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N-058 ネコ族の軍を率いる者達


 今度やってきたのは、俺より年下の少年だ。たぶんハンターなんだろうな。


 「杭とロープで作った柵に足を取られて敵の突撃は失敗しました。増援軍の到着を目にした敵軍は南に敗走しています」

 「ご苦労じゃった。一休みして、再度アルトスの元に出かけて欲しい。『しばらくは様子を見ろ』と伝えるのじゃ」


 長老に頭を下げて出て行く少年を見ていると、長老が俺に顔を向ける。


 「レムルの示す通りの展開じゃな。アルトスは10日程その場で監視を継続することになろう」

 「ならば、森の柵を作って貰いましょう。10日もあれば形ができます」


 「確かにな。だがそれにはアルトスの意見も聞きたいところじゃ。2日後にアルトスやエクレムを呼び寄せよう。今後の展開も話し合わねばなるまい」

 「では、俺も2日後ということで宜しいでしょうか。銃を作れせねばなりません」


 「そうじゃな。確かに危機は去ったようじゃ。金貨は後で部屋に届けようう。ご苦労じゃった」


 長老の許しを得て、地図をクルクルと巻いてバッグに入れる。

 それでは、と長老に頭を下げて俺は長老の部屋を出ると、自分達の部屋に歩き出した。


 扉を軽く叩くとシイネさんが扉を開けてくれる。

 炉の回りで3人で編み物をしていたようだ。

 

 何時もの席に座り込むと、ミイネさんが「ご苦労様」と言いながらお茶のカップを渡してくれた。


 「とりあえず危機は去ったということかな。アイネさん達は伝令でアルトスさんのところに出掛けたけど、今夜には戻ってくると思う」

 「こんなことがこれからも起るの?」

 

 「たぶんね。でも、俺もいるし、ケアルのお姉さん達やエクレムさん達もいるから、心配しなくても大丈夫だよ」


 ケアルのお姉さんって言われた、ミイネさん達はちょっと嬉しそうだ。

 うんうんと頷いている。


 だが、これは始まりにすぎない。パラムの領地にあった2つの迷宮はこの島で一番大きなものだ。その所有を廻って各国が思惑を廻らせている。

 パラムが健在であったならそんな思惑も分けなく跳ね返せたろうけど、今は

運良くパラムの王都から脱出できた約8,500人が全てになる。

 今後、各国に散ったネコ族が戻ってくるかもしれないが、それを期待して作戦を立てるようでは問題だ。


 今ある戦力でできることから始めよう。

 先ずは柵と監視所、砦に銃だな。


 銃はマイデルさんが作ってくれたライフル銃を参考にすれば良いだろう。これよりバレルは長くなるが、長射程で命中させることを考えればそうならざる得ない。もちろんライフルリングや銃弾を回転させるための魔石は使わない。

 昔の火縄銃みたいな感じになるが、あれでも100m以上の有効射程を持っていたと歴史の先生が言っていたぞ。

 ミイネさん達の持つ散弾銃はストックが短く、肩に着けて撃つことはできないが接近戦では役立つはずだ。ハントよりも銃身が長いし、散弾だって撃てる。

 せっかく長老が資金を出してくれるというのだから、2種類作ってみるか。


 その夜、疲れた表情で帰って来たアイネさん達が帰って来た。

 疲れてはいるのだろうが、食事を取りながら俺達に戦場の様子を話してくれる。

 やはり、簡単な柵は有効に機能したようだ。

 従来であれば乱戦になったといっていたから、王都攻防戦は乱戦だったみたいだな。

 銃があっても、その銃の特性を考慮した戦闘方法がまだ確立していないのだろうか?

