表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/177

N-055 村への抜け道


 長い夜が明けた。

 エクレムさんは、朝食を終えたお姉さんとエルちゃんに村への伝令を頼む。

 

 「村に戻ってこの書面を長老に届けて貰いたい。その道すがら、集落を訪ねて戦が起きることを伝えるのだ。「運べるだけの食料を持って村に来い」と、伝えて欲しい」

 「分ったにゃ。てっちゃんは此処にのこるのかにゃ?」

 

 「早ければ明日には俺達も此処を発つ。遅くとも2日後には離れる」

 「分ったにゃ。てっちゃんの籠は私が持ってくにゃ」


 そう言って荷物を纏め始めると、岩山の斜面をロープで降りていった。

 とことこと5人が歩いて行く後ろ姿を見送っていると、何度も振り返りながらエルちゃんが手を振ってくれる。

 それに答えながら、姿が見えなくなるまで見送る。


 炉に戻ると、4人がお茶を飲んでいる。

 俺が炉の傍に座ると、レイミーさんがお茶を入れてくれた。


 「私等が見張ってるから、しばらく横になるにゃ」 


 確かに昨夜は一晩中見張っていたな。

 

 「ありがとうございます。ちょっと様子を見てから休ませて貰います」


 お茶を終えると、直ぐに昨夜の焚火の周囲を双眼鏡で確認する。食事は終えたようだな。

 談笑している様子が見て取れる。

 全員、焚火を動こうともしない。この時間ならば、ハンターなら狩りに出掛けるか、それとも村に帰るかだろう。偵察部隊としても動き出す時間だし、一箇所にジッとしていることはない。


 もう一方の方にも目を向けたが、同じような感じだな。

 やはり、俺達に発見されることを狙っているのだろうか?

 そんな疑心暗鬼に囚われながら、エクレムさん達の所に戻って来た。


 「同じ場所にいますね。あれでは俺達に見つけてくれと言っているのと同じです」

 「となると、てっちゃんの考えが的を得ているな。やはり、偽計ということか」

 「俺達ネコ族を馬鹿にしているのか!」


 メイヒムさんは怒ったように、手に持ったカップのお茶を一息に飲み込んだ。

 まぁ、ネコ族は人をあまり疑うことをしないからな。簡単に引っ掛かるんじゃないか?


 「どうする? 村へは商船の港を監視しろと言ってはいるが……」

 「現状ではそれが全てでしょう。でも、ちょっと試したいことがあるんです。

 今夜、この見張り所の北に明かりが見えたらあの連中はどうするでしょうね?」


 「それは……動くだろうな。その動きは南に下がるか、それとも東に進むか」

 「南に下がれば、攻めては来ないでしょう。大軍がいると本隊へ報告するでしょうからね。ですが東に向かうようであれば……」

 「沖合いにいる軍船への合図になる。1日後には上陸するだろう。そして村への奇襲はせずに南へ向かう筈だ」


 「その軍の後ろから奇襲すればいいんです。裏の裏をかくことになります」

 「おもしろい。俺とレイミーで【シャイン】を作れば20個は出来る。それで様子見てみるか」


 エクレム産の言葉にニヤリと笑みを浮かべる。

 それを見てメイヒムさんが笑い出した。


 「ははは……、とんだ茶番劇だな。だが、もしも東に動いたら俺とフリオナで村に知らせる」

 

 笑い顔が急に真顔になったかと思ったら俺達を見てそう言った。

 冗談だったら良いんだがと思っていたに違いない。

 そんな2人に黙って頭を下げると、ポンチョを取り出して天幕の隅に丸くなる。

              ◇

              ◇

              ◇


 ふと目が覚めると、周囲は暗くなっていた。

 慌ててポンチョを畳むと皆の所に歩いて行く。


 「起きたか……。先ずは夕食を取れ。今夜は忙しくなるぞ」


 エクレムさんの言葉が終らない内にレイミーさんが熱いスープと薄いパンを渡してくれた。

 

