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N-038 迷宮

 着替えを終えたエルちゃんが俺の前でクルリと回った。

 装備ベルトの背中には片手剣が取り付けてあるし、小さなポーチにはロアルの通常弾が10発入っている。

 肩掛けバッグには地図や筆記具が入っている。そして、腰のバッグには魔法の袋が2つ。エルちゃんの水筒はその中に入っている。後は、ライフルを担ぐだけだな。


 俺の方も同じように革の上下に装備ベルトを付けてマイデルさんに貰った長剣を背負っている。片手剣はバッグの魔法の袋の中だ。

 ライフル重視で狩りをしようと思う。M29は連発が可能だが今のところは1日6発だからな。弾丸ポーチにはパレトの通常弾が10発。強装弾も使えるとマイデルさんは言っていたけど、それを使う程の敵ならM29で良い筈だ。

 腰のバッグの上にはスリングでマントとシートを丸めて取り付けてある。そして、バッグの隣には水筒を下げた。


 リビングに行くと、お姉さん達が仕度を終えて俺達を待っている。


 「準備はいいかにゃ? 途中の食堂でお弁当を受取れば後は狩りをするだけにゃ。」


 そう言って、入口に立て掛けた杖を持ってリビングを出て行った。

 俺達も槍と杖を取って急いで通路に出ると、エルちゃんがちゃんと扉に鍵を掛けた。


 正直者を絵に書いたような種族だから、人の物を横取りするような人がいないのだろうが、一応念のためだ。ネコ族以外の者もたまにやってくるらしく、外出時には鍵を掛ける習慣が何時の間にかできたみたいだ。

 万が一、そんな不心得者が出ると集落を永久追放されるらしい。

 そして、追放された者がネコ族ならば直ぐに見分けが付く。何と、耳を斬られるらしいのだ。耳を着られた者はネコ族として相手にされないと言っていた。

 意外と過酷な刑罰に思えるが、今だかつて耳を切取られた者はいないと言っていた。

 

 「此処が食堂にゃ。ちょっと取ってくるにゃ」

 

 そう言って、スプーンの看板が出ているカーテンを開いて中に入って行く。

 しばらく待っていると、お姉さんが出て来た。


 「ちゃんと出来てたにゃ。これなら明日の朝まで大丈夫にゃ」


 いったい幾つ頼んだんだろう?

 食堂を過ぎて、洞窟の通りを道なりに歩いて行く。

 途中で籠を背負った人や、子供達とすれ違う。

 エルちゃんより少し小さい位の子供達だ。ちょっとエルちゃんが羨ましそうに後を振り返っている。


 「この先に広場があるにゃ。畑や子供達の遊び場があるにゃ」

 

 左へ行く道を指差してお姉さんが教えてくれた。

 でも、今は冬の最中だよな。畑仕事ってあるんだろうか?


 更に道は続いている。

 道に勾配は無く、ずっと平らなままだ。

 そして畑への岐路からは、壁の灯りも無くなった。

 シイネさんが【シャイン】で光球を作り、その光球が先頭を歩くアイネさんの頭の上で揺れている。


 そう言えば、雨具は必要ないと言ってたな。

 このまま進むと迷宮に着くのだろうか? ひょっとして迷宮の出入口にネコ族は集落を作ったのかも知れないな。


 ひたすら歩いて行くと、所々にちょっとした広場がある。

 そんな広場の1つで俺達は休憩を取る。


 「迷宮の入口はずっと先にゃ。こんな場所が沢山あるにゃ」

 

 この広場は周囲の壁を鑿で削った跡がある。

 利用者が少しずつ削ったのか、それとも誰かの指示で急造したのか……。今では知る人もいないらしい。


 水筒の水を飲んで先を急ぐ。

 1時間程歩いて、同じような広場を使って休息を取る。 

 どうやら、昼食は取らないようだ。


 6時間も歩いたろうか。少しずつ道幅が広くなったようにも思える。

 集落を出るときは横幅2m程のトンネルだったが、今では3mを越えているぞ。

 そして、大きく曲る道を抜けると、左手に巨大な氷のカーテンが現れた。

 

