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N-027 4人でお留守番 

 「まったく、小競り合いをするんなら迷惑をかけない土地でやってもらいたいものじゃのう」

 「でも、こうして薬草の相場は上がったし、思いがけずグリードの毛皮まで手に入れられたんだから、ありがたいと思わないといけないでしょうね」


 ハンターにとってはあり方迷惑というのが合ってる感じだな。俺もマイデルさんには賛成だ。

 上手く倒せたから良かったけれど、パレトじゃちょっと火力不足だと思うな。

 最悪、大怪我位じゃ済まなかったかもしれない。

 とはいえ、強装薬のパレトは反動も大きい。やはりライフル型の銃でなければサンディ達には扱え無いだろう。エルちゃんは……論外だな。逃げるように言っておこう。


 お茶を終えると小屋に向かって歩き出す。

 エルちゃんの肩掛けバッグはパンパンに膨らんでる。一体どれだけ採れたんだろう。サンディやリスティナさんのバッグも同じようだ。

 

 そして、俺達の背中には梯子に載った丸太と薪が載っている。マイデルさんは丸太3本にグリードの毛皮が載っていた。

 まったく、あの小柄な体格には驚かされる。ドワーフが力持ちなのは知ってるけど、目の前でそれを見せられるとホントに驚いてしまうよな。


 俺達の小屋に近付くと、小屋の前の焚火の場所に数人の男女がベンチに腰を下ろしている。客人なのかな?


 「待たせたの。今帰ったところじゃ。で、用件は何じゃ?」

 

 マイデルさんの大声に驚いて飛び上がった人達には尻尾が生えていた。どうやらネコ族の人達みたいだな。


 「……吃驚したにゃ。皆を待ってたにゃ。この小屋でレインボウを食べさせて貰ったと聞いて、来てみたにゃ。でも、今日は魚を獲っていた訳ではないにゃ。……残念だけど、また来るにゃ」


 どうやら、昨日来たネコ族の人から話が広がったみたいだな。

 たぶん、嬉しくて仲間に話したんだろうけどね。


 「お兄ちゃん。何とかしてあげて!」


 エルちゃんが俺を見上げてお願いしてきた。

 そんな悲しそうな顔をするなよ。エルちゃんに頼まれればやってやるさ。


 「少し時間が掛かるけど、焚火をしながら待っててくれ」


 そう言って、小屋近くに梯子を下ろすと、小屋の中から釣竿を取ってきた。

 エルちゃんがバッグから出してくれた昨日のハムの残りを貰って、湖の所に歩いて行く。


 「てっちゃんなら、大丈夫だ。今、焚火を作りからお茶を飲みながら待ってれば良いよ」

 後ろでルミナスが4人に話をしている。

 出来ればそうしたいな。今日の目標は10匹になるのかな。


 早速、湖に仕掛けを落とすと、直ぐに当たりが出た。

 手首を返して強引にレインボウを引き抜く。

 先ずは1匹だ。

 釣り上げたのを見たエルちゃんが直ぐに引き取りにやってくる。

 

 1時間程して、どうにか10匹を釣り上げた。

 焚火の周りには、沢山の串に刺したレインボウが遠火で焼かれている。

 ネコ族のお客達はエルちゃんと同じように、尻尾を揺らして魚が焼きあがるのを見ているぞ。

 尻尾の動きが揃っているのが、なんともおかしくなって、ついつい微笑んでしまう。

 

 「どうしたの?」

 「あぁ、あの尻尾がね。……揃ってるでしょ。それがおかしくて!」

 「ネコ族の人って、そんなところがあるのよね。ある意味魂の共感なんでしょうけど、……ホント、微笑ましいわね」


 リスティナさんはそう言って、片手で口を押さえて小さな笑い声を上げた。

 魂の共感か……。確かにそんな感じだな。嬉しいっていう純粋な感情が共感を生むんだろうけど。ネコ族の人達には俺達とは違う間隔があるんだろうか? でないと、あんなに揃わないと思うんだけどね。


