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N-050 リングラン


 「ハァ、ハァ……これを使うにゃ。エルちゃんは任せるにゃ!」

 

 散々俺を探し回ったんだろう。アイネさんが息を整えながらそれだけ言うと、俺に散弾銃を押し付けて、ポケットに強装弾をねじ込んだ。

 そして、柵に向かって走っていく。

 ありがとうを言う暇もない。

 アイネさん達には、アイネさん達の仕事があるんだろう。俺達が此処で魔物を迎撃すると聞いて役立ちそうな自分の散弾銃を持ってきてくれたようだ。


 「なんだ? ハントとも違うようだが……」

 「ケルバスの群れをやるのに特注したんだ。カートリッジはパレトの強装弾だが、弾丸はロアルを5つだ。もちろんパレト用の弾丸も使える。こっちが散弾で、これは弾が1つだな」


 レイクにそんな話をしながら、カートリッジを装填する棒でバレルを探り、カートリッジが入っているのを確認する。

 確か、迷宮で装填した筈だから、これは散弾だな。


 「散弾で大丈夫なのか?」

 「あの触手には使えるんじゃないかな」


 そう言って、迷宮の入口からニュルニュルと周囲を探っている触手を指差した。

 それを見たレイクの顔から血の気が引いていくのが見て取れる。


 「あれを殺るのか?」

 「あれを殺るんだ!」


 俺の応えに、レイクがゴクンとツバを飲み込む音が聞こえてきた。

 周りのハンター達もジッと迷宮の入口で蠢く触手を見ている。


 そして遂に本体が姿を現した。

 モソリ……と蠕動するようにいきなり前に出てくる。

 更にモソリと動いたところで、胴体の太さが2m近い蝶の幼虫のような形状をした体が俺達にも見て取れる。

 体節毎にまるで甲虫の皮膚のような黒光りする表皮で覆われており、体節毎に左右に2本出ている脚は1m位あるぞ。太さが30cm程の足は柔らかそうだが、その先にある爪には毒があるって言ってたな。


 「まだ撃つなよ。そして階段から100D(30m)に1列目だ」


 俺達は少し後ろに後退する。

 前列のハンターは銃を取り出すと、片膝をついて構える。

 

 やがて、リングランがその全身を迷宮の外に出した。ムカデのように長い体を持たずに、どちらかと言うとメタボな体付きだが強いんだよな。

 

 モソリ、モソリ……と少しずつ俺達に近付いてくる。

 先端の頭に生えた無数の触手を周囲にムチのように振り回して周りの状況を確認しているようだ。

 目が無いから、あの触手が唯一の感覚器官なんだろうな。


 「初撃は頭部を全員で狙う。2撃目は、触手に掴まらない範囲まで近付いて胴を狙え。100D(30m)以下で撃つんだ。でないと、表皮で弾かれるぞ!」


 そう言ってクラウスさんが片手を上げる。

 リングランはゆっくりと階段を降り初めている。


 「まだだ、良く狙えよ。頭はそれほど固くないぞ……」

 「もう少し、もう少し……。テエェ!!」


 裂帛の気合の入った声と同時に迷宮内の広場に銃声が広がる。

 そして素早く俺達の前から前列が姿を消した。


 「次だ。良く狙えよ……。テエェ!!」

 俺達の銃撃で再び広場に銃声が反響する。

 その後、更に1発俺が散弾を放った。


 20人近いハンターの一斉射撃は、その殆どが頭部に命中した筈だ。

 数本の触手が千切れ飛び、パタパタと無意味に砂地を叩いている。

 最後に放った散弾で、2本の触手が千切れたのを俺は確かに見た。

 触手が脅威ならば散弾がある限り触手を狙うのも手だな。2撃目は各個にと言っていたから都合がいい。


 後ろに大急ぎで逃げ出すと、リングランを見ながらバレルにカートリッジを詰め込む。

 この銃……、確かに跳ねるがバレルの重さで何とか保持できる。


 皆はリングランの左右に分かれて胴体を撃っているようだ。広場に甲高い射撃音が鳴り止まない。

 

 頭を攻撃する者はいないようだな。先程の一斉射撃で頭を叩いたがあまりダメージを受けたようにも見えない。

 だが、触手に少し変化がある。千切れた触手は余り伸びないようだ。数mも伸びる触手で近接射撃ができないのならば、俺は予定通り触手狙いだな。


 【アクセル】を使って、身体機能を上げる。これで筋力と瞬発力を上げれば、近接戦闘も可能だろう。触手の動きは素早いが体の動きは思った程ではないようだ。


 リングランの頭に10m程近付いたところで頭部の触手の付根を狙って素早く2発の散弾を撃つ。そして走るように後ろにさがってバレルにカートリッジを装填する。

 そんな攻撃を3回繰る返したところで、散弾が尽きてしまった。


 それでも、攻撃の度に触手が吹き飛んでいるから、長い触手は10本程まで減らす事ができた。

 

 「そのまま続けてくれ。散弾を確保してきた」


 スラッグ弾のような強装弾のカートリッジを入れようとしている俺に、クラウスさんがポケットから散弾のカートリッジを取り出して俺のポケットに押し込む。

 

 「2人がお前の攻撃の後に散弾を撃つ。この2人だ」

 「変わった銃だが効果は見せて貰ったぞ。俺達はハントの散弾を使う。お前と同じように強装弾だ」


 「分りました。触手の根元を狙ってください。触手は千切れてもまた生えてきますが、それほど長く伸びません半分以下です」


 俺の言葉に2人がニヤリと口元で笑う。

 それ位は簡単だということだろう。そして、そのような支援攻撃を今まで得意としてきたのかも知れないな。


 急いで散弾のカートリッジをバレルに装填すると、リングランに駆け寄って2発を連続で撃つ。

 後ろに下がり、リングランを見据えてカートリッジを装填してると、先程の2人が触手の根元に散弾放った。2本の触手が千切れる。

 