 「此処は断崖の中腹にあるテラスにゃ。冬は氷で塞がれるって食堂にいたハンターが言ってたにゃ。迷宮の入口はここからもうちょっとにゃ」


 お姉さんの1人が俺達に振り返って教えてくれた。尻尾がトラ模様だからマイネさんだな。

 確か予定では迷宮の入口で野営して次の日に入るようなことを言ってたな。という事は、今日の行軍はもうすぐ終わりになるということだ。


 「見えたにゃ。初めて見るけどあれが迷宮の入口にゃ!」


 先頭を歩くアイネさんが俺達に振り向いて叫んだ。

 俺達も足を速めて、アイネさんの傍に行く。その先にあるものを見て驚愕に自然と口が開く。


 俺の目には地下神殿としか見えない。

 ギリシア風の石の列柱が10本以上並んだ奥に大きな入口が開いている。その神殿の前はちょっとした石版を張った広場になっており、広場から入口までは列柱の幅いっぱいに石段が続いている。

 良く見ると、神殿の奥にも道が続いていた。


 そんな神殿の横に、ログハウスが違和感たっぷりに作られている。

 ログハウスの前に焚火が作られており、数人のネコ族の男が暖を取っていた。


 「迷宮に行くのか?」


 俺達が傍を通り掛ると、男の1人が声を掛けてきた。


 「そうにゃ。今夜はここで野営にゃ。明日一番で入るにゃ」

 「ならば、事務所で手続きをしていくが良い。それが此処のしきたりだ。」


 「行って来るにゃ!」


 そう言ってアイネさんがログハウスに走って行った。


 「ありがとうございます。初めて入るのでしきたりを知りませんでした」

 「気にするな。その為に俺達がいる。この迷宮はこの島では最大だ。まだ最深部に到達した者はいない。

 初めてと言ったな。なら、最低限のしきたりを話しておくぞ。

 まず、迷宮に入るときと出るときは、事務所にチーム名と人数を告げる。そして出て来たときも同じだ。

 それで、迷宮のどの位置で被害が多いかが分る。次に入る者にそれを警告すれば被害も少なくなる。

 迷宮の階層は不明だが、階層ごとに決まった魔物がいる。それ以外の魔物がいたら必ず報告すること。これが2つ目だ。

 最後に、敵わないと思ったら逃げろ。そいつが迷宮の外に出ても構わぬ。その為に俺達が待機しているのだ」


 焚火にのんびりあたっていると思ってたけど、待機してたんだな。

 ネコ族の集落に害が及ばないように、優秀なハンターがここで待機しているようだ。


 「行って来たにゃ。あの事務所より集落側で野営するように言われたにゃ。水場も教えて貰ったから、大丈夫にゃ」

 「野営の場所も、さっき言ったことで分るだろう。あの辺りで皆は野営をしているぞ」


 そう言って、広場の一角を指差した。

 なるほど、先客がいるみたいだ。


 焚火を囲んでいた男達に礼を言って、教えられた場所に向かう。

 先客から離れた場所にシートを敷いて、携帯用コンロを使ってお茶を沸かし始めた。

 食堂で貰ってきたお弁当は平たい黒パンにハムのような燻製肉を挟んだものだ。それをお茶を飲みながら食べる。

 決して美味しいとは言えないけれど、贅沢を言ったらバチが当りそうだ。

 

 早々と食事を終えて、お茶飲みながら一服を始めた。

 煙は、集落の反対側の道へ流れていく。結構、奥深い場所なんだけど、空気の流通は良さそうだな。


 神殿自体がほんのりと光を発しているらしく、広場の端にいても明るく感じられる。

 俺達は用意してきたマントに包まって横になる。

 エルちゃんは俺と一緒だけど、早々と寝息を立てている。

 明日はいよいよ迷宮入りだ。頑張らなくちゃな。

               ◇

               ◇

               ◇


 スープの匂いで目が覚めた。

 携帯用コンロでスープを作ったらしい。昨日食べたお弁当は少し塩味が足りなかったから、これは嬉しいぞ。

 そして、朝食はお弁当だった。それでも、コンロで温めてスープと一緒に食べると昨夜と違って美味しく感じる。スープと一緒に食べるのを前提にしてるんじゃないのかな?


