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N-039 バリアント

 通路の奥にほのかに光ながら蠢くもの。それがバリアントらしい。

 近付くにつれその姿の全ぼうが見えてくる。

 ゼリーをバケツで作って、中にソフトボールを入れたような姿だ。

 赤や緑そして紫の透明なそれは、どうみてもフルーツゼリーにしか見えない。中の核も見た感じは果物のようにも見える。

 思わず、スプーンを持って駆け出したくなるような姿、……それがバリアントだ。


 よく見ると、1cm程の触手を2m程伸ばして床を探っている。あれが毒の爪を持つ触手のようだ。


 「バリアントは歩く位の速さでしか動けないにゃ。2人ずつ撃って後ろに下がるにゃ」


 俺達は6人だから、2人ずつ3組で撃つことになる。撃った後で後ろに下がって、カートリッジを詰めれば、連続して攻撃できると言う訳だな。


 「最初は離れた所から撃つにゃ。直ぐに襲ってくるから私等が撃つにゃ」

 

 俺とエルちゃんのライフルなら50mは必中距離だ。

 狙いはゼリーの中の果物に見える核そのもの。核以外は傷を修復してしまうらしい。


 俺とエルちゃんはアイネさんの前に出ると慎重に狙いを定める。

 距離は30mもない。

 ハンマーを起こして、トリガーを引いた。


 ドォン!っという音は殆ど同時だった。2匹のバリアントが急速に萎んでいく。

 直ぐに後ろに下がるとアイネさんとマイネさんがロアルを構える。


 カートリッジを詰めていると、銃声と共に後ろに下がってきた。

 次ぎはミイネさんとシイネさんだ。


 俺達の前でロアルを片手で構えて2人が立っている。その2人の肩越しにバリアントが見える。その距離は10mも無いぞ。


 銃声が響いて2人が後ろに下がったので俺達が最前列だ。

 残ったバリアントは2匹。良く狙ってトリガーを引いた。


 「終ったにゃ。マイネにミイネ、外したにゃ?」

 

 2人お姉さんがアイネさんの言葉に下を向く。

 まぁ、幾ら性能が良くても拳銃だからね。あの的を当てるのは難しいと思うな。


 「あったにゃ!……赤と茶の魔石にゃ!」

 

 シイネさんが何時の間にか消えたバリアントのいた場所から2個の魔石を拾ってきた。

 

 「濁りがキツイにゃ。低位の魔石にゃ」

 

 そう言うと、バッグの魔法の袋から小さな木箱を取り出した。中は小さな仕切りが入ってそこには綿が摘められている。その中に大事そうに魔石を入れると蓋を閉めた。


 あの箱は魔石を保管する専用の箱らしい。20個程の魔石が入るようになってる箱は、魔物を狩るハンターの必需品だと、ミイネさんが教えてくれた。


 「銃のカートリッジを確認して先に進むにゃ」


 アイネさんの言葉に俺達は迷宮の奥を目指す。


 バリアントは魔物ではあっても容易に倒せる相手だ。それは、銃の腕がある程度必要ではあるが、的当てができる位の腕があれば難しくは無いだろう。

 そして、この迷宮の入口近くに生息している魔物はバリアントだけだ。

 俺達は30匹近くのバリアントを倒して魔石を9個得ることができた。その内の1個は灰色に見える魔石だ。これが白の魔石らしい。かなりレアらしく、他の魔石の10倍の値が付くとお姉さん達が喜んでいた。


 アイネさんは魔物が出ると俺達に最初の攻撃をさせてくれる。

 最初は持ってるライフル銃の命中率が良いことからだと思っていたが、どうやら俺達のレベルを早く上げたいみたいだな。

 早く、白になればそれだけ迷宮の奥に進めるからだろうが、それなりの収入が得られればあまり頑張る必要がないと思うけどな。


 長い通路を進んだ先は行き止りだった。

 1枚の巨大な岩が行く手を阻んでいる。


 「此処で野営するにゃ。迷宮に入ってだいぶ時間が過ぎてるにゃ」


 そう言って、ベルトに挟んだ小箱を見ている。

 

