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N-176 一難去って


 南北20km、東西数kmに散開して東に進んでいた敵軍が、北の森の火災で南に集まっている。東西方向への広がりはどうしようもないが、これは砲撃が始まれば進軍の停滞で集待ってくる筈だ。


 「距離、20M(3km)まで、後2M(300m)!」

 「始まるぞ。これで何とかしたいものだが……」


 砲撃で足止めして、後ろから爆弾を落とす。それにより敵軍を一箇所に集めて砲撃で殲滅するのが俺達の作戦だが、果たして上手くいくのか。

 

 俺達はジッと拡大したスクリーンを眺めていた。

 突然、敵軍の前部に砲弾の炸裂煙が上がる。総計30門の榴弾砲の一斉射撃だ。各砲が5発をツルベ撃ちしているから敵の前面が炸裂煙で見えなくなってしまった。

 後方にも炸裂煙が上がる。炎が広がっているからイオンクラフトの投下した弾種は焼夷弾のようだな。

 これで、一箇所に集まってくれれば良いのだが……。


 「上空からの機銃掃射も併用しているようじゃな。だが、それ程動きが変わらんぞ」

 「ですね。前衛部隊もそのまま向かってきます。このまま砲撃を続けます」


 たとえ集まらなくとも、前に比べれば南北の敵軍は数kmまで小さくなっている。それだけ密度が濃くなっている事は確かなのだ。


 「エルちゃん。アルトスさんに連絡。『砲撃続行。照準は各部隊に任せる。石垣の守備兵に敵弾筒の発射準備を急がせろ』以上だ」

 

 直ぐにエルちゃんがメモを作ると、シイネさんがメモを通信兵に届けた。

 スクリーンには次ぎの砲撃が映しだされる。

 砲弾は中衛の連中に降り注いでいる。

 前衛部隊は、石垣より2km程の距離まで接近しているようだ。


 「これはユング殿の援軍じゃな。敵軍にたっぷりと爆撃と機銃掃射を行なって引き上げて行くぞ」

 「ありがたい援軍です。丁度、敵の航空部隊の出鼻を挫いてくれたようです。移動する個体が数個に減っています」


 【メルダム】は何とかして避けたいものだ。ヘイムダルの航空部隊も反復攻撃を丁度開始したから、敵の航空部隊は何とか全滅させる事が出来るだろう。後は地上部隊の魔術師だが、数十m以内に接近させなければ何とかなるだろう。


 敵軍に3度目の砲撃が行われた。既に石垣から進撃する敵軍が見えるだろう。

 短砲身砲と75mm砲はこれからは各個に敵を狙う事になる。

 

 「バビロンの敵被害判定が届きました。推定数千人とのことです」

 「残りは4万というところじゃな」


 ようやく2割を葬ったと言うところか。先が長いぞ。

 砦の屋上の短砲身砲が殆ど水平射撃をしているようだ。敵の先陣との距離は1kmを切っている。


 「ほう、砦の門からも発砲しているようじゃ」

 

 2門の75mm砲を横に並べて撃ち続けている。門は閉める直前には葡萄弾を放つのだろう。それとも門を閉めないつもりなのか? たしか鉄の柵のような内扉があったな。

 あれを閉めて、そこから砲身を出しながら撃つのであればかなりの被害を相手に与えられるだろう。

 

 イオンクラフトは2つの部隊に分かれて、次々と爆弾を落としてはヘイムダルで補給を繰り返している。

 爆弾の浪費は激しいが、惜しんで石垣を超えられる方がもっと問題だ。その辺りはアルトスさんも分かっているに違いない。

 

 距離500m。千を超える兵士が石垣の上で待ち構えている。半数の兵士が敵弾筒を持ってその時を待っている筈だ。

 

 距離300m。既に攻め込む異形の戦士を、我等の精鋭はその目で見ているに違いない。だが、退くものは誰もいない。中間の砦の後ろには2個中隊の兵士が増援として待機している。


 距離、200mを切った。石垣の上に、南北に小さな煙が上がる。

 数秒の時を経て、敵軍の中に炸裂煙が無数に上がる。

 更にもう1度、炸裂煙が上がると一斉にライフル銃が放たれた。

 砦の門に殺到した敵軍が黒々と見えたとき、その姿が吹き飛ばされた。

 

 「葡萄弾を放ったか!」

 「75mm砲を2門、門の中に据えたようです。交互に放てば敵軍を寄せ付けないでしょう」


 「バビロンからの続報です。ライフルの一斉射撃までに葬った数は約2万!」


 残り3万……。

 ここからは、頑張るしかない。

 ヘイムダルとケリムの105mm榴弾砲が十字砲火を浴びせている。石垣の東に並んだ砲列も砲撃を止めてはいない。

 イオンクラフトは敵軍の後方から爆弾と銃弾の雨を降らせている。


 「敵の魔術師は近づけぬか」

 「やはり、ライフルの威力は想像を超えています。まだ、後ろの予備兵力を投入せずに済んでいます」


 ケリムにはハンターが2個小隊ほど駆けつけているはずだ。ヘイムダルは要塞だから応援の必要すらない。エクレムさんが差向けた救援部隊は、いまだに呼び兵力として控えている。


