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N-152 パリム湖の砲台船


 次々とパリム湖に榴弾砲を乗せた台船が浮かぶ。砲兵がゆっくり櫂で沖に向かって台船を進めていく光景を別荘のテラスで眺めていた。

 今夜には所定の位置に4門の榴弾砲が並ぶだろう。

 いよいよ、作戦第2段階に入ることになる。


 作戦指揮所に戻ると、エルちゃんが調整してくれた作戦地図を眺めた。

 南のエクレムさんは2個中隊と民兵に柵を任せて、西に移動している。1個大隊の規模だが榴弾砲8門は強力だ。

 王都西に展開したアルトスさんの部隊は今夜の移動に備えて柵の一部を破壊している。

 2個大隊の移動になるからな。

 追従するハンター部隊は2個小隊だが、山麓方面の攻勢は彼等に任せることになる。

 山麓に逃走するのは愚策だからそれ程の人数にはならないだろう。

 

 端末を使ってアルトスさんの陣営を見ると、エクレムさんに負けない位の荷車を用意しているぞ。

 丸太の杭も山になって積まれている。

 そして、砲兵にはトラ族の兵士も数人ずつ配属されているようだ。移民で来たのだが、早速部隊に組み入れたようだ。

 迅速な榴弾砲の移動には力がいるからな。将来的には移動手段を考える必要がありそうだぞ。


 「エルちゃん、通信機の方は大丈夫だろうね」

 「パリム湖の台船に2台配置しています。エクレムさんとアルトスさんとの連絡手段は大丈夫です」

 

 そう答えてくれると、カップを交換して改めてお茶を入れてくれた。

 後は、待つだけか……。

 

 レムナム王国の情勢を見てみると、南の傭兵部隊は旧ガリム王国の王都に入ったようだ。

 近くに柵を築いているから、レムナム軍は柵の防衛に力を入れれば良い。

 旧ガリム王国の残党とサンドミナス軍はガリム王都を目前にして停止している。

 祖国の侵略を知ったのだろうが、この後の対応が見ものだな。

 

 そして、サンドミナス王国は穀倉地帯に空掘りと塹壕をまだ作っている。

 あれでは、来年の穀物収穫量がかなり減ってしまうぞ。


 そして、肝心のレムナム軍と侵略軍だが……。

 北の山麓を東に進んでいる部隊がある。雪が深いのかまだそれ程進出していないが、レムナム軍の構築した柵の東に出る奇襲部隊のようだ。

 同じような部隊が南西の山麓を西に進んでいる。これはレムナム側の奇襲部隊だな。

 だが、侵略軍の方は広域に監視部隊をばら撒いているからもうすぐ接触するだろう。

 となると、レムナム軍の北が突かれる。それに対応する部隊は……。王都の北に布陣する1個大隊ってことになるか。この部隊を出撃させると、王都の直援部隊が無くなるから、王都脱出も視野に入れねばならないだろうな。領民を伴なった東への移動は時間の問題かも知れない。

 

 「砲台船及び支援台船、全て岸を離れました」

 「ありがとう。暖炉で暖まってから戻ると良いよ」


 外で出発を見ていた警備兵が知らせてくれた。

 俺の言葉に頭を下げると、そのまま部屋を出て行った。

 自分達の屯所に戻って温まるのかな?

 

 「エクレムさんのところの偵察部隊の移動は完了してるの?」

 「出発した連絡は受けましたが、移動完了は未だです。榴弾砲の移動は4門が終了したと報告がありました」


 4門あれば開始できるな。後は観測部隊を兼ねた偵察部隊が位置に着くのを待つだけか……。


 タバコに火を点けて、旧ボルテム王都である砦を監視してみた。

 城壁の上でゆっくりと数名の兵士が周回しながら監視をしているようだ。道具を使わなければ精々3km程度の距離が確認出来るだけだろう。

 偽装した偵察部隊を発見するのは先ず無理だろうな。


 「王都から2kmの地点に、偵察部隊の配置完了。310度方向に王都が見えるそうです」

 

