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N-047 魔物の異変

 ユングとフラウは俺の住んでいた近くの人らしい。

 意外と合ったことがあるのかもしれない。あの顔をどっかで見たことがあるんだよな。

 俺にとっては不思議な2人組だったが、お姉さん達やエルちゃんはそうではないらしい。そんな種族もいるんだと納得するところが俺には驚きだ。


 「てっちゃんの知り合いなのかにゃ?」

 「そんな感じなんですが、俺にも良くは分からないんです」


 記憶を失っている。という話を誰かに聞いたみたいだな。「少しずつ思いだせばいいにゃ」って優しい声で言ってくれた。

 無理に記憶を取り戻そうとしないこと。これが転移魔法を受けた者に対する鉄則らしい。あの2人の話題はそれで終った。


 「早速出掛けるにゃ。あの銃なら何とかなりそうにゃ!」

 

 アイネさんの言葉に皆が頷いてる。俺としてはお守り位に思っていて欲しいんだけど、どうやら積極的に使ってみたいらしい。


 とりあえず仕度を整える。

 仕度と言っても、綿の上下を革に替えるだけだ。装備ベルトを付けて籠にライフルを入れておく。籠には一束の薪と携帯用コンロそれに天幕用のシートと毛布が入っているが、皆重いものではない。

 出掛ける時に、槍を杖代わりにすれば俺は終わりだし、エルちゃんは装備ベルトを付けた上に肩掛けバッグを提げている。ライフルは俺の担ぐ籠に入れてあげた。結構重たいからな。


 俺達が部屋を出たところでアイネさんが扉に鍵を掛けた。

 さて、これから長い歩きだ。

 昔なら、1日歩きとおすなんて考えられなかったが、今では平気にこなせるようになった。少しは体力が付いたということだろうな。


 20km近い洞窟を適当に休みを取って歩いて行く。

 途中の大きなテラスは何時の間にか氷のカーテンが開いていた。

 季節は春になったんだな。

 小屋の4人はどうしてるかな。春先の薬草を採取しているんだろうか? それとも、獣を狩っているんだろうか……。

 まさかとは思うが、レムナム王国軍と戦っているなんてことはないよな。


 そんなことを考えていると、湖の近くで小屋掛けして暮らした頃が遥か昔のように思えてくる。

 そんな昔を思い出しながら歩いていると、何時の間にか迷宮の広場に俺達は着いていた。


 迷宮前の広場をぐるりと見渡すと、幾つかのチームが集まっているのが分る。

 そして、俺達が何時も野営をする場所は別のチームが占拠していた。まぁ、早い者勝ちってところだな。

 仕方なく、事務所に近い場所に荷を降ろして居場所を作ると、アイネさんが早速事務所に出掛けて行った。

 

 ミイネさんが籠から携帯用コンロを取出してお茶を沸かし始める。

 エルちゃんも、そんな3人を手伝ってるけど、俺は周囲を見回しながらパイプを楽しむことにした。


 俺が他のチームを気にするように、他のチームも俺達をジッと見ている。視線が合ったら軽く頭を下げると向こうもそれなりに返してくれる。ちょっとしたことだが、挨拶が人間関係の基本だと教えてくれたのは道場のお姉さんだったな。

 そのお姉さんがこの世界にいるとは……世の中って確かにせまいな。

 海を渡った別の国みたいだから会うことはできないだろうけど、それでもちょっと安心できる。

 

 「明日は入れるにゃ。今日、入ってるチームは白が3で、青が2と聞いたにゃ。昨日の2人はずっと奥に向かったみたいにゃ」


 事務所から走って来たアイネさんは俺の隣に座ると、マイネさんが渡したお茶のカップを受取りながら話してくれた。


 「それで、魔物はどんな状況なんですか?」

 「聞いてきたにゃ。エルちゃん地図を広げるにゃ」


 エルちゃんが肩掛けバッグから地図を取出して俺達の前に広げて四隅に石を乗せて固定する。

 

 「この区域は1階の魔物だけみたいにゃ。この辺りになると地下の魔物が混じるみたいにゃ」


 アイネさんの示した1階の魔物の区域は、1階迷宮の半分以下だ。

 だが、逆に言えばこの区域なら俺達が死ぬような目には合わずにすむということになる。散弾銃を作ったから手許金は少ないけど、食事と住居は何とかなるから無理はしなくとも大丈夫だろう。


 「ということで、私等はこの辺りで魔物を狩るにゃ!」


 アイネさんが指差した区域は、地下の魔物が出てくるという区域ぎりぎりの場所だ。

 思わず皆がアイネさんに顔を向ける。


 「驚くことはないにゃ。この辺りは確かにぎりぎりにゃ。でも、この通りで、そんな魔物を見た者はいないにゃ。そして私等はその次の通りにゃ」


 確かに通りを1本隔ててはいる。

 情報を元にハンターは行動するから、あえてこの区域には近付かないだろう。俺達だけで他のチームを気にせずに狩ができるのは魅力的だな。

               ◇

               ◇

               ◇


 次の日の早朝……と言っても、洞窟内の広場だから朝日が差し込む訳ではないのだが……。

 朝食を済ませて俺達が準備を整える間に、アイネさんが事務所に出掛けて行く。

 迷宮への出発報告と鳩時計の時間を見るためだと言っていた。

 確かに共通の時間管理は必要だよな。そういえばこの世界の時間の管理はどうなっているんだろう?

