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N-059 訪ねてきた4人


 「新しい銃だと?」

 「はい。パレトでは精々100D(30m)の狙いが付く位です。こちらは300D(90m)、これでも200D(60m)を期待できます」


 俺はマスケット銃に似た長銃と二連の散弾銃を後ろの籠から取り出して皆に見せた。


 「こっちの散弾銃の噂は聞いたぞリングランの触手を千切り取ったと言っていた。しかもバレルが2つだ。バレルが1つでも兵達は喜ぶだろう。だが、こっちは微妙だな。ホントに300D(90m)を狙えるのか?」

 「試射してください。両方ともお願いします」


 そう言って、籠を中から残りの銃を取り出す。

 直ぐに3人が銃を受取ると、部屋を出て行った。


 「しかし、銃を変えることによって何が変わるのだ?」

 「少なくとも爆裂球を相手に使われることが少なくなりますよ。爆裂球はどう考えても100D(30m)程投げられるでしょう。パレトの飛距離よりは短いですが相手の兵に命中させることは五分五分の距離だと思います。ですが、先程の銃ならば必中距離です」

 

 「敵に先んじる為か……」

 「だが、無駄ではない。火薬を詰めて弾を込めるのは1回目だけだ。今まで通りパレトを持つなら、銃は2丁になる」


 「それを今後は変えていただきます。長銃に使うのはカートリッジ、それで次弾を発射する時間を短縮出来ます。剣で戦うのは最後の手段としてください。そのための柵作りになります」

 

 足止めできれば狙い撃ちできる。パレトでは狙えない距離である200D(60m)が2つの柵の間隔となる。

 だが、これでは戦線が膠着する恐れが高い。敵の補給路を断つ必要があるのだ。それをどうやって行なうかは今後の課題だな。


 「分った。少なくともそこまで俺達を考えてくれるなら、それに応えなければなるまい。それにレムルに反論できる考えも俺は持ち合わせておらぬ。できればあの時のパラムの王宮にいて欲しかった」

 

 アルトスさんはそう言って席を立つと俺の傍にやってきた。

 俺も立ち上がると、アルトスさんを見詰める。

 そんな俺に、アルトスさんが右手を差し出す。俺も右手を出すと力強く握り返してきた。


 「レムル。王女とこの村を頼む」

 「できる限りのことはします。でも、闘いに俺は向いていませんよ」


 人を殺すなんて俺にはできないぞ。

 何とか獣と魔物は殺せるようになったけど……。

 

 「あぁ、まだ戦場には出てないからな。だが、作戦は見事の一言だ。此処にいればいい。長老の判断に是非を言うだけでも俺達にはありがたいのだ」


 それって、長老の裁可に逆らえないってことか?

 そして、俺にそれを期待してるってことになるぞ。


 「どうじゃ、レムルの対策は。ワシ等と違い、長期に物事を考えられる人物じゃということが分った筈じゃが……」

 「無論従いましょう。彼の案では、常時展開している部隊は1大隊。残りの1大隊は休息ができます。これなら長期に渡る部隊の展開で兵の疲労を防止できるでしょう。私が2中隊を率いて南の柵作りを担当しましょう。北はメイヒムに2中隊を率いて言って貰います。エクレムには2小隊を使って入り江の砦をお願いするつもりです」


 「ちょっと待ってください。できれば、もし資金に余裕があるのなら、入り江についてはちゃんとした港に整備しておいた方が良いでしょう。それとあわせて砦を作るのが良いように思えます」

 「それは、そうじゃが……、我等には港の建設は無理じゃ」


 「連合王国の商人に依頼するのです。少なくとも彼らがいる間は入り江からのサンドミナスの急襲は出来なくなりますよ」


 そう言って俺はにこりと小さく笑う。

 俺の言葉に全員が顔を向ける。その顔は皆口が開けれれたままだ。


 「確かに……」

 

 アルトスさんが搾り出すような声で呟いた。


 「ほう、そのような案もあるのじゃな。だが、商人は他国とも取引をしておる。それほど簡単ではないぞ」

 「前の迷宮騒ぎの折、俺の部屋にユングとフラウが尋ねてきました。『困ったことがあれば、この場所に連絡せよ』そう言って住所を俺に託しました。宛先はネウサナトラム村ギルドのアキトです」


