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N-163 婚礼の直前

 王都の仕事はそれなりに大変らしい。どちらかというと事務処理に近いものらしいが、向いてない人達がいっしょだからねぇ……。

 そんなわけで、エルちゃん達は結構な頻度で別荘にやって来る。

 俺の隣にエルちゃんを残して、アイネさん達は庭の片隅で釣竿を振っている。今夜は焼き魚だな。でも、アイネさん達は護衛だから、本当は事務処理をしないでも良い筈なんだが、何と言っても人材不足だからな。ここはあきらめて貰うほうが良さそうだ。

 3日おきに2日の休みなら、問題ないだろう。

 

 「そうですか。でも、贈り物と言っても欲しい物はありませんけど……」

 「だよなぁ……。とは言っても、何か言わないと2人とも納得してくれそうもないし」


 だいたい、衣食住に事欠かない。この状態に満足してるかと言えば、それなりに欲しい物はあるのだが、無くても困らないものばかりだし、この世界で手に入らないものばかりが頭に浮かぶ。

 定番ならば食器や時計なのだが、ハンター上がりの俺達に贅沢な食器は似合わないし、時計はアルトさんが「ここに飾ればよい」と言って鳩時計をくれた。

 作戦指揮所に鳩時計はないだろうと抗議したら、前例があるらしい。「ポッポーと言う時計で部隊を展開したのじゃ。20倍の敵に勝利したぞ」何て言って胸をそらしていた。

 いったいどんな戦だったのか想像も出来ないが、験をかついだんだろうな。

 

 そんなことを考えながら、2人でお茶を飲みながら溜息をついていると、アイネさんが獲物を持って入って来た。既に串に刺してあるから、暖炉でじっくりと炙る気だな。


 「何を悩んでいるにゃ?」

 「ちょっと、アクトスさん達に何を送ってもらおうかと悩んでたんだ」


 暖炉の石の隙間に魚の串を差し込んでいるアイネさんの背中越しに答えた。


 「私が伝えたにゃ。2人共喜んでたにゃ。私等も贈り物をするから楽しみにしてるにゃ」


 思わず、エルちゃんと顔を見合わせる。でも2人とも頭の上に大きな疑問符が浮かんでるんだよな。いったい何をリクエストしたんだろう?


 「アイネ姉さん。いったい何を頼んだんですか?」

 「絶対に必要になるものにゃ。エクレムが大喜びで商会に頼みに行ったにゃ」


 またしても俺達は顔を見合わせた。

 キーワードが出てきたな。「大喜び」、「商会」、「絶対に必要」この3つだ。ますます分からなくなったぞ。


 エルちゃんと一夜を共にして、次の日に沢山の魚をお土産にエルちゃん達は王都に帰って行った。あれだけ魚を持って帰ったら長老達も喜ぶだろう。

 見送りから帰ると、タバコに火を点けて端末を立ち上げた。

 メールが2つあるぞ。ユングさんからと美月さんからだな。

 

 先ずはユングさんのメールを開けてみた。

 

 『どうやら、身を固めることになりそうだな。おめでとうと言うことで、今狩りの真っ最中だ。流石に明人にしてどうにか狩れたというだけあって中々の奴だったぞ。アルトさんに後を頼んだから、この贈り物は俺達とアルトさんからのものになる筈だ。楽しみにな』


 次は美月さんからだ。


 『昨日、贈り物の獲物を狩って来たわ。明人が「これだけじゃ……」って言いながら何かを拵えているから楽しみにね』


 両方とも、俺達の贈り物になるものを狩ったということか? あの人達が狩る獲物ってどんな奴だ?? ユングさんが中々の奴だというのは想像出来かねるぞ。

 

 ちょっと呆然とスクリーンを見ていたが、長くなったタバコの灰を灰皿に落として、フラウさんにメールをしたためる。フラウさんなら教えてくれそうだからな。

 待つことしばし、2本目のタバコに火を点けたときに返事が返ってきた。ユングさんが狩ったのはレグナス。そして美月さん達が狩ったのはスノービューと言う獣らしい。

 すぐに、フラウさんが作った図鑑で調べてみた。


 今度こそ、開いた口からタバコがテーブルに落ちたぞ。

 レグナスはどう見てもチラノザウルスの親戚にしか見えない。スノービューはサーベルタイガーだ。

 こんな連中がこの世界にはいるんだなぁ……。驚きを通り越して感心してしまう。まして、それを狩りの獲物にするなど、世の中は広いって事になるんだろうな。

                ・

                ・

                ・


 俺達のパラム王国の人口も少しずつ増えている。

 各国からネコ族の人達が迫害を逃れてやってきたし、連合王国からは屯田兵や戦闘工兵の人達がやってきた。さらに、ラクト村からヘイムダルにかけての豊かな穀倉地帯は人間族が暮らしている。

 旧ラクト村在住以外のものはラクト村に入れぬように関所を作っているからネコ族の人達も安心出来るに違いない。例え高レベルのハンターと言えども、ラクト村以外のハンターには武器すら認めていない徹底振りだ。

 反乱が起きようとも鎮圧は容易だろうが、武器を持たねばその火種も起きないだろう。戦を逃れてきた人達もそれは我慢できるに違いない。反目しあった世代が入れ替われば少しずつ制限を解除して行けば良いだろう。


 まぁ、そんな内部情勢ではあるが、人口は4万人を越えたようだ。戸籍を作っているから間違いはないだろう。

 とは言え、正規軍は2千人足らず。何と言っても自給自足が目標だからな。兵士を募るのは最低限にしておきたい。


 そして、今日は俺とエルちゃんの結婚式だ。

 久しぶりに王都に数日前から宿泊しているのだが、宮殿から眺める町並みはどことなく浮ついているようにも思える。通りに面して、紙製の花が色とりどりに飾られ、何となくお祭りムードなんだよな。


