表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/177

N-166 西からの艦隊


 ラクトー山の峠に作った航空基地に部隊がやってきたのは、俺達の婚礼の一月後だった。80人程のネコ族主体の航空部隊を指揮するのはジークハルトと言う若い男だ。副官はリーディングというらしい。


 「版図の一部をお貸し頂きありがとうございます。着任の挨拶に参りました」

 

 別荘の警備兵兼従兵に案内されて彼等が現れたのは、エクレムさんと王都の東の開墾を話し合っていたときだった。

 地図を広げた大型テーブル越しに彼等と会うことになったのだが、着任報告を終えて俺の薦めで席についた彼等の表情は新らしい任務に高揚した表情が伺える。


 「挨拶はそれ位にして、ジークとリードと呼ばせてもらうよ。こっちはエクレム将軍。南の砦を守っている。将軍がもう一人いるんだが港の掩蔽を指揮しているから今日は来ていない。更に指揮官がもう一人。北の山岳地帯の守りを束ねている。その内、航空基地に顔を出すだろう」

 

 俺の言葉の流れでエクレムさんが小さく頷いた。

 

 「後は、そうだな。……女王のガードを務めるクアル姉妹がいるんだけど、今は庭で釣りをしている筈だ。女王も一緒だよ。この別荘はキャルミラさんと数人の配下が警備をしている。さっきの警備兵は支援部隊員だ」

 

 型通りの挨拶をして席についてから、ジーク達の視線は俺ではなく隣にいるキャルミラさんに釘付けになっている。俺の言葉をどれだけ聞いているか怪しいものだな。


 『我が珍しいか?』

 

 キャルミラさんの念話に2人が驚愕する。


 「まさか……、始祖様!」


 ジークがかろうじて言葉を発する。


 『始祖とはおこがましく思えるが、我らから今のネコ族は生まれたと言って良いであろう。言葉を交わすことも出来ぬ半端ものじゃ。気にせずともよい』


 そんなキャルミラさんの言葉に2人が頭を低くしている。ご先祖様だからだろうか?

 俺にとっては類人猿のご先祖に当たるんだろうな。だけど相対した時に、ネコ族がキャルミラさんに向ける尊敬と畏怖の態度は示せないと思うな。

 そうだ。キャルミラさんに対する態度は尊敬だけではない。畏怖が色濃く現れる。エルちゃんやアイネさん達はそんな感じはないんだが、長老にははっきりと態度に表れている。更にジーク達にもそれがあるという事は、いったい始祖にはどんな秘密があるんだろうか? ちょっと気になるな。


 「……話を元に戻します。アキト様との約定でイオンクラフト機を4機貸与することになりますが、現在連合王国で20人の訓練を行っております。彼等ならそのまま運用出来るでしょうが将来を見据えると戦が長期化しないとも限りません。追加で練習機を2機貸与致します。練習機ですから、武装は貧弱ですよ」


 「有難く頂きます。継続的な隊員養成が出来ます」


 「結構操縦は簡単なのですが、初めて空を飛ぶとなると、それなりの覚悟がいるようです。高度と速度はそれ程ではありませんが、航続時間と安全対策は十分ですから、新たな部隊での運用を期待してますよ」


 ん? 必ずしも練習機というわけでは無さそうだ。練習機という名目で譲ってくれるということだろう。航続時間が長いということは偵察機ということか?

 

 「場合によっては、私の部隊の運用機数が2倍になるやも知れません。露天駐機も止む無しになるでしょうが、エイダス島と大陸南西部が活動範囲となりますので、それはご容赦ください」


 それでも、陽動的な役割になるのだろう。数十万、場合によっては100万を超える軍勢と言うのは下手な策は通用しない。そんな大軍を東で止めているのだから連合王国はたいしたものだと思う。


 そんな所に、アイネさん達が釣果を串焼きにして持ち込んできた。エルちゃんが淹れてくれたお茶を飲みながら、皆でちょと休憩だ。

 王女自らがお茶を淹れてくれことを、しきりにジークが恐縮しているけど、エルちゃんは庶民的だからな。上下の確執はここにはない。

 アイネさん達の獲物を分けてもらって、ジーク達は帰って行った。


 「予定より早くないか?」


 2人が出て行った扉を眺めながら、エクレムさんがパイプを咥える。

 エルちゃん達はコタツに移動して何やら相談している。残ったのはキャルミラさんを含めた俺達3人だけだ。


 「それは俺も、同じ意見です。たぶん、これが原因ですね」

 

 大陸を含めた大きな地図の西の端に赤い駒が置いてある。15と書かれた数字は艦隊の船が15隻あるためだ。乗船人員はたぶん3千人。その西にも2つ駒がある。


 『先遣隊の見極めというとことろじゃな。大陸の内海に向かうか、それとも大陸の西にそのまま進むか……』

 

 艦隊の速度は1日で200km程だ。このまま進めば後3日もたたずに大陸の西に到達する。

 連合王国とてただ眺めている分けではない。西からの侵入を防ぐ為にアトレイムの東に広がる荒地に長堤を築いたようだ。

 2重の空堀を掘って、その土砂で堤を作ったようだが、要所には石造りの砦を作っている。まるで万里の長城を見る思いだ。

 

 「流石は連合王国だ。あの10倍がやって来てもあの堤で止められるだろう。それに比べて我等が城壁は見劣りがしてならん」

 