 「いよいよ、迷宮にゃ。エルちゃんは地図を見てて、常に現在の居場所を確認して欲しいにゃ」

 

 それって、自分では出来かねるってことかな?

 エルちゃんで大丈夫だろうか。俺もたまに見てやろう。


 「入る前に、銃のカートリッジを確認にゃ」


 俺達は各自の銃に付属の棒を入れてカートリッジを確認する。

 エルちゃんも、俺にこれだけしか入らないって指で教えてくれた。4cm程バレルより短いから入ってるな。

 俺のライフルには入っていなかったので、改めてカートリッジを入れて棒を使って押し込んだ。


 「次ぎは、薬草にゃ。デルトン3本とサフロン2本を薬草ポーチにいれとくにゃ」

 

 俺とエルちゃんがデルトンが2本しかないことを告げると、バッグの魔法の袋からデルトンの小さなボトルを取り出して渡してくれた。


 「準備は完了にゃ。道具を畳んで出発にゃ」


 俺達は、アイネさんを先頭に神殿のような迷宮に向かって歩いて行く。

 途中で焚火を囲んで座っている数人の男達に片手を上げて挨拶すると、彼らも軽く片手を上げてくれる。

 ちょっとした仕草だが、俺達の迷宮での狩りの成功を祈ってくれているようで嬉しくなるな。


 10段程の階段を上ると、列柱の後ろに大きな通路の入口のような感じで迷宮の入口がポッカリと開いていた。


 「シイネ、お願い!」

 

 アイネさんの頼みでシイネさんが【シャイン】の魔法を使う。

 シイネさんの頭上から、ほわほわとアイネさんの前方に移動していく。【シャイン】があれば松明はいらないってこんな事なんだな。


 アイネさんに続いて3人のお姉さんが入ると、エルちゃんそして俺の順番になる。

 通路は入口から少し入ると、縦横3m程の断面だ。そしてずっと奥に向かって続いている。

 エルちゃんが【シャイン】を使って光球を作って俺の後ろ数mのところに移動させた。

 俺達の歩みに合わせて後を着いて来る。


 2つの光球で前と後ろが良く見える。ちょっと足元は暗いけど、平らな通路だから躓くようなことはない。

 コツコツと杖をつく音だけがヤケに大きく聞こえる。不思議と反響音はしない。俺達の足音も殆ど聞こえない。唯の石壁のように思えるのだが、壁が音を吸収しているのかな?


 「私等の隣にいたチームが朝にはいなかったから、迷宮を先行してるにゃ。魔物が出ても、その先に明かりが見えたら、気を付けて撃たないといけないにゃ」

 「了解しました。……迷宮は広いんですよね」

 「広いにゃ。数チームが同じ階にいても会う機会は殆どないにゃ」


 そんな話を一番後ろを歩くお姉さんのシイネさんと話していると、先行していたアイネさんが立止まった。


 「十字路にゃ。今日は左に行くにゃ」


 そう言うと、ポケットから鏡を取り出して杖の先に結びつけると、十字路にそっと差し出して左右の通路を確認している。


 「大丈夫にゃ。バリアントは見えないにゃ」

 そう言って十字路を左に曲がった。俺達もそんなアイネさんに遅れないように付いて行く。


 エルちゃんが十字路の壁にチョークで印を付けて、メモ帳に十字路と曲った方向を書き込んでいた。

 ちゃんとマッピングをこなしているな。

 声を掛けて教えようと思ったけど、その前に必要な事はやっていた。

 意外とちゃんとした教育を受けていたんだろうか? 


 入口を入って1時間程経った時だ。

 前方に光が滲んでいるような感じでボワーっとした発光体を見つけた。


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