 エルちゃんの報告を聞いて、位置を確認する。……これだな。

 早速、座標を読み取って偵察部隊と榴弾砲の位置をエクレムさんに伝えてもらう。

 これで、地図で砲撃が可能になる筈だ。

                ・

                ・

                ・


 夕暮れ近くにエクレムさんから準備完了の報告が届く。

 日暮れと同時に、レムナム軍の篭る旧ボルテム王都の砦を攻撃を指示する。

 パリム湖に浮かぶ砲台船もどうにか所定に位置に着いている。

 少し北風があるが、氷が台船を固定している感じだから、位置ずれを補正しなくても良いんじゃないかな。


 「砦に民間人はいないんですか?」

 「少しはいるんじゃないかな。少なくとも周辺に暮らす人はいないようだ。ほら、こっちに集落があるだろう。前線近くは戦に巻き込まれるから農民達は離れてしまうんだ」

 

 内海沿いに数km離れて集落が出来ている。

 レムナム軍が森を焼いたときに南に下った魔物を避けるために、農民達は砦付近から離れたようだな。

 

 「たぶんこの集落の連中も逃げ出すだろうな。逃げるとしたら、海岸沿いに王都へ行くんじゃないかな」


 

 「エクレム将軍からです。『砲撃開始』以上です」

 

 従兵が2人待機している。

 通信兵のところから走ってきて報告してくれた。

 

 「ご苦労。次は1時間後の筈だ。引き続き連絡を担当してくれ!」

 

 俺の言葉に頭を下げると部屋の端に戻って行く。

 確か、最初は2発だったな。


 スクリーンに砦周辺を映し出して、弾着の様子を見た。

 砦の南東300m付近だ。

 砦に篝火が増えている。俺達の攻撃に備えるようだが、砦には2個中退程の兵士が残っているだけの筈だぞ。

 

 1時間後に4発が砦の城壁付近に弾着した。1発は城壁に当たったようだ。

 砦の中を松明を持って走る兵士の姿が見える。10個程の光球が城壁の外に浮かんだ。

 この段階では、疑心暗鬼だな。まだ今夜攻めるとまでは思っていないだろう。


 次の砲撃の合間に簡単な夕食を取っておく。

 薄いパンにハムを巻き込んだものが2個と野菜スープが夕食になる。

 

 お茶を飲みながら、ジッとスクリーンを見詰める。

 夜間だからサーマルモードに変えてあるので砦の兵士の動きが良くわかるな。

 

 正確に前回砲撃から1時間後、3回目の砲撃が行われた。

 港と砦に8発の榴弾が着弾する。

 

 右往左往しているが逃げ出す気配はないな。

 城壁にかなりの守備兵が張り付いている。いよいよ攻勢と見ているようだ。

 

 「次の砲撃は1930時だ。2000時にパリム湖の砲台船から砲撃開始を伝えてくれ」

 

 次の砲撃は16発だ。その後4発の砲撃が加わる。

 そしてその1時間後には、ランダムに砲撃が行われる。いよいよ第2段階の仕上げに入るぞ。

 

 そして1時間後。

 砦に満遍なく砲弾が炸裂する。

 城壁に上っていた兵士が次々と数を減らしていく。2箇所に火災が起きたようだ。その火災を消そうとする兵士の姿も見えない。

 北の城門付近に兵士が群れだした。逃走を企てているかにも見える。


 そこに2発の弾丸が炸裂した。

 やはり台船だから正確さに欠けるようだ。

 ばらばらと城門から外に兵士が出て行く。逃げる方向は北だな。

 

 「台船に連絡。砦の北200mをランダムに攻撃! そして、エクレムさんには第3段階開始を連絡!」


 少し早いが、砲兵部隊の1つを前進させる。砦まで3kmの位置に着けば、直接照準が出来る筈だ。

 

 「台船、命令受信を確認!」

 

