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N-004 パーティ名はアクトラス


 なんか超常現象を体験したような感じで、頭の中がグルグルと回っている。

 そんな俺を気遣うように、エルミアが俺の手を引いて村の門へと連れ帰ってくれた。


 「てっちゃんじゃないか。そっちは何処の娘だ?」

 「湖近くまで薬草採取に行ったら、女性の人に託されたんです。……俺に託した女性はもういません。」


 何時の間にか俺をてっちゃんと呼ぶようになった門番さんに答えると、俺達の傍に近寄ってきた。

 俺の肩に手を置くと、ポンポンと叩く。


 「託された以上お前が面倒を見てやれ。……そんな話は結構あるんだ。皆、自分の家族のように大事にしてる」


 俺が頷くと、今度は隣にいるエルミアの目線に屈みこんだ。


 「いいか。兄貴の言う事を良く聞くんだぞ。そして嬢ちゃんが言う事を兄貴が聞かない時は俺に言え。1発ガツンとやってやる」


 そう言って、エルミアに微笑んで見せた。エルミアも愛想笑いをしているようだ。


 「とりあえずギルドに行け。そして、嬢ちゃんをハンターに登録してパーティ登録をするんだ」


 門番さんがギルドを指差す。

 俺は門番さんに頭を下げると、エルミアを連れてギルドに向った。


 バタンとギルドの扉を開けるとホールには誰もいない。 

 早速、チェリーさんのいるカウンターに向った。

 薬草採取依頼の完了報告を済ませると、エルミアのハンター登録をお願いする。


 「ネコ族のハーフは珍しいわね。じゃぁ、お姉さんの質問に応えてね」


 チェリーさんの質問に次々と応えて、最後に水晶球を両手で握る。俺の時と同じだな。


 「はい。これで良いわよ」


 そう言って俺の時と同じように、革紐の着いた銅版をエルミアに渡した。


 「あのう…2つ程確認したいんですが」

 「何かしら?」

 「俺の体を確認出来ますか?…実は、こういう事があったんです」


 半透明の女性の事と俺が飲んだ黒い球体の話をすると。直ぐに、チェリーさんがカウンターから水晶球を取り出した。


 「カードを貸して。そして、この球体を両手で持ってね」


 俺が球体を持つと前と同じように光が球体の内部を飛び跳ねている。そして、新たにもう1個の光が加わり前の光と同じように飛び跳ねている。やがて2個の光が合体して中央で明暗を繰り返している。

 光が落着いた所で、チェリーさんが箱からカードを取り出して確認している。


 「てっちゃんの属性が変わったわ。人間から人間/エルフになってる。それと、特殊能力にサフロ体質が付加されてる。結構使えるわよ。……人間とエルフのハーフと考えればいいわね。寿命も延びるし、その若さを保てるわ。魔法力も2割程人間より上がるわ」


