した。

 2人でちゃんと20個ある事を確認して、小さな布袋に入れると依頼書を片手にチェリーさんの所に持ち込む。

 

 「あら?…余分に集めてたのね。助かったわ」


 そう言って俺達に30Lを渡してくれた。これで、今夜の宿と食事は確保出来た。


 「ところで、小屋掛けをするんですって?」

 「えぇ、そのつもりですが、何か気を付けることがあれば教えてください」

 「火を点ける道具を必ず2個準備しなさい。もう1つは【メル】でもいいけどね。火が無くなれば凍死するぐらい寒くなるわ。そして薪はたっぷりと準備しておきなさい」


 俺はチェルシーさんの忠告に礼を言うと2人で2階の部屋に戻った。


 「お兄ちゃんが魔法の小箱を持ってるし、私が【メル】を使えるから、問題ないよね」

 「これはライターって言う物で、魔法じゃないよ。この中にある水みたいな物が無くなると使えなくなるんだ」


 そう言って、中の液化ガスが3分の1位に減ったライターを見せる。

 

 「もう1個あるから、これはエルちゃんが持っていて。……こう使うんだ」

 そう言って、カチッっと押して見せる。


 「この部分を押している間は火が出てるんだ。あまり長時間出してはダメだよ」


 エルちゃんが頷いて両手でライターを持ってカチッってやっている。数回繰り返してやり方を覚えたみたいだ。ベルトに付いているタバコケース位のポシェットに大事そうに仕舞いこんでる。


 トントンと扉が叩かれる。

 誰?って聞いたら、ルミナスだと応えたので、扉の鍵を外して入れてあげる。


 「ちょっと来てくれないか。……色々と分担を決めたいらしいんだ」

 

 という事で、エルちゃんと1つ隣の部屋にお邪魔する事にした。


 「いらっしゃい。……こっちに座って」


 俺達がリスティナさん達の部屋を訪ねると、早速中に招き入れてくれた。

 俺達は床に輪になって腰を下ろす。


 「皆で冬越しするとなると色々と揃えなければならないの。知り合いの冬越しをしている人に相談したんだけど……、これ位必要になるわ。てっちゃん達にも手伝って貰おうと思って呼んだのよ」

 「確かに、個人で使う物、パーティで使う物、それに2つのパーティが共同で使う物に分かれますね」


 「パーティと個人で使う物は任せるわ。これが、そのリスト。参考にしてね。

 それで、これが共同で使う物になるわ。最終的には全てパーティで揃える必要があると思うけど、最初だから分担して揃えましょう」


 そう言って2枚のリストを渡してくれた。

 パーティはエルちゃんと相談して決めれば良いから、リストをエルちゃんに渡しておく。

 そして、共同と書かれたリストに書かれた道具類をリスティナさんと分担して行く。


 「てっちゃん達はそれ程蓄えが無いと思うから、この3つをお願いしたいの」

 そこに書かれていたものは、大型鍋(6人用)とバケツにお玉だった。


 「値段敵にはどれ位になりますか?」

 「そうね。ピンキリだから、少し厚めの真鍮でいいと思うわ。バケツは5C(10ℓ)以上入る物よ。お玉はシチューやスープを盛り付けるのに使う物よ。全部で200L程度だと思うけど……」

 

 「食料や調味料等も用意しなければなりませんね。俺達にはその辺のところが詳しく無いんで、それもお任せしたいんです。勿論食料の購入費は出しますよ」

 「それは任せてもらうしかないけど……。1人500L程度になるかも知れないわ。でも、これは買うとしても最後だから、後4ヶ月も先になるわね」

 

 「それと、背負い籠もあった方が良いと思います。屋根を作るのに大量のかやを刈り取らなくてはなりませんから」

 「パーティに追加ね。判ったわ」


 「所で、茅を何で刈るんだ?」

 「剣で良いと思うけど……」

 「なら、俺達のパーティで砥石を買っておこう。茅は結構硬いんだ。直ぐに剣が鈍ってしまう」


 ルミナスが俺達の話を聞いて、共同購入の追加をしてくれた。

 

 「エルちゃんは編み物をした事がある?」


 サンディがエルちゃんに聞いている。でもエルちゃんはフルフルと首を振っているぞ。


 「それじゃぁ、編み棒と毛糸を冬までに用意しとくと良いわ。私が教えてあげるから」


 エルちゃんは嬉しそうに、うんうんと頷いてる。


 「良かったら、明日薬草を探しながら場所を探してみない?……冬越しするハンターはマケム湖の湖畔に小屋を立ててるみたいなの。小屋はたとえ住んでる人がいなくても既存のものは使う事が出来ない決まりだから、良い場所から小屋が建っていくわ」

 「先ずは場所決めだね。分かった」


 「スコップと斧は持って行くぞ。良い場所があれば柱を1つ立てれば他のハンターはその場所を荒らさないんだ」


 俺の了承を聞くと、ルミナスが俺に告げる。となれば、直ぐに買って来なければならない。

 