 カタンっと誰かがお茶のカップを落とした音が部屋に広がる。


 「アキトといえば連合王国の重鎮だ。本人はまったくそのような気は無いらしいが、その言動は連合王国を動かすと聞いた」

 「ダメならまた考えます。でも頼れるなら力になってもらいます」

 「やってみよ。金貨なら100枚以上出せるぞ」


 やはり、ここは助けて貰おう。

 どんな結果になるか分らないけど、ダメなら代案を考えればいい。

 

 「どうじゃ、ワシ等はレムル1人で1大隊の働きをすると見ておる」

 「もしも、連合王国を動かせるなら1軍団に匹敵します」


 そんな男じゃないんだけどな。

 どちらかと言うと、めんどうなのは嫌いだし、体を動かすのも好きな方じゃない。戦争するんなら真っ先に逃げ出したいんだけど、エルちゃんがいるからね。やはり素敵なお兄ちゃんでいたいと思うのは俺のエゴなのかなぁ……。


 俺がそんなことを考えていると、長老と集まった面々が何事か話し合いながら次々と部屋を出て行った。


 「早速取り掛かるようじゃ。さすがよのう。まるで先々代の国王の治世を思い出す」

 「あの時がネコ族の絶頂じゃったか……」

 「どの王国も我が王国に使節を送って来おった」


 まぁ、昔が懐かしい気持ちは理解出来る。

 でも今は、ネコ族の版図が確定していない微妙な時だ。

 先ずは安心して暮らせる場所を確保すること。何時までも洞穴暮らしは暮す人間だって暗くなりそうだからな。


 「これでとりあえずの仕事は分担できましたね。俺達も帰って手紙を書きたいのですが……」

 「あぁ、構わんよ。急に呼び出してすまなかった。じゃが、本当に連合王国はこの地に港を作ってくれるのじゃろうか?」

 

 「それは、分りません。ですが、向うにも利点はあります。俺達に貸しができたとね」

 「それが利点なのか?」


 「十分に……。俺達は借りは忘れません。何時の日か、それを返す時が来るでしょう。その時に倍になって返すことになりそうですが、それはずっと先のことです」

 

 借りは忘れたいが、そうもいかない。何時かは返すことになる。美月さんのいる国だから無茶なことは言わないだろう。たぶん、港に商館を作ることになるくらいじゃないかな。

 それは、連合王国の商人に定期的な市場を開くのではなく常時開かれた店を待たせることになる。商売の量は一気に増えるだろう。


 俺たち3人は立ち上がると長老に頭を下げて部屋を出る。

 そして部屋に帰ると、直ぐに手紙を書き始めた。

 俺が此処にいること。ネコ族の悲劇。そして現在の状況を書いた上で港の整備をお願いする。

 

 書き終えると、それを長老に預けておく。

 次の市場が開かれた時、商人に届けてくれるそうだ。

              ◇

              ◇

              ◇


 それから一月、何事も無く過ぎ去り、南の柵は殆ど仕上がったようだ。今は駐屯する為の宿舎を作っているみたいだ。

 北の塀は余り進んでいないらしい。

 駐屯用の頑丈な石作りの建物を中心に南北にようやく1km位だと言っていた。場合によっては南の部隊を振り分けねばなるまい。

 村の北に広がる森も見張り所が2つできた。監視範囲は広いが荒地を見張るだけだから数人のハンターが交代で詰めているようだ。


 季節は夏が過ぎて秋になろうとしている。

 迷宮の魔物も地下1階までは、従来のレベル区分で行くことができるとアイネさんが言っていた。

 小遣い稼ぎに出かけようかと皆で準備をしていると、長老に使いが俺を呼び出した。


 「大至急来てくださいとの仰せです」


 それだけ言うと通路を走って帰って行く。

 部屋の皆の顔を眺めて首を振ると、みるみる残念そうな顔に変わる。


 とりあえず、エルちゃんを連れて出掛けることにした。伝令役にシイネさんが付いて来る。アイネさん達はあれから長老に呼ばれない限り俺と一緒に出掛けることを拒んでる。また計算をさせられると思っているようだ。


 コンコンと長老の部屋の扉を叩くと中に入っていく。

 男女の客が長老の前にいる。エルちゃんより小さな女の子も一緒だ。


 何時もの様に長老の左のベンチに腰を下ろそうとした時。


 「やっぱり、てっちゃんだ! ねぇ、何時来たの? 私の村に来ない?」

 

 そう言って客の1人の女性にいきなり抱きつかれた。

 誰だ?

