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N-149 ドワーフ族への使者


 ユングさん達に連絡したのは午前中だったのだが、その日の夕方には別荘の中庭にユングさん達の乗るイオンクラフトがやってきた。


 警備兵が作戦指揮所に3人を案内してくれたけど、ユングさん達が作ってくれたようなものだから、案内はいらないんじゃないかな?

 今日は、いつもの体に張り付いたような戦闘服ではなく、革の上下を着ている。服から覗くシャツは木綿のようだ。

 少し、踵を高くしたブーツを履いている。

 

 姿だけなら、典型的なハンターの出で立ちだ。

 いつも、この姿なら良いんだけどね。


 そんなユングさん達をコタツに案内すると、直ぐに足をコタツに入れる。

 一応掘りゴタツだから、腰掛けられるので足の長い3人も問題は無いだろう。


 「どうした。大至急って連絡があったから飛んできたんだが……」

 

 確かに飛んできたな。

 おもしろそうに、お茶を飲みながらユングさんは俺を見ている。


 「実は、これを見てください」


 端末の画像を表示して、状況の説明をする。

 

 「美月さんが、『近々お前から依頼があるかもしれない』と言っていたのはこれのことか。まあ、状況は理解した。だが、チャンスでもあるな」

 「この話をサンドミナスにリークしてサンドミナスを旧ガリム王国の版図に出兵させようと企んでいます」


 「その隙に内海への出口を手中にする気か? だが、それなら俺は必要ないだろうに」

 「実は、この船団の上陸すると思われる付近にドワーフの洞窟村があるんです。このままではレムナムと大陸からの侵略軍の戦に巻き込まれてしまいます。何とか、ドワーフ達にこの状況を伝えられないものかと……」


 「そうだな。戦で兵士が命を落とすのは仕方がないとしても、巻き込まれて落とすのは忍びない。……で、ただ知らせれば良いのか?」

 「出来れば、北回りで脱出出来ればと思っています。俺達の北側から2個小隊を派遣すれば、彼らを厳冬期でも救出出来ると考えています」


 そう言って、マイデルさんに書いてもらった書状を手渡した。

 

 「とは言え、誇り高いドワーフ族。簡単に自らの工房の火を落とす事は無いのかもしれません。ですが、彼らを迎える場所があることを、知らせておきたいのです」

 「判断はドワーフしだいか……。今のお前達に出来るのはそこまでだろうな。分った。返事だけでも貰ってくるぞ。そして、北の荒地を左回りで救援部隊を送ることは可能と伝えれば良いな?」


 ユングさんの言葉に俺が頷くと、微笑みながらお茶を飲んでいる。

 温くなったお茶だから、慌ててエルちゃんが新しいお茶と入れ替えるために暖炉のポットを取りに行った。


 「イオンクラフトは置いて行く。3人で出掛けてくるから3日は待ってくれ。それと、これは土産だ」


 そう言って、新しいタバコの箱を渡してくれた。10個入りが2つだ。

 直ぐに、バッグの魔法の袋に仕舞い込む。


 エルちゃんがお茶を入れなおすと、ラミィさんがバッグから大きな包みを取り出して、エルちゃんに渡している。

 それをあけると鯛焼きだった。

 

 「村でも売ってるんだ。こちらには無いと思って買ってきたようだな」


 嬉しそうな顔で鯛焼きを見ているエルちゃんを見ながらユングさんが教えてくれた。


 「それでは、出掛けてくる。何かあれば連絡してくれ」


 そう言って、3人はコタツを出て行った。


 「3人で大丈夫でしょうか?」

 「あれだけ強いんだから大丈夫だと思うよ。俺としては、ドワーフの人達がマイデルさんの手紙を見て行動に移してくれるかどうかが心配だ」


 エルちゃんの目の前の袋には鯛焼きが沢山入ってる。今晩はアイネさん達や通信兵達とスゴロクでもしながら食べるんだろうな。

 そんな光景を想像しながら、タバコに火を点けた。

               ・

               ・

               ・


 そして、3日目の夜。

 警備兵がユングさん達を案内してきた。

 早速、暖炉前のソファーに案内して、状況を聞く。


 「ドワーフは2つの集団で北の荒地を東に向かう。

 女子供が先だ。その後を若いドワーフ達が追撃を牽制しながら向かうと言っていた。総勢で約1500人程になるらしい。この国の新たな住人になるだろうな」

 「ありがとうございます。早速救援隊を出発させます」


 「出発は今日の深夜だ。今の時期なら10日以上の日程になる。任せたぞ」

 「分りました。……通信兵。メイヒム将軍に連絡だ。『救援隊出発せよ』で分る筈だ」


 入口近くのコタツで待機している2人の通信兵に指示を送る。

 これで3日もすれば会合出来るだろう。


 「そして、お前の言っていた船団だが、かなりの規模だぞ。総勢1万と少し、三分の一は戦装備だ。残りは女子供だが、場合によっては戦にも使えるだろう。そうなると、3千人を超える軍がエイダス島に新たに現れたことになる。装備は旧式だろうが、1つの勢力になることは確実だ」

 「レムナム軍が何処まで耐えられるかが問題です。旧ボルテム王都である砦に逃げ込まれると、後々面倒なことになります」


 暖炉のポットのお湯を使って、フラウさんがコーヒーを作ってくれた。

 俺の前にシェラカップを置くと、バッグの袋から手掴みでコーヒースティックを俺の前に置いてくれる。

 紙袋に入れてくれれば良いのだけれど、これはこれでありがたく頂いておく。

 

 「今の季節だと、攻略が面倒かも知れないが頑張れよ。そして、お前の計画ならば内海への出口を得たところでしばらくは内政に勤しむ気だろう。

 明人が内海用の船を2艘贈ると言っていたぞ。そして俺は……、20人を集めておけ。屈強でなくとも良いが、出来れば全員ネコ族が望ましい」

 「特殊部隊……ですか?」


 「ああ、カウンターテロ部隊だ。連合王国の正規兵は明人達が育てたようなものだ。だが、どうしても後方に入り込まれたテロを目論む少数の部隊に対しては脆弱な組織になってしまった。

 奴はあまり裏の戦をしないからな。それなりに夜戦は出来るんだが……」


 たぶん、性格なんだと思う。

 戦でテロは想定しないからな。後方の治安は別の部隊が担当しているんだろう。

 その中で、対テロ部隊を作ったという事は、何かあったのだろうか?


