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N-045 群体生物グラミス


 2日程休息を取って、迷宮へと出掛ける。

 今度は俺と同じような籠をミイネさんとシイネさんが担いでいる。どうやら、籠を防壁として使うつもりらしい。

 確かにアイデアではある。籠に槍を突き刺しておけば、ケルバスが飛び掛かっても転がることは無いだろう。

 と言うことでミイネさん達はどこから持ってきたのか分らないが、古びた槍を杖代わりに使っている。

 まぁ、邪魔にならない限り武器は多い方が良いに決まってる。


 何時もの場所に野営して、次の日朝食を早めに食べて迷宮に入る。

 今までは気が付かなかったが、迷宮の入口は不思議な文様が刻まれていた。

 

 確か、パラムの王都にある迷宮の入口を破壊したら、魔物が溢れ出したと言っていたな。この文様に何か秘密があるのだろうか?


 「お兄ちゃん! 早く!!」


 エルちゃんの呼ぶ声に片手を上げて応えると、俺は急いで迷宮へと足を踏み入れた。


 槍を持ったアイネさんとマイネさんが先行し、その後を籠を背負ったミイネさんとシイネさんが歩いて行く。籠から槍が突き出してるけど、天井は3m程あるからつっかえることはないだろう。

 その後を俺とエルちゃんが並んで歩く。

 俺達の前に2個、後ろに1個の光球は何時もの通りだ。

 エルちゃんが作った光球だから、エルちゃんの歩みにあわせてふわふわと移動している。


 一階の半分位を歩いた所で、お茶を作って少し長い休憩を取る。

 籠が3つもあるから、ちょっとした障壁を作れるから、ゆっくりお茶を飲むことができるな。

 

 「狙いはケルバスにゃ。サーフッドよりも魔石の出現率が高いとお風呂で聞いたにゃ!」


 それは、貴重な情報だ。

 と言っても、俺達に選択権は余り無い。通路を歩いてエンカウントするのがどっちか分らないからね。


 案の定、最初に出会ったのはサーフッドだった。

 数匹のサーフッドに、2人が【メル】を放つ。

 焼けた体で俺達に向かってきたところをアイネさん達と俺とで槍を振るって突き刺した。


 「魔石は2つにゃ。カートリッジを使わなかったから、これは儲けにゃ」

 

 最初ならば銃を乱射したところだが、少しずつ戦い方が分ってきた。

 サーフッドが数匹ならば、【メル】+槍で十分だ。


 これが、ケルバスならばそうは行かない。最初に銃を一斉に放ち、後衛がカートリッジを装填する間、俺達が片手剣で応戦しなければならない。

 ちょっとした素早さの違いで狩りの方法が変わるなんておもしろいな。


 その日の野営地を決めるまでに魔石を10個以上手にすることができた。その内、1個は黒の魔石だ。


 行き止まりの通路の奥を野営地に決めると、通路側に籠を3個並べる。高さ1.2m程の籠だが、3個並べてシートを被せるとちょっとした柵になるな。

 槍をつっかえ棒代わりにしてあるから、ケルバスが体当たりしてもだいじょうぶだろう。


 その内側で携帯コンロを使って夕食を作り始める。

 エルちゃん達が作っている間は、俺が柵の向こう側を見張るのだが、パイプを咥えて一服を兼ねてるから休憩してるようなものだ。

 

 10m先と30m先の天上に浮かぶ光球で通路の先の方まで見通せる。

 何が来ても30m先までには発見できるに違いない。


 俺を除いた5人はネコ族だ。エルちゃんはハーフだけどネコ族の良いところは全て受け継いでいる。

 そのネコ族の最大の特徴が勘の良さだ。俺が見張らなくても、魔物の接近は感じることはできるのだが、それだと全てお任せになってしまう。

 俺にも目があるのだから、できることはやっておかなければ……。


 「夕食ができたにゃ。先に食べると良いにゃ」

 

 そう言って、俺の隣にアイネさんがやってきた。

 「どうぞ、先に食べてください。今のところなにもありません。何か見つけた時には知らせますから。」

 「それなら、先に頂くにゃ」


 そう言って後ろに下がっていく。

 途端に、にゃぁにゃぁという声が聞こえてきた。ネコ族の女性が5人もいると、やはり賑やかだな。


 彼女達の食事が終ると、アイネさんと見張りを交替して食事を取る。

 乾燥野菜と干し肉のスープもだいぶ慣れてきたな。スープに平べったい黒パンを浸しながら食べていると、マイネさんが席を立ってアイネさんの隣で通路の奥を見ている。


 何か来たんだろうか?

