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N-028 新たな魔法

 

 まだ夕暮れには程遠いが、俺達の本日の作業は終了だ。

 と言っても、焚火の回りにずらりと並んだレインボウを差した焼き串を焦げないように遠火で炙る作業はのこっているのだが、これは楽しい作業だから作業という意識を俺達は持っていない。


 エルちゃん達のライフル銃や、俺達の釣竿は小屋に仕舞っておいたから、この場を見たハンターはどうやってレインボウをこれだけ手に入れたか不思議に思うだろうな。

 

 サンディとエルちゃんが沢山の焼き串を入れ替えながら均等に炙っているのを眺めながら、俺とルミナスはお湯で割った蜂蜜酒を飲みながらパイプを楽しんでいる。


 「しかし、よくもこれだけ釣れたよな」

 「あぁ、ルミナスの方が少し多かったか? だがあれは場所が良かったんだと思うぞ。今度は釣る場所を変えるからな!」

 

 「おぉ、そうするか。でも、やはり俺の方が釣れると思うな。俺って素質があるのかもしれないな」


 まぁ何とでも言っていろ。単なるビギナーズラックと言う奴だと次ぎは思い知らせてやるぞ。

 2人で釣った数は35匹。ルミナスが3匹多かった。

 大漁だから、サンディやエルちゃん達は大喜びだけど俺としてはちょっとね。まぁ、大人なんだからあまり気にはしないけど……。


 「皆、帰ったわよ!」


 リスティナさんの声に振り返ると、数人のハンターと一緒にマイデルさん達は帰って来た。

 一緒に来たのは……、レムナスさん達のチームだな。

 レムナスさん達は魔石を狩るとか言ってたから、これから廃都の方に出掛けるんだろう。

 

 「何じゃこりゃ?」

 「凄い数だな。マイデル、新しい商売を始めるのか?」


 そんな事を言いながら焚火の回りに腰を下ろす。

 

 「いやぁ、まさかこれ程釣れるとは俺も思ってなくてさ。ついつい釣ってしまったんだ」


 ルミナスが自慢げに話す。

 

 「でも、この当たりはそろそろ食べられるわ。皆さんどうぞ」


 サンディが焚火の傍からレインボウの串を抜くと、エルちゃんが皆に配り始めた。


 「いいのか? レインボウなんて一体何年ぶりか忘れてるぞ」

 

 そんな事を言いながらもむしゃぶり付いてるな。

 エルちゃんも大きなのを貰って満足そうだ。


 「だが、これ程の量なら村へ売っても十分稼げるぞ」

 「それも、考えましたが止めておきます。たまに訪ねてくれるハンターに振舞う方が喜んで貰えそうです」


 「そんなことをしたら、どのハンターも此処を通るぞ。う~ん……。これは俺達に任せておけ。来客に制限を付けやる」

 

 どんな制限なんだか。とはいえ、確かにそれも考えられるな。あまり有名になっても困る。用意できないことはないと思うけど、季節によってはまったく釣れないことだってある訳だ。


 「そうだ。この礼だが、これをやろう。俺達なら手に入れるのにそれ程苦労はしない。このレインボウに見合った謝礼だと思う」


 そう言ってリスティナさんに渡したのは数個の魔石だった。

 

 「これって、結構品位が高いものよ。いいの?」

 「あぁ、それ位なら結構手に入る。だが、俺達がレインボウを手にすることは殆ど出来ないからな。見合った謝礼だと思うぞ」


 「なら、少し土産に持って行ってください。魔法の袋なら数日は持つと聞きました」

 

 俺の言葉にサンディが数匹を紙に包んで差し出す。


 「ありがたい。廃都では携帯食料が食事だからな」

 