 意外と、三銃士の時代に近いのかも知れないな。

 

 「増援部隊を見た途端に逃げ出したにゃ。でも、アルトス様は追撃を許さなかったにゃ」


 残念そうに、最後にそう話してくれた。

 中々に状況を理解出来る御仁のようだ。追撃すれば乱戦になる。

 俺達の数が少ないから、少しでも兵力の温存を図ることを考えねばならない。


 アイネさんに銃の絵を見せて武器屋に頼んで貰う。

 代金は長老の世話係が届けてくれた金貨1枚だ。


 「できれば3丁ずつ、この絵の銃とアイネさん達の散弾銃を作ってもらいたいんだ。長老の許可も出てるから出来るだけ急がせて欲しいんだ」

 「分ったにゃ。長老様が作らせるんなら直ぐにできるにゃ」


 そう言って、席を立って部屋を出て行ったけど、かなり遅い時間だよな。武器屋って営業時間はどうなってるんだろう?

              ◇

              ◇

              ◇


 3日程、部屋でのんびりしていると、長老の使いがやってきた。どうやらアルトスさんとエクレムさん達が帰って来たらしい。

 今後の相談をするんだろう。チラリとアイネさんを見ると、下を向いてしまった。また長老に宿題を出されるのがイヤなのかな?

 そんな訳で、エルちゃんとシイネさんが俺の後ろから付いて来る。ミイネさんは武器屋に寄ってから合流すると言って途中から別な通路に入って行った。


 長老の部屋に入ると、自分の場所に移動して席に着く。俺の左隣にエルちゃんが座りその先にシイネさんが腰を下ろした。


 「揃ったようじゃな。先ずはアルトスのおかげで事なきを得た。喜ばしいかぎりじゃ」

 「いえ、俺等は単なる力攻め。長老様の策が無ければ今頃は互角の戦を繰り返していたでしょう」

 「それは、俺のほうにも言える。入り江の隘路に陣を張って焚火をするだけで商船は去っていった」


 「上手く策に嵌まってくれたようじゃな。その策を考えたのは、此処におるレムルじゃ。前はてっちゃんと呼ばれておったようじゃが、この村に住む以上、我等の呼びやすい名を授けた次第じゃ」


 「レムル……。確かにその名に恥じぬ男だな」

 「最初に監視所で彼らの策を見破っている。我等の仲間であれば心強い限りだ」

 「だが、その男は人間族。この村に何時までも住まわせて良いものなのか?」

 

 最後の言葉は、俺を睨み着けていた壮年のネコ族の男が言った。

 長老は笑うような顔でその男を見詰める。


 「我等が一族で無ければならぬ。レムルの隣にすわる少女はエルミア・ドニエ・パラム。パラム王家の姫君じゃ。アルクテュール王宮魔道師の最後の願いでレムルはエルミア姫の義兄になった。もし、レムルをこの村から追放したらエルミア姫も付いて行くじゃろう」


 長老の言葉に数人が目を丸くして俺達2人を見詰めている。先程の敵意が篭った目ではなく、敬意が篭った目に変わったのが見て取れた。

 大きな口を開いていたが、その中の1人が膝を長老に向かって乗り出した。


 「そ、それでは、我等の王族が存命していたということですか?」

 「そうじゃ、ドワーフの村に一時逃れていたらしい。ラクト村に立ち寄ろうとした際にアルクテュールは命を落とし、その最後願いとしてレムルをエルミア姫の義兄としたようじゃ。レムルはその際に人間族とエルフ族のハーフとなった」


 「ハーフであれば問題ない。純粋な人族なら直ぐに追放したのだが……」

 「それだけではない。あの迷宮事件の際に連合王国からやってきた2人のハンターを覚えておるか?」


 「あぁ、余りな仕打ちと思って途中まで迷宮に付いて行ったが、俺ですら邪魔なようだった。連続して撃てる銃は発射音がしない。そしてその威力はパレトの強装弾をも凌ぐ。そして彼女達の剣技も格別だ。長剣を片手で振り、その斬撃は一旋で魔物を断ち斬る」