 急いでスープをスプーンで掻き込むと、俺も柵のところに行って奥を見据える。


 「まだ見えないにゃ。でも近付いてきてるにゃ」

 「ケルバスですか?」

 「ちょっと違うにゃ。もう少し大きな気がするにゃ」

 

 俺達の後ろでは食器を片付ける音が聞こえる。

 そんな所にエルちゃんが俺達にお茶のカップを運んでくれた。

 エルちゃんに礼を言って3人でお茶を飲みながら前方をジッと見る。


 カップを回収に来たエルちゃんにお茶のカップを渡して、再び前方を見たとき、それが姿を現した。

 

 ぬうっと伸びた鼻先がしきりに動いて匂いを確かめている。ネズミに似た豚程の大きさの魔物はどう見てもモグラだな。

 短い前足が左右にちらちら見えるが、その掌は俺の掌の数倍はあるし小指程の鋭い爪も見える。


 「グラミスにゃ! あれは地下2階の魔物にゃ。この階にはいないはずにゃ」

 「そんなに強そうにも見えないんですが……。」


 「グラミスは強いにゃ。銃は使えないにゃ。撃っても意味が無いにゃ」

 「……あの毛皮が銃弾を通さないとか?」

 「グラミスは群体にゃ。あれは焼くしかないにゃ。それでダメなら終わりにゃ」

 

 アイネさんがエルちゃんとミイネさんを呼び寄せた。


 「ありったけの魔力で【メル】を使うにゃ。70D(21m)で始めるにゃ」


 2人が頷くと俺達の間に割って入る。

 