 レムナスさんはおし頂くようにして包みを受取るとバッグの中に仕舞いこんだ。


 「思いがけないご馳走をありがとう。さて、俺達は出発するが、今年の冬は荒れそうだ。この小屋なら大丈夫だとは思うが……。マイデル、こいつ等を頼むぞ」

 「任せておけ。やはりそうなのか?」


 「あぁ、小競り合いでは済まなくなってきたようだ。廃都の警備兵も西に向かおうとしている」

 「それじゃ、廃都から魔物が出てくることもあるということなの?」

 「残念ながら、そんな感じだ。高位の魔物は動かないだろうが低位の魔物は餌を求めて動くだろう」


 そう言って、レムナスさん達は俺達に手を振ると東に向かって歩いて行った。


 「魔物って?」

 「前に話したでしょ。獣が魔気を吸って魔物になるの。繁殖もするし手強い相手よ。そして毒を持つ者が多いわ。デルトン草は多めに採っておかなきゃ」

               ◇

               ◇

               ◇


 殆ど日が暮れた時、俺達は夕食を食べ始める。

 リスティナさんが村で買ってきた黒パンサンドだけれど、干し肉と乾燥野菜のスープと一緒に食べると結構美味しいぞ。その上、レインボウの串焼きがあるのだ。

 

 そんな夕食を終えて、サンディが串焼きを片付け始めようとした時、ガサガサと音がして、老人が俺達の前に現れた。


 「ほう……。レインボウの串焼きとな。どうじゃ、魔法と引換えに何匹か譲ってくれぬか?」

 「魔道師さまですか。出来れば私達に魔法を授けて頂きたいのですが」


 リスティナさんが恭しく老人に問いかける。

 黒いローブはボロボロで曲がりくねった杖をついている姿は正しくおとぎ話に出てくる老魔道師だな。


 「そうじゃな、レインボウを3匹を貰いたい。通常は確か魔法1つに付き300Lじゃったかと思うが、それを全て200Lでどうじゃ」

 

 3割引以下にしてくれるってことだよな。

 直ぐにエルちゃんが俺を見る。そして、バッグから革袋を取り出した。だいぶ入ってるな。これなら十分だろう。


 「分りました。……では1人ずつ、魔道師様の前に行って教えて貰いたい魔法を告げなさい。その後で私に対価を渡して頂戴」


 俺達は焚火の傍に座った魔道師の所に行って魔法を授けて貰う。

 エルちゃんは、【デルトン】と【シャイン】そして俺が【アクセル】だ。


 欲しい魔法を告げると、俺の腕を魔道師が握る。そしてビリっと感電したようなショックが体に走った。


 「ほう……、単なるハーフエルフとも異なるようじゃな」


 手を離しながら、魔道師は小さく呟いたが、俺には何のことやら。

 それが終ると、エルちゃんが俺達の分を纏めて、リスティナさんの膝の上にお金を置いた。

 

 「これで、いいかの。……島が荒れそうじゃ。ヌシらも気を付けることじゃ」


 リスティナさんからお金とレインボウの包みを受取ると、すっかり暗くなった闇の中に溶け入るように姿を消した。


 「あれが魔道師なのか?」

 「そうよ。山奥でひたすら魔法の研究に耽っているわ。めったに山を下りてこないんだけど、今夜は上手く会うことが出来たわ。これで魔物狩りが出来そうよ」


 「じゃが、あくまで低位の魔物だけじゃ。魔物を侮るなよ。小さいといってもガトルよりは上じゃ」


 ガトルよりも強いということなのか?

 それなら俺達には無理ということじゃないか。この冬、大丈夫なんだろうか?


 ちょっと毒気を抜かれた感じだが、寝るにはまだ早い。


 「薬草の報酬は、360Lだったわ。そしててっちゃんが倒したグリードの毛皮が180Lで売れたから都合540L。1割を挽いた486L、1人81Lになるわ」


 そう言って渡してくれた報酬をエルちゃんに預ける。

 先ほど600Lも使ってしまったから、また貯めないといけないな。


 「さっき、レムナスさんも言っていたけど、レムナムとボルテムの小競り合いは、一層勢いを増したみたいなの。ケリムの西に広がる森とその南の湿原で戦が何時始まってもおかしくない状況のようよ」

 「西の森は半分ほど焼かれたそうじゃ。元に戻るには数十年は掛かるじゃろうな」


 「残念だわ。森のありがたさが分らないのかしら」

 「それより、森が焼かれたら獣はこちらに向かうわ」

 