 これはアイネさん達よりエクレムさんに聞いた方が分るかもしれない。後で聞いてみよう。


 野営の片付けが終わって、俺の籠には2丁のライフルが入っている。

 先頭は何時ものように、槍を持ったアイネさんとマイネさんだ。その背中には散弾銃が大型のホルスターに入って装備ベルトの吊り具に革紐で固定されている。確かにあの重さだから背負うしかないよな。

 その後ろに籠を担いだミイネさんとシイネさん。最後はエルちゃんと俺になる。


 迷宮の入口でエルちゃんが【シャイン】を使って光球を作る。これも、何時ものことだ。エルちゃんが2個、シイネさんが1個を作るのも、何も言わずに自然に行なってるな。


 真直ぐ伸びた通路を俺達は進んでいく。途中ちょっと立止まるのは、十字路の左右をアイネさん達が確かめる時だ。

 何の魔物とも出会わずに俺達は奥へと進んでいく。

 俺の後ろから付いてくる光球の明かりで、後ろにいるチームの姿が見える。彼らも光球を使ってはいるのだが、1個だけだからな。

 大丈夫なのかと、こっちが心配してしまう。


 「エルちゃん。今どの辺りにゃ?」

 「後2つ十字路を過ぎると私達が入れる区域を出てしまいます」


 「なら、次の十字路を曲るにゃ。どっちがいい?」

 「左がいいです。結構先が長くて、幾つも枝道がありますが、区域を出る事がありません」


 左にどんどん曲がってるってことだな。区域を出る心配がないなら、とりあえずは安心だ。


 「なら、左にするにゃ」

 

 そう言って通路を先に急ぐ。

 俺達の後を付いて来たチームの姿も何時の間にか消えていた。どっかの十字路を曲ったのだろう。

 

 ゴン!っと籠にぶつかった。 

 イテテ……。

 

 「御免にゃ。姉さんが調べてるにゃ」


 どうやら、後を気にして歩いていて止まったミイネさんの籠にぶつかってしまったらしい。

 

 「何時もよりも調べる時間が長いの」

 

 俺を見上げてエルちゃんが教えてくれた。

 何かいるんだろうか? アイネさんは鏡を使って左の通路を見ている。

 こそこそとマイネさんが後ろに下がってきた。

 

 「左の奥にバリアントがいるにゃ。そのバリアントの様子がちょっとおかしいにゃ。もう少し様子を見るにゃ。通路の後ろを頼むにゃ」

 「あぁ、了解だ。原因が分るまでじっくり見てくれ」


 アイネさんの慎重さはこれまでも十分に見てきた。

 普段と迷宮での行動に最初は戸惑ったけど、その姿勢は見習わなくてはなるまい。

 そして、そんな中でも俺達全員の安全を考えてくれているのだ。

 俺は、後ろの通路をジッと見据える。

 前はアイネさん達がいるから安心できる。だとすれば、俺にできることはアイネさんが安心して魔物を観察出来るように後を見張ることだ。


 しばらく見張っていると、マイネさんが俺の傍にやってきた。

 

 「バリアントが共食いしてるにゃ。普段はそんなことは絶対にないにゃ。もうすぐ1匹が食べられるにゃ。そしたら、ミイネとエルちゃんで【メル】を使うにゃ。1匹を食べたら二回り位大きくなったなにゃ」

 

 確かバリアントは大きくても俺の身長にはならなかったと思うぞ。大きくなれば核も大きくなる。それだけ攻撃を受け易いのだ。

 それに共食いとは穏やかじゃないな。同族が争う事はあっても相手を食べることは今だ見たことはなかったぞ。


 「そろそろにゃ。2人とも頼んだにゃ!」

 

 アイネさんが後ろを振り返って鋭い声で伝える。

 俺の方も、通りをやってくる魔物は確認できていない。

 それでもこの状態が何時までも続くとは限らないのだ。早くにこの場を立ち去る方がいいに決まってる。


 「今にゃ!」

 

 タタタ……、と走る音がして火炎弾の炸裂する音が数回聞こえてきた。

 

 「皆、一気にやっつけるにゃ!」


 俺は後を振り返りながら、十字路を左に曲がる。

 前を見ると、燃え盛る巨大なバリアントがいた。


 火炎弾は失敗じゃないかな。……核が見えないぞ。

 アイネさんがロアルをホルスターから引き抜くと無造作に撃った。

 弾丸は確かに命中したが炎を通して見えるバリアントの体に30cm程食い込んで止まっている。


 「焼き殺すしかないにゃ!」

 「いや、まだ手がありますよ」


 そう言ってM29を引き抜く。両手でしっかりと銃を握りバリアントの中心に狙いを付けて発射した。

 ドオォン!

 マグナムの暴力的な銃声が通路に響き渡ると、バリアントの体がだんだんと萎んでくる。

 やったか?……バリアントの姿は加速度的に小さくなって通路の床に吸い込まれていった。

 最後までチロチロと燃えていた残り火が消えると、通路に小さな魔石がポツンと転がっている。

 アイネさんが魔石を手にとって光球にかざす。

 低品位の黒の魔石のようだ。


 「やはり、普段と違ってるにゃ。慎重に行動するにゃ」

 

 俺達に、そう告げると通路を先に急ぐ。

 

 通路を進みながら、魔物を倒していく。

 多くはバリアントだが、2回ほどケルバスに遭遇した。

 待っていたとばかりに、アイネさん達が散弾を使ってやっつけてしまった。

 通路での散弾4連続射撃は、絶大な効果がある。

 エルちゃんもライフルを持って待っていたのだが撃つ機会が無かった位だ。


 低品位ばかりの魔石だが2つほど黒の魔石を手に入れることができた。

 迷宮に入って7時間ほどが過ぎている。

 今日のところはこれ位で、迷宮から出ることにした。

 明日はお休みだから迷宮の入口周囲を散歩するのもおもしろいかもしれない。

 そして、こっちの世界の鳩時計というのも見ておきたいな。

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