 群体って小さな生物が集合してあの形を取っているというのか? だが、俺の目には大きな1匹のモグラにしか見えないぞ。


 「もうすぐにゃ……。焼き殺すにゃ!」


 アイネさんの言葉を引金に2人が【メル】を立て続けに放つ。

 沢山の火炎弾がモグラに当って周囲に炎を撒き散らし始めた。


 最初の火炎弾を受けた時からモグラがその場で転げまわる。飛び散る炎を本能的に避けようとしているようだ。

 少しでも傷を付けようと、俺たち3人は銃を撃つ。


 アイネさんが2発を撃ち終わる間に、俺はM29を全弾発射した。【リロード】を掛けて待機する。

 ミイネさんは魔法力を使いきったようだ。柵を離れて後ろに下がる。

 エルちゃんはまだ魔法力に余裕があるみたいだけど、ミイネさんが下がって10発【メル】を放ったところで、火炎弾の発射を見合わせた。


 前方は30発の火炎弾が炸裂したので一面火の海になっている。

 そして、その中でゴソリと蠢く姿が見えた。


 「皆後ろに下がるにゃ!」


 そう言って、アイネさんが爆裂球の紐を引いて炎の中で蠢いている魔物に投付けた。

 エルちゃんを抱きかかえるように蹲った途端に、ドォン! と言う強烈な音が俺達を襲う。

 爆風は柵が遮ってくれたようだな。

 急いで柵の所に戻ってさっきのモグラを見た。


 モグラの体が半分ほど吹き飛んでぶすぶすと燻っている。


 「エルちゃん、まだ【メル】が使えるかにゃ?」


 俺の隣に来て奴を見たアイネさんがエルちゃんにお願いする。

 直ぐにエルちゃんがやってきた。


 「後、8回は使えます!」

 「なら、【メル】を5回放って欲しいにゃ」


 モグラが大きく傷を負った場所にエルちゃんの火炎弾が次々と炸裂した。

 再度、モグラが炎に包まれる。


 「マイネ、シイネ。手伝うにゃ!」


 そう言って柵を飛び越えると、柵の手前3m程の所に薪を横に並べ始めた。

 最終手段として炎の柵を作るつもりのようだ。

 籠を3つ持ってきたから薪の持ち合わせはそれなりにある。

 こんなことで役立つとは思わなかったけどね。


 「まだ、動いてるにゃ!」

 「火力がたりないのかにゃ?」


 なるほど、かなりの強敵だな。

 恐ろしく生命力が強いのか……。群体の生命力は、集まった生物の総数に比例するようだ。表面を構成する個体が焼かれても、次から次へと内側からそれに代わる個体が表面に出てくる。倒すには全ての個体を殺さなければならないということだな。


 炎が収まり掛けた時、そこにいたのは最初のモグラのような魔物ではなく、崩れたバリアントのような形で蠢いている魔物だった。


 「バリアント……の一種なのか?」

 「似てるけど違うにゃ。バリアントは燃えるけど、グラミスは燃え難いにゃ」


 そして、ズルリと俺達の方に動いた。

 それを見たエルちゃんが、【メル】を唱えて火炎弾を3発発射した。


 燻っていた体が再び燃え上がる。

 これでエルちゃんの魔力は底を切った筈だ。


 「残りは、あの薪だけが頼りにゃ」

 

 そう言って前を見詰めるアイネさんはまだまだ諦めてはいないようだな。

 

 だが、グラミスは薪まで来ることは無かった。

 炎が消えようとした時、少しずつグラミスの体が小さくなっていく。

 そして、床に沁み込むようにその姿を完全に消した。


 「ミイネ達は急いで荷物を纏めるにゃ。直ぐに迷宮から出るにゃ!」

 

 そう言って、マイネさんを連れてグラミスのところに急ぐ。

 あれだけの魔物だ。さぞかし大きな魔石があるんだろうな。


 荷物を纏めて籠を背負ってアイネさん達のところに行くと、にこにこ顔のアイネさん達がいた。


 「中位の魔石が6個にゃ。その内1個は黒にゃ」

 

 それだけ手に入れれば確かに十分だろうな。

 俺達は野営をせずに急いで迷宮の出口に向かって歩き出した。

               ◇

               ◇

               ◇


 疲れ果てた姿で迷宮を出ると、何時もの場所で食事もせずに眠りこんだ。

 次の日、俺達が起きた時間は昼近くだった。


 アイネさんが遅ればせながら事務所に報告に出掛ける。その間に簡単な食事を作ってアイネさんの帰りを待ったが、帰って来たのは1時間以上経ってからだった。


 「白のチームが2つ、それに青のチームが1つ帰ってないみたいにゃ」

 「魔物を狩るハンターは結構長く迷宮にいるんでしょう?」


 「早くて3日、遅くても10日が目安にゃ。白や青なら5日位が相場にゃ。でも3つのチームは10日近く帰ってないみたいにゃ」

 「グラミスとも関係があるんでしょうか?」

 「驚いてたにゃ。良く無事だったと感心されたにゃ」


 そんな話をしながら食事を始める。

 直ぐに出発するから簡単な食事だ。帰れば食堂で美味しい食事が食べられる。

 

 そして、エクレムさんがやって来るんだろうな。

 どんな質問をしてくるかは分らないが、その結果として迷宮を閉じるということになれば集落の収入が途絶えてしまう。

 今までと状況が異なる魔物がいる迷宮に挑めるハンターはあの集落に何人位いるのだろう。


 俺達は1階奥までの魔物を狩ることが許されていたが、これからは最初と同じ入口付近で満足することになるだろうな。

 たとえ、奥まで行くことが許されようとも、今の迷宮の奥は余りにも危険な場所だ。

 そして、装備も少し見直した方が良いかも知れない。

 【メル】の連発は効果があったが、何時もあんなに使うことはできない。それに代わる何かを考えなければなるまい。

 更に、お姉さん達の銃がロアルと言うことも問題な気がする。ケルバスの群れが押し寄せてきた場合には対処できかねる。

 サラミスのパレトのように散弾を撃てる銃が欲しいところだ。

 

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