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N-174 遠征軍の東進

 西からの遠征軍にも相互の連絡手段があるらしい。

 艦隊から艦隊に向けて夜間高速移動する発熱体を、キャルミラさんが見つけた。


 「飛行形態の敵じゃろうな。50M(75km)ほどは飛行できるという事になろう」

 「往復を考えれば、20M(30km)と言うところでしょう。俺達の方が長距離を進めるのが利点になります」


 「ということは、防壁で敵をくい止めれば王都は安全になるんですね」


 俺達の話を聞いてエルちゃんが聞いてきた。

 確かにその通り。その目論見があるからこその防壁だ。とは言え、それが破られば王都に【メルダム】の炎が広がる。その時には迅速な洞窟村への避難を行なわねばなるまい。掩蔽した避難路が活躍してくれるだろう。


 「たぶんその考えで良いと思う。でもね。そうなると、この2つの村が危険に晒される事になるんだ。ここは避難民の村だから、まだ対策はされていない筈だな」

 「恨まれるのはかなわん。避難壕を作ってやらねばなるまい。丸太小屋では【メルダム】で焼かれるぞ」


 エルちゃんがアルトスさんに、連絡文を書き始めた。不要なテロ活動の未然防止になれば幸いだ。だが、武器の支給は絶対にしてはならない。

 書き上げた文をキャルミラさんに見せている。彼女が頷いたところで、通信兵に連絡文を持って行った。


 「伝令の速度が問題ですね。あれなら十分に連携が可能です」

 「うむ。各艦隊に10人以上翼を持つ者がおるようじゃ。これが、昨夜の伝令の伝達範囲になる」


 エイダス島から飛立って、数十km離れた艦隊に2つの赤い点が動く。その艦隊から次ぎの艦隊、更に……。驚く事に、一夜で西の大陸にまで伝令が届いている。


 「エイダスの戦いは西の大陸にまで知られたという事でしょうか?」

 「そうじゃな。更に兵を送ってくるに違いない。じゃが、さすがに大洋を横断する度胸は無い様じゃ」


 大洋にはとんでもない奴がいるとはユングさんが言っていたけど、キャルミラさんも知っているのだろうか?


 「現在、西の大陸からの進軍ルートは2つ。1つはベーリング海の北を回ってこの山脈沿いに進んでくる陸上ルート。後は、東の島伝いに艦隊を連ねて進軍してくるルートです。先程の伝令で、此方の軍が俺達の方に回ってくる事は考えられませんか?」

 「精々2倍になる程度であろう。大軍で大洋を渡るのが危険であることは知っているのだろう。大洋には巨大な生物が存在する」


 まさか、リバイアサン? クラーケンというのも考えられる。

 

 「かつて、大きな戦があった事は知っているか? 魔族との戦の前になるのだが……」


 世界を巻き込んだ大戦。第3次世界大戦という事になるんだろうな。だけど、それが起きたのは俺が住んでいた時代よりも少し後のことらしい。

 

 「生物はかなり滅んでいた。人間の版図の広がりは他の生物の居住空間を脅かす。さらに超磁力兵器により火山活動を誘発するとなれば、もはや人間ですら生存が不可能なほどに環境が破壊されたようじゃ」


 多くの人間が地下コロニーに逃げ込んだらしいが、火山活動はその後もずっと続いたらしい。

 小さなコロニーは少しずつ異変に飲まれ、数個の大型コロニーだけが地中深くで生き残った。

 だけど、火山活動が終息を見せた時には、地上あまりにも変わり果てていたようだ。

 

 「生物の遺伝子変異を誘発するナノマシンを開発して、外の世界に送り出した。数日で亡くなるものもいたが、長く生きて新たな子孫を増やすものすら現れた」


 長期生存を可能とした種族を捉えてその遺伝子情報を解析し、更に人間にそれを投与した。どうやら、キャルミラさんはその時に生まれたらしい。


 「我等は同族を率いて小船でこの島に渡った。やはり姿態の異なるもの同士は相容れないものがある……」


 それでも、数世代が続くと徐々に人に姿が近付いたそうだ。

 エルちゃん達ネコ族は、ネコミミとシッポだけが名残として残っているだけだからな。

 

 「問題は3つのコロニーだ。ユグドラシル、コンロン、それにククルカン……」


 その話はユングさんから聞いている。どうやら、遺伝子の変異がコンロンで加速されたらしい。その結果がリザル族として連合王国には知られている。

 だが、その変異は海にまで及び特殊な生物が巨大化したと話してくれた。


 「直径4M(600m)を超える傘を持つクラゲのような生物も確認されている。魚竜のような形となった海獣もおったぞ。クジラは肉食になり体長は2M(300m)を越える。彼らに対抗できなければ大洋は渡れぬ」


 大挙して押し寄せてくる事はないと言うことか。

 精々、今の2倍であれば艦隊が1度に降ろす兵員数は精々数万程度。8機のイオンクラフトで海上で数を減らせるだろう。

 

 「連合王国のあの者達も知っているようじゃ。それが東の堤防であり、西にそれ程大きな施設を作らなかった理由だと思われる」

 「ユングさんにククルカンの場所を教えてもらいました。今ではクレーターがあるだけです」


 「核爆弾を使用したようじゃな。経緯はバビロンから教えてもろうた。アキト達がこの世界にやってきた事はある意味幸いとしか言えん。レムルがここにいるのも同じだ。我は神を信じぬが、レムル達を見るとやはり、偶然とは思えぬものがある」


 神はいるのだろうか?

