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N-002 初めての採取と狩り

 

 ギルドのお姉さん、名前を聞いてみると「チェリーよ」って教えてくれた。そのお姉さんの言葉に従って、夕暮れ近くになってから通りを挟んだ向かい側の食堂に出かけた。

 

 「今日は、夕食をお願いしたいんですが」

 入って直ぐのカウンターにいたおばさんに声を掛けた。


 「あぁ、良いよ。5Lだけど、大丈夫かい。…アンタは始めてみる顔だね。此処は朝食もやってるし、弁当も受け付ける。朝食と弁当は3Lだから、それも利用して欲しいね」

 「今日からハンターなんで、利用させて貰います」


 そう言って、銅貨を5枚カウンターに出す。


 「はい。5L、丁度だね。そこのテーブルに適当に座っといて、直ぐに持って行くからね」

 「分りました」


 そう応えると入口近くのテーブルに着く。丁度食堂の全体が眺められる。


 奥の方の2つのテーブルにハンターらしき数人の男と少し離れたテーブルに4人の男女の姿がある。たぶん剣を背負ってるからハンターだとは思うけどね。


 そして俺の前に料理が現れた。

 大きな深皿にシチューが盛られていて、それにビスケットのようなパンと木製のスプーンが差し込まれている。

 こんなに食べられるかな?って思いながら食べてみると、結構塩味が利いていて美味しい。硬く焼いたナンみたいなパンとも相性がいい。

 

  食事を終えると「ご馳走様!」っておばさんに声を掛けてギルドに戻る。

 明日は、早起きして最初の依頼を無事完遂させなくては…。


 そう思いながら、蝋燭を点けて準備を始める。

 日帰りだから、腰のバッグだけで十分だ。

 バッグの後ろはM29のホルスターの大きさに凹んでいるから、装備ベルトとバッグがぐら付く事もない。

 その中に、怪しげな最終薬の小瓶も入れて置く。どうしようもない時は使ってみるしかなさそうだ。

 半分程残ったビスケットを昼食用に入れてると、品物が動かないようにタオルも入れといた。

 バッグの上の丸めたポンチョのスリングを使ってスコップナイフをしっかりと固定しておく。

 片手剣は元々装備ベルトのスリングにしっかりと取り付けられているから、これで準備完了だな。

 

 準備が出来たところで、もう一度図鑑を見てみる。

 蝋燭の明かりで見る図鑑は何となく宝の地図を見ているようでちょっとワクワクしてくる。

 図鑑には手書きの地図が折畳まれて入っていた。この周辺の地図らしい。

 ここはラクト村と言う事になる。そして、南に進んだ場所にあるパリム湖近くに×印があってジギタ草と書いてある。明日は此処に進んで採取依頼をこなそう。

 

 次の日、目が覚めると早速装備を整えて部屋を出る。鍵を掛けて鍵をポーチの底に入れて置く。

 階段を下りると、ハンター達が集まっている。掲示板の依頼書をカウンターのお姉さんの所に持って行き次々と依頼受領印をもらって、2人、数人と連立ってギルドを出て行った。

 俺がきょろきょろしていると、チェリーさんが扉を指差す。

 頷き返して、扉を開けると井戸があった。

 早速顔を洗って、腰の水筒の水を交換する。そして、ギルドのホールに戻ると、チェリーさんに片手を上げて挨拶すると、他のハンターと共にギルドを出た。


 対面の食堂に出かけて、カウンターのおばさんに3Lを渡して朝食を頼む。

 今朝の朝食はナンのようなパンに薄いハムと野菜を挟んだ物だった。それに、カップのスープが付く。

 季節は良く判らないけど朝は少し肌寒い。温かなカップスープって芯から体を温めるって良く判る気がするぞ。


 食堂を出ると、早速採取に出かける。腕時計を見ると、未だ7時30分だ。この世界の時間は大体この時計で合っている。昼には丁度12時頃だし、意外と時計も使えると思う。

 通りを南に歩いて村の南門に出る。門の手前はちょっとした広場になっていた。

 

 門が開いており、2人の門番が立っている。

 「おはようございます」

 と声を掛ける。こういうのは大事だと両親が良く言っていた。確かに挨拶されて悪く思う人はいないだろう。


 「お、新入りだな。他のハンターはとっくに出かけてるぞ」

 「俺は、ジギタ草の採取なんで、そんなに急がないんです」


 「そりゃそうだ。ジギタ草は此処から南のパリム湖に繋がる斜面で良く取れると聞いている。だが、最近は野犬が多いらしい。気をつけるんだぞ」

 「出てきたら、これでぶん殴ってやりますよ」


 そう言って背中の剣を叩いて笑うと、門番もつられて笑い出す。

 「それじゃぁ」って門番に頭を下げて、東に向かって歩き出した。

 門番の人達は色んなハンターと挨拶しながら情報を仕入れているんだろう。意外と物知りで助かった。

 しかし、野犬とは……。この剣で大丈夫だろうか。

 