 「そうじゃな。西の森の獣と東の魔物……。やれやれじゃわい」

 「実は、俺達で小屋の周りに柵を作ろうと思って丸太を作ってたんです。早めに作ったほうが良いでしょうか?」


 「柵か、確かにあったほうが良いじゃろう。明日は薬草と薪と柵用の丸太を森から採るぞ」


 そう言ってマイデルさんは、焚火傍のベンチから立ち上がると小屋に向かった。

 そろそろ俺達も眠るとするか。

               ◇

               ◇

               ◇


 そして、俺達は次の日から仕事に取り掛かる。

 薬草採取はサンディとエルちゃんに頑張って貰い。リスティナさんが蔦を採って背負い籠に入れていく。

 俺が太い薪を担当して、マイデルさんとルミナスが柵用の丸太を運ぶ。

 

 午前中と午後に1回ずつ数日運んだ。

 そして夕食前の僅かな時間を利用してルミナスとレインボウを釣る。

 1日10匹に満たない数だが、俺達が食べても何匹かは残る。それを魔法の袋に入れて蓄えた。


 「ホントにこれを頼むの?」

 「はい、お願いします。冬にはこれで暖かく暮らせます」


 リスティナさんは俺の頼んだ綿入れ半テンを怪訝な眼差しで見ている。俺とエルちゃん用だ。小屋から出なければこれで十分暖かい。それにちょっと外に出る時でも重宝する筈だ。


 季節は盛夏を過ぎて秋風が吹き始めている。

 2人が村に入っている間は、俺とルミナスで柵作りをするつもりだ。

 もう少しで西の柵が出来上がる。

 東の柵の材料はまだ半分ぐらいしか運んで来ていないが冬の前には何とか出来上がるだろう。


 俺とルミナスで柵を拵えていると、サンディ達は魚釣りを楽しんでいるようだ。

 見よう見まねで覚えたから大丈夫と言っていたけど、何匹釣れるか楽しみだな。


 柵の高さは1.5m位で、簡単な扉を付けてある。

 獣避けだから、ハンター達の出入には支障が無いだろう。

 

 「こんなんで良いんじゃないか。内側にはまた鳴子を付けるんだろう?」

 「あぁ、竹で簡単な奴を作って鳴子を結んでおけば良いと思う。前の冬にも役に立ったからね」


 竹はまた採りに入って来よう。笊を編めるし、ちょっとした工作にも使える。意外と万能な素材だよな。


 道具を片付けて、焚火の所に戻る。昼にはまだ早いからちょっと休憩だな。

 ルミナスがサンディ達の様子を見に行ったから、今の内にお茶の用意をしておこう。


 「見て! エルも釣ったんだよ」

 

 そう言って俺に笊を見せてくれた。マイデルさんが作ってくれたバケツ位の笊には数匹のレインボウが中で跳ねている。


 「へぇ~、沢山釣れたね。これなら昼食に間に合うね」


 俺の言葉を聞くと嬉しそうに今度はルミナスのところに持っていく。

 彼にも良い返事を貰えたみたいだ。ルミナスは籠を受け取りと早速串焼きの準備に取り掛かる。


 「釣りって意外と簡単なのね。あんな仕掛けでレインボウが獲れるなんて思わなかったわ」

 「此処では釣りをする人がいないからね。だから釣れるんだ。沢山の人が釣り始めると、途端に釣るのが難しくなるんだよ」


 「村から離れてるし、森の中だから誰も釣らないのかも知れないわ。しばらくは私達だけの楽しみになるわね」


 道具があっても、村から2時間以上も歩いて、しかも危険が共なうなら誰も釣りはし無いだろうな。

 

 お茶を飲んだ後、今度は東の柵作りだ。

 西は少し心配がなくなったから、エルちゃんが1人で魚を焼きながら監視を始めた。サンディはもう少し釣るんだと言って、再び釣りを始めたぞ。


 「小屋の東西は柵を作ったけど、北側はどうする?」

 「余った材料で簡単な柵を作れば良いよ。どちらかと言うと鳴子を沢山仕掛けた方がいいと思ってる」


 北側は結構深い森だ。立木を上手く使えば柵の設置は容易だろう。

 まぁ、それはマイデルさんが帰って来た時に相談すればいい。

 


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