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N-173 サンドミナスの将来


 「イオンクラフトは8機になるのう。爆弾を16個落とせるか……。機関銃はどうするのじゃ?」

 「機関銃は別荘に1丁と王都に2丁置こうと思います。敵の夜間爆撃に少しは対応できるでしょう。ユングさんはイオンクラフトを渡したかったのが本音でしょうね。機関銃はオマケだと思います」


 それでも、守備兵は心強いに違いない。

 ちょっとした士気の向上には役立つだろうが、実戦でどれだけ役立つかは分からないな。出来ればそんな物を使わない状態でいたいものだ。


 「端末は2台じゃ。我がパラム王国周辺を監視する。レムルは遠征軍の状況と爆撃の成果を確認すれば良かろう」

 「そうですね。エルちゃんやアイネさん達にも手伝って貰いましょう。これからは常に監視が必要ですから」


 俺の言葉にエルちゃん達が力強く頷いてくれた。

 使い方は分かっているし、何かあれば通信兵が常時待機しているから迅速に部隊を展開できるだろう。


 早めに夕食を取って、夜間爆撃の出撃時間と爆撃地点をスクリーンで確認する。

 サンドミナス軍が国境に築いた柵の北10km程のところに続々と遠征軍が集まってきている。数箇所で焚き火が作られているだけだから、部隊全体を見るにはサーマル画像になる。まだまだ焚き火を目指して集まる軍勢があるぞ。


 「3万は超えている。対するサンドミナス軍は4個大隊、3千にも満たぬ。このままでは飲み込まれるぞ」

 「爆撃は必要でしょう。早めに一撃しましょうか。2回と思っていたのですが、場合によっては爆撃回数を増やさねばなりません」


 「通信兵、ヘイムダルに連絡だ。『2000時に爆撃部隊出撃。最後尾は焼夷弾を搭載。爆撃地点は32-41』以上だ!」


 これで、出鼻をくじければ良いんだが……。

 

 「後30分じゃな。ど真ん中に落とすとなれば、少しは役立つじゃろう」

 「そうでないと困ります。状況次第では、次ぎの攻撃には機銃掃射を行ないます」


 俺の言葉にキャルミラさんが重々しく頷いた。

 

 「8機のイオンクラフトは元々は襲撃機。地上攻撃を行うものじゃ。少し早い気はするが、やってみるが良い。じゃが、32丁の機銃から放たれる銃弾は2千発に満たぬ。それに当たる敵兵はさらに少ない。……が、敵を減らすことにはなる筈。それだけサンドミナスの負荷が減るじゃろう」


 ネコ族からすれば、サンドミナスも敵には違いない。だが、ここは迫害されたネコ族の脱出の手筈をしてくれた旧ガリムの民衆のためにも上手く攻撃を行って貰いたい。

 

 エルちゃんが入れてくれたお茶を飲みながら皆で爆撃の様子を見守る事にした。

 スクリーンの片側には通常の画像、もう片方にはサーマル画像が展開されている。南から赤い輝点のダイヤモンド編隊が2隊、ゆっくりとサーマル画像に表れた。

 かなり大回りしているみたいだな。出撃地点を知られぬ為の方策だが、もうしばらくはこのままでいくしかなさそうだ。


 赤黒く映るサーマル画像に沢山の白点が広がる。隣の画像には爆弾の炸裂光が広がった。

 一旦北に進んだ編隊が大きく右に旋回して同じコースをたどって南に進んでいる。

 先程の爆撃地点直前に東西に並ぶとその後に小さな白点が現れる。


 「指示せずとも我等の意を汲んでおるようじゃな」

 「ええ、爆裂球をばら撒いて帰ってきてます。たぶん簡易爆弾でしょうから、被害は最初の爆撃よりも大きいのではと思います」


 通信兵に次ぎの爆撃準備をするように伝えておく。

 まだまだ、これぐらいでは敵の数が減るとは思えない。分散しながらサンドミナスの柵に攻撃するならばそれでよし、まとまれば再度爆撃しておこう。


 「敵の上陸地点が攻撃を受けてるにゃ!」

 

 何度と!急いでスクリーンを拡大してみると、確かに何隻かの軍船が炎上している。

 そんな中数個の白点が短く輝いた。

 これは? 少し沖合いに画像を映すと3kmほど西の海に3隻の潜水艇が見える。どうやらそこから砲撃を仕掛けたようだ。

 ジッと見ていると攻撃と同時に前後に高温のガスが放たれている。どうやらカウンターマス方式の無反動砲を使っているらしい。

俺達が見守る中、2回ほど攻撃して潜水艇のサーマル画像が消えた。海に潜ったらしいな。

 

 「裏からの陽動か。中々やりおるわい。あれでは船着場を守る事も出来ぬ」

 「それより、これを見てください。かなりの速度で連中の頭上と、サンドミナス国境を動いています。サンドミナス側が攻撃を全くしていないという事は、ユングさんの行っていた空を飛ぶ連中でしょう」


 「偵察と索的じゃな。次ぎの爆撃は面倒じゃぞ」


 今のところ、飛び回っている範囲は島の西部に限られている。空からの偵察をサンドミナス側は予想もしないのだろうか?

