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N-158 3つの砦


 別荘でユングさん達と会談をしてから一月程経過すると、3箇所で工事が開始されたことが端末のスクリーンでも分かるようになってきた。

 3日に一度、ユングさんがやって来て状況を教えてくれるけど、今のところは順調のようでにこにこしている。

 ある程度、形が出来たらエクレムさんに任せたいと言っていたが、エクレムさんは遠慮するんじゃないかな。


 「もうすぐ、セメントがやって来る。と言っても簡易型だがな。火山灰と焼石灰を混ぜたものだ。まあ、ないよりはマシだな」

 「ちゃんとくっ付くんですよね?」


 俺の疑問に、笑って頷いている。


 「お前も歴史で学んだ筈だぞ。古代のセメントだ。色々試して何とか形にしたんだ」

 

 という事は、古代石造建築物のようなものも作れるという事か?

 確かに王都の石造建築はどうやってあんな形が出来たんだと思う箇所もあったが、セメントを使っていたんだな。


 「話は戻るが、セメントが来るとかなり工事が形を成してくる。最初に終了するのはラクトー山の峠に作る航空基地だな。

 離着陸場の整地は大分進んでいるから、後はコンクリートを流すだけだ。

 宿舎と格納庫の掘削も進んでいる。この分だと、後三月で完成しそうだ」


 スクリーンに映し出された光景は俺には大きな運動場が作られたように見えるだけだ。

 隠せるものは全て隠匿すると言っていたから、こんな風になるんだな。


 「機銃座を2つ増やして「5つ作ってある。一応砲塔式だから、【メルダム】にも1撃なら耐えられるだろう」

 

 飛行形態を取った悪魔ガ【メルダム】を放つのは100m前後らしい。

 飛行速度も時速50km程らしいから、十分機関銃で対応出来るようだ。


 「格納庫は少し数を増やしている。十分1個中隊16機+予備4機を格納出来るぞ。人員は200人が暮らせる居住区にしている。まあ、雑魚寝になりそうだけどね」


 そう言って、俺の隣でタバコをに火を点けた。

 容姿がモデル並みだから、初めて見る者はかなり誤解するんだよな。

 中身は男だと本人も言ってるし、美月さんや明人さんも間違いないって言ってるんだけど、アルトスさん達はちょっと信じていないみたいだな。

 それでも、本人が望んでいるなら尊重しようと言うことで折り合いを付けてるみたいだ。


 「あの砦だが、何時までも旧ボルテム王都の砦と言うわけにもいかないだろう。それで、名前を付けた。……『ヘイムダル』というんだが、聞いたことはあるか?」


 確か、警告を告げる神話の人物じゃなかったか?


 「発案は美月さんだが、明人もそれがふさわしいと言っていた。ラグナロクを告げる番人だ。将来的には悪魔達の襲来を見張ることになるから、ふさわしい名ではあるな」


 北欧神話なのか。

 となれば、ラグナロクってことになるぞ。


 「ヘイムダルにブンカーを作っている。潜航艇が複数隻入港出来るだろう。港は整備しているがブンカーを隠すダミーになりそうだな。

 105mm榴弾砲は12門据えつけている。3箇所に分散してあるがこれはダミーだ。75mmカノン砲を隠蔽壕の中に20門設置している。そして、移動可能な榴弾砲も隠蔽壕に入れてあるから、問題はないはずだ」


 ブンカーって潜水艦の基地だよな。

 それ程悪魔の空襲を警戒してるってことなのか?

 

 「コンクリートで固めて後は土を乗せるだけだ。湖までの隠蔽道路も作り始めた。まあ、完成は1年程掛かるんじゃないかな……。

 そして、こっちが隠蔽地下港の状況だ」


 小さな山が作られている。

 どうやらその下に港があるみたいだ。港を作る残土を重ねたら、山になったという感じに見えるな。


 コンクリートはこちらが先に使っているらしい。

 ぶ厚い壁を持った22階建ての建物が、山から突き出すように作られていた。

 そしてその建物から溝が湖に向かって延びている。それが地下通路になるんだろう。一部は既に土砂が乗せられて、植林までが行われている。


 「後半年以上は掛かりそうだ。輸送用潜航艇は少し大きいから、地下の港もそれに合わせてある。地上風景は単なる見張り台に見えるように偽装するつもりだ」

 「それでも、1年後には全て完成するんですから驚きですよ」


 「驚くのは奴らを見てからだ。その数は半端じゃないぞ。戦は数だと言ったやつがいるらしいが、正しくその通りだと思う。ちょっとした武器の優位何かは吹き飛んでしまうからな」

 「それは、ユングさんの実感ですか?」

 「そうだ。数百年前に奴らと一戦交えた事は話してるよな。俺達は無人化された機甲師団を使った。軽戦車1中隊ぐらいでは奴らの進撃を阻止できなかったぞ」


 4を基本にした構成なら、64両で阻止出来なかった事になる。

 そんな連中を相手にして俺達は勝てるんだろうか?


 「そんな顔をするな。良いか、お前には仲間がいる。ネコ族の軍の士気も高い。ちゃんと準備をしておけば、戦は長引くが負ける事は無い」

 「やはり長期化するという事ですか?」


 「此処だけの話だぞ……」


 そう言って、タバコに火を点ける。

 ユングさんはヘビースモーカーだな。

 

 連合王国も、現状を保つのが精一杯らしい。

 何とかすべく美月さん達が対策を考えているみたいだが、やはり本拠地を叩かねばいかんともしがたいとのことだ。


 「連合王国としても、海外遠征を行なうまでは国力が足りない。そこが辛いところだ……」


 他国に数百万の軍勢を遅れる国家に攻め込むには、いったいどれだけの兵力を必要とするのだろうか?

