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N-040 お風呂?

 1時間程歩いて10分程の休憩。

 これをひたすら繰返す。まるで石室の中のような感じで周囲は単調な眺めだ。

 バリアントに遭遇するとかえって嬉しくなるな。


 それでも、何時の間にか魔石は10個以上溜まったし、俺達の持っているカートリッジもポーチの中には2発しか残っていない。

 バッグには更に数十発が入っているから、安心ではあるのだがそろそろ迷宮を出る時間ではあるようだ。


 「そろそろ迷宮を出るにゃ。今はどの辺りにゃ?」

 「ここにいます。この先の十字路を左に曲れば、真っ直ぐ進むだけです」


 エルちゃんの頭を撫でてアイネさんが先を急ぐ。

 チラリと覗いた地図だと2時間は掛からずに出られそうだな。

 そして、入口近くではバリアントに出会わなかったから、迷宮の魔物とも一時おさらばって感じかな。


 十字路に出るとまたしてもアイネさんが鏡で左右を確認する。

 そして、異常が無いことを確認にて左へと曲った。

 遠くに小さな点となって光が見える。あれが出口なんだろう。

 出口に近付いたとはいえ、後方の確認は継続する。アイネさんも止めて良いとは言っていない。

 アイネさんの普段の感じとはまるで違うな。

 迷宮では慎重をどれ程重ねても、これで良いと言うようなことはないみたいだ。

 

 「だいたい迷宮はこんな感じにゃ。奥の方や下の階は少し周囲が変わるって聞いたにゃ。でも、岩の中だし、それ程変わることはないと思うにゃ」

 「確かに単調な狩りですね。そして気を抜けない狩りでもあるようです」

 「それが分れば十分にゃ。白になればもっと奥に行けるにゃ」


 迷宮の1階は白レベルらしい。俺とエルちゃんはまだ赤だから少しは背伸びしているのかな。

 でも、赤と白ってそれ程違いがあるんだろうか?


 迷宮を出ると、アイネさんが俺達から離れて事務所に向かう。たぶん、迷宮を全員が出たと報告に行ったのだろう。

 俺達は、迷宮に入る前に一泊した場所に移動して腰を落ち着ける。


 「今日は、ここで一泊にゃ。危険は無いから安心して眠れるにゃ」

 

 ミイネさんが嬉しそうに言うと、早速携帯コンロに火を点けた。

 時間的には午後の3時を回ったところだが、夕食を作って食べるのだろうか?

 

