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N-020 ピグレス狩り


 ライフル銃の威力に、エルちゃん達が驚いてから10日目の夜。

 食事が終って皆がお茶を飲んでいる時に、マイデルさんがサンディとエルちゃんに細長い布包みを差し出した。


 「これが約束の品じゃ。カートリッジはロアルを使うから割高になるが、1発でし止めれば、それ程気にもなるまい」

 「「ありがとう!」」


 2人は早速包みを解いて銃を取り出した。

 一瞬、銃には見えなかった。

 バレルの上下が木製のケースの中に納まって3cm程銃口部分が延びているだけだ。

 そしてトリガーの丈夫に小さなコックが付いている。後ろに伸びたストックはエルちゃんの方がやや短い。

 銃の台座の下部にカートリッジを押し込む鉄製のロッドが収納されている。


 「綺麗な銃ね。花が彫ってあるのね」

 

 リスティナさんが感心した顔でストックを見ている。そこには水仙のような花が彫られていた。


 「まあな。若い娘の持ちもんだ。と言ったんで気を利かせたんじゃろう。それで、これがてっちゃんの物だ。あれは少し目立つんで嬢ちゃん達に合わせてある。バレルの長さは短くなったが、獣相手に目を狙うようなことをしない限り十分に使えるはずじゃ」


 そう言ってバッグから銃を取り出して俺に渡してくれた。なるほど、同じだな。

 

 「で、弾丸じゃが強装弾が使える。嬢ちゃんのは通常弾だがの」

 「でも、ロアルの強装弾なんて、雑貨屋で売ってないわ」

 「ワシが作ってやる。装薬2割り増しじゃ。それなりに使えるじゃろう」


 「重ね重ね申し訳ありません」

 「何、かまわぬよ。おもしろいものを教えて貰ったお礼じゃ」


 俺の言葉にマイデルさんが笑って応えてくれた。

 それにしても、自分でカートリッジを作れるのか。俺も習ってみたいところだが、暴発事故を起こしそうだな。


 最後に、これが強装弾じゃ。と言って10発ずつサンディと俺に弾を分けてくれた。

 早速、ケースの弾丸を入れ替える。通常弾と、減装弾はエルちゃんに渡しておく。


 「貰ったのはいいんだけど、弾丸の種別が分からなくなるな」

 「此処で見るんだ」


 ルミナスがそう言うと、数本のカートリッジを掌に載せて俺の前に出した。


 「カートリッジの筒に線が入ってるだろう。1本なら通常弾。2本なら強装弾だ。減装弾には線が入らないし、強装弾よりも装薬を上げた物はこんな印が入る」


 親指よりも太いカートリッジには真中に太い線が一周している。

 なるほど、これなら間違って弱装弾の銃に強装弾を入れることは無いだろう。暗闇では分らないが、カートリッジを入れるポーチを別にしておけば防げる筈だ。

 

 「銃が手に入ると早速狩りをしたくなるわ」

 「そうじゃろう。それで、ギルドからこの依頼を受けてきた。ピグレスを狩れるだけと言うのもおもしろいの」

 

 そう言ってバッグから取り出した依頼書を全員が身を乗り出して覗き込む。

 そこには、ピグレスを狩れるだけとある。依頼人は食堂らしく、狩ったピグレスの持ち込み先指定が食堂となっていた。


 図鑑を広げると、ピグレスは豚そっくりの獣だ。イノシシのように牙を持たないが、極めて好戦的とある。……良く分からない記述だな。


 「ピグレスは噛付くんだ。それに全速力で突進してくるから、ぶつかったら弾き飛ばされるぞ。そこをガブリだな」

 「群れだと厄介だな」


 「普通は数匹の群れよ。野犬より少し大きい位だから初心者は侮って怪我をする人が多いの」

 「近付く前にドォン!で終わりよ」


 サンディはそう言ってるけど、エルちゃんがいるからちょっと心配だな。

 まぁ、俺の後ろにいれば何とかカバーできるだろう。

               ◇

               ◇

               ◇


 次の日の早朝。

 朝食を終えると、小屋の前に全員が勢揃いだ。

 小屋の扉をしっかり閉めて、薪を扉の前に重ねておく。


 段々と陽気が良くなってきたので、帽子は必携だ。俺達は、つばの広い麦藁帽子を被って、革の上下に革のブーツそれに装備ベルトを付けて武器を背負っている。

 

 「中々考えたなってマイデルさんが褒めてくれたよ」

 ルミナスは俺の贈り物である、鉈のような剣を腰に下げている。何でも、獣の解体に丁度いいと言われたらしい。

 

 エルちゃんは背中の銃を後を向くようにして見ている。新しい装備だから気になるのかな?

