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N-169 最初の爆撃


 急造の爆弾を持って夜間爆撃にイオンクラフトが発進して行った。峠の航空隊も通常爆弾で爆撃を援助してくれるようだ。

 俺達の爆撃が済んで1時間後に再度爆撃を行なうらしい。

 上陸でごたごたしているところを襲うんだから少しは効果があるだろうけど、これからの長い戦を考えると憂鬱になるな。


 「炸裂光を確認した。……全部で12発。我等の航空隊によるものじゃな」


 ジッとスクリーンを見ていたキャルミラさんが呟いた。

 スクリーンから目を離すと、俺のタバコの箱から1本取り出してライターで火を点けている。キャルミラさんって、喫煙するんだ!


 「2度と吸えぬと思っていたが、また楽しむ事が出来るとは思わなんだ」

 「言って頂ければ、何とかしましたのに……」

 

 そう言って、カテリナさんにタバコを3箱渡すと軽く頭を下げて腰のバッグに仕舞い込んだ。

 

 「今宵は、この箱で十分じゃ。じゃが楽しみが増えたのう」

 「ユングさんに分けて貰ってます。普段はこれを使う場合も多いのですが、用意しておきますか?」


 銀のパイプを見せると、キャルミラさんが小さく頷いた。後でエルちゃんに頼んでおこう。

 爆撃は俺達の宣戦布告になる。いよいよ始まったという事になるな。

 まだ俺達の存在は分からないだろうから、数回は船便が期待出来るな。潜水艇での物資輸送は一度に運べる量が極めて少なくなる。食料と嗜好品を優先して今の内に送って貰おう。


 従兵が入れてくれたお茶を飲みながら、スクリーンの映像をキャルミラさんと眺める。

 赤外線画像でも、戦果は良く分からないが海岸にたむろしていた場所を爆撃した以上少なからぬ損害は与えただろう。与えないようでは後が困る。


 「レムナム軍が動き始めたぞ。東と南の戦力を移動しておる」

 「サンドミナスも北から東に移動していますね。やはり気が付いたと見るべきでしょう」


 問題は、今戦っている大陸から来た連中と遠征軍の状況だよな。

 戦線は保っているようだけど、続々と戦線に遠征軍が集まっている。レムナム軍との戦で弾薬がどれ程残っているか分らないけど、弾薬が切れた時の行動がどうなるかだ。


 「このままでは朝まで持つまい。やはり大陸からの侵攻軍の命運は尽きたと見るべきじゃろう」

 「レムナム軍に投降するのも時間の問題ですか……」


 「少し、横になるが良い。しばらくは変化はせぬ」


 テーブルからコタツに行くと、エルちゃん達が寝ているコタツで横になる。

 変化があれば起こしてくれるだろう。

 目を閉じても、スクリーンの画像が浮かんでくる。その画像を眺めながら次ぎの行動を考えているといつの間にか寝入ってしまった。

               ・

               ・

               ・


 ゆさゆさと体を揺すられる。

 目を開けると俺を見て微笑むエルちゃんの姿があった。


 「皆さん起きてますよ。そろそろ昼食の時間です」

 「おはよう。起こしてくれてありがとう。……あれ、 キャルミラさんは?」


 「隣でお休み中です。私達が起きてからお休みされましたから、もう少しお休みになられませんと……」

 

 隣の敷物にキャルミラさんがコタツから頭だけ出しながら眠っている。ちょっと大きい猫が寝てるようだ。ごろごろと喉を鳴らさないんだな。

 ネコにコタツは定番だからこのままでも良いだろうなんて考えながら、井戸に行って顔を洗う。

 さっぱりしたところで、網に覆われた別荘の庭の隅で湖面を眺めながらタバコに火を点けた。

 湖を見る限りは平穏だな。

 東に見える監視台も網に覆われている。適当に横枝を丸太で組んでいるから、巨大な老木に見えなくもない。果たして上空からはどう見えるのか分らないが、それなりの効果はあるようだ。

 

 作戦指揮所に戻ると、テーブルの端に食事が用意されていた。

 俺が戻ったのを見て、エルちゃんがいそいでお茶を入れてくれる。2人で取る食事は久し振りに思えるな。


 「アイネさん達は?」

 「キャルミラ様のお使いで王都に向かいました。輸送船団を臨時に仕立てて物資を調達するとか……」


 早速動いてくれたようだ。嗜好品と弾薬の調達だろう。

 定番のハムを挟んだ黒パンだから食事は直ぐに終った。ゆっくりお茶を頂くと、端末を操作してスクリーンを展開する。

 テーブルの地図上の駒を現在の状況に合わせて修正していく。


 「遠征軍の連中は橋頭堡を作ったようだ。大陸からの侵攻軍は押されてるな。後10日もせずに壊滅しそうだ」

 「レムナム軍との挟撃になるという事ですか?」


 「たぶん、レムナム軍に投降して吸収されるだろうね。レムナム軍も軍勢が少ない。国王としてはそれを望むだろう」


 少しは反撃し易くなるだろう。だが、海上には次ぎの艦隊が向かってきているのだ。時間が経過するほどに敵は強力になる。

 サンドミナス軍も王都に僅かな兵を残して兵員を軍船に乗船させている最中だ。2個中隊程は増員出来るのだろう。だが、そうなるとエイダス島の南東が手薄になるぞ。

 遠征軍の軍船が島の南に回った時はちゅういが必要だな。

 

 侵攻軍は偵察部隊を着たと南に放っているようだ。戦闘が行なわれているようだが阻止線は地形を利用した要衝で維持されている。自分達の軍勢が巨大だから作戦もあまり必要にはならないんだろうな。全てを飲み込む形でゆっくりと進むことが彼らの戦の仕方に違いない。

