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N-049 迷宮よりいずるもの


 迷宮前の広場には大勢のハンターが事務所を見詰めて立っている。

 その集まり方から7つのチームが広場にはいるようだ。

 あの笛の音が、緊急を知らせるものらしいのは俺にだって分る。そして俺達のチームのリーダーを務めるアイネさんが事務所へと出掛けて行った。

 帰ってくるまでは状況がわからないけど、あれからかれこれ1時間は経ったような気がするぞ。

 俺とエルちゃんは既に広場の砂地に腰を下ろしている。

 

 そして、おお……とハンター達の間から声が上がった。事務所からハンター達が外に出てそれぞれのチームに駆け出している。


 「はぁ、はぁ……。皆良く聞くにゃ。迷宮の中がかなり怪しいにゃ。魔物が飛び出して来るかも知れないにゃ。

 事務所のハンターが事務所を解体して村の通路近くに柵を作ると言ってたにゃ。私等もそれの手伝いをすることになったにゃ」


 迷宮の何かが狂ったってことかな。

 それなら、村への被害を避けるために柵を作る事も頷ける。あの事務所がログハウスなのも、イザという時に材料を提供する為にあるのかもしれない。


 「パラム方面の監視所へも知らせが走ったにゃ。1日あれば連中が戻ってくるからそれまで頑張るにゃ」


 そんなことをレイクも言っていたな。

 事務所にいるハンターと監視所にいるハンターが合流すれば俺達は村へ帰れそうだな。

 精々1日半ってところか。それ位なら手伝うのはハンターとして当たり前なのかもしれない。

 

 「私等はエルちゃんと一緒に柵を作る方にゃ。てっちゃんは他の男達と一緒に事務所の解体と迷宮の入口を見張るにゃ」

 「分りました。この籠を任せても良いですか?」


 「いいにゃ」と言ってアイネさんが俺の籠を担ぐ。

 そして俺は、エルちゃんと別れて事務所に向かった。


 30人程の男達が集まっている。事務所から出て来た8人のハンターの内、3人は女性だった。その女性たちは小さな荷車を引いて村の方に向かった。

 柵作りの指揮を執るみたいだな。

 

 「今から名前を呼ぶ。その者は前に来てくれ。」


 そう言って10人程の名前を呼ぶと、集まった者達を引きつれ村の方に歩いて行く。


 「今の者には柵作りをしてもらう。そして、次の名前だ。」


 今度は俺の名前が呼ばれた。レイクも一緒だ。

 

 「今呼んだ者には迷宮の入口を見張ってもらう。残った者達はこの事務所の解体だが、2時間おきに見張り番と交替だ。見張り番の指揮はクラウスにとって貰う。解体は俺が指揮する」


 「俺がクラウスだ。見張りを担当する者は俺に付いて来い」


 事務所にいた壮年の男だ。

 俺達は彼の後に付いて迷宮の階段の手前まで移動した。


 「此処で見張る。あまり近付くと奥が見えないからな。全員、銃にカートリッジを入れておけ。そして、【シャイン】を使える者はいるか?」


 俺達の中から1人が前に出る。


 「悪いが、通路の奥に2つ光球を浮かべてくれないか。20D(6m)ほど先までしかここでは見えん」


 男が階段を登って行き、通路の奥に向けて光球をふわふわと送り込んだ。

 通路のだいぶ置くまで見通せるぞ。


 その後、クラウスさんは俺達を2段の列に並べる。

 何か出てきたら、これだけの人数で一斉射撃を浴びせる魂胆のようだ。

 まぁ、見張りと言うより休憩に近いような気がするな。

 事務所の解体は重労働だ。それを短時間に行なう為に見張りをしながら休息させようというのが本音だと思うぞ。


 「誰か出て来たぞ!」

 

 その声に俺達は一斉に迷宮を見た。ヨロヨロとした足取りで奥から人が出てくる。どうやら、仲間を抱えているらしい。


 「行ってきます!」

 

