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N-041 ケルバスの集まる訳

 「なるほど……。だがその前に、てっちゃんは種族の特徴を余り良く知らないようだな」


 次の日、俺達の様子を見に来たエクレムさんに、体を鍛える為の良い方法を昨日の経緯を話しながら聞いてみた。


 そんな俺の質問に、エクレムさんが話してくれたのは種族の特徴だった。

 どうやら基準となるのは人族のようだ。

 そして、エクレムさんが話してくれた事を要約すると……。

 

 素早さはネコ族が1番だが、力はドワーフ族が1番らしい。

 魔法力の一番はエルフ族だが、生命力はトラ族が一番だと言っていた。


 俺みたいなハーフはと言うと、良いとこ取りらしい。

 エルちゃんは素早くて、魔法力が高いことになる。俺は、人よりも素早くて魔法力もあるが素早さではネコ族を越えられないということだ。それでも、ネコ族よりは力を持っている人族の特性を生かせば良いだろうとアドバイスを受けた。


 「お前達2人は俺達よりも寿命が長い。じっくり体を鍛えるのは良いことだと思うぞ。」

 「まぁ、気長にやってみます。」


 「それが良い。ところで、迷宮はおもしろいだろう?」

 「えぇ、バリアントを沢山狩りましたよ。1度はサーフッドに出会いました」

 

 「アイネ、あれ程注意した筈だが?」

 「ちょっと奥に行きすぎたにゃ。直ぐに戻ったから問題ないにゃ」


 キっとアイネさんをエクレムさんは睨んだが、アイネさんはテヘって舌を出している。

 エルちゃんならともかくアイネさんは似合わないぞ。

 

 「過ぎたことは仕方がない。だが、まだ姫は赤だ。サーフッドが群れたならタダでは済まんぞ」


 「だいじょうぶにゃ。念のために長老よりこれを預かったにゃ」


 そう言って、小さなカン詰みたいな物をバッグから取り出した。

 

 「あまり、期待はするな。連合国よりもたらされた物だが、効果は【メルト】よりも低いと聞いたぞ。……そうだ、てっちゃんにも1つ預けておこう。爆裂球と言う。使い方は、紐を引いて投げるだけだ。5つ数える時間を経て爆裂し、10D(3m)程の範囲に影響を与えるらしい」


 手榴弾みたいだな。

 重さは1kgはないみたいだ。

 

 「ありがとうございます。なるべく使わずにすむように努力します」

 「うむ。使わずにすめばそれで良い。だが、使う場で使うことを躊躇うようでもダメだ」


 要するに、危なくなったら積極的に使えってことだよな。

 

 「1つ聞いて良いですか? この爆裂球は高価なんでしょうか」

 「1個で20L……。俺は使ったことはない。だが使った奴は、それ以後常に2個を持ち歩いている。高価ではあるが効果もあるということだろう」


 シャレなのか? いや、真顔で言ってるから本当のことなんだろうけどね。

 

 「たぶん盛大にカートリッジを使ったはずだ。だが、すこしは魔石を得られたろう。後10日程で市が開かれる。明日もう一度迷宮に行って来い。そして、魔石を市にだせば、カートリッジを武器屋で購入できるぞ」


 この集落のハンターは、そうやって糧を得る手段を確保しているんだっけな。

 3割は集落への税金ってところか。でも、それは俺達の食事に還元される。

 年老いても食事は確保できるのだから、ある意味福祉税の感じがする。

 この集落の店の相場は分らないけど、少し位高くても暮らしていけそうだ。

               ◇

               ◇

               ◇


 俺達は、丸1日の休息を取って、再び迷宮に挑む。

 1日掛かりで迷宮までの道を歩き、次の日に迷宮へと足を踏み入れた。


 「エルちゃんが頼みにゃ。ここから先に行くようなら私に言って欲しいにゃ」

 

 エルちゃんが持っている地図を見ながら入口から半分位にところをアイネさんが指で指している。

 エルちゃんは頷くと、そこに鉛筆で線を引いている。


 【シャイン】で作った光球を俺達の歩く前後に展開しているから、バリアントに不意を付かれる恐れもないし、角ではアイネさんが鏡で左右を確認しているから安心だ。

 それよりも、バリアントは不意打ちをしてくるのだろうか?