 そう言ってカードを返してくれた。


 「後1つは、そんな訳でエルミアと一緒にパーティを組みたいんですけど」

 「2人のパーティ登録は済んでるわ。良い名前を考えなさい」


 パーティの名前か……。俺って意外とネーミングセンスが無いからな。

 チラリとエルミアを見る。


 「何か、良い名前が無いかな?」

 「名前?……アクトラスはどう?」


 俺の問いにしばらく考えていたエルミアが応えた。


 「ずっと東の大陸にそびえる山脈の名前ね。良いんじゃない。2人のカードを貸して」


 俺達のカードを受取って箱に入れると、何やらカチャカチャと操作していた。


 「はい。名前の下を見て。そこにパーティの名前があるわ。これで、1度に2件の依頼を受ける事が出来るわよ。頑張ってね!」


 そう言ってカードを返してくれた。

 最後にエルミアの宿泊代を5L渡して、部屋に向かう。

 扉を開けて木箱の上に肩掛けバッグを置くと、エルミアを連れて食事に出かけることにした。


 でも食堂の前にちょっと寄り道して雑貨屋に向かう。

 雑貨屋の扉を開くと、カウンターから「いらっしゃい」とお姉さんが声を掛けてくれた。


 「すいません。この子に合う、麦藁帽子がありますか? それと、雨の日に使えるマントがあれば……」

 「ちょっと待っててね。帽子はこれでいいかな、マントはこれが可愛いわ」


 お姉さんはカウンターから出て、エルミアに色々と帽子を載せたり、マントのガラを合わせたりしていた。

 あれだと、もう少し掛かりそうだ。雑貨屋の陳列棚を覗いて時間を潰す事にした。

 そんな時、ちょっと使えそうな物を見つけた。鍬の柄だ。これは買わねばなるまい。


 「帽子は穴を開けて周りを布で縫ったから耳に引っ掛から無いわよ。マントは薄手だけど雨が通らないようにきつく織ってあるし、油も染み込んでるから大丈夫よ」


 お姉さんはエルミアの腰に付けたバッグの上にマントを丸めて革紐で固定してくれた。帽子も、可愛らしく頭に乗っている。

 

 「すみません。それと、この棒が欲しいんですけど……」

 「これは、農夫の方が買うんですけど、ハンターですよね?」


 俺は頷いた。お姉さんはちょっと不思議そうな顔をしたけどね。


 「え~と、帽子が30L。マントが50Lで、その鍬の柄が10Lです。合わせて90Lです」


 革袋を取り出して代金を支払う。

 3日分の儲けが無くなったけど、これから取り返せばいい。


 そして、俺達は食堂に向った。カウンターのおばさんに10Lを払ってテーブルについて待っていると、何時ものシチューとピザのようなパンが出て来た。

2人でモシャモシャと食べていると、リスティナさん達が入口の扉を開けて入ってくるのが見えた。

 手を振ると、リスティナさんが小さく手を振る。3人はおばさんに代金を払うと俺達のテーブルにやって来た。


 「久しぶりですね。……其方のお嬢さんは?」


 俺の隣でシチューを食べていたエルミアを見て言った。


 「ちょっとね。俺の妹になるのかな?」


 俺がそう言うと、エルミアは椅子から立ち上がり、リスティナさん達3人にお辞儀をする。


 「エルミアと言います。どうぞよろしく」


 そう言うと椅子に腰掛けてまたシチューを食べ始める。

 そんな彼女を3人が優しそうに見ていた。


 「礼儀正しい子ね。でも、この子はネコ族よね。どういう事なの?」


 まぁ、リスティナさんもエルフ族だから少しは関係あるかもね。

 俺は、薬草採取の時に出会った半透明の女性の話をした。


 「今、そんな高度な魔術が使えるとなると、エルフ族でも有名な人になるわね。……エルちゃん、お姉さんの名前を教えてくれる?」

 「え~とね。確か……アルクテュールのはずだよ」


 ようやくシチューを食べ終えたエルミアがコップの水を飲みながら応えると、リスティナさんは、「えぇ!!」って言いながらその場に立ち竦んだ。


 「知ってる人なの?」


 落ち着いて、ゆっくりと席についたリスティナさんに俺は聞いてみた。


 「知ってるも何も、エルフ族の異端児とまで言われた存在よ。その魔力はエルフ族で並ぶ者は無しとまで言われた優れた魔術師だけど、皆と一緒に暮らすのがイヤで、エルフの里を飛び出したって聞いてるわ」

 「でも、リスティナさんも里を出てるんでしょう」 

 「私は、唯のエルフ。アルクテュール様はエルフの長老氏族に繋がる家柄なの。身分が全く違うわ」

 

 そんな話をして、食事を終えた俺達は先にギルドに引き上げる。

 部屋に戻る前に、倉庫みたいな部屋に立ち寄り、スコップナイフを1本頂戴した。


 部屋に戻って気が付いた。この部屋にはベッドが1つしかない。

 俺には少しやる事があるから、先にエルミアをベッドで休ませる。


 そういえば食堂でリスティナさんがエルちゃんって言ってたな。エルミアと言うより親近感が湧くよな……。

 そんな事を考えながら、俺は夜なべ仕事を始める。


 鍬の柄の先端は四角に形作られている。丁度鍬を取付ける部分だな。そこを丸く削る。そして、鍬が抜け落ちないようにクサビを打ち込む切り欠きをマルチプライヤーのノコギリで少しずつ深く切り込む。

