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N-144 攻勢の準備

 レムネム軍が西の柵に陽動を掛けた2日後に北の石塀に大挙してレムナム軍が押し寄せてきた。

 夜明け前に当番兵が扉をたたく音で起きだすと、通信機が次々と戦況を伝えてくる。

 エルちゃんの入れてくれた濃いコーヒーを飲んで眠気を覚ましながら、作戦地図に状況をお年込みながら、端末の画像を確認する。

 1時間もすると知らせを受けたアルトスさんが指揮所に駆け込んできた。


 「どうなってる?」

 「問題はないようです。石塀に辿り着いた敵兵は今のところありません。このまま行けば、レムナム軍の4個大隊は壊滅します」

 

 仮想スクリーンには3箇所に集結を始めたレムナム軍が映し出されている。

 距離は2km程だから、再編を済ませて再度一斉攻撃を行うのだろう。


 「これでは、榴弾砲の餌食だぞ」

 「そうでもないですよ。……榴弾砲の陣地を移動しています。近すぎるみたいですね。後方に6M(900m)程下がるんでしょうけど、その時間が微妙です」


 1門を5人で動かすには人数が足りない。半数ずつ移動するようだから時間が掛かり過ぎるな。

 バリスタと機関銃を頼りにするほか無さそうだ。敵のバリスタは全て破壊しているようだから、何とかなるだろう。


 そして、榴弾砲の半数を移動している最中にレムナム軍の突撃が始まった。

 バタバタと倒れる兵士は機関銃の銃撃によるものだろう。

 200m付近からはライフルの射撃で倒れるものが出て来る。残り100mで摘弾筒により爆裂球が炸裂し始めた。

 強化された石塀にたどり着く者には、至近距離からウインチェスターでの銃撃が待っている。


 「もう、半数も残っていまい……。西の柵よりも一方的に思えるぞ」

 「これからが、大変です。撤退を砲撃の中で行いますからね」


 俺の言葉が終らない内に、レムナム軍の逃走が始まった。

 榴弾砲が、その後を追うように炸裂して行く。

 砲撃は山側に厚く、海側に薄い。自然に逃走路は海側へと移って行った。

 懸念していた山岳方面への逃走はないようだ。俺とアルトスさんは胸をなでおろす。

 ゲリラ化した兵士をラクトー山で刈り取るのは時間が掛かるからな。

 

 「しかし、兵器の違いでこれ程の戦力差が出るものなのか……」

 「やり方だと思います。今回は上手く行きましたが、次回はそうはいかないでしょう。俺達の装備に太刀打ちする方法はいくらでもあります」

 

 息を凝らして見ていた俺達に、エルちゃんがお茶を持って来てくれた。

 終った。と言うよりもこれが俺達の戦いの始まりになるのだ。

 

 「次は、湖を我が手に納めるのだな」

 「その為には、旧ボルテム王都である砦を落とさねばなりません。一応作戦は考えてはいるのですが、北の戦が終ったところで兵力の再編成を行う必要がありますね」


 旧ボルテム王都はエイダス島の要になる。

 西と南、それに内海に対して睨みが効くのだ。

 だが、それはもう少し先の話だ。

 高性能の兵器はあるが、それを運用できる兵力があまりにも少ない。

 可能な限り、消耗戦をしないですむ方法を考えなければなるまい。


 昼を過ぎる頃には、戦は既に終っていた。レムナム軍は北の海沿いに沿って逃走している。

 既に5kmは後退しているだろう。

 前進した着弾観測班からの報告で、散発的に砲撃は続けられているようだ。

 あと2時間程はひたすら逃げるほかに手はないだろう。

 そして、レムナム国王は驚愕するだろうな。

 

 「それで、俺達は来春を待って事を起こすのだな。」

 「早くても初夏になるでしょうね。一方的な戦をした後ですから、兵士の興奮が冷めてからでないと危険です」

 

 アルトスさんは、俺の言葉をおもしろそうに聞きながら暖炉でパイプに火を点けた。

 一口吸って、俺を眺める。


 「準備に手間が掛かるという事だな。何を準備する」

 「大型の船です。12艘を連合王国に作らせています。戦が終れば、漁船として使用出来ます」


 「漁船にも使用出来るとなると長さは30D(9m)近いな。100人を闇に乗じて奇襲するのか……。おもしろそうだな。エクレムには黙っていろよ」


 自分で出掛けるつもりなのか?

 だが、生憎とそんな手は使わないぞ。

 

 「それで、北の連中はどうするんだ?」

 「10日程経ったところで王都に移動します。洞窟村で休息を取っても良いでしょう。一月後には、北に1個中隊を残して正規軍を全て移動すれば良いでしょう。榴弾砲4門と機関銃が2丁あれば即応できます」

 

 「となると、いよいよサンドミナスの動向が気になるな」

 「例の噂を流してますよね。早めにレムナム軍の壊滅を流せば動き出すと思いますよ」


 「問題は確認の方法だ。」

 「これで確認します。朝夕の2回情勢を眺めれば、動きが読めますからね」

 

 そう言って、端末の仮想スクリーンを指差した。

 北の戦場には、砲弾も炸裂していない。

 石の壁に沿って、いくつかの焚火が見える。一息ついてるって感じだな。

 明日からは、死体の片付けだから気の毒になってしまう。


 アルトスさんが引き上げた後には、広い指揮所に俺とエルちゃんが残った。

 通信兵も壁際で退屈そうにお茶を飲んでいる。

 取りあえずの戦は終ったが、今後を考えると多難だな。

 