 村の南側は畑が広がっている。それでも1時間程歩くと荒地になっており、余り草も生えない小石と砂混じりの地形に変わってきた。所々に潅木や藪があるけど大きな物ではない。 

 そして荒地が過ぎると林になる。下刈りをしているらしく林の中は見通しが利く。そんな場所を500m程歩くと野原に出た。

 遠くに見える湖に向って緩く傾斜している野原が、野草の宝庫だと食堂のおばさんも言っていたし、門番のおじさんも同じような事を教えてくれた。


 知っているなら、自分達で採取すれば良いのにと思うけど、そのお蔭で俺の暮らしが成り立つんだ。ちょっと可笑しくもあるけどね。


 早速ジギタ草を探す。長い葉を一杯に伸ばすから比較的見つけ易いとは図鑑に書いてあったけど、イザ探すとなるとやはり大変だ。

 そして、やっとそれらしい植物を見つけた。図鑑と特徴を比べてみる。

 茎は無く、細くて長い2本の葉…。間違い無さそうだ。

 スコップナイフで周囲から掘り起こすように球根を取り出す。球根は白くて丸く縦に黒い線が入っている。……これが目的の球根だ。


 10時頃から薬草を探し初めて、気が付くと12時を過ぎている。

 どっかでお昼を、と周囲を見渡すと平らな岩が少し向うにあった。

 岩への道すがらも何個か球根を手に入れて、岩の上に上ってみる。

 

 野原の下には森が広がってその先には湖が見えた。

 北には大きな山脈が広がっている。

 結構いい景色だ。前の世界だと、これだけの景色は観光バスにでも乗らない限り見ることは出来ないだろう。

 そして、遊歩道には沢山の人がぞろぞろと列を成し、広い原っぱにはお弁当を広げる人達で溢れるはずだ。

 でも、此処には俺1人…と周囲を見てみると、遠くに同じように薬草を採取している一団がいた。

 あれだけのハンターがいたんだから、俺のような初心者もいるんだろう。そう思うと、その一団に対して急に親近感が沸いてきた。


 岩の上は削ったように平らだった。

 早速戦果を確認してみる。大きさは不揃いだけど、24個採取していた。2時間程度でこれだけだから、もう少し採取して帰ろうと考えて球根を方掛けバッグの中に仕舞いこむ。

 腰のバッグから、ビスケットの残りを取り出して、水筒の水を飲みながら食事にする。

 パサパサの10cm各のビスケットが2枚だけど、栄養価は高いようだ。

 それが済むと食休み。タバコを1本取り出して、100円ライターで火を点ける。


 ゆっくりと一服を楽しんだ後は、またジギタ草の採取を始めた。

 数個を採取した時だ。

 斜面の下の方から「キャー!」っと言う声が聞こえ、直ぐにバン!っとくぐもった音が2回聞こえた。


 急いで立ち上がると斜面の下を見たが良く判らない。 

 昼食を食べた岩に立って下を見ると、3人が斜面を駆け上がってくる。そしてその後から、2匹の野犬が追いかけているようだ。

 精々中型犬程度だろうと考えていた野犬は大型犬以上の大きさだ。立つと俺より大きいかも知れない。


 「こっちだ!」


 俺の大声が届いたのか、3人の逃げる方向が此方に向いた。

 此処まで後200m位だけど、彼らの後の野犬は50m位まで近づいている。それでも懸命に走って来てるからどうにかこの岩に追いつかれずに辿り着けそうだ。


 おもむろに腰のM29を抜くとハンマーを引いて野犬が近づくのを待つ。

 彼らが岩の後に周りこむと同時に俺は岩の上から野犬に向ってトリガーを引いた。

 

 ドォン!っという大きな音と軽い衝撃が俺の両手に伝わる。

 そして、野犬の一匹はその場に昏倒した。続けてトリガーを引く。

 もう1匹の野犬もその場に昏倒した。


 追われていた3人は俺より年長の女性と俺と同い年位の女性と男性だった。

 「助かりました……」と言いながらはぁはぁ……と息を整えている。


 そんな彼らに水筒の蓋を取って渡すと、ゴクゴクと水筒を3人で廻して飲み干した。


 「ところで、あの野犬をそのままにしておくならば、毛皮を頂いて良いですか?」

 「えぇ、良いですよ」


 俺がそう応えると、年長の女性が素早く毛皮を剥ぎ取って、最後に野犬の口を開けるとその牙をナイフで叩いて折り取った。


 「牙は倒した貴方の物です。私達は毛皮を頂きました」

 「それって、どういう事ですか?」


 そう聞いてみると、3人とも驚いた表情に変わった。


 「失礼ですが、お名前とレベルを教えてくれませんか?」

 「俺は、テツロウ……てっちゃんと呼んでくれ。レベルは昨日ハンター登録したから赤1つだよ」

 「私は、リスティナ、赤9つです。此方はルミナスとサンディでどちらも赤7つです。

 ……それにしても野犬2匹を簡単に倒すなんて。誰に言っても信じないでしょうね。

 そういえば、連続して大きな音がしましたが、ひょっとして、てっちゃんは拳銃をお持ちですか?」

  

