N-029 レムナム軍の脅威
人数分の魚を焼きながら、昼食を取る。
エルちゃんがじっくり焼いてくれたから、美味しそうに飴色に仕上がっている。
さて、食べようとしたところに……。
「「こんにちは!」」
そう言って、東からハンターの一行がやってきた。
「ワァ! レインボウにゃ!!」
1人のネコ族のお姉さんが焚火に飛んできた。ジッと俺の串焼きを狙ってるぞ!
「こら! レイミー、行儀が悪いぞ。済まないね」
近寄ってきた男がそう言って俺達に詫びる。
直ぐに、エルちゃんが笊からレインボウを取り出して人数分を焚火で炙り始めた。
「ご馳走しますよ。ちょっとお待ち下さい。今お茶を用意します」
「食べさせて貰えるにゃ。ありがとにゃ」
俺の言葉に、レイミーという名のお姉さんは焚火の傍に置いたベンチに座って、ジリジリと音を立てて焼かれていレインボウに目が釘付けだ。
「本当に申し訳ない。ありがたくご馳走を頂くよ。ほら、皆も礼を言って座れ」
リスティナさん位に見える男女の人間と同じ年代のネコ族の男女だ。
一緒のチームなんだろうな。
「ここで小屋掛けしてるのか。俺達はもう少し南西の所に小屋を建てている。一度小屋の作りを見せてもらえ、とレムナスさんに言われて来てみたんだ」
「それなら、俺が案内するよ」
ルミナスが男2人を連れて小屋に入っていった。
エルちゃんの隣ではネコ族のお姉さんがエルちゃんの魚を焼く様子をジッと見ている。そして、やはりエルちゃんの尻尾と同じ動きで左右に尻尾が揺れているな。
まったく、あれを見るとおかしくなる。思わず笑みを浮かべてしまった。
「それにしても、大きな小屋ですね。自己紹介が遅れました。私達はレイムというチームを組んでいます。リーダーは先ほど中に入っていった夫のフェルナン。そして妻のマイリン。ネコ族のレイミーにその夫のエクラムです」
2組の夫婦でチームを作っているのか。
「俺はてっちゃん、そして妹のエルです。こちらはサンディ、先ほど案内を買って出たのがルミナスです。後2人、マイデルさんとリスティナさんがいるんですが今は村へ行ってます」
「小さい子もいるのに、大変にゃ。レベルは皆白なのかにゃ?」
「いや、俺とエルは赤ですよ。村で冬を越すよりも自由でいたいと小屋を作ったんですが、結構大変ですね」
「でも、良く小屋を立てようなんて思ったものね。そして、こんな大きな小屋を建てるなんて感心したわ」
「おい! マイリン。ちょっと来い。この小屋は凄いぞ」
小屋の扉が開いてフェルナンさんが顔を覗かせてマイリンさんを呼んでいる。
失礼します。と言って夫の所に走っていく。
「もうすぐ焼けるわ。もうちょっとね」
「待ち遠しいにゃ」
こっちはずっとレインボウと睨めっこをしているようだな。
そして、しばらく過ぎると小屋から3人が出て来た。
焚火の傍に座ると、エリちゃんが4人に串焼きを配る。
サンディがお茶を皆のカップに注ぐとフェルナンさんが感想を話してくれた。
「あんな作りは誰もやっていないぞ。あれなら小屋を大きくしても雪で潰れない。そして、小屋を広く使える」
「炉は回りを粘土で固めてあるのね。鍋を下げるのもおもしろい考えね」
「だが、いまからでは少し遅すぎる。来年の雪解けを待って俺達も同じ構造の小屋を建てるしか無さそうだ」
「そうだな。だが構造は理解できた。俺達にも作れないことはないだろう」
「でも、近くにこんな場所があるなんて知らなかったにゃ」
「確かにな。それでもこの冬にはだいぶ銃の音が近くで聞こえた。たぶんこの小屋に違いない」
「ガトルは来たし、グラルも来たぞ。どちらも倒したけどね」
「そうか……。ラディオスもこんな小屋に住んでいれば助かったのだが」
ラディオスチームの話はレムナスさんにも聞いた事があるな。
結構知られたハンター達だったらしいが、グラルは確かに強敵だからな。
「西の森の話は聞いているな?」
「小競り合いでは済まなくなってるという話は聞きました。」
「そうか、それなら最新の話はまだのようだな。……ボルテム軍はケリムの町まで後退した。10日もせずにケリムの町にレムナム軍が雪崩れ込むだろう。略奪と蹂躙が始まるぞ。数年前のパラムのようにな」
「そうなれば直ぐにもボルテム王国の首都が目の前だ。サンドミナス王国の援軍が間に合わなければ、パラム王国のようにボルテム王国も滅びるだろうな」
「問題はそこだ。パラム王国を下してもボルテム王国はあまり利益が出なかった。王都パラムの宝物庫を探し出す事が出来なかったらしい。王族を見付け次第殺したらしいから、捕虜から宝物庫の場所を聞く事も出来ず、宮殿を片っ端から破壊したらしいが、そのおかげで魔物の巣を開いてしまったらしい」
「それが急速にボルテム王国を衰退させた原因でもある」
「これは聞いた話だぞ。ケリムから逃げてきたハンターが言っていたのだが、レムナム王国ではネコ族狩りをしているそうだ。パラムから逃げ出したネコ族の中にパラムの宝物庫のありかを知っている者がいないかを厳しく調べているらしい」
「もしもだ。ケリムの町が抜かれてレムナム軍がラクトの村に来るような事態が起ったら、ボルテナン山脈を越えて、ラクトー山の東に向かえ。そこならパラムから逃げ出したネコ族が小さな集落を作っているはずだ。俺達夫婦はそこを目指す。お前の妹もネコ族の血を引いているなら兄弟して俺と一緒に逃げる事も考えておけ」