 「時間が分ったにゃ。午後3時過ぎにゃ。ゆっくり一休みして夕食にゃ」


 アイネさんが戻ってくると俺達にそう告げる。

 それ程狂ってないがどうして時間を知ったのかを聞いてみたら、事務所に鳩時計があるらしい。

 確かに、この場所では空が見えないから鳩時計は必要だろうが、どこで作ってるんだろう? ちょっと気になる話だ。


 夕食には、レインボウを焚火で長期に渡って小屋の炉の上で干した干物を提供した。

 背中の片手剣でぶつ切りにして鍋に入れている。カチカチの煮干みたいになってたからな。じっくり煮込めば出汁位は出るだろう。


 アイネさんが慎重にお鍋で具を掬っている。

 あんな干物に真剣になるなんておかしく思うけど、ネコ族なんだよなぁ……。


 配られたカップには小さなレインボウの切れ端が2つも入っていた。

 それをスプーンでエルちゃんに上げると、ミイネさんが羨ましげに見てる。ちょっと大人気ないぞ。


 スープの味は何時もと違うな。それは俺でも分る。

 そして、エルちゃん達は柔らかくなったレインボウの切り身をスプーンで掬って嬉しそうに食べている。


「後、数本あるから、次も迷宮から戻ったら食べようね」


 俺の言葉に、全員が頷いた。

 この辺りで魚を釣る場所を探した方が良さそうだな。後で、エクレムさんにでも聞いてみよう。


 ゆっくりとお茶を飲んで、俺はパイプを楽しむ。

 まだ十分にタバコはあるけど、無くなったらちょっと詰まらないな。

 これも、俺にとっては重要なアイテムだからな。


 そして、壁際にシートを敷いて俺達はマントに包まった。

 歩き続けたからな……、直ぐにおれは寝てしまったようだ。


 次の朝、何時ものようにエルちゃんに起こされてしまった。

 本来はこんな寝ぼ助じゃ無いんだが、不定期な睡眠時間と目覚まし時計が無いことが問題だな。


 「置きたにゃ。今日は朝食を食べて集落に帰るにゃ」


 そう言ってとりあえずお茶のカップを渡された。

 洞窟の中は、暖かく感じるが今は厳冬期だ。やはり熱いお茶を飲むと体が温まる。何時の間にか体が冷え切っていたみたいだな。


 朝食を終えると、集落目指してひたすら歩いて行く。1日掛かりの距離だから20kmは離れている筈だ。

 来る時は余り気になっていなかったが、結構距離があるよな。

 乗り物があれば便利なんだが、この土地の人は基本が歩きだから長距離の徒歩も気にはならないようだ。

               ◇

               ◇

               ◇


 エルちゃんが俺達の扉の鍵を開けると、雪崩れ込むように俺達はリビングへ入っていく。

 そして急いで炉を焚くと、早速綿の上下に着替えてリビングに寝転んだ。

 やはり、体を伸ばせるのは気持ちがいいな。


 「そうにゃ!……お風呂に行くにゃ。帰りに食堂で夕食を貰ってくるにゃ」

 

 そういえば、5日に1度はお風呂に入れるって言ってたな。

 異世界のお風呂ってどんなものか興味もある。

 ここは、ゆっくりとお湯に浸かって体を伸ばすのも良いかも知れないな。何と言っても疲れが取れそうだ。


 「お風呂は男女別にゃ。エルちゃんは私等が連れて行くにゃ。……でもその前に!」


 何をするのかと思ったら、シイネさんが全員に【クリーネ】を掛け始めた。

 お風呂って体の汚れを取る為に入るんじゃなかったか?

 確かに湯船に入る前には体を洗うけど、まだお風呂にも行ってないぞ。


 疑問文を頭の上に浮かべながら、とりあえず風呂へ出かける準備をする。服は下着も含めて【クリーネ】で汚れが落ちているから、本当に湯船に入るだけのようだ。

 確か、タオルがあった筈……。

 ザックの奥からタオルを取り出して肩に掛ける。エルちゃんも手拭いのようなものをバッグから取り出していた。


 「出かけるにゃ。鍵はてっちゃんも持っていくにゃ」

 

 長老から貰った鍵は3つ。俺とエルちゃんそれにアイネさんが鍵を持っている。

 ちゃんとポケットに鍵が入っていることを確認して俺達は部屋を出た。

 

 俺達の部屋の前の通路を左に行って、今度は右に曲る。

 そして洞窟の通路はだんだんと下り坂になった。5分程歩くと、急に洞窟の温度が下がる。

 下がる筈だ。洞窟に小さなテラスがあり、そこは雪に覆われていた。

 申し訳程度の扉が付いているだけだから、冷気が入り込んでいる。

 そして、その先を行くと洞窟の通路が霧に覆われている。風呂の暖気がテラスからの冷気で霧になっているようだ。

 

 「もうすぐにゃ」

 

 先頭を歩くアイネさんが俺達に振り向いて言った。

 そして、その先にあったのは……、2つの扉だった。


 「この扉の先にお風呂があるにゃ。エルちゃんは私等と一緒にゃ。てっちゃんはこっちにゃ!」

 

 そう言って指さした扉には、「男湯」と書かれていた。

 銭湯みたいな感じだな。


 「先に出ると思うから、風呂を出たら部屋に行く。ってことに。」

 「いいにゃ」


 さて、これで気兼ねなく入れるぞ。

 扉を開けて中に入る。


 そこは、ちょっとした広場になっていた。教室位はあるんじゃないかな。その両側に段が作られており、籠が沢山載っている。

 この籠に服を入れるんだろうか?


