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N-167 均衡の破れた時は?


 リムちゃんとキャルミラさんは、コタツで端末を使いながら勉強をしているようだ。何の勉強か聞いてみたら経済学というから、直ぐに避難した。アイネさん達もチンプンカンプンらしくいつの間にかコタツで縛睡中だけど、何となく分る気がするな。

 

 端末は2台になったから、俺の方は暖炉際で一服しながらスクリーンで周辺状況を眺めている。

 今のところは順調以外の何ものでもない。内政は長老達が俄然張り切って進めているし、城壁の工事も順調だ。

 気になるのは大陸の西岸で始まった悪魔達の侵略軍と西王国との戦いだが、やはりかなり劣勢だ。かなりの数の避難民が東に移動を始めている。

 現在は避難民の誘導と時間稼ぎに軍が動いているようにも見えるな。

 とは言え、隣国を征服しただけの軍事力はそれなりにあるようで、悪魔達の軍勢にも多大な損害を与えている。だが、いくら損害を与えても後から後から軍船がやって来るのだ。


 連合王国は既に迎撃態勢を敷いているようだ。

 荒地の遊牧民の部落に何度も使者が走っている。たぶん避難を呼び掛けているのだろう。遊牧が唯一の産業だから、食料となる牛や羊がいなければ侵略軍の行動をある程度抑える事も出来るに違いない。


 大陸はいよいよ戦乱に見舞われるが、エイダス島は一応平穏だ。エイダス島の互いに対峙する軍勢も決定的な対応策が無いようで膠着状態に陥っている。

 本来なら新たな俺達の王国内の開拓を積極的に行なう時なのだが、この状態では軍を縮小するわけにもいかない。砦周辺の開墾だけで現状は満足すべきだろう。

 俺達は物資を貯え、来るべき時に備える外に手が無いようだ。

 年が明けて新たな1年が始まっても、それ程変化は見られない。

 大陸の西の王国は王都を放棄して東へ流浪の旅を始めたようだ。避難民の列が長い列を組んで蟻のように移動している。

 その最後尾には2千程の軍隊が数を減らしながら侵略者を相手にしているようだ。


 「彼らには逃れる大地が続いている。じゃが、この地にはそれがない」

 「それが一番頭の痛いところです。俺達はここで迎撃する外に手がありません」


 「じゃが、2千年前にも似たような事があった。その時は洗脳された獣達が主体であったが、今回はそうでは無さそうじゃ」


 確か爆裂球をカラメル族から供与されて何とか巻き返したと言ってたな。

 今回は獣ではなく元人間が主体だ。果たして前回のように敗退させる事が出来るのだろうか?

 

 「現在の備蓄量はライフル用の弾丸が30万発。拳銃用が3万発です。一月に5万発ずつ備蓄量が増えています」


 砲弾も1門辺り50発を準備できた。次ぎの補給で更に増えるだろう。爆弾の方は2千発が備蓄量だが、これは爆裂球で手作りする事もできる。


 「この船団が気になるところじゃ。場合によっては迂回する軍船が出てくるやも知れぬ」


 スクリーンの端の方に映った船団を細い指先で示した。

 確かに今までよりも船数が多い。30隻を超えているぞ。映像を西に移動させると、次ぎの船団は更に数が多い。

 数千人から1万人の規模で襲来してくるようだ。


 「いよいよ本格的な侵攻でしょうか?」

 「先ずは情報収集と言うところじゃろう。確かにかつての王国軍を2万を超える軍勢が追っているが、その侵攻速度は緩やかだ。1日で100M(15km)も進んでおらぬ。それに、この部隊じゃ。数千ではあるがダリム山脈の北に向かっておる。連合王国への侵攻ルートを探っておると考えても良さそうじゃ」


 地図でも作っているのだろうか?

 闇雲に東侵しないのが不気味だな。知性があるという事なんだろうけど、難かしい戦になりそうだ。


 「問題はこの難民じゃ。20万を超えておる。この先の荒地を越えて、連合王国の版図に行き着けば一安心じゃろうが、いったいどれ位の難民がたどり着けるか……。苦難の旅になるじゃろうな」


 どう考えても千kmはあるだろう。女子供の数も多い。少なくとも2ヶ月は掛かるんじゃないかな。ある程度の対応は、明人さん達が考えてはいるのだろうけど……。


 「我等で援助したくとも出来ないですね」

 「距離があまりにも離れておる。それに食料とて我等が援助されている側だぞ。祈るぐらいが出来るだけじゃ」


 この進行速度では、キャルミラさんが指摘した船団が到着するのは一月も掛からない。

 いよいよ俺達の戦いが始まるのだろうか?