 どちらかと言うと俺達が不意打ちしている気がするな。バリアントは通路の奥でほのかに光ってるから直ぐに分かる。

 そして、遠距離攻撃で先制してこっちに近寄ってくるところを順次殲滅……。

 バリアントで毒を受けた奴なんていないんじゃないかと思ってアイネさんに尋ねると、そうでも無いらしい。


 「油断はダメにゃ。バリアントの毒を受ける者が年に何人かいるって聞いたことがあるにゃ」

 

 とは言え、俺からすると相当なドジだと思うぞ。

 それとも、俺達より遥かに若く経験の無い新米ハンターなんだろうか?

 銃を持たずに片手剣だけだったら意外と手強い相手かも知れないな。


 迷宮に入って2日間で30匹近いバリアントを倒し、手に入れた魔石は9個になった。今回は白や黒の魔石は手に入らなかったが。入口近くの狩りだからこんなものなのだろう。

 

 そろそろ出ようかと話し合っての帰り道。

 前方がイヤに明るい。


 「バリアントの集団にゃ!」

 「あの数はちょっと問題ですよ。どう見ても10匹以上……ひょっとしたら20匹を越えてるかも知れません」


 「ミイネとエルちゃんで【メル】を使うにゃ。こっちに近付いてきたら銃で撃っていけばいいにゃ」

 

 バリアントは【メル】で攻撃すると燃え上がる。それほど勢いは無いがプラスチックが燃えるような感じで溶けながら燃えるのだ。そして、石油のような匂いがする。

 あれだけひしめいていると、【メル】だけでも十分たおせそうだ。


 早速、2人がバリアントの群れに向かって【メル】を放つ。

 火炎弾のような火の球がブゥーンっと唸りながら飛んで行き、バリアントの真中に着弾して炎を周囲に撒き散らす。

 たちまち数匹のバリアントが犠牲になった。


 エルちゃん達が再び【メル】の火炎弾を放つと、前方のバリアントの群れが激しく動き出す。

 炎に包まれたバリアントが苦しさに暴れるのだろう。他のバリアントにも飛び火しているぞ。


 体を燃やしながらこちらに近付いてくるのもいるのだが、俺達から数mまで接近する前に体が崩れ、床に溶け込むように姿を消した。


 「盛大な焚火にゃ。銃を使うまでもなかったにゃ」


 ひょっとして、バリアントは【メル】で倒した方が安全じゃないのか?

 あえて、銃でコアを狙うよりも遥かに楽な気がするんだが……。

 

 「問題は、この後にゃ。この匂いでケルバスが来るにゃ。後ろと前を良く見るにゃ」


 ミイネさんとシイネさんがロアルを構えて後を見据える。

 俺とエルちゃんも肩からライフルを下ろした。


 ケルバスってのは、頭が2つの野犬みたいな奴だと聞いた。

 単体ってことはないだろうから、そっちの方が問題だぞ。これが、バリアントを【メル】で倒すのを躊躇う理由なんだろうが……。アイネさん、知ってて【メル】を使ったのか?


 「来たにゃ。マイネとエルちゃんはバリアントを見てるにゃ。私とてっちゃんはケルバスにゃ」


 俺はアイネさんに頷くと【アクセル】を唱える。そしてライフルを壁に立てかけると、M29を取り出した。これなら、連続で6発撃てる。

 

 ミイネさんとシイネさんが肩膝立ちでロアルを構えている。俺達の後ろに浮かんでいた光球は10m程後ろだったが、その光の中に2つの頭でこちらを見据えながら歩いてくる大型犬を見ることができた。