 こんな女性は知らないぞ……。と思っていると、いきなり俺から離れると、俺の顔をジッと見詰めてきた。


 まさか!

 

 「ひょっとして、美月さん?」

 「やはり、直ぐに分かっちゃうね。そう、美月よ。そして、明人とアルトさんにディーよ」

 

 そう言って3人を紹介してくれた。

 確かにあの明人さんだ。前よりも一段と筋肉がついてるような気がするぞ。そして小さな女の子が俺をジッと見る。まさか美月さんの子供じゃないよな。金髪だし、白人系だから違うとは思うんだけど……。


 「姉さん、長老の前だからちゃんとしないとダメだよ。後でゆっくり話し合えるから」


 やっぱり明人さんは苦労してるようだな。

 でも、俺としてはこの世界に知っている人がいて、しかも頼れる人で良かったと思う。


 「じゃぁ、後でね。先ずは商談をしなくちゃならないから」


 そう言って明人さんの隣に腰を下ろした。


 「それで、レムルと言う人物に会わせて頂きたいのです。この商談の真意を伺いたい」


 明人さんが長老を見据えてそう言った。


 「先程来た若者がそうじゃ。我等は彼に名を与えた。レムル・テツロウ・ミウラ、彼がレムルじゃ」


 明人さんが俺を見詰める。


 「国の盛衰は世の常、俺達が特定の国を贔屓することはない。だが、いわれなき侵略で国が滅んだのは気の毒に思う。できれば助けてやりたいが、俺達が表に出るのは別の問題がある。

 聞けば、姉さんの門下生の1人だから、少し遠くからの手助けになるがそれで満足して欲しい。

 あの手紙には港を整備したいと書いてあった。

 連合王国の商人ギルドを使って連合王国の職人集団を送る。見掛けは職人だが、実際は工兵隊だ。

 来年の雪解けと共に派遣するとして、条件が1つある。それはこの地に商館を作ること。港の一角に商館を作り今までの定期的な交易ではなく、交易を常態化したい」


 「ありがとうございます。最後の条件はどちらかと言うとこちらに都合が良すぎますが……」

 「知らない仲じゃない。それが俺達にできる精一杯の協力だ。無論港を作る代金はいらない。明日にでもその代金を手に入れるつもりだ」


 代金がいらないってどういうことだ?

 手に入れるって言ってたよな。まさか、迷宮に行くつもりじゃ!


 「ちょっと待ってください。まさか迷宮に行くつもりじゃないですよね。小さな女の子を連れて行けるような場所じゃないですよ!」

 「我のことか? 久しぶりに聞く言葉じゃ。まぁ、問題ないと思うぞ。たぶんこの国の将軍と言えども我の敵にあらず」


 凄い言葉使いだ。まるで王女様気取りだな。こんな女の子をつれているなら美月さんや明人さんはかなり苦労してるに違いない。


 「まさか、この御仁は……、剣姫様!」

 

 長老の1人が驚いたような声を出した。

 美月さんと明人さんがその言葉に小さく頷いている。


 「レムルよ、問題ない。確かに剣姫様なら迷宮を最深部まで降りることができよう。そして美月様に明人様ならどんな魔物が出てきても倒すことが可能じゃ」

 

 とりあえず長老と小さな女の子にお辞儀をしておく。

 納得できないけど、長老は可能だと言った。その言葉には確信がある筈だ。エルちゃんよりも小さく見える女の子なんだけど、ホントに強いんだろうか?


 「そうね、てっちゃんよりはずっと強いわよ」


 俺の疑念を晴らすように美月さんが教えてくれた。

 とんでもない魔法を使うんだろうか?

 それともどんな攻撃も受け付けない体とか……。

 明人さんの隣に座って足をブラブラさせている女の子が強いとは、俺にはどうしても信じられなかった。


 

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