 となれば、臨時の軍事物資の調達依頼をしておいた方が良さそうだな。

 もう1台の端末を立ち上げると、ユングさんに状況報告と軍事物資の依頼それに連合王国側の状況判断をメールで送る。

 それが終ると通信兵に将軍達を呼び出すように告げる。大陸の状況次第では今年中に前哨戦が始まらないとも限らない。



 数日して、5人の将軍達が集まった。

 西の城壁を1個大隊の歩兵と2個中隊の混成兵力の約1300人で守っているアルトスさんはヘイムダルから来たようだ。南の城壁を1個大隊の混成兵力約700人で守っているエクレムさん。ダリル山の東半分を監視しているレムナスさんも将軍待遇で来たようだ。ハンターを8チーム率いて俺達に協力してくれている。ラクトー山の北にある石塀の陣地からはライナスさんがやってきた。屯田兵を中心とした民兵組織だが兵力は300人程になる。峠の航空基地ガルトスからは部隊長のジークがやって来た。


 一応作戦会議になるから、エルちゃんといつのまにか後見人に納まっていたキャルミラさんが俺の両隣に座っている。将軍達はテーブルをはさんだ向かい側だ。

 従兵がお茶を各自の前に置くと部屋を出る。エルちゃんがいるから通信兵も会議が終るまでは席を外して貰った。地図を乗せた大きなテーブルの角にはアイネさん達が女王の護衛と言う立場で席に着いている。


 「遠路ごくろうさまです。どうやら、連合王国が危惧していた事態が発生しました。最初は俺の孫の時代だと思っていたのですが、悪い事は早まるもののようです」


 俺の前ふりにじっと皆が耳を傾けている。


 「エイダス島より遥か西の大陸から凶悪な軍勢が侵攻してきます。既に大陸西岸の王国は強襲を受けて避難民が東に移動中です。王国の軍隊は避難時間を稼ぐ為に絶望的な戦をしているように見えます。現在の侵攻軍の規模は数万。ですが、これを見てください……」


 端末のスクリーンを俺の後ろに大きく展開した。

 暖炉に立て掛けてある杖で展開された画像を示しながらの説明を始める。


 「この船団が問題です。約1万の兵力を輸送していると考えますが、現在の王都には敵の兵力が2万ほど駐屯しています。今後更に軍船はやってくるでしょう。その時に侵略軍が連合王国にどのように進軍するか? これによっては三ヶ月を待たずしてエイダス島の存在に気が付くでしょう」


 「だが、俺達はこの島で現在闘争中だ。その均衡が破れた時、レムナムやサンドミナスがどのように動くか分らんぞ!」

 「ですから、皆さんに集まってもらいました。ここでエイダス島の戦闘について基本的な対応をお話します。

 1つ。援軍要請には応じない。

 1つ。難民を受け入れない。ただし、領内の通行は認める。これは領内を通って、サンドミナス領内への移動を認めるという事です。

 1つ。我が領内での発砲は即刻死刑。攻撃魔法も同罪とする。

 以上、3つが現在の闘争に関する対応です。過去の暴挙を考えれば難民に門を閉ざす事も出来ますが、後を考えればこれで良いでしょう。但し、これ以外の嘆願を聞く必要はありませんし、サンドミナスに映ってからの対応は彼ら次第です。我等から攻撃はしない。次ぎの戦が控えてますから無駄な浪費は避けましょう」


 「現在までに数百の難民がヘイムダル近郊に村を作っている。彼らはどうするのだ?」

 「農業労働力は貴重です。現状のままで良いかと、但し、難民と同行したいなら止めなくとも構いません。でも、村人に紛れ込む事は絶対に阻止してください」


 出来れば村人全員とも難民と同行して欲しいものだ。その反対だと内患を抱える事になる。


 「次ぎは悪魔軍との戦になります。かなり困難な戦になるでしょう。この戦で忘れてはならないことが1つだけあります。敵を200D(60m)以内に近づけない事。常にこの距離を念頭においてください。彼らの魔法は俺達の使う魔法よりも強力です。しかも空すらカラクリを使わずに生身で飛ぶ事が出来ると聞きました。200D(60m)はウインチェスターの射撃の範疇ですが、皆さんのリボルバーはあまり効き目があるとは思えません。ライフルとウインチェスターの戦になります」


 「その距離だと、爆裂球投射器は有効だな。手返しを考えるとバリスタは使えんか……」

 「機関銃が使えるから少しはマシだが、数が多いのが問題だな」


 「近付く前に出来るだけ砲撃で対応する事になります。ヘイムダルのイオンクラフトもそれなりに役立ちます」

 「そうなると、弾薬が心配だな。現状でいくらあるんだ?」

 

 「小銃弾が40万。砲弾が3千になります。連合王国に追加を頼みましたから定期便以外にも送られてきます」


 改めて地図を示す。

 予想される敵の進軍はエイダス島の西岸への上陸。その後に東侵する部隊と南侵する部隊に分かれるだろう。東侵する部隊のルートはレムナム王国の横断になる。ボルテナン山脈の北のルートも考えられるが、レムナスさんの部隊で発見出来るだろう。王都に予備兵力が2個中隊あるから、その部隊をライナスさんに送れば良い。峠には精強な戦闘工兵部隊が2個小隊駐屯している。


 「状況にも寄るが、俺のところから1個中隊をアルトスの部隊に派遣できそうだ。相当な激戦になるぞ」

 「問題は避難民と軍が同時に押し寄せて来た時だな。弾薬は温存したい。軍が一緒なら門は開かないでおこう。門を破ろうとするなら攻撃するだけだ」


 レムナム国王ならやりかねないな。そんな戦を聞いた事がある。

 だが、俺達の対応ならアルトスさんの言う通りで構わないだろう。軍と一緒の難民であれば開ける必要はない。民衆を守るのが軍の勤めだ。それなら一緒にいる軍に身を守って貰えばいい。

 

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