N-170 【メルダム】の威力
5日程夜間爆撃をして遠征軍の陣形を崩してやった。
レムナム軍も、少しは防衛体制が出来てきたようだ。大陸からの侵攻軍を投降させて、兵力が7個大隊程に膨らんでいる。民兵も動員されているようだな。
積極的に攻撃に出ないところを見ると弾薬が不足しているのかも知れない。
そんな状況で内海を商船団がレムナム王国の港に向かって進んでいる。
たぶん武器弾薬だろうが、資金は十分なんだろうか? だが、これで少しはマシな戦が出来るんじゃないかな。
サンドミナス王国は南西部の海岸地帯を兵力の半分で固めている。もう半分は北部でレムナム軍の南進を阻止しているが、ある意味休養が取れる場所でもある。
こちらも民兵を徴集したらしく、両陣営に2個大隊を派遣している。さらに1個大隊を予備兵力としているようだ。
どちらも、カラメルとの取引で爆裂球を1万は手に入れられるはずだから、次ぎの遠征軍も何とか切り抜けられるだろう。
何時までも続く消耗戦の始まりだ。最初に根を上げるのはレムナム王国か、それともサンドミナス王国なのか……。
「明日には次ぎの船団が西に到着するな」
「はい。問題は俺達の爆裂球の在庫です。あまり支援する事が出来ません」
テーブルの地図を眺めながら会話する。エルちゃん達は朝方の部隊配置の確認を終えてこたつで編み物をしている。アイネさんとマイネさんは釣りに出掛けたようだ。
今のところ定時連絡に異常はない。
「それにしても連合王国の防衛圏に入ったら容赦無しじゃな」
「徹底抗戦を考えてますからね。無駄な戦をせずに消耗戦に対処しようとしているようです」
確かに徹底している。版図を広げず、自分達の共栄圏を守るためにいったい何時から準備しているんだろう。
遠い戦線を支える兵站の維持だけでも大変な労力を必要とする。ある意味システム化された形を取る事になるのだが、この世界の輸送方法を考えると俺には想像できないな。
「運河と鉄道馬車を利用しているようじゃな。簡単な蒸気機関は未だ出来ぬか……」
そんな呟きをキャルミラさんが漏らしたけど、明人さん達が魔石を大量に必要としていたから何か作る気なんじゃないかな。
「向こうはそれなりに備えていましたからね。ですがこっちの備えは急場凌ぎのところが多々あります。レムナム軍が時間を稼いでくれる間にこっちの準備を進めませんと……」
当座の作業は長城と化した防壁の拡張だ。ヘイムダルから旧ケリム町を利用した砦を経由してダリル山に至る長城は山間部が未工事だ。簡単な物でも作る必要があるだろう。出来ればダリル山に観測拠点を整備したい。科学衛星の画像も有効に使えるが、やはり目で見る事が大切だと思う。
南の長城は、パリム湖の南6kmの地点にある。旧ヒーデム町を砦として取り込んでいるがこちらはしばらくは現状維持で問題は無いだろう。エクレムさんも守備兵を王都の東に派遣して植樹作業に従事させている。
アルトスさんの部隊には気の毒だが、ダリム山の長城作りを頑張って貰わねばなるまい。
「忙しいのはアルトス達か」
「そうなりますね。差し入れを送ってあげましょう」
湖に張り出した場所だから良い釣り場になる。釣竿が10本程あるから定期的に魚を届ければ喜ばれるだろう。
「出来る限り準備はするのじゃ。まだまだ弾薬は足りぬぞ!」
「食料と合わせて購入しています。更に隠匿港の倉庫にも備蓄を始めました。備蓄は数箇所に分散して行なっています」
洞窟村が一番の集積地ではあるのだが、砦や王都にも備蓄倉庫を頑丈な場所に作ってある。分散してあれば、一箇所が破壊されても戦線を維持する事が出来るだろう。
数日が過ぎると、ダリル山の頂上付近で工事が始まっているのがスクリーンでも分かる。レムナスさんが監視所を作り始めたのだろう。作ると夜間爆撃の目標になるのだが、ダミーと本体を離して作っているようだダミーは木造だし、本体は石作りのように見える。
北側にも木材を伐採して簡易的な柵を作っているのが見える。どんな柵でも一時的に足止めにはなる。そこを集中射撃すればいい。近くに航空基地もあるから支援も受けられるだろう。
「ダリル山はこれで少しは防げるじゃろう。彼らの拠点はいまだにふもとの村なのか?」
「ラクトー村です。出来れば監視所の近くに洞穴でもあれば良いのですが、今のところは岩棚を利用する外はありません。この辺りに作ると連絡がありました」
監視所から1km程ふもとに降りたところだ。東向きの岩だなを利用して作ると言っていたが、精々2分隊程の駐屯になるだろう。まあ、山脈沿いの侵攻はあまり考えられないんだけど、備えは必要だ。
敵の増援は5千人を超えている。更に20席程の艦隊が接近しているのを見ると、消耗戦の様相が見えてきたな。
中継基地を叩けば少しはマシになるのだろうが、連合王国でさえ長距離爆撃用のイオンクラフトはまだ開発されていない。
今は堪える時期なのだろうか? もしも反攻が出来なければ次々に送られてくる敵軍にやがては飲み込まれてしまうに違いない。
俺達に出来るのは可能な限り、敵の補給線を延ばして叩く以外の手が無い。たぶん、明人さん達も残念に思っているはずだ。
「エルちゃん。各部隊の銃はライフルかウインチェスターに変わったの?」
「レムナスさんの部隊は散弾銃を使ってますが、一応50丁は確保してあります」
少し援助をしてやるか?
