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N-172 レムナム王国の滅亡


 レムナム王国軍の滅亡は唐突だった。

 だが、あれではどうしようもなかったろう。5万を超える軍勢が一斉にレムナム軍に突撃した。戦闘は僅か1時間にも満たない時間で終了した。

 いくら弾薬があっても、接近されては悪魔の放つ魔法を防ぐのは困難だ。ただの柵では少しは時間を遅らせられるだろうが、5万の軍勢に3千の軍勢では旧式銃のカートリッジを詰める最中に襲われるだろう。

 最後は数百個の爆裂球の炸裂とともにレムナム王国はこの世から消え去ったのだ。


 「まるで野犬の襲撃にゃ!」

 「これで、レムナム王国は滅んだんでしょうか?」


 「滅んだ……。俺達に倍する国力だったけど、あまりにもあっけなかったな」

 「滅びの時はそのようなものじゃ。小さな穴が一気に広がる。旧パラム王国を思い出すのう」


 だが、ネコ族の場合は洞窟村という隠れ里があった。それに引換えレムナム王国軍にはそんな場所は存在しない。

 非戦闘員はサンドミナス王国に脱出したが、その財宝は殆どが命乞いに使われたろう。ガリム王国なら未だしも、レムナム王国には再興の材料が無いのだ。


 「長老に伝えるにゃ。レムナムには恨みがあるにゃ。。誰も気にはしないにゃ」


 そんな事を言ってアイネさんがテーブルを離れて行った。

 それは、確かに喜ぶべき事ではあるかもしれない。だが、これほど簡単に敵を滅亡させる遠征軍に俺は恐怖を覚えた。

 エルちゃんが入れてくれたお茶のカップを持つ手が震え手いるのが分かる。


 「やはり、戦は数じゃな……」


 タバコを咥えながらキャルミラさんが呟いた。

 確かにそれも正論だと、先程の戦で身に滲みて分かったつもりだ。だが、俺達はあえてその言葉を覆さねばならない。

 その為の装備だ。そのために俺がいる。

 残りのお茶を一気に飲み干して、スクリーンをもう一度眺める。このまま東に進めば俺達との直接戦いが始まるのだ。

 

 遠征軍は部隊を整え始めている。105mm榴弾砲の最大射程は約10kmだから、奴等が東に進めば3時間も立たずに射程圏内に入る事になる。

 アルトスさんの部隊は厳戒態勢だ。エクレムさんが2個中隊の援軍を送っている。

 レムナスさんの部隊もハンターを20人程増員して監視体制を強化している。


 「アルトス将軍からです。爆撃を具申しています」

 「そうだな。輸送機も使ってたっぷりと落とすように言ってくれ。但し、面倒でも飛行コースは南から北に抜けて大きく東に回りこむように念を押して頼んでくれよ」


 「まだ、基地を明かすわけにはいかぬか?」

 「いま、分かってしまえばあの軍勢がそのままヘイムダルに向かってきますよ。先ずは数を減らす事に専念しましょう」


 5倍程度なら何とかなりそうだ。だが10倍となると問題だからな。

 サンドミナス側にも大きな爆発音が聞こえたようだ。国境の柵周辺では兵士達の動きが活発になっている。

 こっちは入念に準備しているようで小屋には土が載せられている。【メルダム】攻撃にも少しは耐えられるだろう。

 援助してあげた旧式銃も使い方次第で有効に使えるはずだ。ハントの射程は40mほどあるから、3段撃ちをすれば敵も接近しにくいだろう。


 「ほう、バリスタも用意しているようだな」

 

 キャルミラさんがスクリーンを眺めて呟いた。

 数十台用意している。一箇所に集めなければしばらくは使い続けられるな。

 俺達のお古を送ってやるか……。


 ずっと南にスクリーンを移動させると、ネコ族の大量脱出に利用した入り江に2隻の商船が停泊していた。

 弾薬でも運んできたのだろう。だが、爆裂球は独自に調達することになる。俺達新興国と違って1万個を調達できる筈だ。もうしばらく頑張って貰わねばなるまい。


 だが、レムナム王国も爆裂球を手に入れた筈だ。それはどこに行ったのか?