 頂戴した短剣の柄を分解すると、短剣の柄に挟まれる鉄の部分が鍬の柄に入るように慎重に少しずつ、ノコギリで鍬の柄を切り込んでいった。


 丁度入る深さまで切り込むと、ナイフの留金の位置を鍬の柄に印を付ける。今度はマルチプライヤーのリーマーで鍬の柄に穴を開ける。

 そして、スコップナイフを鍬の柄に入れてから留金で動かないようにすると、濡らした革紐できつく柄を縛り上げる。

 短剣のケースのベルトに止める部分を切取って、ケースに先端にリーマーで穴を開け、革紐を通した。使う時はケースを取って革紐をベルトに通しておけばケースが無くなる事は無いだろう。

 

 スコップナイフと鍬の柄を持ってぐらついていない事を確認しておく。

 これで、俺の武器が1つ増えた。槍モドキだけど、切る事も可能だ。スコップナイフは両刃だし鍬の柄が楕円だから、歯の向きは一々短剣を見なくても分かる。


 出来上がって、ほっとした所でエルちゃんの隣にお邪魔する。

 隣に人がいるだけでこんなに緊張するとは思わなかった。中々眠れなかったけど、何時の間にか寝入ったようだ。

                ◇

                ◇

                ◇

 「お兄ちゃん、おはよう!」


 耳元でそういう声に俺が目を開けると、すっかり身支度を済ませたエルちゃんがベッドの傍に立っていた。


 「あぁ、おはよう。昨夜は良く眠れた?」

 「うん。お兄ちゃんが傍にいたから……」


 俺の問いに嬉しそうな顔をしてエルちゃんが言った。

 早速、俺も身を起こして身支度を済ませる。

 2人でギルドの庭にある井戸に行って顔を洗い、ギルドの向かいにある食堂に出かける。

 何時もの朝食を頂いて、お弁当を購入した。


 一旦、部屋に戻ると、装備をもう一度点検する。


 「持てない物があれば、これに入れて。これは、お姉さんに貰った魔法の袋。この箱3つ分位は楽に入るの」


 そう言って、腰のバッグから大きな袋を取り出した。くるくると丸めて入れていたみたいだ。


 「でも、いろいろ入れたら重くならない?」

 「大丈夫。この袋の重さは変わらないの。……これ、お姉さんが使ってたけど、お兄ちゃんもタバコを吸うんでしょ。使って!」


 そう言って、長さ40cm位の銀のパイプを取り出した。

 見るからに、高そうな品物だ。凝った彫刻が至る所に彫ってある。


 「いいのかい。お姉さんの思い出の品じゃないの?」

 「お姉さんは使わなくなったし、お兄ちゃんが何時も持ってれば同じ事……」

 

 俺は、有難く頂いた。後はタバコの葉を買うだけだけど、雑貨屋に後で行ってみよう。


 「これが入るかな。俺の荷物はこれだけなんだ」

 そう言って、ナップザックを箱から出した。


 「大丈夫。入るわ」


 エルちゃんはナップザックを受取ると魔法の袋に入れた。確かに袋に入れたはずなんだけど、袋は膨らみもしない。そして袋をくるくると丸めて腰のバッグに入れた。

 

 昨夜作った槍を俺が杖代わりに持つと、2人でホールに下りて依頼掲示板の前に立つ。

 大きな掲示板が4つ並んでいるが、俺達が受けられるのは1番左の1番下にある数枚の依頼書だ。

 早速2件の依頼書を掲示板から剥がしてチェリーさんの所に持っていく。

 