 「これにゃ?……ゆっくり燃えていくから時間が分るにゃ。これ1個で1日にゃ」


 俺の視線を感じてかアイネさんが腰に下げた小箱を見せてくれた。

 それは、渦巻き線香みたいなものだった。

 燃えた長さで時間を計るみたいだな。

 出掛ける時に焚火で火を点けたらしい。あれから俺の時計で9時間が過ぎている。線香の残りが三分の二位あるから、大まかな時間を計るには確かに十分だろう。

 途中に切れ目が何箇所か入れてあるからそれが経過時間の目安なんだろうな。


 早速、携帯コンロを取り出して携帯食料でスープを作る。コンロの傍にお茶のポットを置いてあるから、食事が終ればお茶も飲めそうだ。


 奥の壁の手前にシートを敷いて、食事が終ると直ぐに横になる。

 3時間おきに見張りを交替すると言っていたから、6時間は寝られるな。

 お茶を飲みながらパイプを楽しみ、エルちゃんと一緒にマントに包まると直ぐに眠ってしまった。


 ゆさゆさと体を振られて目が覚めた。

 

 「お兄ちゃん。今度は私達の番!」

 「あぁ、そんな時間か」


 そう言って、マントを出て携帯用コンロの傍に行く。

 エルちゃんの入れてくれたお茶を飲んで頭をはっきりさせる。


 「起きたにゃ。ここまで来たら、アイネを起こすにゃ!」


 線香時計の目印を俺と、エルちゃんに教えるとミイネさん達は壁際に移動して横になる。


 「ライフルは傍に置いて置けば良い。前方に光球が2個あるから、バリアントが接近すれば分る筈だ」

 

 俺達の前方5mと20m付近にほわほわと浮かんでいる光球を見てエルちゃんが頷いた。

 俺達の見張り番は3時間程続く。

 エルちゃんはお茶を飲みながら編み物を始めた。まぁ、時間つぶしには丁度いいかもな。何時の間にか、手元を見ないで編めるようになってるし……。

 俺の方は、パイプを楽しむ位しか閑をつぶすものがないのが問題だ。

 

 最初に気付いたのは、エルちゃんだった。

 ネコ族の目の良さは侮りがたいものがあるな。


 「お兄ちゃん。奥で何かが動いてるよ!」


 編み物を止めて俺に暗闇の奥を指差した。

 俺には何も見えない。少なくとも距離は50m以上離れているようだ。

 急いで編み物をバッグに仕舞ったエルちゃんは、ライフルを手に持って俺の指示を待つようにこっちを見ている。


 「俺には、まだ見えないんだ。光球を奥に移動できるかな?」

 「いいよ」


 エルちゃんの言葉と同時に20m程先に浮かんでいた光球がスィーっと奥に向かって滑るように移動した。


 光球の明かりで蠢く物が俺にも見えた。

 最初は蛇だと思ったが、よくよく見ると少し違う。

 蛇のように長い胴体だが厚みがない。ムカデの大きな奴だ。

 10匹近い大ムカデが少しずつ俺達の方に這いずって来る。

 

 素早くM29を抜くと素早く3発を奴ら目掛けて撃った。床すれすれで撃ったから何匹かには当たったろう。


 マグナム弾の轟音に耳が痛くなった。エルちゃんが恨めしそうに俺を見ている。


 「何なんにゃ!」


 寝ていたお姉さん達も余りの轟音に飛び起きたようだ。


 「あれです。こっちに向かってきますよ」

 「サーフッドにゃ。牙はナイフ並みに良く切れるにゃ」


 「あれに急所ってあるんですか?」

 「サーフッドに急所はないにゃ。白殺しって呼ばれてるにゃ」


 初心者はこいつにやられることが多いってことだな。

 かなりマズイ相手みたいだ。


 「バリアントと同じにゃ。2人ずつ撃って下がるにゃ。【メル】も有効にゃ」

 

 アイネさんの指示が飛ぶ。

 俺とエルちゃんがライフルを構えて、直に発砲した。後ろに下がる前にエルちゃんが【メル】をサーフッドに飛ばす。


 再び俺の撃つ番になった時には、硝煙で前方が余り良く見えない。それでも、10m程先に蠢く物目掛けて銃弾を放つ。


 俺とエルちゃんが後ろに下がってカートリッジを装填し始めたが、アイネさん達は銃を撃たずにジッと前を見ている。

 終ったのだろうか?