 お茶を届けてくれたエルちゃんが隣でメモを取ってくれる。

 報告を「了解!」と答えてくれるから助かるな。


 「エクレム将軍からです。『砲兵1個小隊を前進させる』とのことです」


 残った砲兵小隊と台船の砲兵達がランダムに射撃を始めたようだ。

 纏めて撃たれるよりも、散発的に撃たれた方が先が見えなくなるからな。

 

 台船からの砲撃で敗走する兵士達が西を目指している。

 松明を掲げた兵士もいるから、逃げる兵士は西を目指すだろう。


 「エルちゃんアルトスさんに連絡だ。『第3段階進行中、第4段階開始に備える事』で良いだろう」

 

 日付が変わる前には始まりそうだな。

 そんな事を考えながらタバコに火を点けた。


 「アルトス将軍からです。『ハンターは漁に出た』以上です」

 

 エルちゃんが不思議そうに俺を見た。


 「第4段階はこの位置まで兵を進める。だから山に入り込まれないように先手を打ったんだ。なるべく北側から攻撃するようにはするだろうけど、山に潜まれたら後々厄介だからね」

 「逃げ出すでしょうか?」


 「逃げるしかない。留まったら砲弾の餌食だし、砲撃の後にはアルトスさん達が侵攻するからね。ラクト村は問題ないだろうが、その西にある町ケリムは厄介だな。直ぐ西に森が広がっている」


 今回の最大の激戦地になりそうだ。

 数門の榴弾砲を移動できれば良いのだが、あれは重量があるからなぁ……。


 「エクレム将軍からです。『砲兵1小隊移動完了。現在残り1小隊を移動中』以上です」

 

 砦内を拡大して様子を見る。

 まだ100人は残っているようだ。

 たまに兵士が2、3人連れで逃げ出しているから、戦闘意欲はあまりないだろうな。


 「アルトスさんに連絡。『第4段階始動。一気に版図を広げよ!』以上だ」

 

 待機していた従兵がメモを持って通信兵のところに駆けて行った。

 時計を見ると、まだ23時にもなっていない。

 今のところ順調だな。


 「アルトス将軍より返電。『了解』以上です」


 先ずは砲撃、その後に攻勢になる筈だから、戦闘が開始されるのは早くて1時間後。夜が明ける頃にはラクト村は開放される筈だ。

 

 「エクレム将軍から連絡です。『砦の攻略を開始する』以上です」

 

 砲撃で敵を潰さずに、砦内に侵入して掃討戦をやるつもりなのか?

 慌てて砦を見ると、火災は数箇所に広がっているが、まだ数十人が潜んでいるようだ。

 

 「エクレムさんに連絡してくれ。『砦内に数十人が潜んでいる』以上だ」

 

 砦内は白兵戦になりそうだ。油断してるととんでもない事になるからな。

 

 「エクレム将軍より連絡です。『了解。0020時に一斉砲撃の後砦に突入』以上です」

 「パリム湖の砲台に連絡。『0000時を持って砲撃停止。パリム湖南岸を目指せ』以上だ」

 

 パリム湖の対岸までは1kmを切っている。時間は掛かりそうだが、湖を迂回するよりは早く着く。

 

 第3段階は終ったな。いよいよ最後の第4段階だ。

 砦への突入は3個中隊のようだ。1個中隊は岸辺に沿って北を目指している。

 湖近くの林に潜む敵を確認しながら移動するのだろう。

 

 そして、8門の榴弾砲が一斉に火を放つと、3個中隊が破壊された城壁を越えて行った。

 北門からばらばらと敵兵が逃亡している。

 2時間も掛からずに制圧出来るんじゃないか?


 残りは北の連中になる。

 アルトスさんの軍はやっとラクト村への砲撃を始めたようだ。

 かなり散布界が広いから殆ど最大射程で砲撃しているようだ。


 歩兵部隊はまだ4km以上の距離がある。

 ラクト村攻略は2時を回るだろうな。

 

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