 だが、移民を受け入れ、難民の流入も考えなくてはならない状態ではありがたいはなしではある。

 少数精鋭部隊を作ってくれる、という事になるんだろうな。


 「今年の夏ぐらいになったら、装備を含めてやってくるよ。普段は国境近くで監視をさせておけば良い。そして、必要になれば召集して対応出来るように鍛えてやる」

 

 そう言って、ソファーから腰を上げた。

 シェラカップはそのまま置いて行ってくれるみたいだな。

 

 「無理はするなよ。そして、大胆に行動しろ。……じゃあな!」

 「美月さんが見てるってことですか? 一応、慎重に行動してるつもりなんですけど」


 そんな俺の言葉にユングさんが頷きながら肩を叩いてくれた。

 「見送りはいらないぞ」そう言って部屋を出て行く。


 部屋を出るのを見送って、再び暖炉脇のソファーに腰を下ろした。

 これで、ドワーフ達の救出は何とか目途が立ったな。


 次ぎは、いよいよ旧ボルテム王都を改装した砦の攻略だ。

 準備状況をそろそろ再確認した方が良いだろう。それに、マイデルさんに頼んだ砕氷船の状況も気になるところだ。

               ・

               ・

               ・


 エイダス島の北西海岸に次々と軍船や商船が接岸して兵員や資材を下ろしている。

 荷卸を終えた船は近くの入り江に入って解体されていた。

 沢山の天幕が風を遮るちいさな林の周りに次々と作られていく。

 

 3千人を超える兵力はそれだけで脅威だな。

 数日も過ぎれば、山脈の狭間を通って南東に移動することになりそうだ。

 それとも、春を待って一気に行動に移すのだろうか?

 次々と荷降ろしされる資材の量はかなりの量だ。十分に1年を超える食料を持参してきたのだろう。


 焚火が焚かれ、その回りに人が集まる。

 そんな人々が少しずつ天幕の群れに移動していくと、天幕近くにも焚火が増えていく。

 

 ジッと端末のスクリーンに映る映像を見ていた俺に、警備兵が来客を告げた。

 そして、アルトスさんとエクレムさんが入ってくる。


 「どうだ?」

 「上陸しました。総数で1万5千。兵だけでも3千人を超えているとユングさんが教えてくれました」


 2人は小さなテーブル越しにソファーに座ると、俺の見ていた映像に目を移す。


 「凄いな。国が引っ越してきた感じだな」

 

 エクレムさんの感想は、正にその通りだ。彼らには帰るべき国が既に無い。


 「かなりの資材を運んでいます。これなら、春先にレムナム軍と戦うという、選択肢も出てきますよ」

 「だが、レムルは始まると踏んでいるんだろう?」


 「ええ、レムナム国王が現在の状況を知っているかどうかですけどね」

 「今は冬場だ。そして北には傭兵達が1個大隊はいるからな。ジッと王都に篭っている筈だ」


 「そして、南にも動きがあります。旧ガリムの残党に船2艘分の物資を送っていますよ」

 「やはり、サンドミナスは旧ガリム領を狙っているということか」


 ここで、もう一押ししてやるか。


 「アルトスさん。レムナム北西に6個大隊を越す軍隊が上陸したと噂を流せませんか? 出来れば今度はレムナム軍にも伝わるとおもしろそうです」

 「前と同じで良いな。レムナム軍とサンドミナス軍を煽ってやるのか?」


 煙はある。煽れば燃え上がる状態だ。

 

 「俺達の準備は何とかだな。エクレムの方は終ったらしいが、俺の方は距離が長いからな」

 「簡単なものでも十分です。此処からは俺達の国だという宣言みたいなものですから、杭を打ってロープを張るだけでも十分です。それに戦力を移動出来ますから、防衛も何とか出来るでしょう」

 「ライフルとウインチェスターがあるからな。纏れば榴弾砲の餌食に出来る」

 

 「たぶん、この侵攻が終った段階では大軍で俺達に攻めてくる事はしばらくは無いと思います。来るとすれば、俺達の村や武器倉庫の焼き討ち、それにいやがらせ的な小さな部隊での監視部隊への攻撃になるでしょう。

 現在の編成ではこれに対応する部隊がありません。これからの侵攻作戦が終ったら、20人程のネコ族の兵士を選んでくれませんか? ユングさんが特殊な部隊を作ってくれるそうです」


 「正面的な戦ではない戦に対応する舞台と言う訳だな。選んでおこう」

 「移民や難民も増えてくる。それに他国の兵士が混じっている事を考えるとゾッとするぞ。王都とこの別荘には警備兵がいるが、他の村や町にはいないからな」


 やはり、アルトスさん達もその危惧を危ぶんでいたらしい。

 

 「ところで、マイデルが午後にも試験をしたいと言っていたぞ。どうやら出来たようだ」

 「それは楽しみですね。湖の真中はかなり薄いですから、そこまでの砕氷は先行してやっても良いでしょう」

 

 上手く行けば、今日からでも始められそうだな。


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