 明人さんに聞けば答えが帰って来るかも知れないな。

 だが、今の状況を神頼みするのはよそう。エイダスはネコ族の島だ。それを侵略するものはするす事ができない。

               ・

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 遠征軍が集合すれば、集合地点を夜間爆撃して数を減らす。

 そんな事を続けていると、遠征軍は小さな部隊に拡散して旧レムナム王国の東に兵力を集め始めた。

 嫌がらせ的に爆裂球を投下しているけど、あまり効果は望めなくなってきたな。

 それよりは、艦隊が島に到着した時を見計らって昼間の爆撃を行っている方が効果的だという事が分かってきた。

 それでも、エイダス島に上陸した遠征軍の兵力は段々と大きくなってきている。


 サンドミナス軍も2度目の侵攻を撃退したものの、かなり被害を受けたようだ。

 現在は、内海を渡って元のサンドミナス王国に引き上げつつある。

 10隻近くの軍船と漁船まで使って大規模に人員を移動中だ。その移動は更に10日以上掛かるだろう。

 その間の守りを港から20km程離れた場所に柵を築いて対処するように見えるが、急造の柵なんかでは遠征軍の侵攻を防ぐ事は困難だろうな。

 

 「まだまだ遠征軍が東を目指す事は無さそうじゃ」

 「時間の問題でしょう。目の前の敵であるサンドミナス軍が母国に引き上げれば、遠征軍は東に向かいます。このままでいけばサンドミナス軍の移動は10日で完了しますよ。その後はいよいよ俺達になります」


 数度、偵察飛行が石垣に向かって行なわれている。

 機関銃とライフルで撃退したのだが、墜落した相手を見て皆が驚いていた。2mを越す立派な体格に3mほどの蝙蝠のような翼を背中に付けていた。額の角はまるで子牛の角のように短くて太い。

 穴を掘って埋めたが、こんな奴等が【メルダム】を放ってくるのだ。


 「備えは十分じゃ。ダリル山を越えて柵が続いているし、柵の西は1M(150m)以上見通せるように森を切っている」

 「問題はサンドミナスです。このまま、王都に篭るか。はたまた再度内海を渡るか……」


 「内海を遠征軍が渡るのは難しかろう。ヘイムダルの潜航艇がある。海岸地帯に柵を作って上陸の時間稼ぎをすれば旧式銃であっても容易に遠征軍に対処出来るだろう。サンドミナスは生き残るやも知れん」


 となれば、全軍が東に向かう事は無いだろう。7割程度になれば最大でも5万以下の兵力が相手だ。少しは兵器の性能で優位に立てるんじゃないかな。

 脅えながら暮らすサンドミナス王国は気の毒ではあるが、これ以上の援助はいらないだろう。

 

 20日が経過すると、エイダス島の西からサンドミナス軍が旧ガリムや旧レムナム王国の避難民を伴って俺達の王国の南に移動してきた。

 内海側に陣を敷き海岸に堅固な石垣を作り始めている。

 砂漠地帯には迷宮があるから、そこで魔石を採取して連合王国との取引を続ければ国を保つ事ができるかもしれないな。

 キャルミラさんの、生き残るかもしれないと言う言葉はその辺りにあるのだろう。


 作戦指揮所に篭っているのも問題だと思って、庭で釣りを楽しんでいるとマイネさんが慌てて俺を呼びに来た。


 「大変にゃ! こっちに押し寄せてきたにゃ!!」


 竿を投出して作戦指揮所に向かう。

 そこにはテーブルの上に4つのスクリーンを展開して、ジッと睨んでいたキャルミラさん達がいた。


 「遅くなりました。ついに動きましたか?」

 「それ程、慌てる事はないぞ。まだ20kmも離れておる。このまま進めば、3時間ほどで榴弾砲の射程に入るし、4時間後には75mm砲の射程に入る」


 俺達の陣に近付くほどに攻撃を密にする。それは作戦とは言えないかも知れないが、現状で出来る唯一の策だ。

 圧倒的な敵軍の前には小細工など通用しない。確実に、敵を削減する他に手は無い。


 椅子に座って展開されたスクリーンを見た。

 周囲から続々と中央に集まり少しずつ東に進んでいる。

 だが、これはいい目標になるな。


 「敵の中央を爆撃する。爆裂球ではなく、爆弾を落とせ!」

 

 俺の言葉をエルちゃんが書きとめて、シイネさんに渡している。

 直ぐに通信兵がアルトスさんに連絡してくれるだろう。


 「昼間爆撃はこれが最初じゃな。爆弾は足りるのか?」

 「500個をヘイムダルに備蓄してあります。まだ補給路に異変はありません」


 爆弾よりも銃弾を多く輸入していたからな。機関銃が銃弾を大喰らいするとは思わなかった。

 そんな話をユングさんにしたところ、笑い出すとともにそれで言いのだと話してくれた。


 「狙って撃つんだったら、ライフルが良い。機関銃は弾をばら撒くことに意義があるんだ。弾をケチるんじゃないぞ」

 

 あれを撃ち落せるのは今のところ機関銃だけだからな。機関銃を装備した分隊には、落ちるまで撃てと命じておいた。


 「レムル。これを見るが良い」

 

 スクリーンに映っていたのは、数個の赤い光点だ。敵の集結地点の周囲を周回している。

 

 「航空で哨戒ですか? 爆撃高度と速度は奴等を上回っています。初回の攻撃は問題ないでしょうが、2回目に高度をとっていると問題です」

 「爆撃は1度という事じゃな……」


 エルちゃんに頷くと、直ぐに席を立って通信機に走っていく。

 航空攻撃の方法を考えないといけないかも知れないな。


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