 だとすれば、奇略を使って翻弄することは可能だろう。

 連合王国のように、巨大な堤防のような阻止線を作るだけの国力は俺達には無い。連合王国の助力でなんとか構築した長城を阻止線として維持しなければ俺達が滅びてしまう。

 

 「エルちゃん。状況を纏めて、将軍達に伝えてくれないかな。王都の長老達にも連絡しといた方が良いだろうな」

 「変化した場所を連絡します。これも連絡するんですか?」


 エルちゃんが指差したのは北西の艦隊だ。

 全て知らせるべきだろうな。俺は頷く事で答えた。

 

 タバコに火を点けて、大陸西岸の戦いを眺める。スクリーンに映し出されたのは黒々とした遠征軍の軍隊だった。

 西岸から100km程は彼らの版図になったようだ。その先端は200km程離れた荒地の戦場まで続いている。

 避難民と戦場との距離は数十km離れているが、東への移動速度はそれ程大きくはない。

 アリの行列のような長い遠征路を分断するのは峠の航空隊の目的なんだろう。となれば、10日もあれば作戦地域に避難民は到達出来る。さらに10日あれば少しは追撃の手が緩むだろう。今が一番の苦難なのかも知れないな。


 「ヘイムダルから連絡です。潜航艇が3隻、ブンカーに入港したようです」

 

 急いで、スクリーンをエイダス島に切り替える。この時点で入港したとすれば……。

 やはり、そうか。南に向かった艦隊が無くなっている。

 海上で待伏せて撃沈したという事になるな。潜航艇の運用は連合王国が行なっているから俺達には分らないが、エイダス島の海域も彼らの防衛範疇として行動してくれているようだ。

 となれば、北を進んでいる艦隊もそうなのか?

 スクリーンを移動させると、3隻の軍船が依然として東に進んでいる。あれはどう対処するんだろう?


 だいぶ日が傾いてきた時にキャルミラさんが起きてきた。エルちゃんが、変化の概要を地図を使って説明している。一々相槌を打って聞いているのがなんともシュールな光景ではある。

 

 「今夜の動きが楽しみではある。ところで、賑やかな4姉妹が見えぬが?」

 「王都に出掛けたようです。午前中に出掛けたようですから、もうすぐ帰って来るでしょう」


 「そうじゃった。追加の品を頼んだのじゃ。上手くレムナム軍が押さえてくれるなら後数回の商船を向かえる事は可能じゃろう」


 一月程って事かな? 奴等は空を飛べるとユングさんが言ってたからな。だが、飛行距離と速度はそれ程でもないと言っていたから、機銃で何とか打ち落としたいものだ。


 「昨夜島を南北に分かれて2つの艦隊が進んでいましたが、南の艦隊は連合王国の潜水艇によって沈められたようです。ですが、以前として、北の艦隊は大陸南岸部を進んでいます。これをどう見ますか?」


 「いつでも沈められると見ているようじゃのう。防衛圏にまだ到達していないと見るべきじゃろう。エイダスの南はサンドミナスの領内じゃが、サンドミナスの兵力は現在北西部に移動しておる。上陸された場合に撃退できぬと判断したのじゃろう。連合王国の司令部は広大な戦線を常時把握しているようじゃ」


 優秀な参謀が揃っているという事だろうな。それに分析能力も優れているようだ。縦深陣形となるように戦力を配分しているのだろう。消耗戦ならば兵站に近いほうが有利だからな。


 「遅くなったにゃ! ちゃんと頼んできたにゃ。連合王国の商船が直ぐにやってくるにゃ」

 

 アイネさん達4人がぞろぞろと作戦指揮所に入ってきた。

 俺達のところに寄るとそんな話をして、キャルミラさんに包みを渡している。

 その後は、エルちゃんを連れて部屋を出て行った。

 

 キャルミラさんが包みを開けると、立派なパイプが出て来た。タバコを入れる革袋が膨らんでいるから既に中に入っているのだろう。

 

 「ドワーフの会心の作じゃな。中々の細工じゃ」


 そんな事を呟きながら早速パイプにタバコを詰め込んでるぞ。

 暖炉で火を点けると、ゆったりとくつろぎながらパイプを楽しむネコの姿が俺の前に現れた。まぁ、違和感あり捲りだけど、ファンタジーな世界だからな。

 

 そんな事に感心しながら俺もタバコを手にする。

 あまり考えないでいよう。キャルミラさんは頭はネコだけど、思慮深さは俺以上だからな。

 

 「レムナス将軍からの定時連絡です。何時もは『異常なし』だけなんですが、今日は追申が入っていました。『獣が西から動いている』以上です!」


 「ご苦労。これからはそんな報告があちこちから来るかも知れない。通信文が長い時や緊急の場合は直ぐに知らせてくれ」


 まだ少年だけど、何時もと違うと直ぐに分ったようだ。そんな通信兵がいると助かるな。


 「今の話では、ダリル山系の獣が移動しているということだな」

 「はい。遠征軍が山に入って狩りを始めたか、あるいはレムナム軍が拠点作りを山系で始めたかと言うところでしょう。夜になればサーマル画像で少し分ると思います」


 俺達の方向に逃げ出すかと思ったが、レムナム王国の仕業に違いない。

 徹底抗戦を仕掛けるつもりのようだ。少しは手伝ってやらねばなるまい。キャルミラさんを見ると、俺を見ていたようだ。視線が合うと小さく頷く。やはり考えは同じって事だな。


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