 

 「それではで掛けるぞ!」

 マイデルさんの合図で俺達は森を北に向かって歩く。


 森は春から初夏に代わろうとしている。

 下草もだいぶ伸びているな。それでも野犬の腹には達しないから、接近してくれば直ぐに発見できるだろう。


 殿をルミナスと共にパイプを咥えながら歩く。

 たまに後を振り返って、野犬を警戒するが、特に変な獣は後を付いて来ないようだ。


 「ルミナス、ゴツイ方を持ってきたのか?」

 「まぁな。あっちは売ろうと思ってるんだ。同じ種類を2つはいらないし、威力はこっちの強装弾より装薬が多い方が高いからな」


 強装弾とか弱装弾は、通常弾よりそれぞれ2割程装薬の量を変えている。ルミナスがマイデルさんより譲られた銃は通常弾より装薬が5割程多いと言っていた。それで数mmの鉛弾を10個程発射するんだから威力はおって知るべしというやつだ。

 だが、ちゃんと保持出来るのかな? それを確認してから前の銃を売った方がいいと思うぞ。


 「ところで、ちょっと聞いていいか?」

 「なんだ? 知ってることなら教えるぞ」


 「マイデルさんってドワーフだろ。そして高齢に思えるんだけど、リスティナさんはどうして夫婦になったのかなと……」

 「それは……歳が近いからだと思うぞ。リスティナさんの年齢は俺たちよりずっと上だ。エルフ族は老化しないからな。」


 エェ!……。 

 とんでもない事実を知った気分だ。

 まぁ、そんな話は聞いた事があるけど、目の前でそれが現実だと聞かされると、やはり驚くよな。

 たぶん駆け出しのルミナスとサンディを、指導するような感じで仲間に加えたんだろう。


 世間話をしながら歩いていると、先頭を歩いていたマイデルさんが足を止める。

 直ぐに全員がその場に腰を下ろした。

 マイデルさんの手招きを見て、俺とルミナスは中腰で素早く駆け付けた。


 「見ろ! ピグレスだ。7匹は少し多いが、早速やってみろ」

 

 マイデルさんの言葉にエルちゃんとサンディを呼ぶ。

 

 「あれを殺るぞ。右端を俺が狙う。サンディが左端でエルちゃんが真中だ」

 

 俺の言葉に2人がしっかりと頷いた。

 俺の後ろではマイデルさん達が、「さぁ、やってみろ!」っていうような目で俺達をみているのが肌で感じられる。


 ライフル銃を背中から下ろして、バレルにカートリッジを挿入すると、金属製の棒でしっかりと奥に押し込んだ。


 距離は50mをとりあえずの射撃距離とする。

 3人が横に並んで、ゆっくりとピグレスに近付いた。

 

 「この辺で良いだろう。良く狙って俺の合図で一斉に撃つぞ。3、2、1、テェー!だ。テェーでドォンだぞ」

 「分ったわ。テェーでドォンね」


 エルちゃんも俺を見てしっかりと頷いてくれた。

 片肘を着いた中腰の姿勢でライフル銃を構える。コックを引いて狙いを定める。


 「いいか、良く狙えよ。3、2、1、テェー!」


 3人のライフル銃はまるで1丁の銃を発射したように銃声を重ねる。

 そして、硝煙越しに3匹のピグレムがゆっくりと倒れ落ちるのを見ることができた。


 「やったな! 後は俺たちに任せとけ」

 

 後ろから駆けて来たルミナスが俺達にそう言うと、ピグレムに向かって駆けていく。他のピグレムは銃声に驚いてどこかに逃げてしまった。


 「中々の腕じゃ。お茶でも作って待っておれ」

 マイデルさんもルミナスの後を追って駆けていく。


 「この距離でピグレムを倒せるハンターは中々いないわよ。後はマイデル達に任せてお茶の仕度をしましょう」

 

 俺の肩をポンっと叩いて、リスティナさんはエルちゃんとサンディを、2人纏めて抱き寄せている。

 エルちゃんに見張ってもらって俺とサンディで森の中から薪を拾い、小さな焚火を作る。早速、ポットに水筒の水を入れて火に掛けた。


 「お~い、てっちゃん手伝ってくれ!」


 ルミナスの声を聞いて、急いで駆け付ける。3匹のピグレムは既に解体されていた。


 「此処に穴を掘ってくれ。このままでも良いが、野犬が寄って来るからのう」


 マイデルさんの指示で、俺達は腰のバッグからスコップを取り出すと早速穴を掘る。

 野犬は森の掃除人と言うことだ。獣の死骸を片付けるのも彼らの役目なんだろう。


 穴にピグレムの死骸を投げ入れて埋め戻す。

 ルミナスと焚火に戻ると、皆は既にお茶を飲んで一息入れている。

 焚火の傍に座った俺たちにエルちゃんがお茶のカップを渡してくれた。


 「一度に3匹とは効率が良いのう。少し早いが、もう一度ピグレムを狩れば今日の狩りはお終いじゃ」

 「やはり、ライフル銃は良く当ります。」


 「まさか、200D(60m)位の距離を当てることができるなんて信じられないわ」

 「お兄ちゃん達と違ってロアルの通常弾だから、倒せないかもって思ってたけど、何とかなった!」


 「じゃが、通常弾ではあれが精々。野犬は何とかできるが、ガトルクラスは難しいかもしれんな」

 「それでも重傷を負わせることはできますし、エルちゃんは魔法が使えます」

 