 ひょっとして、サンドミナスとの小規模な取引は爆裂球を使った取引だったのかもしれない。となると、サンドミナスは俺達を凌ぐ個数を持っている可能性があるな。


 「いよいよ私達も戦う事になるんでしょうか?」

 「なんとも言え無いな。この部隊が南に向かうか、それとも東かで決まる。まだ遠征軍は俺達の存在に気が付かないんじゃないかな」


 問題は俺達の存在を敵が知った時だ。

 軍勢を溜め込んで一気に押し寄せてくる可能性がある。そんな事態を想定して俺達にイオンクラフトを貸与してくれたんだろう。そうなったら、昼夜兼行で爆撃しなければなるまい。

 それまでに、俺達は物資を補給する。いくらあっても足りる事はない。

 果てしない消耗戦が始まろうとしているのだ。


 「弾薬と食料は運べるだけ運んで欲しいな。場所が無ければ洞窟村へ向かう枝道でかまわない。場合によっては王都の王宮の広間であっても倉庫として使うんだ」

 「分かってます。現在荷揚げした物資は王都の宮殿に運んでます。石作りですから【メルダム】の炎でも焼かれる事はありません」


 言うまでも無い事だったな。

 となると、アルトスさんやエクレムさんも砦にたっぷりと蓄えてる筈だ。

 

 「レムル、少し雲行きが怪しくなったぞ!」

 

 集結していた敵軍が1kmほどの範囲にバラけている。爆撃によるものだろうが、その内の1隊が東に向かって進んでいるようだ。


 「通信兵、アルトス将軍に連絡。『敵軍東に進行中。現在位置26-38だ。距離約20km』以上だ!」

 「始まるのか?」


 「まだ分かりません。爆弾を嫌って移動しただけかも知れません。夜ですから、まだ石垣は見えないはずです。森もありますからね」

 

 少し早いが、明日には終わりの無い戦が始まるかも知れないな。


 ふと目が覚めた。何時の間にか寝てしまったようだ。

 ゴシゴシと目を擦りながら、部屋を出ると井戸に向かう。ツルベ井戸から水を汲んで顔を洗う。冷たい水が気分がいいな。

 そろそろ初夏だから、もうすぐ夜があける。今日も、端末が映し出すスクリーンから目を離せないな。


 部屋に入ると、キャルミラさんと目が合った。

 俺を見ながら微笑むとタバコを取出した。俺も1本取出してキャルミラさんのタバコに火を点けてあげる。


 「すまんのう。……もう少し寝かせておこうとしたのだが、起きてしまったようじゃな」

 「あれから変化はありましたか?」


 キャルミラさんの細い手が端末を操作する。


 「これじゃな。レムナム軍の残党狩りのように見えるが、このまま進めばハンターの監視線に接触するぞ」

 「レムナスさんに接触の可能性を知らせます。接触次第、攻撃に移ります」


 「全滅させるつもりか?」

 

 スクリーンから俺に目を映して聞いて来た。


 「何れは戦いになります。それに初戦が平地でない事が助かります」

 「大部隊を集結出来ぬか……。残党のように振舞うのだな」


 素早くメモにレムナスさんとアルトスさんへの指示を書きとめて通信兵を呼ぶ。

 これで、俺達もいよいよ参戦だな。

               ・

               ・

               ・


 エルちゃん達が起きてきたところで、全軍に戦闘開始を通達して貰う。

 アイネさん達には長老へ伝令に走って貰った。

 あのレムナム王国が滅んだのだ。長老には伝えねばなるまい。

 