 「榴弾砲の弾丸はまだ持ちのか?」

 「1門当り60発を揃えています。先に底を着くのは爆弾のほうでしょう。ですが、急造爆弾を300個作ってありますから。まだまだ落とせますよ」


 次ぎの戦に備えて購入せねばならないな。榴弾砲の弾丸は予備を30発分貯えているが、洞窟村に保管してあるから、今日の戦には使用できない。

 近場に弾薬庫を作る事も考えねばなるまい。


 「連合王国の爆撃機が攻撃しています」


 これで、2回目になるな。落として行く爆弾は先程と同じ焼夷弾だ。20発以上が南北に落とされたから火の壁が作られている。

 これで、押し寄せる敵兵の数が少し減るから、石塀の上の兵士達にも少し余裕が生まれるだろう。


 「バビロンの敵軍の被害推計来ました。現在の敵兵の数、およそ2万!」

 「半分を越えたか!」


 東に布陣した短砲身砲の射撃が止んでいる。砲兵達は石塀に移動しているようだ。20門だから約100人の兵士が新に石塀に取り付いてるな。

 予備兵力の2個中隊も前進を始めた。

 これからはライフルとウインチェスターが主力だな。各自2個の爆裂球を持っているから、それも有効に使えるはずだ。

 

 「榴弾砲の砲弾が足りぬようじゃな」

 「ええ、60発を用意していたのですが、あっという間に使い切りました。予備の砲弾を用意するには少し時間が掛かりすぎます。敵弾筒と爆裂球で何とか持ちこたえて欲しいところです」


 「敵兵、残り9千!」

 「イオンクラフト、帰還します!」


 敵兵の後続がいなくなっている。これ以上の攻撃は味方を巻き込んでしまうからな。

 

 「少し北に移動しておるぞ。ケリムを超えて山麓に紛れると後が面倒じゃ」

 「あっちにはハンターの部隊がいます。無反動砲を数門持っていますから、千程度では問題ないでしょう」


 その前にケリムの砦にある機関銃で薙ぎ倒されるだろう。

 あれほどの大軍が石塀の前で殲滅されつつある。やはり兵器の性能が高ければ数十倍の敵を阻止出来るようだ。


 「バビロンから連絡。敵兵力残り3千!」

 

 9割以上を殲滅したという事か? 3千であれば1時間も掛からずに殲滅できるな。

 ほっと、一息ついて冷めたお茶を飲み干した。


 「終ったか……。反省点が色々あるのう」

 

 キャルミラさんが、同じようにお茶に口を付ける。

 エルちゃんが席を立つと暖炉のポットで新にお茶を入れてくれた。


 どうにか5万を殲滅することが出来たようだ。

 とは言え、たぶん今回の2倍、10万が1度に攻めて来たならば石塀は容易に突破されていたに違いない。やはり数の違いは大きいのだ。

 

 「バビロンから報告。敵軍団殲滅です!」


 エルちゃんがスクリーンの電文を読んで教えてくれた。

 大勝利なんだろうけど、あまり感慨はないな。この場でスクリーンの映像を見ていただけだったからなのだろうか?


 「アルトスさん達に勝利を伝えてくれ。それと負傷者の集計をしてくれないか。それも次ぎの戦の対応を図る為には大事な事だ」

 「長老達にも伝えるのじゃぞ。ジッと祈りを捧げていたに違いなかろうからのう」


 さて、少しテーブルを綺麗にしておくか。やがて各方面の戦を指揮していた将軍達が集まってくるだろう。


 そんな中、最初にやってきたのはユングさん達だった。

 

 「どうだ? 連中との戦は。あれが100万となったら、機甲師団でさえ飲み込まれるぞ」


 そう言ってテーブルの端に坐る。

 ユングさんはその戦を経験したんだよな。無人化された機甲師団だったと言っていたけど、良くも3人で戦ったと感心してしまう。


 「やはり、砲弾は準備しないといけませんね。それにもっと強力な爆弾もです。5万は何とか凌げましたが、10万は自信がありません」

 「それが分かっただけでも十分だ。相手は俺達よりも身体機能が遥かに高い。白兵戦では持たないんだ。彼らよりも優れた兵器で接近を阻止して戦えばある程度の数なら対処できる。そうすると戦い方も見えてくるだろう?」


 島ということを生かせば良い。接近する軍船を叩き、上陸する敵兵を水際で撃破する。そうやって敵兵力が数万以下になるように戦えば良いのだ。

 そのためには、潜水艇と軍船それにイオンクラフトの数が問題となりそうだな。

 幸いにもユングさんがイオンクラフトの部隊を率いて峠にいてくれるから、俺達も連携して戦えば良い。

 俺達に供給されたイオンクラフトは俺達の島を守るだけでなく、連合王国の西に対しても強襲をすることが可能だ。協力すれば協力を得られる。そんな関係を連合王国と続けていけば良いだろう。


 「それと、援護をありがとうございました。軍船の攻撃を今後は図ろうと思っていますが、大陸の援護も行ないたいと思います。出撃時には連絡下さい。8機でも、それなりに効果はあるでしょう」

 「そうだな。そうしてくれると助かるな。峠の連中も実戦経験を積んだから、俺達はネウサナトラムに戻ろうと思ってる。新兵器の開発は必要だ。もう少し威力のある爆弾を作らねばならないからな。それに、反攻計画も美月さんが考えているから協力しないとな」


 ユングさんなりに兵器の改良が必要と判断したらしい。

 それに美月さんの計画も気になるところだ。反攻計画なんて可能なんだろうか?

 

 「何かあれば連絡してくれ。簡単なのは俺達でいいが、根の深い話は明人にするんだぞ」


 そう言って席を立つ。

 俺達に軽く手を振って作戦指揮所を出て行った。

 後は、あの2人に託したという事だな。そんなユングさんに黙って頭を下げた。

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