 入れ替わりながら触手を散弾で千切っていく。

 3回目の攻撃でどうやら数m程の長さの触手は無くなった。それでも頭を動かしながら、3m程に伸びた触手を振り回しているので真中から前の胴体には近接攻撃ができないようだ。

 緑色の血を流しているのは胴体の後方で、前のほうの胴体には確かに傷はあるのだがそれほど体液が流れ出ている様子がない。


 散弾銃に付けられた革のベルトを肩に通して、散弾銃を担ぐようにする。

 そして、腰のバッグの下からM29を取り出した。

 触手の攻撃範囲を見極めながら、頭部の直ぐ後ろの胴体に近付くと5m程の距離で2発胴体に撃ち込む。


 ドオォン!っという、今までと違った重い射撃音に皆が一瞬俺を見る。

 そして、リングランにポッカリと開いた穴から首の動きにあわせて体液が吹き出るようになった。


 少し下がって様子を見ながら、再度接近して2発。そしてもう一度……。

 

 後ろに下がって【リロード】を掛ける。これで更に後6発撃つことができるが、M29をホルスターに戻すと、今度は肩に掛けた散弾銃を手に持つ。

 スラッグ弾のような強装弾のカートリッジを装填すると、同じように近付いてさっきよりも近接して胴体に2発打ち込んだ。

 弾丸の口径が大きく、強装弾の初速が速いこともあってリングランの硬い表皮にマグナム弾よりも大きな穴を開けた。たちまち体液が噴出してくる。


 俺に続いて次々にハンターが頭の方向に移動してきた。

 触手の攻撃範囲が狭くなったので易々とリングワームに近付いてパレトを撃っている。

 

 先程の2人は、散弾を使って足を狙っているようだ。

 何本か千切れた足からも体液がこぼれている。


 だんだんとリングランの触手の動きが鈍くなってきた。

 それを見たハンターの1人が槍を体節の隙間に力一杯突き刺す。

 ブルっと一瞬、全身を震わせて触手が地に落ちる。

 更に数人が槍を突き立てると触手の先端がパタパタと動くだけになってきた。


 そして、その動きもだんだんと緩慢になり、ピタリと止まる。

 俺達が見守る中、少しずつ体が萎むように広場の砂地に消えていった。

 最後に小さな魔石が残る。

 

 クラウスさんがそれを拾い上げると、迷宮からにじみ出る光にかざして眺めている。


 「黒の上位の魔石だ。これは参加した全員に分配する。」

 「「「ウオォォーーー!!」」」


 全員の雄叫びが上がった。

 俺達はリングランを葬って、魔石を得たのだ。

 

 歓声が上がる中、クラウスさん達は俺達を元の区分に戻すと作業を再開する。

 何時また、あのような魔物が現れるとも限らないのだ。

 早めに柵を拵えてこの場から退避しなければなるまい。

              ◇

              ◇

              ◇


 俺達が夜も寝ないで作業した結果、何とか柵を作る事ができた。

 太い柱で全てを作る事もできないので、網を横に張って隙間を閉じている。

 よくも網を用意していたものだ。網の目は10cm程あるロープのような網だが、ケルバス位ならばこれで阻止できるだろう。

 柵は穴を掘ることもできないので、柵の柱を斜めの柱で支えているからつっかえ棒のようにも見える。

 その丸太は全てカスガイで止めているから、大きな魔物が体当たりすれば壊れてしまうような気もするが、何十にも互いに丸太が支えあっているから大丈夫だとクラウスさんが説明してくれた。


 「これで、一安心だ。今日中にパラムへの坑道にある監視所の連中も引き上げてくる。そうすれば、白レベルのハンターには村に戻って貰うことになる。もう少し頑張ってくれ」

 「村に戻って心配しているよりは此処にいた方が安心できます。でも、食事はどうするんですか?」


 「村の途中のテラスで作る。あそこは大きなテラスだから、この柵を守る連中の休息の場としても使えるはずだ」

 

 ちょっと遠いような気もするが何とかなるのかな。

 確かに緊張した状況でストレスがたまるから休息は必要だとは思うけどね。

 

 俺は久しぶりにエルちゃんやアイネさん達と柵の一角にシートを敷いて寝ることにした。

 アイネさんから借用した散弾銃を返して籠の傍らで横になる。

 

 俺が目を覚ました時は、皆が帰り支度をしていた。

 柵には十数人が張付いているようだ。

 

 「起きたにゃ。監視所のハンターが来たから、私等は後ろに下がるにゃ。村の途中にあるテラスに新しい柵を作るにゃ」

 

 この柵が破られた時を考えてるということか?

 確かにこれは急造過ぎるからな。ちゃんとした柵を作らねば村が全滅しそうだ。


 「分りました。このシートを畳んで籠に入れれば仕度は完了ですよ」

 

 そう言って、急いでシートを畳むと籠に入れる。

 籠を背負って、アイネさんに頷くと直ぐに出発だ。

 俺とエルちゃんは何時ものように後を歩く。

 

 村までと違って途中のテラスだ。3時間も歩かずに着くことができた。

 さて……、テラスは大きいが、柵を作る資材がないぞ?


 「アイネさん。どうやって柵を作るんですか?」

 「土嚢を使うにゃ。袋の中は砂じゃなくてこの辺の石を使うにゃ」


 確かにそれは良い手ではあるが、こんな場所に大量の石がある訳ではない。ひょっとして、通路の壁を削って作るのか?

 何となく嫌な予感がしたが、ゴロゴロと音を立てながらやってきた荷車を見てその懸念は現実のものとなってしまった。



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