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N-148 レムナム王国への侵攻策


 「何だと? あえてレムナム王国の危機をサンドミナスに漏らすのか!」

 「そうです。それによって、このように兵力を分散させるのが狙いです」


 地図上のサンドミナス軍の現状配置を、旧ガリム王国側に3個大隊を移動した。

 

 「サンドミナス王国には旧ガリム王族達が避難しています。そして、サンドミナスとしても穀倉地帯を手に入れる良い機会でもあります。侵略軍とレムナム軍が交戦するなら、絶好の機会になるでしょうね」


 エクレムさんが、レムナム王都の南で交戦中の傭兵部隊を指差した。


 「この連中はどうなるんだ?」

 「前後を挟まれますから、侵略軍の本隊に向かうでしょう。レムナム軍は王都防衛に参じることになります」


 「だが、そうなると……。そうか。この辺りに防衛線を築いて国境とするんだな」

 「元々の国境線を整備することになるでしょうね」


 「俺達を呼んだ訳は、サンドミナスの兵力が旧ガリム王国に向かう時を見計らって、旧ボルテム王都を攻略する為だな」

 「そうです。サンドミナスに、レムナム王国に大陸からの侵攻がある事を知らせれば、……早ければ10日、遅くても一月後にはサンドミナス軍は動きます」

 

 漁夫の利って奴になる筈だ。

 問題は、新たな防衛線を築く資材がどれだけ間に合うかに掛かってる。

 当初の侵攻予定を早くて初夏としていたからな。


 「資材の調達は半分程だ。10日で上乗せ出来ても7割に届かないだろう」

 「南はサンドミナスの防衛線を転用すれば良い。俺の方の築城資材をアルトスに送ろう。それで8割にはなるだろう」


 残り2割は現地調達か……。

 幸いに旧ボルテム王都の北には森が広がっている。その木材を使えば間に合いそうだな。


 「だが、この軍船の兵達が北の石塀を狙うことは無いのか?」

 「ここで争っている傭兵は侵略部隊の生き残りです。半日足らずで3個大隊近くを失ったことは侵略軍に報告されるでしょう」


 俺の言葉にアルトスさんが頷いた。

 エルちゃんが俺達のカップにお茶を注いでくれる。

 熱いお茶を飲みながら俺達3人は、じっと地図を眺めた。

 

 「人が欲しいな……」

 

 エクレムさんの呟きに俺達が頷く。

 少しは増えたけど、どうにか2万人を超えたぐらいだ。その2割近くを動員せねばならないのが問題ではある。


 「まぁ、贅沢は言えん。エクレムに1個大隊。俺に1個大隊と3個中隊。そして、王都に1個中隊を置いて対応せざる得まい」

 「混戦にならなければ柵作りが基本だ。榴弾砲は何とかなるのか?」

 

 「現在供与された榴弾砲は32門。連合王国は50門と言っていましたが、残りは何時来るかが未定です。

 そして、北に8門置いていますから、残り24門です。俺が4門、エクレムさんが8門、アルトスさんに12門とします。バリスタはそのまま使うことで対応してください」

 

 「俺の部隊の進出とエクレム部隊の進軍は連動させる必要があるな」

 

 アルトスさんの呟きに、地図の駒を動かす。

 エクレムさんの部隊が進出して防衛線を築き、砲兵部隊を西に動かす。

 続いて、俺の湖上砲台が湖の南西に移動する。


 「この状態が第1段階。旧ボルテム王都から西へ逃れる道を開けておきます。

 そして、第2段階は、エクレムさんの部隊と俺の部隊での砲撃です。2撃毎に様子を見れば良いでしょう。旧王都の砦にはたまに当たるぐらいで問題ありません。

 第3段階で、砲台を更に近づけます。エクレムさんの砲兵も瑚に沿って西に進んでください。

 今度は、砦が見えますから叩くのは容易でしょう。

 敵が逃げ出し始めたら第4段階の開始です。

 背走する敵を榴弾砲で追い討ちを掛けながら、一気に旧ボルテム王都の北側に柵を作ります」


 最後にアルトスさんの部隊の駒を、旧ボルテム王都の北側に並べた。

 3つの部隊の連携が重要だが、俺達には無線機があるからな。

 作戦範囲が西に限定しているから、この作戦指揮所で全体を指揮出来るだろう。アルトスさんの部隊とは中継点が必要になるが、レイク達に手伝ってもらおうかな。

 

 「旧ボルテム王都に圧力を掛けてじわじわと追い出すのか。追い出したら素早く囲うのだな」

 「そうです。力攻めにしなければレムナム軍が侵略軍の相手をしてくれますよ」


 俺達に余力が無い事をレムナム軍は知っている。戦線を拡大することは出来ないし、追撃することも不可能なのだ。中隊規模の兵力を俺達の作る柵に合わせて展開すれば、背走した兵力を使って応戦することも可能だろう。


 「これで、エイダス島の北東部を全て手中にしたことになります。この状態で国力を伸ばしましょう」

 「山間部に不安は残るが、それは仕方がないか……」

 

 「数チームのハンターを雇って、展開することになりますね。偵察が主ですから、白レベルでも対応出来ると思います」

 「エイダスの最高峰だから獲物も多いだろう。獲物を狩りながらの偵察なら請負うハンターも多そうだ」


 そして、俺達も穀倉地帯を得ることが出来る。

 移民や、難民がどれ位増えるか分からないけど、その土地も準備しなければならないからな。


 「しかし、後10日か……。一応、長老の耳には入れて置く。来年の夏の反攻作戦に長老は賛成しているから、反対はしないだろう。そして、サンドミナス王国へ情報を漏らすのは、港の酒場での噂として流すことで良いな」


 俺は、アルトスさんに頷いた。

 