商人を通してサンドミナスに送ることは出来そうだな。
「パレトがあだいぶ残ってる筈だ。100丁をサンドミナスにカートリッジを含めて売り込んでやろう」
「なら、ハントも50ほど送るがよい。個人持ちでなく軍の装備であったものを送ることには問題が無い。我等は2度と使わぬじゃろうしのう。それで時間が稼げるなら安いものじゃ」
キャルミラさんは俺の意図に気が着いたみたいだ。両方とも俺達へ向けるには射程が短すぎるからな。だが、遠征軍に魔法を使う者がいなければ十分に使えるはずだ。
「パレトが500丁。ハントも200を超えます。カートリッジの在庫は1万を越えるでしょう。先程の数の倍を与えてはどうでしょうか?」
俺とキャルミラさんは顔を見合わせた。少しは残しておきたいと思っていたのは、民兵用の武器を考えていたからだ。
万万が一、正規軍が総崩れになった時、王都を放棄して洞窟村に立て籠もるための武器は残しておきたい。
「武器は王都と洞窟村に分散して散弾銃とライフルを確保しています。数は100丁ですけど、これにはハンターの装備を含めていません」
「分かった。ならばエルちゃんが教えてくれた在庫の半分を放出しよう。それだけでもかなりの部隊をサンドミナスは作れるはずだ」
2個中隊を作れるんじゃないか? たぶん連合王国の商船からも買い求めているだろう。サンドミナス、レムナムともに武器は喉から手が出るほどにほしい状況だ。
「これで、少しはマシに戦えるでしょう。レムナム軍は投降部隊を得て増強していますし、サンドミナスは新に部隊を編成できます」
「じゃが、敵の侵攻は止まらん。両国が疲弊して弾薬を購入出来ない時がやがて来る。両国ともに今までの戦役で蓄えを浪費しておる。それが問題じゃのう……」
国の収支が合わなくなっているというのか?
確かにレムナムは問題だろうが、少なくとも2つの王国を倒しているからその略奪品で潤ってるんじゃないかな?
サンドミナスも、ガリル王国の残党を吸収している以上、持ち出した財宝は手に入れているはずだ。
問題は食料じゃないかな。戦で穀倉地帯を荒らしてしまった。かなり今年の収穫量は減っているはずだ。
確か、南にも大陸があったんだよな。連合王国の商船はそれらの国とも貿易をしているのだろう。鉄製品を売って、買うのは穀物なんだろうか?
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俺達の王国に次々と商船がやってくる。取引の魔石は、王都の解放で隠匿宝物庫から持ち出したものだ。王国の危機という事で長老が数百個の魔石を届けてくれた時には驚いたけれど、ありがたく使わせて貰おう。
「ウインチェスターが200に、弾薬が2万発じゃ。爆裂球は残念じゃが、砲弾が300発増えたぞ」
「次ぎの便は、砲弾と食料です。大砲だけで50門ありますから、1門当り100発は確保して置きませんと……」
いくらあっても足りないだろう。運べる時に運んでおかないと直ぐに無くなってしまう。体力が人族よりも落ちる以上、武器の優劣で戦を左右したいからな。
「問題は、あの攻撃じゃな」
キャルミラさんが言ったのは、数日前に始めて確認した敵の攻撃だ。
ユングさんに前もって教えてもらっていたから、どういう攻撃なのか理解できたが、そうでなければいまだに理解できていなかっただろう。
【メルダム】攻撃が、レムナム軍に対して行なわれたのだ。
夜間、サーマル画像に映ったのは時速100km程の速度で敵軍から移動した数個の赤い点だった。その点がレムナム軍の作った柵の上に来た時に、大規模な温度上昇を確認したのだ。
俺達が使えるの、【メル】の火炎弾が精々だが、連合王国にはそれを上回る【メルト】それに【メルダム】を使えるエルフ族がいるらしい。
さすがに【メルダム】まで使える者は数が少ないらしいいし、数を打てないと聞いている。だが、敵軍が放ったのは【メルダム】だ。それも20発近く放っている。
思わず、俺が呆然としていると、キャルミラさんが【メルダム】と小さく呟いた。
105mm榴弾砲よりも被害半径が大きい気がする。それらの攻撃でどれだけの被害が出たかは明確ではないが、少なくとも中隊規模の兵士が失われただろう。
「一応、夜間は偽の陣地に焚き火をするように指示しています。ユングさんの話では接近する空を飛ぶ奴等を機銃で撃ち落す事も可能だと言っていました。それに、夜目は我が軍の方が優れているでしょう?」
「そうじゃな。機銃弾はライフルと同じじゃったな。更に、増やさねばなるまい」
機関銃は大量に弾薬を消費する。1分で450発と言っていたから、1秒間で7発ほど弾が出る。直径30cmほどの円盤状の弾装に60発のライフル弾が入っている。それを10秒も掛からずに撃ち出すんだから、弾が直ぐに無くなってしまうんだよな。
現在50丁近くの機関銃があるが、それに準備している弾装は5個ずつだ。確かに足りないな。