 「今夜は下弦の月だ。月は夜更けに欠けて出る。その前に俺とレイミーで森の入口近くで光球を出来るだけ沢山作るつもりだ。北が明るくなったら、南の連中の動きを良く見てくれ」


 俺はスプーンを口に入れたまま頷いた。

 

 「もしも、連中が東に動いたら俺達は村へ戻る。途中でエクレムに会ったら、エクレム達は此処に戻る手筈だ。万が一にも南の光が本隊ならば、それを見定めて村に戻って欲しい」


 「分りました。エクレムさんの戻るまで此処にいれば良いですね」

 「敵には俺達の動きは分らん筈だ。此処で見張っている者がいることは知っているんだろうがな」


 ちょっと1人では心許ないけど、まぁそれもそんなに長くは無いだろう。精々2、3時間の筈だ。

 俺が食事を終えるのを見届けると、エクレムさんはレイミーさんと席を立った。


 「行ってくるにゃ!」

 

 俺にそう言って天幕を2人が出て行く。

 

 「さて、てっちゃん。俺と2人で見張りだ。っちゃんはフリオナと交替してくれ。岩の切れ目にいる。俺は、北を見張る」


 岩の切れ目でジッと南を見ていたフリオナさんと交替すると、直ぐに彼らの焚火を見る。

 相変わらず盛大に焚いてるな。

 そして、昨夜と同じ場所だ。

 やはり、俺の考えが当ってるのかな。

 夜が更けてくると、南の空が明るくなってきた。昨夜よりも明るく見える。如何にも大軍が接近しているようにも見えるぞ。


 たまにパイプを使い、そして双眼鏡で彼らを観測する。

 そんな退屈な時間が過ぎて行く。


 ひょいと、双眼鏡で彼らを見た時だ。彼らが慌しく荷物を纏めている。

 ジッと眺めていた俺の肩をポンっと叩かれた。後を振り返るとメイヒムさんが俺の直ぐ後ろにいる。


 「北を見てみろ。エクレム達が盛大にやってるぞ」

 

 その声に北の空を見ると、なるほど明るくなっている。まだ月は出ない筈だがまるで満月が顔を出すような感じだな。


 「こっちも動きがありますよ。急いで荷物を纏めています。さてどっちに向かいますかね」

 

 俺の話を聞いて、メイヒムさんが直ぐに岩の切れ目に張付いた。


 「確かに……。その道具なら奴等の行き先が分るだろう。注意して見ていてくれ」

 「了解です。メイヒムさんも荷物を纏めといてください。案外早いかもしれません」

 

 メイヒムさんは頷くと後ろに下がっていった。

 俺は再び南の連中を見る。

 焚火にいた5人はすっかり荷造りを終えたようだ。

 あらかじめ作ってあったのだろう、松明に焚火で火を点けている。


 まぁ、夜中の森を移動するなら松明は必需品だな。彼らには【シャイン】を使える者がいないようだ。ハンターなら必ずいるはずなんだが……。


 そして彼らが歩き出した方向は、南ではなくて東の方向だ。彼らに、もう1つの松明の群れが近付いてくる。

 どうやら、2つに分かれていた部隊が合流したようだな。

 どんどんと東に遠ざかる松明を見て、急いでメイヒムさんのところに駆けていった。


 「メイヒムさん! やっぱり東です。直ぐに出発してください」

 「分った。フリオナ、出かけるぞ!」


 2人は直ぐに席を立つと暗闇の中に消えて行った。猫だからねぇ……。俺には真似ができないな。


 ポットのお茶をカップに入れて岩の切れ目に戻る。

 熱いお茶を飲みながら、松明の行方を双眼鏡で確認する。

 だいぶ焚火から離れたがやはり東に向かってるな。南に向かう松明は1本もない。


 とはいえ、此処には俺1人。何が起こるか分らない。双眼鏡をバッグに仕舞い込むと、岩の奥に座ってジッとエクレムさん達が帰ってくるのを待つことにした。

 耳に全神経を集中する。

 夜目がネコ族のようには利かないから、俺ができるせいいっぱいの周囲の観測手段だ。


 そんな集中が切れそうになると、パイプを吸って誤魔化している。

 天空に下弦の月が寄り添うように上がってくると少しは俺にも、周囲が見えるようになる。

 