 「まあ、主力が来るとは思えませんからね。それでも、空堀を作るのは進めましょう。更に1つ、更に深くで良いと思いますよ」


 『弾薬と食料の備蓄もじゃ。数が全ての戦に不足が出てはならんぞ』


 「十分承知しております。洞窟村を倉庫として食料備蓄を図るとともに弾薬は各砦に分散して集積している最中です」


 とは言うものの、現在に備蓄量では心もとないことも確かだ。

 単位面積当たりの収穫量が多くて保管の効く作物に、農業転換を図ることも必要だな。

 更に、弾薬量も頭が痛いところだ。約3千の兵士が常時携帯する弾薬は60発。それを2回支給出来る量でしかない。出来れば彼等が守る砦周辺にそれ位は確保しておきたい。それには10倍近くの量が必要だろう。爆弾や砲弾にしても半日で使い尽くしてしまうだろう。

 やはり、備蓄量を増やさねば話にならないな。

 そんな中でかろうじて数の確保が出来たのが爆裂球だ。穀物と引き換えに2年間で1万個を入手出来た。ある意味手榴弾代わりに使えるから、王都の工房で爆裂球の周囲に金属片を張り合わせる加工をしている。

 簡単な焼夷弾として、爆裂球を入れた金属筒に原油を入れたものを、南の荒地でメイデルさん達が試験を繰返している。

 

 さらに問題を複雑にしているのは、大陸からの侵略軍とレムナム王国それにサンドミナス王国が睨み合いをしていることだ。

 さすがに俺達への攻撃は皆無だが、悪魔達の侵略が始まると一気に難民としてパラム王国になだれ込んで来そうだ。総人口に匹敵する敵対勢力が難民化した時は、どう対処してよいかわからない。

 いくら温厚なネコ族でも彼等に苦しめられたことを忘れたわけではないだろう。難民虐殺が起きないとは限らないのだ。

 

 『南が空いておる。我等が土地を通らせて、南の地に向かわせるが良かろう。数万の難民を養える土地がある』

 

 「ですが、そこはサンドミナス……。サンドミナスの手に委ねるということですか?」

  

 『同じ種族じゃろう。我等と共にいれば何れ反目しあう。ならば、係わらねば良い』

 

 それも、1つの方法だな。冷たく感じるが共倒れになるよりはいいだろう。となると、その為の移動ルートをあらかじめ決めておく必要があるな。これはアルトスさんに頼んでみよう。

 

 『我らだけが平和に暮らしていたのだが、いつの間にか変わったようじゃな』


 「大陸を追われてきた人間族達がいつの間にか増えました。確かに元は我らだけだと効いております」

 エクレムさんがキャルミラさんに答えている。

 平和に暮らせるならいくら種族が増えても問題は無かっただろうが、王国を作ったことが問題なんだろうな。彼等の先祖はネコ族の支配を良しとしなかったのだろう。今更、難民として庇護を請うのは都合が良すぎるのかもしれない。

 いくばくかの援助を与えて、南に移動してもらうか。もっとも、ネコ族についてはこの限りでないはずだ。同属であれば庇護するにやぶさかではない。

 一通りの打ち合わせが終ったところでエクレムさんが作戦指揮所を出て行った。

 これから、アルトスさんのところへ寄って依頼した作業を伝えてくれるそうだ。


 『我から長老に伝えようか?』


 「エルちゃんに頼みます。確かにいくらあっても困る事はありません。俺達で自給出来るのはもう少し先になりそうです」


 キャルミラさんが俺の言葉に笑みを浮かべる。内政的なものもある。これはエルちゃんと長老の担当だ。


 『ところで、端末とやらを貸してもらえんだろうか?確かめたい事があるのじゃ』


 使えるのだろうか? ちょっと疑問に思いながらもキャルミラさんの前に端末を置くと子供のような華奢な手で端末のキーを操作しだした。

 俺より慣れてる感じがするな。スクリーンに映し出された特徴ある二重螺旋構造は見た事がある。遺伝子の構造体を理解出来るのだろうか?


 『やはりと言うべきじゃろうな。かなりの改造を受けたようじゃ。じゃが、今となっては過ぎたこと。諦める外にすべは無さそうじゃな』

 「何を調べていたのですか?」


 『我の遺伝子構造じゃ。あの遺伝子の暴走を見た後では、気にならんものはいないはずじゃ。我と姿を同じくしたものは全て土に帰っておる我だけが残ったのじゃ。その原因を思考する毎日であったが、原因が分った』


 細胞の分裂回数は決まっているらしい。それは体の各部位によって異なるらしいがキャルミラさんにはその回数を決める遺伝子が欠落しているようだ。ゼロではなく回数にの数値が無いという事だ。

 それって、ある意味不死身じゃないのか?


 『前は随分と悩んだものじゃが、今ではそれも天命と諦めておる。パラム王国の将来をここで見守るのもおもしろそうじゃ』

 

 「キャルミラさんと同じような境遇の存在がいますよ。婚礼の席に連合王国からやってきた人達はたぶんキャルミラさんと似たような存在です」


 数百年を経過して美月さん明人さんはあの姿だ。ユングさんはナノマシンの集合体だからな。


 『なるほど、我1人と言うわけでは無さそうじゃな。我はバビロンで学問を学んだ事がある。偏った知識やも知れぬが力にはなれそうじゃ』


 端末を使いこなせるだけでも凄いと思う。

 キャルミラさんに周辺監視を一任しても問題ないんじゃないかな? 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