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N-036 ネコ族の集落

 「どうやら、しばらく続きそうだな」

 「少し、雪洞を広げましょうか。それに、片方の入口は閉じてしまいましょう」

 

 吹雪が長引く事を考えて、少しでもこの場所を快適にする必要がある。溝のように掘った片方の入口は雪洞を広げた雪で閉ざすと、少しは暖かく感じる。

 俺達の真中にエクレムさんの携帯コンロを置いて小さな鍋でスープを作る。

 雪洞の中の気温は零度前後なのであろうが、外の気温から比べれば十分に暖かい。


 カップに半分程度のスープに硬いパンを浸して食べるのだが、余り食欲は無いな。

 コンロが小さいから、食後のお茶も直ぐには沸かすことが出来ない。

 毛布に包まって、ひたすらお湯が沸くのを待っている。


 「まだまだ先なんでしょうか?」

 「そうだな。半分は過ぎたぞ。もう少し東に向かったら、今度は南だ。そして山に少し登ることになる」


 「それほど登らないにゃ。森の中を進むと大きな岩があるにゃ。ネコ族の集落はその岩の片隅から入るにゃ」


 洞窟に住んでるのだろうか? まぁ、分らなくもない千人単位で暮らせる洞窟住居だってかつてはあったんだからな。それに、洞窟なら家を作らずに住むし、夏は涼しく冬は暖かい。

 だが、食料はどうやって確保しているんだろう?

 獣を狩っても、たかが知れている。それに集落全体に行き渡るように狩りをするなんて幾ら獲物が豊富でも限度がある。

 畑を作っているか、何かを得て、それを食料と交換しているのかも知れない。


 「てっちゃん達にも、集落の仕組みを教えておかねばならないな。良い機会だ。ここで教えてやろう」


 そう前置きして、エクレムさんが集落の概容を話してくれた。

 やはり、思ったとおり洞窟住居だ。元は数十人が暮す洞窟だったらしいが、現在は拡張して、数百人が暮らしているらしい。

 そして、洞窟の奥を進むと周囲が崖になった土地に出るらしい。そこで細々と畑も作っているとのことだ。

 ネコ族の王都パラムが陥落した時に大勢のネコ族がやってきたらしいが、全てを受け容れられなかったと言っていた。

 そんな者達の一部は、更に山に入った場所で暮らしているらしい。


 「そんなネコ族の集落を俺達はネイルと読んでいる。そして、その暮らしの元になっているのが、迷宮探索だ」


 迷宮とは誰が作ったものかは定かでないという。しかし、人が住むには異質な空間であることは確からしい。

 その迷宮に何故人は入っていくのか? 答えは、唯1つ。迷宮に生息する魔物を倒せば魔石が手に入るからだ。

 

 そんな迷宮がこの島エイダスには何箇所か存在するらしい。

 そして、最大規模の迷宮がラクトー山の山麓の南側に存在するということだ。


 「パラムからも迷宮に入れた。ラクトー山の迷宮には何箇所かの入口があるらしい。迷宮は奥に行くほど、魔物が強くなる。そして階層が下がるほどにもな。お前達のギルドレベルは、この階層にも関係しているのだ。

 迷宮に入れる資格は白からだ。そして青になれば、階段を降りられるだろう」


 どうやら、ギルドレベルはハンターの迷宮探査の目安となっているようだ。

 俺とエルちゃんは赤だからまだ迷宮には入れないようだな。

 

 そして、迷宮の魔物を倒すことで魔石が手に入るらしいのだが、倒せば必ず魔石が手に入るものでもないらしい。

 たしかマイデルさんもそんな事を言っていたな。確率的な話だったような気がする。


 「集落に集められた魔石を取引するために商人がやってくる。ラクトー山の東にある神殿跡地で月初めに3日、市が立つのだ」

 

 その市で暮らしに必要な品物と魔石が交換されるらしい。

 古くはパラムで大規模に行なわれたらしいが、廃都になってからは細々と神殿跡地で行なわれているらしい。それでも、遠く東の大陸からも商人が船でやってくるということだ。


 「ボルテム王国がパラム王国に攻め入ったのも、魔石の取引を行なおうとして企てた物だ。だが、パラムにあった迷宮の封印を解いてしまい、企ては水泡に帰したのだ」


 それで、かつての王都には魔物が出るんだな。

 その王都の魔物を狙って、ラクト村からレベルの高いハンターが出掛けていたのか。

 お姉さん達もそんなハンターの一組だったんだろうな。


 「迷宮はボルテナン山脈に幾つか点在している。その迷宮から得られる魔石が各王国の主要な産物なのだ。とはいうものの、最大の迷宮はラクトー山にある。ボルテナン山脈意外では、砂漠地帯にあるとは聞いたが、俺は行ったことがない」