 「焼けたぞ! 1人1本だからな」


 ルミナスがそう言って、皆に焼き串を配り始めた。

 ネコ族の人達が目を細めてレインボウに齧り付く。もちろん俺達も一緒だが、俺の魚が焼けるまでエルちゃんはジッと魚を見詰めて待っててくれた。


 「さぁ、食べよう。皆はもう終っちゃったよ」

 「うん。でも私はお兄ちゃんと一緒が一番美味しく食べられるの!」


 そんなエルちゃんの頭をワシャワシャと撫でると、嬉しそうに目を細めている。

 俺達が食べるのを羨ましそうにネコ族の4人が見ていたけど、レインボウはもうないんだよね。


 それに4人も気が付いたみたいだ。

 焚火の傍から離れると、ルミナスに何かを渡している。


 「ありがとにゃ。ホントはお金を支払いたいけど、今は持ってないにゃ。その代わりこれをあげるにゃ」


 4人のネコ族のハンターは俺達の手を振って村の方へと歩いて行った。

 

 「何を頂いたの?」

 「あいつら、カートリッジを置いていった。これだと、パレト用だな。8個もあるぞ」


 「律儀な人達ね。てっちゃんはタダで良かったんでしょ?」

 「もちろん。せっかく来てくれたんだからね。でも、これからもこんな事が続くと、ちょっと大変になるね」


 「それは、今晩俺の釣竿を作ることで何とかしようぜ。この魚だって、しっかり炙って魔法の袋に入れておけば2、3日は持つだろう」

 「2、3日どころか5日以上持つわよ。そうね。そうすれば、何時来ても食べさせて上げられるわ」


 「そうじゃの。ネコ族は正直でいい奴ばかりじゃ。ちょっと騒がしい時もあるが、まぁ、それは種族の特徴じゃろう。ワシ等がいる間は便宜を図ってやるがいい」


 そう言って、何時の間にか持っていた酒のカップを飲んでいる。

 これから夕食なのに、困った人だな。

 でも、それがマイデルさん達ドワーフ族の特徴なんだろうな。

 となると人族やエルフ族も気になるな。何と言っても人とエルフのハーフと言う立場になってしまってるからね。


 その夜。マイデルさんから、また針金を貰って釣針を拵えはじめた。

 釣針さえ出来れば後はそれ程面倒ではない。皆が起きている間に、ルミナス用の釣竿を作り終えた。


 ルミナスに渡すと、嬉しそうに礼を言ってくれた。

 

 「明日は実際に釣り方を教えてくれよ」

 「あぁ、意外と簡単なんだ。ルミナスなら直ぐに俺より釣ることができるさ」


 そんな話をしながらパイプで一息入れる。

 この世界は、俺のいた世界と違って酒やタバコの年齢制限は無いらしい。

 堂々と吸っていられるのだが、……ちょっと人目を盗みながら仲間と吸っていた時代が懐かしいな。

               ◇

               ◇

               ◇


 「それじゃ、留守を頼むぞ。薬草採取に大勢ハンターが森に入っているから、野犬は近くには来ないだろうが、あまり森深くに入るのも感心せん。小屋の近くでも十分薬草は採れるじゃろう」

 「大丈夫だ。小屋の周囲に限定するし、今日は俺も釣りを楽しみたい」


 心配性なのかな。マイデルさんはルミナスに注意をしていたが、ルミナスは別のことを考えていたようだ。

 確かに、小屋の周囲は小さな丘のようになっているから日当たりのいい場所には沢山薬草が生えている。

 まぁ、のんびりとエルちゃん達に採取して貰おう。

 俺とルミナスで見張りを交替しながらやれば午前中でもそれなりの収穫を得られるんじゃないかな。


 「行っちまったな」 

 「まぁ、マイデルさんの言うことに間違いはないよ。釣りは午後からにして、午前中は薬草採取をしようぜ。俺達が見張りをすれば、この辺りなら安心だ」


 「それじゃ、お願いね。……エルちゃん。始めよう!」

 「うん!」


 何時の間にか、サンディとエルちゃんは仲のいい姉妹みたいになってきたな。

 2人で焚火をしている直ぐ傍から、薬草採取を始めたぞ。

 注意して見てなかったのかもしれないけど、確かにあちこちに生えている。

 

 焚火が消えないように太い薪を2本追加して、俺達も焚火を離れて左右に分かれて見張りをする。

 森に大勢のハンターが入れば、森の獣は逃げ回るに違いない。偶然に大きな奴が現れないとも限らないからね。


 しばらくして、森の北西の方から銃声が聞こえてきた。

 1発のみが森に響いて、また静かになる。

 急いでルミナスの所に行くと、俺を見て笑っている。


 「そう心配するなよ。あれはたぶん何かを狩った音だ。1発だけだったろ。野犬相手なら最初から数発撃つだろうし、次弾も撃つからな」

 「そうか? ならいいんだが、どうも銃声を聞くと吃驚してな」

 「その内、慣れてくるよ。銃声からその状況を想像するのもおもしろいぞ」


 それも、楽しそうだな。

 ルミナスの肩を叩くと、元の場所に戻って見張りを続ける。


 冬に小さな柵を作って鳴子を仕掛けておいたけど、もう少し頑丈な奴を作ってもよさそうだな。

 どうせ冬にはまた作るのだし、見張りをするにも柵があればサンディ達も安心して役を担えそうだ。

 