 獲物があれば会話も弾む。

 サンディもライフル銃を気に入ったようだ。ハントはバレルを短くして使うようなことを言っていたが、勿体無い気がするな。しかし、ハントのバレルが長いことを考えると、確かに持ち運びは不便に違いない。


 一休みしたところで、次の獲物を探す。

 森をしばらく歩くと荒地に出た。さわさわと草がなびいている。

 そんな場所には野犬もいそうな気がするから、俺とルミナスはきょろきょろしながら辺りを警戒する。


 「いたぞ! ちょっと来い」


 マイデルさんの指示で俺達は急いでマイデルさんの回りに集まった。


 「あれじゃ、だが少し作戦がいるのう」


 マイデルさんが腕を延ばした先には、数匹のピグレムとそれを狙っている野犬の群れがいる。


 「やはり、野犬とピグレムを同時に狙うしかあるまい。ピグレムはテッちゃん達に任せてワシらは野犬を殺る。ルミナス、散弾じゃぞ。リスティナは通常弾で構わぬが、サンディからその槍を借りておけ。ワシはてっちゃんの槍を借りる」


 マイデルさんは俺の槍を受取ると、しばらくその感触を確かめていたがどうやら納得してくれたようだ。

 ドワーフ族って武器に対しては何か思い入れがあるのだろうか?


 3人が草原を滑るように右手に回りこんでいく。

 残った俺達はライフル銃にカートリッジを装填すると、左側にゆっくりと歩いて行った。


 ピグレムに気付かれないようにゆっくりと中腰で移動する。

 結構きつい姿勢だな。腰が痛くなってきたぞ。


 それでも、ピグレムから左手に150m程の距離に迫って、扇型に10m程の間隔を開けて俺達は腰を下ろした。

 ルミナスの方を見ると、俺達に手を振っている。

 

 「ルミナスの準備はできたらしいわ。あの合図は、こっちの準備の確認よ」


 小走りに俺に走ってきてサンディが耳打ちする。


 「俺達の方も準備はできたと合図してくれないか。……エルちゃん、始まるぞ」


 俺の言葉にライフルを掴んで獲物を見ていたエルちゃんが頷く。それを見て、俺もサンディに頷いた。

 サンディは素早く立ち上がると、ルミナスに向かって手を振ると腰を下ろした。


 直ぐに銃声が聞こえてきた。

 殆ど同時に3発が発射されたが、音がだいぶ違うな。たぶん装薬量の違いなんだろうけど、マグナム並みの音が聞こえたぞ。


 ダダダダ……と地を駆ける音が近付いてくる。

 やはり、ピグラムは反対側に逃げてきたようだ。


 「立て! ……構え! ……狙え! ……テェー!」

 

 立ってからライフルを撃つまでに3秒は掛かっていない筈だ。

 同時に発射された弾丸は、俺達に近付いてきたピグレム3匹を転倒させた。残りのピグレムは荒地の奥に逃げ去っていく。

 自動小銃ならば全滅冴える事も可能だけど、俺達のは単発式だから欲はかかない方がいいだろう。

 倒れたピグレムの確認に行くと、1匹はまだ息があった。

 サンディは片手剣を抜くと、ピグレムの首にズンと剣を差し込む。

 

 エルちゃん達が周囲を警戒する中で、俺はスコップで穴を掘り始めた。すぐにルミナスがやってくると手伝ってくれる。


 「どうだった、新しい銃は?」

 「凄いな。一度に2匹だぞ。結局、向かってくる野犬はいなかったよ」


 野犬もそれなりに知恵があるみたいだな。

 強敵と判断して逃げ去ったんだろう。


 「今度も3匹か。まぁまぁの成績じゃな。止めは剣を使ったか、ワシらが槍を持っていったからのう」


 獲物を検分しながらマ、イデルさんが素早くピグレムを解体していく。

 リスティナさんとサンディが手伝いを始めると、エルちゃんは自発的に周囲の監視を始めたようだ。


 焚火を囲んでちょっと遅めの昼食を取る。

 何時ものパンとスープなのだが、今日はピグレムの串焼きがそれに加わった。

 確かに豚肉だ。でも、軽く塩を振っただけの焼肉だが結構美味しいぞ。


 「1つ気になってたんですが、ピグレムの報酬ってどのように計るんですか?」

 「ピグレムの使える部位は肉だけじゃ。だから肉の量で報酬が決まる。今日の狩りでは銀貨5枚にはなるじゃろうな」


 量り売りなんだ。

 肉屋の店先に、キロ幾らで表示してあるのかもしれないな。


 「これから村に戻って、今夜は村に泊まる。明日の午前中に必要な物を買っておくがいい。昼食をとって小屋に引き上げじゃ。」


 自分達の小屋と村の宿屋を行ったり来たりしながら狩りをしていくことになりそうだな。

 

 「雑貨屋で綿の上下を買っておくのよ。これから暑くなるから革の上下はね」

 

 リスティナさんが教えてくれた。去年買いこんだ服はあるが、確かにもう一揃い持っていた方が安心できるな。幸い、魔法の袋を俺達は3個持っている。荷物が増えても困る事はない。

 

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