 30m程に接近したところで、2人が銃を発射した。直ぐに俺達の後ろに下がる。

 俺に向かって駆け寄るケルバスにマグナムを連発する。

 そして、素早くM29をホルスターに入れると、背中の長剣を抜いて飛び掛ってきた奴の横腹をバットスイングする。

 ズン……と鈍い感触が伝わる。

 直ぐに次の奴に打ちかかろうと長剣を抜取ろうとしたとき、俺の顔すれすれに銀色の閃光が走る。

 そして顔を割られたケルバスが俺にぶつかってきた。

 慌ててケルバスを足で蹴り飛ばす。

 後ろから3発の銃声が轟いたとき、俺の前に立っているケルバスはもういなかった。


 「ケルバスは素早いにゃ。長剣よりも片手剣が有利にゃ」

 

 アイネさんはミイネさんに魔石の確保を命じると、俺に向かってそういった。

 確かに長剣の打撃は魅力的だが、多数の相手を同時に相手にするときはちょっと問題だな。アイネさん達が片手剣を使う理由はそこなんだろうな。


 後ろを振り返ると、エルちゃん達が通路で魔石を探してる。何時の間にかバリアントの群れは燃やしつくされたようだ。

 発見できた魔石は合計8個。その内、1個は黒の魔石だ。

 

 こうして、俺達の2回目の迷宮入りは終わりを迎えた。

 迷宮の外で、この間と同じように1泊して集落に戻る。


 しかし、魔物の相手によって武器を変えるのは大変だな。

 バリアントは【メル】が有効だがケルバスを呼ぶ恐れが大きい。

 ケルバスは群れで行動し、素早い動きをするから銃よりも片手剣が有効だ。

 そして、サーフッドには急所がない。まぁ、小さな頭は急所だろうが極めて小さい。


 きっと、迷宮での万能武器というのは存在しないんだろう。相手に応じて武器を変えながら戦うことになる。

 少なくとも、今の俺達の相手に長剣は隙が出来やすい。今度行くときには片手剣を装備しておこう。

 サーフッドの接近には槍で対処すれば良いだろう。アイネさん達も杖を構えていたからな。ながものには少しでも長い武器を持っていれば安心だ。

               ◇

               ◇

               ◇


 俺達の部屋に戻ると、アイネさんは直ぐに長老の所に魔石を持って出かけた。

 そういえば魔石を市場に出して報酬を得るんだったな。

 たとえ厳冬期といえども市場は開かれるらしい。

 そして、厳冬期の方が、まとまった魔石が市場に出回るから、商人としても外すことはできないようだ。

 遠く、連合国の商船も魔石を求めてやってくるらしい。

 季節が良くなったら、エルちゃんを連れて見てみたい気もするな。

 

 お姉さん達のカートリッジが残り少ないということで、魔石の報酬を得られるまではのんびりと部屋で過ごす。

 長剣は仕舞っておき、代わりに片手剣を装備ベルトの吊り具にストラップで固定する。

 そして、短い槍の穂先である短剣を丁寧に研いでおく。


 エルちゃんの装備は今のままで良いだろう。

 俺達のカートリッジはたっぷりあるから、しばらくは購入せずに済みそうだ。


 そんな日が数日続いたある日、アイネさんが革袋を持って帰って来た。

 

 「報酬を受取ったにゃ。魔石26個で528Lにゃ。3割引かれて369L。これを6人で分けることになるにゃ。半分はカートリッジ代にするにゃ」

 

 ということで、俺達の報酬は30Lになる。189Lで、ロアルのカートリッジを購入したり、迷宮入りの消耗品をそれで購入するつもりのようだ。

 まぁ、得に使う当てはないから少しずつでも貯まっていくことになるな。

 

 「てっちゃんはパレトのカートリッジが沢山あると言ってたにゃ。今回はロアルのカートリッジを買い込むにゃ」

 「あぁ、しばらくはだいじょうぶだと思う。あまりライフルは使わないしね」


 俺の言葉に頷いてアイネさんはマイネさんを連れて部屋を出て行った。

 早速、カートリッジを購入するようだ。

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