 「明日の朝に北の門で待ち合わせで良いかな?……勿論、雨なら中止だけど」

 「それで良いわ。なるべく簡単な依頼を探してね」


 俺はエルちゃんを連れて一旦部屋に戻った。

 自分の魔法の袋から小さな革袋を取り出すとエルちゃんに渡す。


 「これが、最初に持っていたお金なんだ。400L位あるから、これで装備を整えよう」

 「私も、持ってるよ」


 そう言って、革のベストの内ポケットから俺と同じような袋を取り出して、掌に中身を乗せる。数枚の硬貨が入っていたけど、驚く事に金貨が5枚入っていた。残りは穴の空いていない銀貨が2枚、それに穴あき銀貨が7枚と穴の空いていない銅貨が6枚だ。

 とんでもないお金持ちだぞ。小屋を使わなくても十分に宿で冬を越せそうな気がする。


 「何時も一緒なんだから、これも使っていいよ」

 「いや、これはずっと持っていた方が良い。どうしようもない時は使うとして、今は俺の持っていたお金と、今までの稼ぎで色んな物を揃えよう」


 エルちゃんはおれの言葉を聞くと掌の大金を元の内ポケットに仕舞いこんだ。そして、腰のバッグから皮の袋を取り出す。

 ジャラジャラと床に硬貨を落とすと一生懸命に数えだした。銅貨ばかりだから結構な重さだよな。両替って出来るんだろうか?…後で、チェリーさんに聞いてみよう。


 「全部で783Lあるよ。お兄ちゃんのと合わせると…1,322Lになる」


 それだけあれば、色々と買えるだろう。

 お金をエルちゃんに持ってもらって、早速雑貨屋に出かける事にした。幸い、雨は小降りになってる。


 ギルドを出ると何時の間にか雨は止んでいた。

 向かいの食堂の隣が雑貨屋だ。小さい村だからあまり動かなくても用が足りるのは有り難いと思う。

 

 雑貨屋の扉を開けると、この間のお姉さんがいた。


 「こんにちは。……小型のスコップと斧を見せて貰いたいんですけど」

 「スコップは、これですね。大型のスコップは農家の人が購入しますけど、ハンターの方なら、このどちらかです」


 そう言って見せてくれたのは、片方はスコップナイフだ。そしてもう片方は軍用スコップのような形だな。もっとも鍬のように折って使う事は出来ないようだ。


 「斧はこの3種類です。こっちの大きいのはきこりでもないと使いませんね。此方の2種類が農家やハンターの人達が買って行きますよ」


 両手で使う大型の斧は確かに俺達の手に余る。後の2つは、材質に違いがある。青銅と鉄だ。

 

 「スコップはこれを下さい。斧はどんな違いがあるんですか?」

 「簡単です。丈夫さなら鉄。切れ味なら青銅ですね。もし小屋掛けに使うんでしたら、鉄の斧を勧めます。切れなくなったら砥石で研げばいいですから。値段は同じなんですけどね」


 そんな会話をお姉さんとしながら、俺達はスコップと斧、それにカスガイを10本購入してギルドに帰る事にした。合計340L結構な値段だね。


 夕食を食べて部屋に戻ると、エルちゃんがバッグの袋をごそごそと探して布で包まれた物を取り出した。


 「お兄ちゃん、この銃を使う?」

 

 包みを解いて現れた物は2丁の銃だった。革のホルスターに入って小さな小箱が2個別に入っていた。

 銃の形はパレトとはだいぶ違う。

 精練された形で握りの部分にも凝った細工が施されている。


 「何か、パレトとはだいぶ違うね。」

 「これはロアルという銃なの。2丁で一組みたい」


 かなり高価そうな銃のいわれをエルちゃんに聞いてみると、どうやら貴族連中が決闘に使う銃らしい。銃口もパレトより小さいみたいだ。そしてバレル長も少し長く感じる。命中率を上げる工夫なんだろうな。


 「立派な物だけど、俺が使って良いの?」

 「いいよ。もう一つは私が使うから」


 そう言って俺を見て微笑んでいる。という事は、この銃を使った事があるんだろうか?

 決闘用らしいけど、お姉さんと遠くから来たみたいだから、その間はこの銃で何度か危機を乗り越えたのかも知れないな。


 「後で、使い方を教えてね」

 「うん。簡単だよ。お兄ちゃんなら直ぐに覚えられると思う」


 ロアルはM29と比べると遥かに軽い。装備ベルトの右にホルスターを取付ける。そしてホルスターの隣に小さな革製の箱を付けた。この箱は、カートリッジケースのようだ。中に小指ほどのカートリッジが6本入っていた。余裕しろから本来は10本は入るように作られたものらしい。

 しかし、この銃は単発なんだよな。

 こんな銃をハンターは使っているのかと思うと、ちょっと気の毒になってきた。

 

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