 段の籠を良く見ると、2つの籠に衣服が入っている。

 日本の銭湯と同じだな。

 さっそく俺も衣服を脱いでタオルを持って広場の奥に向かった。そこから先に通路が続いている。

 

 そして、そこにお風呂があった。

 何と、この地に温泉があるとは……。早速、中に入ると腰位の深さだ。

 点在している岩に腰を下ろせば肩まで浸かれそうだな。

 相当大きな岩風呂らしく奥のほうは湯気で見えない。天井の光球がボンヤリと湯気の中で光っている。

 

 何時しか俺は肩まで浸かってのんびりと歌を歌っていたようだ。


 「おもしろい歌だな。そしてその中に真理もある。昔、連合王国で聞いた歌はさっぱり意味が分からなかったが、お前の歌は理解できたぞ」

 「ふむ、確かにな。情けと仇の定義を歌に託すのもおもしろい……」


 何時の間にか俺の近くに2人の若い男が座っていた。

 精悍な顔つきだな。さぞかしレベルの高いハンターなんだろうな。


 「エクレムが人族のハーフを連れてきたと言ってたが、お前のことのようだな?」

 「ええ、エクレムさんの手引きでラクト村からやってきました」


 「やはりな。話は奴から聞いている。人族は信用できぬが、ハーフであれば別だ。此処で自分の実力を試すがいい」


 そう言うと、2人の男は風呂を出て行った。

 風呂から出た2人の筋肉の付き方が半端じゃない。まるで縄を捩ったような筋肉で覆われている。


 ちょっと、自信がなくなるよなぁ。

 腕を出して力瘤を作ってみたが……、少しは筋肉質になったかと思っていたけど、それほどでもないようだ。

 剣を使うことは余り無いだろうが、やはり筋力トレーニングはやったほうがいいんだろうな。


 そんなことを考えながら風呂を出た。

 温泉の泉種はちょっと分らないが、硫黄温泉でないことだけは確かだ。

 ぽかぽかと湯気を上げる体をタオルで拭いて綿の上下を着込む。

 

 扉を開けて少し歩くと問題のテラスだが、芯から暖まった体には冬の冷気も気持ちが良い。

 異世界で入ったお風呂は温泉だった。

 風呂に入るという文化はあるみたいだ。でも、5日に1回というのは、ちょっとね。好きな時に入りたいものだ。

 

 部屋の扉を開けると、冷えたお茶を飲む。

 長風呂は喉が渇くからな。


 エルちゃん達はお風呂から帰ってないみたいだな。

 意外と、お風呂で女子会みたいなことをやっているのかもしれない。

 帰ってきたら直ぐに飲めるようにお茶でも沸かしてあげよう。


 湯気を上げ始めたポットを見ながら、トレーニングについて考えてみる。

 そういえばマイデルさんに貰った長剣があったな。あれでも振ってみるか。


 部屋に置いてあった長剣を持ち出してみる。

 改めて、持ってみると結構重いぞ。

 ルミナスと力技で斬る練習をしてたからな。重い剣が有利と思って作ってくれたみたいだ。

 鞘から引く抜いてみると片刃の長剣だ。その上重い……。ルミナスの長剣を一度持ってみたが、それよりは数段重いぞ。

 これを易々振れるようになれば、俺もさっき風呂で出会ったネコ族の男達と同じような体になれるかも知れないな。

 とはいえ、長剣の長さが1.2m程もある。立ってこの部屋で振るわけにはいけないので、座ったままで片手で振る。

 結構な重さだ。左手ではどうにか振ることができるが、右手では持ち上げることすらできない。

 剣を横にして両手で上下するのが良いみたいだ。

 どう考えても5kgは越えてるな。

 10回ほど上下させたところで、今日はここまでにする。我ながら情けない状態だ。

 「ただいま!」

 そう言ってエルちゃん達が帰って来た。


 「何を始めたにゃ?」

 「あぁ、これかい。腕の筋肉を付けようと思ってね」

 「少しは分るけど……、剣は素早さにゃ!」

 

 アイネさんが別の意見を述べてくれた。

 それも分る。確かに素早いことに越したことはない。

 力と素早さ、共にあれば何もいうことはないが、世の中は無情だ。だいたいはどちらかに偏ってしまう。

 ネコ族の身体能力は素早さが突出しているらしい。その利点を最大限に生かすことをアイネさん達は教えられたんだろうな。

 だが、俺はネコ族並みの素早さはない。だとすれば別な戦い方を模索することになるのは必然だ。

 アイネさんの忠告はありがたいが、俺は筋力を上げることを考えた方が良さそうだ。

 

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