 

 「レムル! これを見るのじゃ」

 

 赤黒く集まった敵軍の動きが活発化している。爆撃を受けて活性化したようにも見えるな。

 

 「分かるか? 共食いじゃよ。仲間の死体に群れておるのじゃ」

 

 昼間であれば凄惨な現場に違いない。エルちゃん達には見せられないな。

 連中は仲間の生肉を食べるのか? 完全に人を外れているな。

 

 3時間ほどの間をおいてその夜は3回の爆撃を行なった。

 最後の爆撃では機銃で地上を掃射してきたようだが夜間だからその効果は確認できない。それに共食いするから死体すら残らないのでは確認のしようがないぞ。

 

 そんな中、小型商船が2隻、内海を北に進んでいる。

 ひょっとして潜水艇と同じように無反動砲で攻撃するんだろうか?

 段々と夜が明けるにつれて、商船の姿が明確になる。

 どうやら武装商船のようだ。甲板に3門の75mm砲を積んでいる。

 あれでサンドミナスへ押し寄せる敵を攻撃するつもりだな。だが敵の【メルダム】攻撃を避けられるんだろうか?

 一応、アルトスさんに知らせておこう。場合によっては救助に駆けつけねばなるまい。

 

 夜明けと同時に遠征軍が動き出した。黒々とした軍勢はどう見ても3万を下らない。

 更に爆撃せざる得ないな。


 「アルトスさんに至急連絡『敵軍を襲撃せよ。爆撃と機銃掃射、さらには爆裂球を使え』と連絡してくれ!」


 その場から怒鳴るように通信兵に伝える。

 武装商船はサンドミナスの国境から1kmほど沖合いに停船して砲を西に向けている。

 今日はサンドミナス王国の一番長い日になりそうだ。


 アルトスさんの部隊が遠征軍を爆撃して南に進んでいる時、西から同じような編隊が遠征軍を爆撃する。峠の航空隊が来てくれた様だ。

 向こうも大陸を攻撃してるんだから大変だと思うけど、このタイミングでの攻撃は嬉しい限りだ。その上弾種は焼夷弾と言うよりもナパーム弾のように火炎が広がっている。油脂で爆弾を包んだ感じだな。

 ようやく目に見えて敵軍の数が減った気がする。

 俺達のイオンクラフトも、遠征軍が国境の手前3kmほどの地点に来た時に、もう一度爆撃を敢行する。

 

 この攻撃でサンドミナス側もようやく遠征軍が大部隊で押し寄せてくる事を知ったようだ。

 慌てながらお柵に部隊を配置しているのが見える。

 

 「アルトス将軍から連絡です。『敵の監視部隊を攻撃しつつ爆撃を行う』以上です」


 サンドミナス軍は、柵に張付いてるから【メルダム】で一網打尽になってしまう。これは何とか防いでやらねばなるまい。

 「了解」を伝えるように言って、ついでに峠の航空部隊へのお礼を伝えて貰う。これはエルちゃんに頼んでおけば良いだろう。


 イオンクラフトの攻撃で遠征軍の塊が分断する。そのままサンドミナス軍の柵に突入していった。

 さすがに時間を掛けて作った防壁はキチンと機能しているようだ。

 柵に取り付いても突破出来ずにいるところに爆裂球の雨が降り注ぐ。

 ハントの3段攻撃がいたるところで行われている。遠方にはバリスタで爆裂球を縛り付けた矢が飛んでいってる。

 何とかなるか?


 さらにサンドミナス軍の予備兵力が柵に取り付いた。老人が主力の予備兵力だが、使っている武器はハントだろう。数十m以内に近付く敵兵がなぎ倒されている。


 2時間程の戦闘が続くと、波が返すように遠征軍の大軍が北に敗走していく。

 単なる猛進とは異なるようだ。戦況をいている奴がいるようだな。


 「これで侵攻を諦めるのでしょうか?」

 「いや、また攻撃するだろうな。兵力を貯えて再び侵攻してくるはずだ」


 度重なる攻撃で数千は倒した筈だ。内海の武装商船も6門の75mm砲を100発以上放っている。

 サンドミナスのハントによる銃撃と爆裂球の投擲、さらにはバリスタの攻撃で合計1万は倒しただろう。次ぎの軍船の到着を待って、またサンドミナス軍に攻撃を仕掛けるに違いない。


 「じゃが、ジリ貧じゃな。あれだけ銃撃を行なえば弾薬が直ぐに枯渇するじゃろう。たぶん2度目も何とかなるじゃろう。だが、3度目は困難じゃ」

 「商船が何隻か南の入り江に入ってるにゃ。たぶんカートリッジを運んで来たにゃ!」


 それを考えてのキャルミラさんの意見なんだろうな。

 俺もそう思う。あまりに戦線が長すぎる。2回目の襲撃を跳ね返した後は、パラム王国の南にある、本来のサンドミナスの王国に帰って来るんじゃないかな。内海が敵の進軍を阻む。バリスタが有効に使えるし、海岸地帯に簡単な柵を作れば足止めには有効だ。

 

 「3度目は俺達の戦いになりそうですね。ですが、防壁は完成しています。遠距離から榴弾砲で敵を翻弄できるでしょう。ですが、俺達には兵力がありません。長い戦いになりますが国力を削らぬようにしましょう」



 何と言っても西の守りが2個大隊だからな。王都の2個中隊の予備兵力をなるべく使わずに済ませたいものだ。

 地図上の駒を見る。いくら見ても増える事は無いが、兵力を動かす事は出来る。

 次ぎの戦場は西の防壁だ。そこにどれだけ他の部隊から応援を送れるだろうか?

 エクレムからは既に2個中隊が移動している。残っているのは、北の石塀を守るライナスさんの屯田兵部隊だな。だが、名目兵力は300人、2個中隊にも満たない。12個小隊を出して貰うか。王都から1個中隊を出せば、250人程の増員になる。後は、民兵を集める事になるだろうな。


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