 少数精鋭を送り込んでも、簡単に潰される。

 そんな連中を相手に勝つ事が出来るのだろうか?


 「美月さんの考えでは、勝つ必要は無いそうだ。国家が拡大する事で成立する国ならば拡大が停滞した時に国家の衰退が始まると言っていたぞ。

 だが、それは人間的な国家であった場合に言えることであって、奴等には当てはまらない。

 その辺は、美月さんも知っているのだが、奴等の行動理念を人間をモデルに少しずつ変えて戦略を練っている感じだな」


 「最初から別物とは思っていないという事ですか?」


 「その考えは、偏見を持つ。俺は美月さんに賛成だ。少なくとも1つの国家を作り上げる存在を最初から別な存在と考えると戦略を見誤ることにもなりかねない。

 ある意味、戦力とは数式なんだ。

 そこにある複雑な変数を1つずつ、確定させるというのが勝利への鍵だと俺は思うぞ。もっとも、そんな作業は俺には向かないけどね」


 俺にだって向かない。

 かなり、複雑な思考を繰り広げなくちゃならないんじゃないかな。

 だが、それを一瞬に解く連中もいるらしい。

 俗に言う、軍略の天才という存在だ。

 

 連合王国の初期にそんな人物が現れたらしい。

 1人は巨大なガルパスの石像の中で眠りについたサーシャ、もう1人は予知夢で民衆を導いたオデットと呼ばれた女性達だ。


 「2人ともおもしろい人物だったな。そして2人ともある意味明人の縁者だ。サーシャは義理の妹のような存在だったし、オデットは実の娘だからな。だが、とある理由でオデットに会うのは1年に1度だった……」


 昔を思い出して微笑んでいるという事は、中々おもしろい人物だったに違いない。

 そんなユングさんのカップに、暖炉のポットからお茶を注いであげた。


 目を閉じて昔を懐かしんでいるのだろうか?

 タバコに火を点けると、頬杖をついてじっとしているユングさんをしばらく眺めていた。


 「……すまん。ちょと昔を思い出してた。ある意味、古きよき時代だ。連合王国の曙と言っていいだろう。その2人がやった事は、今でも残っている。

 連合王国の軍隊構成と東に造られた巨大な防壁だ。

 どちらも連合王国の将来を見据えて作ってくれたから、今の連合王国があるのも確かだ」


 そのおかげで、東の守りが維持出来るらしい。

 北は急峻な山脈で南は海だから、確かに十分な備えだな。

 しかし、敵の進軍ルートが西からもあるとは当時はあまり考えられなかったようだ。


 「敵の進軍の一部が東回りを取る事を知った時は、美月さんが驚いてたな。2千年前のように進軍は西回りだと思っていたからな。

 どうやら、敵も戦略をある程度考える事が出来ると、美月さんは考えている」


 とは言え、やはり主力は西をやってくるのだろう。

 何と言っても、凍った北極海を渡れば歩いてこられるからな。大陸の遥か東で食料も調達できるに違いない。

 それに引換え東回りは船を使う他に手はないからな。

 ある意味、陽動と言うことになるんだろう。

 

 「数十万規模であれば、防衛できる。だが、百万となると蹂躙されるぞ。

 東は百万単位だが、西は数十万というところだろう。西の王国がもう少し協力的ならよかったのだが……」

 「上陸する敵を抑制しようという事ですか? その為の潜水艇基地をヘイムダルに造ろうと?」


 俺の問いにユングさんが頷いた。


 潜水艇自体は数百年前に実用化したらしい。大きな戦にそれを使って群狼作戦を行なったとユングさんが教えてくれた。

 それから、少しずつ改良がなされて、現在は2種類の潜水艇が使われていると言う事だ。


 「潜水輸送艇と攻撃艇の2種類だ。

 輸送艇の方は、10tの貨物を輸送出来る。そして攻撃艇の方は、浮遊機雷と無反動砲で戦う……」

 

 直径4m、長さ30mの葉巻型の構造を持つ潜水艇は海面下20mまで潜水出来るらしい。駆動は人力でスクリューを回すから、時速5km程度ということだ。それでも敵に見付からないから、色々と使い道があると言っていた。


 「出来ればエンジンが欲しいところだが、未だに実用化に至っていない。魔石を利用したエンジンを現在試作中だ。これが出来れば潜水艇は本格的に兵器として使えるんだけどね」


 それが出来れば、自走砲だって出来るんじゃないかな。

 榴弾砲の機動運用は是非とも行いたいところだ。


 「弾薬庫は分散させたい。出来れば昔住んでいた洞窟村を集積所として活用すればいいだろう。後は、この3箇所と王都に集積所を作って、洞窟村から運べば理想的だ」

 「それも、航空攻撃を考えての事ですか?」


 「そうだ。奴等の【メルダム】は強力だ。良いか、特殊合金の軽戦車が白熱して爆発する位なんだぞ!」

 

 魔法の威力が高いとは言っていたが、それ程のものか。

 1発だけでなく数発を受けたんだろうが、内部の砲弾が爆発したんだろうな。

 ヤケに隠蔽と地下施設にこだわっていたのはそういう理由だったか。

 実際に奴等と戦って得た教訓を、俺達の砦で対応してくれてるんだな。



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