 「早速、2件受けるのね。…はい。頑張ってね!」


 依頼書に確認印を押して貰って、それを腰のバッグに入れる。

 今回の依頼は、サフロン草20個、とデルトン草20個だ。それぞれ25Lと30Lの報酬が得られるし、余分に採取した分も売る事が出来る。

 俺達の1日の必要経費は22Lだからこの依頼で十分だろう。


 南門に向かう前に雑貨屋に寄ってタバコを購入する。小さな革袋に刻んだタバコの葉が入っている。値段は1個8Lだったけど、葉だけなら5Lという事だ。

 早速、購入すると装備ベルトに挟んでおく。


 南門の門番さんに挨拶して、いよいよ薬草採取だ。図鑑の地図を見ると、何時もの採取場所から下った所に薬草の名前が書いてある。


 「デルトン草は、30個位取ってあるよ」


 そう言って、肩掛けバッグの中を見せてくれた。確かに沢山入っている。


 「でも、これはエルちゃんが集めた物だろ。これを使っていいの?」

 「うん。これから一緒だもん」


 という事で、依頼書の片方が終ってしまった。後はサフロン草を探すだけになる。

 荒地の斜面を湖の方に下っていく。

 確か、ジュリーさん達が野犬に追われていたのもこの辺だったような気がするぞ。そんな事を思い出した俺は、改めて槍を持ち直した。


 「私が探すから、お兄ちゃんは周りを見てて!」


 エルちゃんの一言で俺の役目は周辺の監視になった。早速、槍を手にして辺りを見回る。

 その間に、エルちゃんはせっせとサフロン草の球根を集めている。

 

 1時間程過ぎると一休みだ。

 見晴らしのいい場所に小さな焚火を作り、ポットでお湯を沸かす。

 コップにお茶の葉を入れて、熱いお湯を注ぐ。少し冷めた頃に先端に穴が沢山空いたストローでお茶を飲む。 


 季節は夏に向かっているけど、熱いお茶も捨てがたい。そして、エルちゃんに貰ったお姉さんのパイプを使わせてもらう。

 パイプは初めてだが、購入したタバコの葉を詰め込んでライターで火を点けた。

 スーっと吸い込むと俺の吸っているタバコよりも軽いような気がする。これで、後1箱と数本になったタバコが無くなっても何とかなると思うと、少し嬉しくなった。

 ちょっとタバコよりも長く吸っていられるようだ。詰め込むタバコの葉の量に注意しなければと思いながら、パイプを布に包んで腰のベルトに戻した。

 

 「今度は俺が取るから、エルちゃんが見張っていて」


 そう言うと、エルちゃんは俺にサフロン草の葉を教えてくれた。

 どう見てもヨモギにしか見えないが、慎重にスコップナイフで掘り起こすと小さな球根が付いている。

 エルちゃんが渡してくれた小さなざるに球根を集めていく。

 1時間程すると、15個位集める事が出来た。

 

 昼食の場所をエルちゃんと探す。すると、更に下の方で薬草を採取している人物を見かけた。

 男の子が1人、周囲を見張っている。どうやらリスティナさん達のパーティみたいだ。


 「おぉーい!」


 大きな声をあげて手を振ると、3人が此方を見上げて手を振ってくれた。

 リスティナさん達もどうやら仕事を切り上げて昼食にするみたいだ。俺もエルちゃんを連れて斜面を下りて行った。


 「こんにちは」って互いに挨拶を交わすと、早速昼食の場所を探す。

 近くの比較的傾斜の緩い場所を探すと、早速焚火をするとポットでお湯を沸かし始めた。


 リスティナさん達も食堂のお弁当みたいだ。ピザモドキを腰のバッグから取り出すとエルちゃんと分ける。コップにお茶を入れてお湯を注ぐと、ストローで掻き混ぜながら冷めるのを待つ。


 「採取は上手く行っているの?」

 「あぁ、エルちゃんがいるから教えて貰えるし、周囲の警戒も交互に出来るからね。1人より安心して出来るよ」

 「この辺りは、結構野犬が出るから油断は出来ないわ。……でも薬草の宝庫だしね」


 リスティナさんの言葉に、ルミナスが頷いている。


 「野犬は茂みを利用して近づいて来るんだ。なるべく茂みが少ない所で採ると良いよ。」

 「襲う時までは、吼える事も無いの。吼えられたら、もう後は戦うしか無いわ。この間は、吼える前に見つけたから逃げられると思ったんだけど……」

 

 「じゃぁ、あれ位だとどうするの?」


 そう言ってエルちゃんが指差した茂みから、数匹の野犬が此方を見ている。

 思わずギョ!っとなったけど、リスティナさんは俺達に冷静に指示を出す。


 「てっちゃんとルミナスは前衛をお願い。私とサンディは両翼に、エルミアちゃんは真中に入って!」


 俺は数歩前に出ると短剣のケースを外してケースの紐をベルトに通しておく。

 「それって、杖じゃないのか!」

 「あぁ、昨夜作ったんだ。ナイフを先端に付けてある。結構使えるぞ!」


 俺の右側に長剣を肩に担いで立つルミナスに応えた。

 野犬は俺達に少しずつ近づいてくる。


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