 「ここにいたのか。そろそろ準備を始めるらしいぞ。まぁ、レムルは男だから準備と言っても着替えをすれば同じなのだが」


 そう言って、アルトスさんが俺の肩をぽんぽんと叩く。

 アルトスさんの服装は革よろいに蒼いマントを着けている。左に片手剣を差してベルトの右側にはリボルバーのホルスターだ。

 俺も似たような恰好になるのかな? あまり格好が良くないんだけどね。

 アルトスさんに拉致られるようにして部屋に押し込まれると、王宮で働く女性達に着替えさせられる。危うく、下着まで交換させられるところだったぞ。


 「中々似合うにゃ。馬子にも衣装にゃ」

 

 鑑の前に立つ俺を見て、後ろのお姉さん達が話しているけど、それって褒め言葉なのかな?

 いつもなら背中に背負う剣をベルトに下げて、M29のホルスターは腰の後ろに置いている。バレルを切る詰めたショットガンは別荘においてきてるから、こんなものだな。

 衣装的には白が基調になってるけど、金糸の刺繍がいっぱい入ってるし生地に光沢がある。たぶん絹なんだろうな。形そのものは何時もの革の上下に近いものだから着やすいことは確かなんだが……。何となく、衣装に着せられてる感じがしないでもないな。まぁ、今日一日だから我慢しよう。


 小さなテーブルに座って簡単な食事をとる。この後、長くかかるようならこれが本日最後の食事になりかねないぞ。

 

 「汚しちゃダメにゃ。ゆっくり食べるにゃ!」


 そんな小言を言われながらも、何とか汚さずに食事を終えた。

 暖炉際で一服を楽しんでいると、「よぅ!」っと声を上げて部屋に入って来たのは、ユングさん達3人だ。


 「やってきたぞ。知らぬ仲ではないしな。同じ境遇を思えば喜ばしい限りだ」

 

 俺が慌てて立ち上がろうとするのを手で制して、俺の前にあるソファーに腰を下ろした。

 一応、晴れの舞台だから、一張羅を着てきたんだろう。何時ものコンバットスーツに薄手の絹の上着を着ている。しっかりと体の線が浮き出てるんだけど、もうちょっと穏便な服装が良かったな。明人さん達と一緒じゃなかったのか?

 

 「美月さんが上着位は着なさいと言うから、テーバイまで行って買ってきたぞ。まぁ、これなら文句は言われないだろう」

 

 ユングさんの言葉に隣の2人がうんうんと頷いてるのも問題だな。まぁ、3人とも美人だから許されるかな?


 「お前達への祝いはお披露目の席でいいだろうが、これは俺の気持ちだ」


 そう言いながらバッグから取出したのは、銀の時計だ。懐中時計っていう代物だな。裏にはユングさん達の名前と、今日の年月日が入っている。蓋を開けると、俺とエルちゃんの写真が貼ってあった。薄いガラスに入っているから汚れないし、退色も防げそうだ。


 「科学衛星のビーコンを拾って自動補正するから、狂いはないぞ。光電式だから電池交換も不要だ。100年は稼動するぞ」

 「高価に思えますけど……」


 ユングさんが気にするなと首を振る。

 王宮の侍女が運んでくれたお茶を飲みながらしばし歓談しているところに明人さんが現れた。


 「こっちで控えてると聞いたんで来てみたが、ユング達も一緒なのか?」

 「あっちは、女性ばかりじゃないか。俺には無理だ」


 そう言ってユングさんが明人さんに椅子を勧める。

 ラミィさんが席を立って部屋を出て行くと、すぐにお茶のカップを持って戻って来た。ポットも一緒だから、改めて俺達のカップにお茶を注いでくれる。

 この人達となら、待ち時間を過ごせそうだな。タバコに火を点けると、フラウさんがテーブルの隅にあった灰皿を真ん中に置いてくれた。


 「身を固めると、考え方が保守的になる。いいか。常に前を見て動くんだ。そして、パラムの民を導いてほしい」

 「それは常々考えてます。でも、お2人ならある程度分かってるんじゃないかと思うんですが……。海を越えてくる軍団の来襲は何時を想定してるんですか? ユングさんのファイルでは数年後から100年後までを考えているようで、俺にはそんな漠然としたことではどの様に対応していいか分かりません」


 俺の言葉に明人さんとユングさんが顔を見合わせる。アイコンタクトというか、何となく恋人同士にも見えなくないな。

 

 「俺から話そう。確かに漠然としているといえばそうなんだろうな。俺達に寿命が無い事は知っているな。そのせいかも知れないが、俺達にはその期間でさえも短く感じることは確かだ。だが……、確かに曖昧ではあるな」


 「ラミィの分析では、先遣部隊との接触は5年後だ。たぶん、本隊が訪れるのが10年後というところだろう。しかし、勘違いするなよ。先遣部隊でさえ十万は超えるぞ」


 本隊は100万を超えるってことだよな。

 今日の晴れの舞台は、そんな大戦の前の一瞬の慶事ってことになるのだろうか?

 とは言え、一度は地図から抹消された王国が再起して、女王をいただく王国になったのだ。今日からは俺が夫となって共に王国をおさめることになる。

 役割分担は今のままで行けばいい。エルちゃんが内政を俺が軍事と外交を担当する。エルちゃんには長老達が補佐してくれるし、俺にはアルトスさんやユングさん達がいるからな。

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