 アイネさんの直ぐ後ろでは、ミイネさん達が杖を構えていた。


 「何とかなったかにゃ?……しばらく様子を見るにゃ」


 段々と薄れていく硝煙の中で、もがいているサーフッドの姿が見える。

 やがて、もがき方が緩慢になり、床に吸い込まれるようにその姿を消した。


 「此処はどの辺りにゃ?」


 アイネさんがエルちゃんに訊ねてる。

 エルちゃんは肩掛けバッグを持ってきて、迷宮の地図とマッピングのメモ帳をしばらく見詰めていた。


 「この場所です。何時の間にか、かなり奥に入ってしまってます」

 「……少し早いけど、休憩は終了にゃ。急いで元の道を辿って、こっちに行くにゃ」


 どうやら、迷宮の奥に入りすぎたようだ。

 急いで撤収準備を始めた俺に、まだ奥に行くのは早いと教えてくれた。

 アイネさん達もサーフッドは初めて相手にするようで、上手く倒せて良かったにゃって呟いている。


 それでも、11匹の魔物を狩ったから魔石を得ることができた。赤が3つ、当然品位は低い物だけどね。


 光球を先行させて俺達は迷宮を戻り始めた。

 今浮かんでいる光球は2回目の【シャイン】で作られたものだ。おおよそ、12時間程度の持続時間みたいだな。


 「ここで右に曲ったにゃ。このまま進めば出口に近くなるにゃ」

 

 途中の分岐路を俺達は直進して進む。

 エルちゃんが地図を見て頷いてるから、たぶんそうなんだろうな。


 足音が響かないのも問題だな。後方から接近する魔物に気付くのが難しい。

 ネコ族は勘がいいっってことに期待するしかないんだが、時折後ろを振り返って何もいないことを確認するのは俺の役目になっている。


「前方にバリアントにゃ。てっちゃん達に任せるにゃ。援護はミイネ達がするにゃ」


 そう言って後方に下がって後方の警戒を始める。

 前方のバリアントは3匹だ。

 ライフルを構えて慎重に狙いを付け、トリガーを引く。

 急いでカートリッジをばれるに押し込んで狙いを付けていると、エルちゃんが俺より先に発砲した。

 ライフルを構えたまま、しばらく様子をみていると、バリアントは床に吸い込まれるように姿を消した。


 急いでバリアントが消えた辺りを探したが魔石は見つからない。

 魔石の出現確率は3割程度と言っていたからな。無くてもしょうがないか……。


 「4匹でも出ないことが多いにゃ。5匹なら確実にゃ」

 

 そう言ってシイネさんが俺を慰めてくれる。

 相当がっかりしたように思われたのかな?

 「次も頑張ろうね」ってエルちゃんも言ってくれたし……。


 気を取り直して、通路を先に進む。通路の先は左側に直角に曲っていた。

 アイネさんが俺達の歩みを止めてまたしても鏡で左手を確認している。


 「大丈夫にゃ」

 

 その声に俺達は再び歩き始めた。

 やはり、迷宮の規模は大きい。数km四方……いやもっと大きいのかも知れない。そして、先行して入った筈のチームの銃声さえ聞こえない。

 10チーム程が同時に入っても、迷宮の中で出会うことがないのかもしれないな。


 2時間程歩いた俺達は、真っ直ぐな通路の真ん中で休憩を取ることにした。

 携帯コンロでお茶を沸かすとカップ1杯のお茶を受取る。

 えるちゃんと一緒に、歩いてきた方向を監視しながら、熱いお茶を飲み始めた。


 アイネさんが、「忘れてたにゃ!」って叫ぶと、時間を計る線香に火を点けている。

 忘れていても程問題になるような時間は経っていない筈だ。俺の時計では迷宮に入って30時間程だからな。


 休息を終えるとまた歩き始める。魔物がいる場所に共通点はない。ひたすら歩きながら遭遇するのを待つだけなのだ。


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