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N-054 偽計?

 「……なるほど、その結果がその銃なのか?」

 

 岩山で見張りを始めて4日目。現在の見張りはミイネさんとシイネさんそれにエルちゃんが行なっている。

 女子会のような会話をたのしんでるのかな。

 そして、俺達は炉を囲んでアイネさんの持っている散弾銃の経緯をメイヒムさんに話していた。


 俺達のケルバスへの散弾銃一斉攻撃を感心して聞いてくれたぞ。

 今はアイネさんの散弾銃を持たせてもらって、その重さを確認している。


 「確かにエクレムの言うとおりではあるが、この銃は散弾だけじゃないな。強装弾の1発玉も撃てるようだ。そして、これを使って触手を千切ったというのもおもしろい。俺も1丁作らせようかな」

 「なら、今頼んでもしばらく待つようだぞ。流石に二連銃は作っていないようだが、ハントを使って散弾を撃てるように改造する輩が多い」


 「ハントは狩用だからな。多目的ではないから改造することになるのか。だが俺はこれがいい。素早く2発撃てるなら、色々と使い手がある」

 

 必ずしも初弾で倒せる魔物ばかりじゃないってことだな。 

 素早く2撃を与えればそれだけダメージを与えられる。運悪く最初の弾丸が命中しなくとも次の弾丸を当てれば良い。応用範囲が広がるってことだな。


 「武器屋で頼めば良いのか?」

 「これはジイさんの方に頼んだにゃ」

 

 武器屋には何人か請け負う者がいるってことだな。その言葉にメイヒムさんが納得している。

 どうやら、二連銃をかなり気に入ったようだ。


 「その籠に入っているのも散弾銃なのか?」

 「これは、単発ですよ。でも、300D(90m)を狙えますよ」


 「ハントでも200D(60m)がやっとだと思うが?」

 「この監視所回りで獣が狩れるなら、見られると思います。ハントでも300Dは飛ぶんです。ですが狙いが定まらないので200Dを目安にしていると思いますが?」


 飛距離は初速度を上げれば良い。簡単に上げる方法はバレルを長くすることだ。だが、バレルを長くするとカートリッジの装填に手間取る。長い試行錯誤の結果が今のバレル長なんだろうけどね。


 「目的に応じて銃を使うのか。そのような考えはなかったな」

 「時代が変わったということか? 俺も取り残されないようにしなければな」


 エクレムさんとメイヒムさんが顔を見合わせる。

 2人ともまだ30にはだいぶ間がありそうな気がするけど、何か老人の会話だよな。

 長いハンター生活がそうさせるのだろうか? ……俺も気をつけないとな。


 「さて、次ぎはてっちゃん達だぞ」

 「そうですね。では行ってきます」


 アイネさんとマイネさん、それに俺が次ぎの見張り番だ。

 天幕を奥に進んで、エルちゃん達が眺めている場所に出ると、見張りを交替する。

 エルちゃん達が下がったところで、見張り用のベンチに座って岩の亀裂越しに森と森の中に消えていく道を見張る。

 変わったものを見かけたら教えてくれと言ってたな。だけど、変わったものって何だろう?


 こんな考えをするようでは見張り失格なんだろうけど、とりあえずキョロキョロと下界を見下ろしていた。

 3人いるから、適当に休むことができる。

 少し離れた場所で一服して戻ると、次の休憩のアイネさんがベンチを立った。

 改めて森を眺める。とりあえず変化はないな……。

 

 それに気付いたのは、マイネさんが休憩から戻ってきた時だった。

 遠くで何かが光った。

 直ぐに双眼鏡を取り出して、光った場所を確認する。

 双眼鏡の視野に数人の姿が見える。光ったのは彼らが手にした銃らしい。たまたま森の木漏れ日が反射したようだ。


 「アイネさん、2人を呼んできて。変わったものを見かけたって!」

 「分ったにゃ!」


 アイネさんが駆け出して行く。直ぐにエクレムさん達がやってきた。

 

 「何かあったのか?」

 「此処から10M(1.5km)先に数人の姿が見えました。全員銃を手に持っています」


 「何処だ?」

 「あの森の中の大きな木がありますね。その少し右手の先になります。これで覗いてみてください」


 エクレムさんに双眼鏡を渡す。ピントは合っているから覗けば良い。

 俺の教えた場所をしばらく眺めていたが、ピタリとその動きが止まった。どうやら見つけたみたいだな。


 「人数は5人。たぶん少し離れた場所にも5人いるはずだな……。いたぞ!」


 そう言って隣で森を眺めていたメイヒムさんに双眼鏡を渡す。


 「あの位置だ。大きな木の周辺をこれで眺めてみろ」

 「……あれか! 装備はハンター風だが、あれは軍隊だ。1分隊ということは偵察と見て良いな」

 「てっちゃん、ちょっと来い。これは返しておく」


 俺は双眼鏡を受取ると、後をアイネさんに頼んでエクレムさんの後を付いて行った。

 炉の傍に座ると直ぐにエルちゃんがお茶を入れてくれた。


 「やはり、サンドミナスか?」

 「まだ分らんが、俺はそうだと思う」


 「村を探しているのでしょうか?」

 「村の場所は殆どの王国が知っている筈だ。パラム王国の2つの迷宮。その1つにはネコ族の村があるとな。」


 「では、何故?」

 「パラム陥落で多くのネコ族が王都を離れた。その一部が村に残っているとなれば制圧する為の偵察は必要だ」


 「問題は、あの偵察部隊があれだけなのか、それとも他にもいるのか、更に後続の部隊がいるのか、と言うことにある」

 「周辺を探したが、それらしい部隊はいなかったようだ」


 「そして、あの歩みからすれば、先行偵察とも思えんな」

 「ということは……」

 「たぶん、村を強襲するつもりのようだ。市場が開かれるのはもうすぐだ。少なくとも他国の商人を巻き添えにすることは避けねばならん。市場が開かれた後を狙う可能性が高いな」


 いきなり戦争が始まるのか?