 「今でも、パラムは変わってないにゃ。焼けて、誰も住まなくなったけど、少し離れてみると昔のままにゃ」


 レイミーさんが、かつての都を思い出すように呟いた。

 それほど破壊されていないということなのだろうか? 宝物庫を探して破壊し捲ったと聞いたことがあるけど。


 「パラムに近付くなら青になってからだ。白では少しきついのが出てくるぞ」

 「王宮に近付かなければ白でも行けるにゃ」


 エクレムさんの言葉をやんわり否定したのはお姉さん達だった。

 という事は、お姉さん達は白レベルということらしい。


 「庶民街なら問題は無いが、たまに出てくるぞ。よくも今まで無事だったものだ」

 

 エクレムさんがそう言って呆れている。

 お姉さん達は4つ子だ。連携攻撃がキチンと出来ているんだろうな。

 

 そんな話をエルちゃんは俺の隣でジッと聞き耳を立てている。

 元王女なんだから興味はあるんだろうけど、口には出せないよな。


 吹雪で身動きは取れないけど、体力を回復するには丁度いい。

 それに、退屈凌ぎにエクレムさんが教えてくれるネコ族の情報も貴重なものだ。

               ◇

               ◇

               ◇


 吹雪は2日続いて収まった。

 雪洞を出ると眩しく雪原が輝いているし、空には雲1つ無く晴れ渡っている。


 朝食を素早く済ませると、俺達は東に向かってまた歩き出した。

 北は何も見えないが、南には大きな山が見える。どうやらそれがラクトー山らしい。

 あの山の地下に大きな迷宮があるとはとても信じられないが、そのおかげでネコ族の人達が小さな集落を維持できるのだから、世の中悪いことばかりじゃ無さそうだな。


 そんな雪原の行軍が3日続くと、俺達は南へと進路を変更した。


 「このまま、2日程あるけば森に入れるぞ。森を2日程度歩けば、集落が見えてくる筈だ」


 残り4日と言うことだが、ここは5日と考えていた方が良いだろう。それでも、ようやく俺達の逃避行が終わりを迎えそうだな。


 南に向かって1日歩くと、南西方向に大きな森が見えてくる。ラクトー山の東に広がる森のようだ。この辺には村もないから訪れるのはハンターだけだろう。手付かずの森って感じなのかな。


 次の日、ようやく森の入口に入った。

 大きな大木の吹き溜まりに雪洞を掘って夜を明かす。


 森の中はまるで迷路のようだ。

 大木が行く手を阻み、その都度俺達は進路を変える。

 こんな感じで方向を見失わないのだろうかと心配していると、たまにエクレムさんが立止まってポケットに入れた小さな物を見ている。

 磁石があるってことか?

 それなら、方向を見失うことはないだろう。

 たまに森の木々から見えるラクトー山n付属した小さな峰の方向も確認しているようだ。

 