 「あぁ、持ってる。でも、1日に何回かしか使えないけど……」

 「拳銃型の魔道具ですか。魔道具の種類は色々あるって聞いた事があります。それでも私達の持つ拳銃よりも連発が利くのは羨ましいです」


 そうだとすると、あの神様は上等の品物を俺にくれたんだな。少しは感謝しなければならないようだ。



 「それとさっきのお話ですが、野犬の牙はギルドで換金出来ます。左の牙、長い方の牙ですが、1本10Lで引き取ってくれます。そして経験値を増やす事が出来ます。野犬の毛皮は安いんですが雑貨屋で引き取ってくれます。1匹5L程度ですけど……」

 

 ホントは毛皮も俺の物と言いたいけど、野犬を此処まで連れて来てくれたということもあるし、それが換金できる事を教えてくれたんだ欲張ることはない。それに彼女が教えてくれなければそれまでだ。

 ここは、毛皮と引換えに色んな話を聞かせて貰うことにした。

 

 ルミナスとサンディは野犬に見つかった時に置いてきたかごを取りに戻って行った。

 俺と同じように赤の10以下の者は、薬草採取の依頼を受ける者が多いらしい。

 

 「パーティを組むと2つの依頼を同時に受ける事が出来ます。1人が周囲の偵察をしながら他の者が薬草を採取するんですが、……森の近くでしたので野犬が近づくのを発見するのが遅れました」


 「俺は昨日ハンターになったばかりだけど、薬草採取ってそんなに危険なの?」

 「そんな事はありません。村の近くなら安心なんですが……。私達は少し高額な薬草を狙って、パリム湖の近くまで下りていったのです。採取は上手くいったのですが帰り道で、藪を伝って近づいた野犬を発見するのが遅れたんです」


 「野犬って怖い存在なのか……」

 俺は小さな声で呟いた。

 「それ程でもありません。1匹なら私達でも戦えます。何匹かは倒しています。でも、私達が出会ったのは数匹の群れでした。それで逃げたんですが、2匹が追って来ました」

 「でも、リスティナさん達は武器を持ってないように見えるけど?」


 俺の問いに彼女はマントの下から拳銃と片手剣を取り出した。

 拳銃は海賊が使うような先込め式のフリントロック銃のようにも見える。

 50cm程度の刃渡り何だろうけど、それで野犬と渡り合ったんだったら相当な腕前だと思う。

 「ハンターは皆、何がしかの武器は持っています。無ければハンターが寄付した武器をギルドが譲ってくれます。私の武器は自分で購入した物ですけど、ルミナスの長剣とサンディの片手剣はギルドで頂きました」


 「そうなんだ。俺も、この肩掛けバッグとスコップナイフはギルドで貰ったんだ。それに泊まってるのもギルドの2階だしね」

 「私達もギルドの2階です。結構泊まってる人がいますよ」

 昨夜は早く寝たから気がつかなかったのかな。


 「ところで、洗濯と風呂って何処を使うのか分かる?出来たら教えて欲しいんだけど……」

 「ギルドには風呂はありません。洗濯も無理ですね。その代わり、魔法で汚れを落とすんです。ギルドの職員に頼めば有料で魔法を掛けてくれます。1回3Lですけど……。ひょっとして、ずっと魔法を掛けて無いんですか?」


 確かに3日は風呂に入って無いぞ。下着だってそのままだし。

 リスティナさんの質問に俺は小さく頷いた。

 リスティナさんは立ち上がると、俺を指差して小さく【クリーネ!】と呟く。リスティナさんの体が一瞬白く光ったように見えた。そして俺の周りに一瞬白い靄が掛かると直ぐに消えた。


 「これで、体の汚れと衣服の汚れが消えたはずです。ハンター仲間同士では2Lでこれを請け負うんですが、先程の毛皮の事がありますから、もう1回はタダにしてあげますよ」

 

 ハンター仲間だと、1L安いんだな。それともう1回やってくれるんなら、毛皮も安いものだと思う。


 「有難うございました。何かすっきりした感じです」


 体や頭の痒みも取れたしね。2日に1回の頻度で【クリーネ】を掛けて貰おう。

 そんな事を話してると、下の方から2人が上がってきた。


 「大丈夫。依頼の薬草は無事だったよ」

 そう言ってリスティナさんを安心させている。


 皆が揃った所で、村に戻る事になった。

 結構、村から離れていたから少し心配だったけど、同行者がいるから心強い。

 途中で1回休憩して、村に戻ったのは4時過ぎだった。


 早速カウンターに行って採取依頼が完了した事をチェリーさんに報告する。

 ジギタ草の球根31個。20個で30L、残りは1個1Lだから41L何だけど、宿泊費を5L差し引かれて36Lが俺の取分だ。


 「すみません。これも換金できると聞いたんですが」

 そう言って野犬の牙を2個取り出す。

 「倒したの?…無理はしないでね」

 そう言いながら20Lを別に渡してくれた。

 

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