 「だが、これでは4カ国になってしまうぞ。また、悩みが増えたな」

 「ですが、数年後には元の3カ国になりますよ。侵略軍の治世は長く続かないでしょう。サンドミナス、レムナム共に旧ガリム地方の住民虐殺は知っていますからね」


 住民蜂起が起きるだろう。レムナム王国が住民東に移動するなら、食料自給が出来ないから早まるかもしれないな。

 商船から購入するとしても、それ程長くは続かない筈だ。


 「準備が出来次第連絡すれば良いな。エクレムもそれで良いな」

 「ああ、俺の方はそれ程準備がいらないからな。十分に余力がある」


 俺達3人が頷き合って、2人が部屋を出て行った。

 その後姿を見送って、タバコに火を点ける。


 「一気に版図を広げて大丈夫なんですか?」

 「ああ、これぐらいなら大丈夫だと思う。サンドミナスもレムナムも忙しいからね。俺達に構っていられないんだ」


 そう言ってエルちゃんを安心させる。


 「そうだ。予備の無線機が何台かあったよね。ルミナスとレイク達を探してくれないかな。ちょっと頼みたい仕事があるんだ。そして、マイデルさんにも別な仕事を頼みたい」

                ・

                ・

                ・


 次の日、早速やってきたマイデルさんとルミナス達にあらましを説明する。

 ルミナス達のパーティには旧ラクト村周辺で無線の中継をしてもらうつもりだ。レイク達の弟と妹が無線を使うことが出来るから丁度良い。


 「アルトスさんの部隊に付いていけば良いんだな。ラクト村でアルトスさんとレムル達の中継をするならば、無線機は2台必要だぞ」

 「大丈夫だ。2台支給する。一度、練習してくれないか?アルトスさんから俺に、俺からアルトスさんに問いう感じだ。このジャックで相手先を選べる。ここが1番でアルトスさんは3番を使ってる」


 通信機は、エルちゃん達に任せておけば大丈夫だろう。

 問題は、マイデルさんへの注文だ。


 「氷を割る船じゃと!」

 「横幅6mほどを、湖の氷を割りながら進む船になります。一応、こんな形になるかと……」


 マイデルさんに手渡したメモには、3隻の漁船を並べて台座を作り、先端に左右に回転できる斜めに張り出した櫓を付けてある。櫓の先には滑車が付けてあり、丈夫なロープの先に鉄のクサビが取り付けてある。


 「このクサビで氷を割って行くんじゃな。作るのにそれ程時間は掛かるまい」

 「作っていただけますか?」


 「砲台を瑚に浮かべて使うにはこれしかあるまい。割った氷は氷の下に移動すれば良いのじゃろうが、そうすると、もう2隻必要じゃな。それもワシが作ってやる。そうじゃな、5日は掛かるじゃろう」


 何に使うか直に理解したみたいだな。

 俺達が世話になってばかりだったけど、やはり昔の仲間は頼れるな。

 

 せっかく来たのだから、昔の話をしながらコタツで楽しく過ごす。

 そんな中、たまたま話が北の軍船の話になった時だ。


 「何だと? それでは、ドワーフの鉱山都市が戦場になっちまうぞ。レムナム軍の侵攻でかなりの犠牲者が出ている筈じゃ。再度戦場になったりしたら、この島のドワーフは半減しちまうぞ」

 「ですが、このままではエイダス島北西部への上陸は間違いありません」


 「う~む。困ったのう」

 「お兄ちゃん。ユングさんに相談出来ない? ユングさん達はここに1日で到達してるよ」


 そうか。知らせるだけは出来そうだな。


 「直に、連絡してくれないか。どうしても力を借りたいって。そして出来るだけ早く来て欲しいって」

 

 エルちゃんはバッグから通信機を取出して早速電鍵を叩き出した。


 それを不思議な物でも見るようにマイデルさんが眺めている。

 直に応答があったようだ。

 返信のランプがチカチカと瞬いでいる。

 更に数回の交信を行って、俺達に微笑を見せた。


 「直に来るって言ってた。全速力で来るって言ってたけど、何時来るかは分からない」

 「それで、十分だよ。たぶん今夜遅くには、やって来るはずだ。ユングさんは言葉と行動が完全に一致してるからね」


 「あの人達か。今度会ったらレムルも一度言っておいた方が良いぞ。あれは目に毒だ」

 「俺もそう思うんだけど、気に入ってるみたいで注意しようとしたら逆にエルちゃん達に送ってくる始末なんだよな」

 

 遠まわしに、美月さんから注意して貰おうかな。

 流石に、美月さんだったら、言うことを聞いてもらえるかも知れない。

 

 「それで、夜間の警護をしてくれてるクラリスさん達に進呈したんだけど、結構人気があるんだよな」

 

 年頃の女性だから体の線が綺麗に出てしまう。それでも、防刃特性があるらしく、かなり丈夫なんだ。色が黒いから夜間警備に最適だと言ってるんだけどね。

 

 「とにかくだ。あまり人目には触れさせないほうが良いぞ」

 

 ルミナスが力説してる。

 結構、ドキドキするのかな? サンディが着たらどうするんだろう?


 そんな話から、ルミナスの近況報告に移ってきた。

 どうやら、サンディと同棲を始めたようだ。来年には結婚するのかな?

 そんな周囲の野次に顔を赤らめるのも、ルミナスらしい。


 となると、王都に家を贈っても良さそうだな。俺の旧知なら誰も文句は言わないだろうし、マイデルさんとも知り合いだ。

 長老は、王都の住人はネコ族を中心としたいと言っていたが、全てをネコ族では対応出来ないだろう。人口比率の3割はネコ族以外となっても仕方がないと思うな。

 これは、エルちゃんに頼んでおこう。


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