 「てっちゃん、お茶の時間だぞ!」


 ルミナスの声に、再度周囲を見渡して焚火に戻っていった。

 焚火の傍に作ったベンチに腰を下ろすと、俺のカップを持ってエルちゃんが隣に座る。

 はい。って渡されたカップを手に取りお茶を飲みはじめた。


 「結構、採れたわよ。でも、ちょっと小振りね」

 「こんなに採れた!」


 エルちゃんも肩掛けバッグの中を見せてくれる。なるほど、大漁だな。

 

 「ルミナス。見張りをしながら森の木を少し伐採したいんだけど……」

 「何だ? 薪を作るのか」


 「いや、小屋の回りに柵を作ろうと思うんだ。柵があれば、エルちゃん達も少しは安心出来るだろ」

 「そうだな。柵ならそれ程太い木じゃなくても大丈夫だな。いいぞ作ろうぜ」


 「出来たら少し広くしてね。色々とやることもあるから」

 「あぁ、その辺は考えるつもりだ」


 お茶を終えると、俺とルミナスは斧を持って小屋の北に向かう。

 10cmに満たない立木を数本切り出して小屋の前に運ぶ。

 エルちゃん達も、俺達の近くで採取をしているから安心だ。

 

 昼時までに十数本を運んだところで、昼食作りをサンディ達が始めたようだ。

 切取った丸太を2m程の長さにして重ねておく。枝や端っぱは焚火の薪にすればいい。


 塩味の利いた野菜スープに薄いパンにハムを載せたのが本日の昼食だ。朝食とたいして変わらないけど、皆で食べれば美味しく食べられる。


 「このハムを餌にするんだよな」

 「そうだ。少しは残しておけよ」


 俺の言葉にルミナスが結構な量のハムをパンからむしりとる。俺も、同じようにして餌を確保した。


 「ルミナス達が釣りをしている時は、ここで見張ってればいいのね?」

 「お願いするよ。数匹釣れたら持っていくから、じっくり調理してくれ」


 食後のお茶を飲みながら、俺は竹を割って焼き串を作る。20本も作ればいいだろう。この間の焼き串も10本以上残っている。


 俺達が小屋から釣竿を持ち出すと、エルちゃん達もライフル銃を持ち出してきた。

 ベンチの傍らに立て掛けて、その上腰の銃にもカートリッジが入っているのを確認している。

 俺とルミナスも腰に銃は入れているし、焚火のベンチには槍や杖などが置いてある。

 野犬が来てもそれなりに対処出来るだろう。


 「じゃぁ、始めるから後はお願い!」

 

 そう言ってルミナスと湖の方に歩いて行く。

 焚火から20m程南に下がった所が丁度湖の岸辺だ。1m程の崖になっている場所にルミナスと3m程の距離を置いて、釣竿を解く。

 

 「どうやるんだ?」

 「餌はこれ位を針に刺すんだ。そして、釣竿を上に上げるようにして仕掛けを投げる。後は浮きがピクピク動いた後に水中に引き込まれたら、竿を持っている手首を回すんだ」


 手首を返すことで合わせる動作を教え込む。まぁ、後はどうにかなるだろう。

 ルミナスの後ろで見ていると、直ぐに当たりが出た。

 そして浮きが滑るように引き込まれた時、勢い良く手首を返すと竿先がグイグイ引き込まれている。


 「引きが弱まったら、一気に竿を上げれば獲物が手元に来るぞ」

 「おぉ……。」


 次の瞬間、竿が大きくルミナスの頭上に上がると、30cm程のレインボウが彼の足元でピチピチと跳ねていた。


 「やったぞ! これはおもしろいな」

 

 そう言いながら、針を外して傍らの桶に魚を投げ込んだ。

 後は1人でも大丈夫だな。俺も頑張らないとな。


 後を見ると、心配そうにエルちゃんが俺を見ている。

 手を振ると、ブンブンという音が聞こえそうな感じで手を振ってくれた。

 エルちゃんのためにも……、そう思いながら自分の釣竿を持つ。

 

 

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