 「明日には集落の入口が見られるぞ。もう直ぐだ」


 その夜、お茶を飲んでいた俺達にエクレムさんが教えてくれた。

 小屋を出てからどれ位過ぎたんだろうか。

 一月は経っていないような気がするけど、だいぶ歩き続けた事は確かだな。


 次の日、昼過ぎに俺達の前に大きな1枚岩が、行く手を阻むように聳えているのが見えた。


 「あの大岩の左端に入口がある。今日は此処で野営して明日、集落に入るぞ」


 ようやく、逃避行の終わりが見えた感じだ。

 エルちゃんも弱音を吐かずによく頑張ったと思う。

 お姉さん達の顔も心なし安堵の色が見えるぞ。


 翌朝、朝食を終えた俺達は大岩に向かって歩き出す。

 大きいから距離感が湧かなかったんだろう。幾ら歩いても中々着かないぞ。

 何度か休憩を取りながら歩き続けると。昼過ぎにようやく大岩の真下に出た。

 雪が俺の身長より高く吹き溜まりになっている。


 「こっちだ!」


 エクレムさんが大岩を見上げていた俺達に告げる。

 そして直ぐに大人2人が並んで入れるような洞窟の入口が俺達の前に姿を現した。

 その洞窟の入口は逆茂木で閉ざされている。


 「エクレムだ。ラクト村から仲間を連れて来たぞ!」


 大声で洞窟の中に呼び掛ける。

 すると、逆茂木が洞窟から押し出されるようにして動き始めた。

 逆茂木の僅かな隙間から身を乗り出すようにして一人の男が現れた。


 「エクレムか、レムナム軍が動いたと聞いて心配したぞ。よくもボルテナン山脈を越えて来たものだ。小さいのもいるのか。さぞや苦労しただろう。さぁ、こっちだ。一応身元を確かめることになる」


 逆茂木は洞窟から完全に滑リ出していた。

 数人でソリのような架台を押して出し入れしているらしい。

 入口に扉がないから、これが扉代わりなんだろうな。


 男に案内されて洞窟の中に入る。

 中は横2m高さ3m程の四角張った断面の通路のようだ。途中途中に、ランプが置かれているから真っ暗ではない。俺にはちょっと暗いけど、ネコ族の連中にはこれで十分なのだろう。


 数十m程歩く間に左右に数箇所の獣の革が掛けられていた。その裏には部屋があるんだろうな。入口を守る連中の屯所になっているのかもしれない。

 

 「ここだ。長老がいるから挨拶をしてくれ」


 そう言って、毛皮のカーテンを開くと、木製の扉を開いて中に入る。そこには教室位の部屋があった。

 部屋の真中に小さな炉があり、俺達はエクレムさんに続いて中に入る。

 ロウソクの灯りが2つ、炉の少し奥にあるだけの薄暗い部屋だ。

 

 炉の入口側にある低いベンチに俺達は腰を下ろした。

 前には3人が分厚い毛布のようなものを被って炉に皺だらけの腕を伸ばして暖を取っている。

 たぶんその3人が長老なのだろう長老の左右には2人ずつ従者が控えていた。


 「エクレムか……。厳冬期に峠を越えるなど褒められたものではないが、良く無事に戻って来たのう。戻って来た理由は理解しておる。そして、連れもネコ族ならば致し方ないことではある。じゃが、その少年はネコ族とは思えぬが……」

 「ネコ族の娘を妹として暮らしていた者。兄妹を引き離すようなことは出来ぬ。そして少年はエルフとのハーフ。純粋な人族ではありません」


 「それは確かに不憫な話。そして、その娘子達は?」

 「クァルの生き残り。兄達が必死に逃がした模様です。4人ともロアルを持ち、その紋章は確かにクァル家の物です」

 

 長老が手を伸ばしてきた。エクレムさんはお姉さん達に耳打ちすると、ロアルを受取って、4丁のロアルを長老の前に置いた。


 「確かに、クァルの紋章。そしてこの小さな宝石にも見覚えがある。良くぞ、この地に参った。安心して此処で暮すがよい。

 そして、其方の兄妹は身分を明かすものは持っていないのか?」


 これは参ったな。

 身分と言ってもギルドカードでは不味いんだろうな。

 ここは、エルちゃんに貰ったパイプで良いか。たしかアルクテュールさんの持ち物だって言ってたし。

 エルちゃんはバッグをごそごそやって、短剣を取り出した。

 あれで、身分が分るのかな? マイデルさんはロアルを見て分ったみたいだけどね。


 「珍しい物をみたのう。これは王宮に滞在していた魔道師アルクテュールの持っていたものじゃ。そしてこれは……、デルミナス! まさか貴方様は……」

 「エルミア・ドニエ・パラム。かつて、そう呼ばれていました。今はエル・ミウラと呼ばれています。」


 「良くぞご無事で。魔道師と共に王宮を脱出したのは我等も聞き及んでいます。しかし、その魔道師は?」

 「山越えで私を庇って亡くなりました」


 「そして、この少年と兄妹として暮らしてきた訳ですな。我等からのお願いです。どうぞこの地に留まり我等をお導きください」

 

 長老達はエルちゃんに平伏している。

 エクレムさん達も何時の間にか後ろに下がって頭を下げているぞ。

 さて、エルちゃんの返事はどうなるのかな?

 どんな返事をするにしてもエルちゃんは俺の妹だ。妹を助けて行かねばなるまい。

 

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