 クラウスさんに向かって叫ぶと、後ろから「俺も行くぞ!」と声がする。

 レイクが付き合ってくれるみたいだ。


 クラウスさんは俺には何も言わずに、残った者達に迎撃準備をしているようだ。

 階段を駆け上り通路にはいるとハンターの肩を抱えて歩き出す。

 もう1人はレイクが肩を貸しているようだ。


 広場に出るとクラウスさんが避けろと手で合図している。俺達は手負いのハンターを抱えて列柱を左に出て迷宮の入口から遠ざかる。

 列柱降りていくと簡単な担架を持った女性のハンターが待ち構えていた。彼女達に手負いのハンターを託すと大急ぎでクラウスさん達の所に戻る。


 「申し訳ありません。今戻りました」

 「まぁ、済んだことだ。だが次ぎは此処にいるんだぞ」


 そういえば、迷宮内の暗黙の了解事項があったよな。

 それは自分達のチームを危険を及ぼすことがないようにする取り決めだ。ある意味人道を無視したようなところもあるけど、それができた経緯を考えれば納得することができるのだろう。

 だが、俺はそんな話は分らない。エルちゃんに危険が及ばない限り、助けられる者は助けようと思っている。

 「義を見てせざるは勇なきなり……」

 あれは、道場を訪れた時に美月さんが俺に言った言葉だった。

 そう、言ってはくれたんだけど、それがどんなことをいうのか分らなかった。

 だが、この世界でなら何となく分るような気がする。

 でも、それを実践するのはなかなか難しいな。

 俺達があのハンターを運んでいる時に魔物が現れたら、どちらを優先すべきかは俺には分らない。

 たぶん、非情に徹して魔物を倒すべきなんだろう。だが、俺にはそう簡単に割り切れないな。


 「良し、迎撃態勢解除だ」


 クラウスさんの言葉に全員の肩が落ちるのが分る。やはり相当緊張していたみたいだな。

 ホッとした俺達はあるものはパイプを取出し、あるものは水筒の水を飲む。


 それが終ると、俺達は事務所の解体の連中と入れ替わることになった。

 事務所の屋根は取外されて、おれたちは壁を解体するようだ。

 レイクと一緒に壁を作っている丸太を取外す。


 取外した丸太を事務所から数m離れた場所に移動すると、女性のハンター達が数人がかりでそれを柵を作っている場所に運んで行く。

 

 2時間程過ぎた頃、エルちゃん達が荷車に乗せた鍋を持ってやって来た。

 小柄な女性達ばかりだからエルちゃんより少し大きな年頃なんだろうな。

 肉体労働ではなく、食事当番をしているようだ。


 「さて、食事だ。食事を終えたら見張り番をするぞ!」


 クラウスさんの言葉に、俺達は荷車の鍋の前に並んで順番を待つ。

 

 「はい、お兄ちゃん!」

 

 そう言って渡してくれた木製のカップに入ったスープを、平なピザのようなパンを千切って浸しながら食べる。

 食べ終えたカップを荷車の籠に入れると、腰の水筒から水を飲む。

 

 さて、今度は見張りだな。

 周囲を見渡してレイクを探す。彼は籠にカップを入れるところだった。

 彼も俺を探していたみたいだ。俺の姿を見つけて駆け寄ってくる。


 「食事を終えたのか? なら次は見張りだな」

 「ああ、ところで迷宮の奥から逃れてきたハンターはどうなったんだろうな?」


 「あの2人は村へ送られたよ。さっき妹が教えてくれた。青3つのハンターらしい。そして魔物に襲われて、チームの3人がやられたそうだ」

 「青3つがやられるとはな……。どんな奴なんだろう」


 「そうだな。彼女達の銃もパレトだった。俺は強装弾を使うが、少し心配になってきたぞ」

 