 「我等でさえ行ったことがない迷宮の最深部まで行って、その地図をもたらしてくれた。その彼女達と、レムルは故郷が同じらしい。遥か東方の彼方にある島国らしいがのう。 

 それだけではない。その2人に教えられたのじゃが、あのミズキ殿に教えを受けた時期があるという。連合王国建国以来、山奥の村に篭った話は誰もが知っておる。そして、ミズキ殿は訪ねて行っても弟子を取らぬ。

 そのミズキ殿の教えを受けたとなれば、あのような敵の姦計は恐れるに足りぬわい」


 「では、我等と連合王国の仲立ちができるということですか?」

 「そこまでは無理じゃろう。だが、ミズキ殿の関係者が我らの中にいるとなれば、その噂だけで敵は躊躇するじゃろうな」


 ひょっとして、あれか?VSOPってやつ……。

 そんな気はしないんだけどな。それに、美月さんを知ってるだけで、相手の態度が変わるってどんなことをしたんだろうな。

 

 「それだけでも十分でしょう。隣国の王族達が頭を抱える光景が見えるようです」


 そんなことを言って笑い声を上げるものもいるぞ。

 ひょっとして、連合王国を戦で統一したなんてことは無いよな。

 まさかとは思うけどね。……でも、私の夢は世界征服なんて言ってた人だから、意外ととんでもない事をしていそうな気がするぞ。

 

 「ユング達とは私的な話をしましたが、彼女達の功績を良く知らないんです。どのようなことで有名なのでしょうか?」

 

 恐る恐る聞いてみた。


 「連合王国の建国にかなり関与しているらしい。建国から数百年の年を経ても彼らは歳を取ることがない。今でも山村に暮らしているらしいが、めったなことでは人前に出てこないのだ。

 彼らはアキトという頭目に2人の妻と1人の従者でチームを組んでいる。そのチームに連携しているのがこの間の2人組みだ。

 彼らに狩れなかった獲物はいないと聞く。一時期姿を消していたが再び戻って来たらしい」


 ふ~ん。数百年を生きてるのか……。会ったらお婆ちゃんはイヤだな。

 でも、住所は分ってるから一度位手紙を出してみるか。

 状況を説明すれば、上手い解決方法を教えてくれるかもしれないし、できれば大砲を作ってもらいたい。


 「どうじゃ。姫の義兄として不足は無かろう。それで、我等の相談役をお願いしておる。突撃に備える柵の構築、ハンターを動員した増援部隊。入り江の監視所……。全てレムルの発案じゃ」

 「なるほど、であればこれからのことも考えているだろう。次ぎはどうする?」


 そう言って俺を見たのはエクレムさんだ。


 「しばらくは何も起きないでしょう。ですがこの期間を利用してやっていただきたい事があります。

 1つは南の森に柵を作ります。

 岩山の少し上から東の海岸まで、距離は長いですが森の木々を使えば比較的楽ではないかと思います。

 パラムに向かう街道には関所を作ります。それでハンターの出入を監視できるでしょう。間者を取り締まれます。

 関所に隣接して中隊規模の部隊を駐留させれば南からの脅威はかなり薄れます」


 北の城壁、西の監視所、入り江の砦……。

 次々にそれを作る目的と、作り方を皆に話していく。


 俺の話に、皆はジッと耳を傾けている。私語を話す者は1人もいない。俺の言葉を聞き漏らすまいと聞いているのだ。


 そんな時、バタンと扉が開いてミイネさんが籠を背負って入ってきた。

 まぁ、一通り話は終ってるから問題ないが、緊張が一遍に解れたな。

 

 俺がパイプを取り出したのを見て、同じようにパイプにタバコを詰める者、新しいお茶をシイネさんに入れてもらう者で場は少し騒がしくなってきた。

 

 ミイネさんは俺の背中に籠を置くとベンチの端に腰を下ろす。

 とりあえず、もう少しパイプを楽しもう。銃の話をするとまた喧騒が起きるかもしれないからね。

 

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