 結局、レムナムさんの部隊と接触する事無く遠征軍の偵察隊は帰って行ったが、接触するのは時間の問題だろう。西の石垣にも後10kmに迫っている。

 まだ、昼間の爆撃は行なっていない。夜は敵だけの物ではないのだ。


 「大陸の南を回ろうとする軍船が増えてますね」

 「そうだね。その一部がこの島に来ているようだ。遠征軍はこの位置で足止めされている。何とか迂回路を探しているようだ」


 20隻ほどの艦隊が次々と向かってくるが、半分は大陸西岸で戦士達を降ろして戻っていく。残り10隻の半分がエイダス島を目指して残りは大陸の南を進んでいるのだが、エイダス島より100kmほど東の地点から先に進む事は無い。全て撃沈されているのだ。

 正しく絶対防衛圏だな。エイダス島は少し飛び出しているから、その防衛圏の恩恵にはあずかれないが、現状での商船の行き来に問題はないみたいだ。


 4機は襲撃機だったな。爆撃と同時に掃射をやらせるか……。

 レムナム王国の最後は見ている。飲み込まれたらお終いだ。可能な限り寄せ手として俺達の前に現れる敵を、見えない内に刈り取らねばなるまい。


 「エルちゃん。明人さんとユングさんに連絡してくれ。『本日中にパラム王国は戦闘に入る』それで分かるはずだ」


 別荘の護衛兵が俺達に朝食を運んでくれた。食欲はあまり無いが、食べておかねばな……。

 

 「明人殿から、連絡です。『昼過ぎにユング達を派遣する』以上です」


 食後のお茶を飲んでいる俺達のところに通信兵がやってきた。

 何だろう? 『頑張れよ』ぐらいの声援かと思ったんだけど。


 「アルトス将軍からです。『ヘイムダルより潜航艇3隻出航』以上です」

 

 潜航艇は連合王国からきた海軍が運用しているから俺達が直接指示することはない。さっきの明人さんの通信と関連してるのかもしれないな。


 端末のスクリーンを拡大して遠征軍の状況を確認する。

 どうやら、次ぎの攻撃目標をサンドミナスとガリムの連合軍に向けるようだ。レムナム王都の郊外に西の船着場とレムナム王国軍を殲滅した部隊が合流するように動いている。

 

 「動きが早いのう。人間の1.5倍程の進軍速度じゃ。日暮には集結するじゃろうな。攻撃は夜半と見るべきじゃろう」

 「ならば、2度ほど爆撃が出来ます。サンドミナス軍の防壁はレムナム軍よりはいくらかマシですが、軍勢は精々4個大隊。その内1個大隊は民兵ですからね」


 防衛線が長いのがサンドミナスの痛いところだ。山脈の西を迂回されたらひとたまりも無い。其方にも2個大隊を貼り付けているから、民兵まで動員している始末だ。一月も経たない内に、銃を撃てる人間全てを動員する事になりかねないな。


 「旧式ではあるが銃は沢山ある。どれだけ頑張れるかが楽しみではあるな」

 

 キャルミラさんの言葉が残酷に思える。だが、俺達を滅ぼそうとした連中でもあるのだ。俺達のためになるなら援助もしようが、俺達の王国に迎え入れようとは俺も思わない。


 昼過ぎにやってきたユングさんが俺達に渡してくれたものは、2機のイオンクラフトと焼夷弾50発。それに3丁の機関銃と円盤型のマガジンが12個だった。

 「しばらく来れそうに無いからな」と言って20個のタバコも渡してくれた。

 一番ありがたかったのは、端末のバージョンアップだ。仮想スクリーンを2つ展開できる。

 ここには2台あるから最大4つのスクリーンを展開して全体を見る事が出来るようになった。


 「連合王国の方もなかなか大変な時だ。東と西の同時兵力展開は、そもそも軍縮していたから兵力が足りない。かといって大幅な軍拡は色々と問題があるみたいだな。俺達は西を担当してるから、峠の航空隊と連携する事になる。一月に一度は顔を見せるようにするよ。だが……まあ、頑張れよ!」


 そんな事を言って帰っていった。

 俺達は決して1人じゃない。ユングさん達と力を合わせれば何とか生き残れそうだ。


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