 そんな話をしながら俺達は見張りをしている連中の所に歩いて行く。

 俺のM29は44マグナム弾を発射する。実際には発射したと同じ効果を相手に与えるらしい。当った筈の弾丸が何処にもないからな。それがこの魔道具としてのM29だ。

 反動が5割減、そして威力が2割増しの優れものだ。あいにくそれでも反動がきついのでちゃんと当るのは10m以内ってところだろう。

 これから、筋力を付ければ将来的には片手撃ちができるんじゃないかと思ってる。現在の知る範囲では、俺の持つ銃が最強だ。


 「来たな、前のことは忘れて見張るんだ。何時も上手く行くとは限らない。助けるとしても、迷宮を出るまで待て!」


 皆、早々とやってきていた。俺達は最後ではないものの遅い方ではあったらしい。

 来て早々にクラウスさんから言い含められたが、その場になったらやはり俺は飛び出していくんだろうな。

 それでも「努力します」と答えた俺の顔を満足げに見詰めていた。たぶん俺の心を見透かしていたのだろう。

 そして、彼も本当は俺と同じ行動を取りたかったに違いない。だが、彼に託された役目がそれを許さなかった。そんな感じに見えるぞ。


 全員が揃ったところで、俺達が見張りを引継ぐ。

 ジッと迷宮の奥に繋がる通路を眺める事がこれからの仕事だ。

 

 とはいえ、先ずは一服……。隣のレイクを見ると既にパイプを咥えている。

 食後だからね。一服したいのは俺以外の連中も同じなのかな。


 それほどタバコの葉を詰めていないから直ぐに俺のパイプから火が消えた。

 パイプから灰を砂地に落としてバッグに仕舞いこんだ時だ。


 「何か奥にいるぞ!」


 誰が言ったのかは分らない。だがその声で俺達は一斉に迷宮の奥に通じる通路を凝視した。

 そういえば、小型の双眼鏡があったな。バッグの魔法の袋の中を探して双眼鏡を取出すと、通路を奥を覗いてみる。


 確かに何かが蠢いている。

 蔓のような触手が時おり見えるから、バリアントなのかな?

 だが、壁に映った影は幾つもの樽を連ねたようなものだった。


 「触手を持った樽が連なったような奴です」


 双眼鏡をバッグに戻しながらそう言うと、皆が一斉に俺を見る。


 「それは……」

 「リングラン……なのか?」


 俺の周囲でひそひそと話す声が聞こえてきた。


 「触手はどんなだ?」

 「え~と、蔓のようなものが蠢いてました」

 

 俺の呟きを確認するようにクラウスさんが訊ねてきた。


 「やはり、リングランということか……」


 苦虫を噛んだような顔でクラウスさんが呟いた。そして、意を決したように俺達の前に出ると俺達全員を眺め回した。

 何事かと、俺とレイクは互いに顔を見合わせるとクラウスさんの顔に視線を合わせる。


 「いいか、良く聞け。通路の奥に蠢く奴の正体はリングランらしい。まだ、正確には分らんが、特徴からほぼ間違いはあるまい。

 リングランは本来迷宮の地下2階にいついている魔物だ。それが出ようとしている。

 奴に弱点はない。目は無いが頭にある触手で空気振動を捕らえて位置を特定できる。そして、その牙は長剣より鋭く、足の爪には毒がある。

 奴を殺すには出来るだけ硬い表皮を傷つけ、体液を流す外に方法が無い。

 近寄れば触手に捕らえられるぞ。30D(9m)は離れて戦うんだ」


 俺達が大きく頷くのを見て、満足げに頷いた。

 

 此処で1つ問題がある。俺のライフルは籠に入れてアイネさんに預けたままだった。

 力攻めなら数を撃たなければなるまい。だがM29はリロードしても12発でしかない。

 最後は槍を使うことになりそうだな。

 毒消しは専用ポーチに入って装備ベルトに付けているから、槍を使う前に飲んでおけば少しは役に立つだろう。


 クラウスさんが事務所解体を行なっている連中に1人を走らせた。

 力攻めを選択したのなら人数は多い方が良いに決まってる。


 

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