「携帯食料も少しずつ値を上げるだろう。今の内に準備をしておくのだぞ。……さて、ご馳走になってしまった。これは少ないが御礼だ」
サンディに小さな包みを渡すと、4人のハンターは西に向かって歩いて行った。
サンディが包みを開けると、パレトのカートリッジが5個入っている。
そういえば、最初にもカートリッジを貰ったな。ハンター同士では、カートリッジがお礼の品として扱われているのかもしれないな。
「どうするんだ。てっちゃん?」
「今の話を聞くと、あまりいい感じじゃないな。マイデルさんが帰ってきたら相談してみるよ」
昼食はとうに終っている。
俺達は何事も無かったように、東の柵を作り始めた。サンディとエルちゃんはシチューを作るんだと言って大鍋を用意している。
適当に休んでお茶を飲み、日暮近くまで柵作りを行なう。
「今日は此処までにしようぜ。杭が無くなったから、明日はまた森から切り出さなくちゃならないぞ」
「そうだな。薪も集めなければならないし、冬までに間に合うように頑張らないとな」
道具を片付けて、焚火の所に戻るといい匂いが鍋から伝わってくる。
思わずツバを飲み込んだが、サンディ達は味見をさせてはくれないようだ。
仕方なく、パイプを取り出してマイデルさん達の帰りを待つことにした。
◇
◇
◇
「皆、帰ったわよ!」
かなり暗くなってからマイデルさん達は帰って来た。
早速、村の食堂で買ってきた黒パンサンドを、シチューと一緒に頂くことになった。
ルミナスがスプーンを振り回しながら今日の出来事を2人に話している。
少し誇張が入っているが、まぁ、嘘は言っていないな。
「そうじゃったか。レイムという名のチームは聞いたことがある。中堅のハンターと聞いたな。そして彼らの話じゃが、どうやら本当らしい。詳しい話は小屋に入って話そう」
やはり、かなりやばくなってきたってことかな。
外で話せないとはどんな内容なんだろう。
俺達は食事を終えると、シチューの残った大鍋を持って小屋へと入った。
焚火は薪を間引いて土を掛けておく。これで残り火が広がることはないだろう。
小屋に入ると炉を中心にベッドに腰を下ろす。
リスティナさんが蜂蜜酒を入れたカップを配ってくれた。俺とエルちゃんはお湯で割って少しずつ飲んでいる。
「たぶん、レムナム軍がラクト村へ入ってくるのは来年の春じゃ。それまではここは安心じゃろう。じゃが、準備はせねばなるまい。
てっちゃん達はエクラム達と此処を去るのが得策じゃ。いれば詮議が待っている。詮議といえば聞こえはいいが、拷問に近い。
そして、準備じゃが少しずつ行なわねばなるまい。
この地に再び帰れるかは怪しい限りだ。ワシ等で準備をしてやるから、村へは行かぬがいいぞ」
「その話を聞いて、早速携帯食料を準備してきたの。6人分を5日間だから2人で食い繋げば一月は持つわ。後1回同じように買い込めば2か月分になるからしばらくは安心よ。そしてカートリッジだけど5割も値が上がったわ。ロアルの強装弾と通常弾それに減装弾を10発ずつ買い込んだし、パレトも通常弾を10発と強装弾を10発を買い込んだからしばらくは安心ね」
そう言って、ロアルの通常弾と減装弾をエルちゃんに渡してくれた。強装弾はサンディとリスティナさんで5発ずつ分けてる。
パレトの方はルミナスとマイデルさんで強装弾を分け、通常弾はサンディとリスティナさんで分けている。
「そして、少し早いがてっちゃんのライフルを作るぞ。どうも嫌な雰囲気じゃ。早い方がいいじゃろう」
「なら、1つお願いが……。弾丸はロアルではなくパレトを使えるようにしてくれませんか? パレトの弾丸は重いですから威力はロアルの倍以上あるはずです」
「いいじゃろう。そしてレムナスがくれた魔石を使う。中位の魔石じゃ。長くつかえるぞ」
「そして、てっちゃん達は雪の中でも逃げられるように今から準備を始めて頂戴。次に村に行く時に必要な物は購入するから、メモを作ってね」
「色々と済みません。お手数をお掛けします」
「何の、構わぬよ。これだけの小屋を作ってくれたんじゃ。これ位は当たり前じゃ」
そう入っても、過分の配慮には違いない。
俺とエルちゃんは改めて4人に頭を下げた。
エルちゃんはサンディの隣に座って、サンディから色々と教えて貰っているようだ。
俺はルミナスとパイプを咥えて装備の話を始めた。
「カートリッジは買えるだけ持っていく方がいい。ネコ族の集落では手に入らないからな。後は、このタバコもたっぷりと買い込んでおけ」
「となると革袋も必要だな。タバコは出来るなら金属製の箱が欲しいところだ」
「そうじゃ、レインボウを釣ってこの炉の上に下げておけ。カラカラに干上がれば、1年近く持たせられるぞ。乾燥野菜と干し肉も欲しいところじゃな」
確かに色々と欲しいところだな。貯えは大丈夫だろうか? ちょっと心配になってきたな。
それでも俺達を心配して、色々と便宜を図ってくれる人達がいるのがありがたい。
けっして得になる話ではないし、今日の報酬の分配も皆使ってしまったようだ。
それでもルミナス達は文句を言わないし、かえって俺達に親身になって考えてくれる。