 ガサガサと言う音と共にぬっと2人が姿を表した。

 急いでM29を取り出そうとすると……。


 「てっちゃんか。やはりお前の読みが当てってたな。メイヒムは村に走った。これ村からの出兵は控えられる。港の監視もやっているはずだから、先ずは俺達が1歩先を取れたに違いない」

 「これで、一安心出来ます。あいつ等ハンターではありませんよ。焚火の始末もせずに出発しましたからね」


 「やはり、1人も南に行かなかったのか?」

 「全員松明を片手に東に向かいました。それで、俺達はどうしますか?」


 「明日に、再び森の南を観察して出発だ。ただし、村から来た道は敵軍に押さえられてる可能性もある。村への抜け道を使うぞ」


 後数時間で夜明けだが、3人で交替しながら睡眠を取る。

 

 朝食を終えたところで、岩の裂け目から南を眺める。

 双眼鏡を取り出して、入念に森を調べてみたが、怪しい所は何もない。

 昨夜東へと発った、ハンターに化けた連中の残した焚火はすっかり消えていた。


 「やはり何もありませんね」

 「やはり……。となれば俺達も早めに村に帰った方が良さそうだ」

 

 俺達は荷物を整理して出掛けることにした。もっとも俺の荷物は背中にライフルを担ぐこととと、杖代わりの槍を持つぐらいだ。

 エクレムさん達も太い杖を持つと、それで終わりになる。


 「尾根伝いに歩くことになる。道は無いが、夕方には村に着く筈だ」

 

 水筒の水を一口飲むと、俺にそう教えてくれた。


 「付いて行きますから、先を急いでください」

 「そうだな。レイミー、出かけるぞ!」


 俺達は監視所を後に、ラクトー山から続いている岩山の斜面を登り始めた。

 真直ぐ頂上に向かって進んでいるような気がするな。周囲の景色は巨石が乱立する荒地が続いている。そんな岩を避けながら進むから何時の間にか方向を見失ってしまいそうだ。


 休憩の旅にコンパスを取り出して方向を確認しているのだが、エクレムさんはそんな便利なものはもっていない。驚くべき方向感覚だよな。


 3時間も歩いたろうか……、突然前方を歩いていたエクレムさんが北に方向を変えた。

 そして、斜面を横に歩き始める。

 斜面を上るよりは疲れないが歩き難いのは変りない。


 更に2時間程歩くと今度は斜面を少しずつ下り始めた。

 だったら、最初から上る時間を短くすれば言いような気がしてならない。


 「エクレムさん。上る時間を間違えたんですか?」

 「いや、そうじゃない。道を作らないためだ。俺達が向かうのは村への抜け道だ。万が一にも見つけられぬように同じ場所を歩かないようにしている」


 確かに、何度も同じ場所を通れば自然に道は出来る。

 歩き難い場所を選んで進んでいるように見えたのはそういう訳があったんだな。


 尾根を2つ程進むと深い峡谷に出た。

 その谷の中腹を歩いていたら、突然岩をくり抜いたような道が現れた。山肌をコの字型に人が歩ける位に掘ってある。


 その道は谷の奥に向かって続いている。

 深いが奥の浅い峡谷を回りこむような形で道は続いている。

 そして、遂にその道の先に小さな洞窟の口が開いていた。


 「これが村への抜け道だ。万が一にも抜け道が見つかっても、あの道を大勢の者が通ることは困難だ。そして、ここから道を通る者を狙い撃ちできる」


 確かに数名もいれば簡単に封鎖できそうだな。

 洞窟に入ると、壁を掘って作ったらしい部屋で待機している男達に軽く片手を上げて洞窟の奥へと進んでいった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