 確かに魔石が取れる迷宮は宝の山だ。その所有を廻って周辺諸国が覇を競っているのだろうか?


 「日が暮れれば少しは分るな」

 「単なる偵察か、それとも部隊が後ろに控えているか。確かに夜にははっきりするだろう」


 「ところで何故、夜なんですか?」

 「簡単な話だ。この南の森は野犬が多い。昼は穴倉に篭っているが夜になると活動するんだ。その為に焚火や光球を沢山使うことになる」


 「ラクト村では昼にも野犬が出ましたよ」

 「この森は南に向かって下がっている。小さな湿地帯が至る所にあるんだ。そこにはダラシッドがいる。大陸よりは小型だが極めて危険な奴だ。上手い具合に昼のみ活動するが、そいつに掛かれば野犬は単なる餌に過ぎない。だからこの森の野犬は夜に活動する」


 色々と覚えることが多そうだな。

 やはり、ベテランハンターと行動を共にしていた方が良いんだろうか?

 これは少し相談した方が良さそうだな。


 早めに夕食を取って、その後は男達3人が見張りに立つ。

 携帯用コンロを近くに置いてポットを載せているから好きな時にお茶が飲める。長い夜には丁度良いな。

 

 夕暮れを迎えて、森の中に2つの焚火が見える。双眼鏡で見ると焚火の周りに数人の姿が見えた。

 距離は6M(900m)程先だ。

 そして、更に遠いところで森が明るくなっている。そこは流石に双眼鏡でも良く見えない。


 「やはり、後ろに軍が控えているな」

 「森を抜けるのに手こずっているらしい。手前の焚火の連中は道を探しているようだ」

 

 「でも、俺達が村から来た道は森に続いていますよ?」

 「あれはパラムに続いている。パラム陥落の時にパラムへの水道を破壊したのだ。水はパラムではなくあの森に流れている。それで出来た沼をダラシットは移動しているのだ」


 ダラシットがどんな生物か分らないけど、攻め口の1つを塞いだということだろう。

 それをあえて越えてくるというのは、敵も本気なんだろうが他に手は無かったのかな。

 

 「1つ聞いても良いですか? この岩山の下を通る道がパラムに続いているのなら、ボルテナン軍がいるはずです。そこをサンドミナス軍が通ることができるのでしょうか?」

 「ボルテナン軍は王都周辺に展開している。パラムから西はレムナム軍がいる。レムナムの連中も攻めたいに違いないがパラムの魔物と戦えば兵を減らすだけだ。そこをボルテナン軍に背後から攻められば今度はレムナムの王都が危ない。

 そんな状況だから、サンドミナス軍が東の海岸沿いに軍を北上できたのだ」


 状況的には戦国シュミレーションゲームの世界だな。

 だが、レムナム軍も黙ってみているような気は無いんじゃないかな?

 必ず侵攻してくるはずだ。だが、北の大地を進むにはボルテナン山脈が邪魔をするし、峠を越える道も無い。

 迎撃すれとなれば北を薄く南を厚くということになるが、それは敵側も知っているんじゃないかな。

 

 ……もう1つの手があるな。

 市場へやってくる商人は船で来る。船を使って、南の敵軍を迎え撃とうと布陣した所を背後から襲うって事も考えられる。

 その場合にやってくるのはレムナム軍? ……いや、やはりサンドミナスと見るべきだろうな。

 レムナムはボルテナンと連戦だ。ボルテナンほどでなくとも消耗はあるだろう。2方面で戦うのはボルテナンと対峙している戦力を割くことになるから、流石にそれはしないだろう。

 その点、サンドミナスは兵力に余裕がある。レムナムとボルテナンの潰し合いを見ながら別の戦ができるのだ。

 

 「やはり、村には明日にでも知らせるべきだな」

 「娘達を帰らすか?」


 「妻達も一緒にだ。此処は3人が残れば良い。場合によっては抜け道を使って戻ることもできる」

「そうだな。途中の集落に知らせながら帰ったとしても夕方には村に戻れる筈だ」


 「ちょっと待ってください。2回に分けて知らせる訳にはいきませんか? ちょっとあの森の光が気になります。もし、あれが偽計だとしたら……」

 「説明してみろ」


 エクレムさんの言葉に俺は先程の考えを話してみた。


 「エクレム。これは不味いぞ!」

 「サンドミナスは軍船も商船も持っている。確かにありえる話だ」


 「俺達を村から誘い出して南北から挟撃するのか……。だが、何故そんなことを考えた?」


 「あの焚火です。確かに野犬対策と考えれば不自然ではありません。しかし、森の中での野営で野犬を防ぐならもっと簡単な方法があります。木に登ればいいんです。あのやり方は、こちらに見せるのが目的でしかありません。

 そう考えると、遠くの光も偽計である可能性があります。

 【シャイン】を使える者が2、3人いればあれ位の灯りは作れます」


 「俺達が此処にいることは当に知っているということか」

 「たぶん」


 メイヒムさんの呟きに俺は短く答えた。

 岩の裂け目に背を向けると、ベンチから降りて3人で座り込む。

 パイプを取出して3人で煙を吐きながら、対応を考え始めた。


 村には知らせるべきだろう。だが知らせた後の措置を間違うととんでもない事態になりかねない。

 幸い、夜はこれからだ。考える時間は十分にある。

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