 「戦が続くんですか?」

 

 心配そうにエルちゃんが俺を見た。

 俺の一番考えなくてはならないことは、エルちゃんの安全だ。そしてネコ族の安寧になる。

 それには敵対勢力をなるべく遠くに離すのが望ましい。

 

 「一旦始まると、停められないところに来てしまったからね。短かい平和な期間はあるだろうけど、数年は戦が続くと思うよ」

 「でも、数年なら皆頑張れるでしょう。建国を待ち望んでいましたからね。王都にも洞窟の村から大分移り住んでいるようです」

 

 版図は広がったけど、元々の人口が少なかったせいもあり、パラム王国はどちらかと言うと過疎地帯が広がっている。

 長老と前に相談したときに移民の受け入れは了承して貰ったが、今後を考えると戦で家を失った難民対策も合わせて考える必要があろう。

 難民の中に間者が混じっているとも限らないのが問題ではあるのだが……。

 

 「たぶん来年にはラクト村が版図に入りそうだ。この地図で、この範囲を俺達の版図にしたところで様子を見ようと思ってる」

 「パリム湖が全てですか……。昔のネコ族の版図よりも広くなりますよ」


 そこが一番頭が痛い。とは言え、その大きさで統治するなら、安心して暮らせるのも確かだ。

 できれば5個大隊を正規軍として設けたいものだ。

 このままでは、屯田兵が増えるだけな気がする。

 

 「そういえば、連合王国の商館より打診を受けています。現在の移民にトラ族を含められないかとの話ですが……」

 「やはり、軍からの除隊組みってこと?」


 「聞くところでは、半分以下です。三男や四女達が大勢です」

 

 親の後を継げない農家の子供達という事だろうか?

 屯田兵が混じっているのは、一家で移住という事なんだろう。

 確かに、ここなら土地はあるからな。


 「どれ位の規模になるのかな?」

 「50家族を含んで約600人と言うことでした」


 トラ族ならば、長老も喜ぶに違いない。そして、小さな村が出来そうだな。

 

 「俺は賛成するよ。長老と調整すれば良いと思うけど、反対はしないだろう。そして、長老との話合いの席で、戦で家や故郷を失った難民を受け入れることが出来るかを話し合って欲しい。色々と問題はありそうだが、出来れば王都から離れた特定の場所に新たな出発点を作ってやりたい」

 「私達も一度は国を亡くしています。たぶん長老も賛成してくれると思います」


 これで、移民と難民の件はエルちゃんに任せられるな。

 そうなると、いよいよ俺達の攻勢を始める準備が始められる。

 

 入れ直してくれたお茶を飲みながら、旧ガリル地方を眺める。

 旧ガリル勢力の一掃を俺達への攻撃に合わせて実行している筈だ。

 

 案の定、町や村、森にまで煙が見える。大規模な作戦を開始したようだ。

 そして、ガリル地方の南西の入り江には数隻の軍船が停泊している。明らかにサンドミナス王国からの支援部隊だな。

 

 何気なしに、内海に面した村を拡大した。

 その光景に思わず絶句した。エルちゃんは両手で目を押さえる。


 村人の虐殺だ。ところかまわず兵士が走り回り隠れている村人を広場に連れだし、片っ端から銃撃を加えている。

 

 「何なんですか、これは?」

 「住民を全て入替えるつもりなんだ。前の住民がいれば、次にやって来る住民の邪魔になる。だから、全てを殺してるんだ。生き残れば、復讐される。だが、全て殺すならば新らしい住民の安全が確保できる」


 「でも、そこまでやるんですか?」

 「新らしい土地を約束して、大陸から軍を派遣して貰ったんだ。約束を違えればレムナム王国が危ないと国王は判断したんだろう。……だが、本当にやるとは思わなかった。精々南に追い払う位だと思ってたんだが」

 

 これは、かなり危しい展開になってきたぞ。

 この状態で、パラム王国遠征が大失敗だと分ったら、レムナム国王はどう動くか……、じっくり考える必要がありそうだ。


 俺が考え込んでしまったのに気が付いたのか、エルちゃんは指揮所を出て行った。

 アイネさん達と移民と難民について相談をするのだろう。

 相変わらず、長老達は遺跡近くの町に滞在している。王都の整備が終り次第こちらに来るような話をしていたが、周辺の事情がそれを許さなかった。

 しばらくはレムナム王国の直接的な攻撃はないだろうから、移動も可能ではあるのだが……。


 先ずは、レムナム軍の兵力を再度確認して見よう。

 傭兵が4個大隊に自軍が5個大隊の9個大隊であったが、王都の西の陽動戦で自軍のほぼ1個大隊が壊滅している。そしてパラム王国の北を目指した遠征隊は4個大隊であったが敗走した敵軍の規模は1個大隊に未たない数だった。

 残りは自軍が4個大隊と傭兵部隊が1個大隊程度の勢力に落ちている。その兵力で旧ボルテム王都の砦とケリム町周辺の防備を固めるとともに旧ガリム地方の治安維持を行う必要が出てくるのだ。

 王都防衛に1個大隊。ボルテム砦周辺に1個大隊とすれば、旧ガリム地方に派遣できる数は3個大隊になる。

 そして、旧ガリム地方は海沿いに1個大隊が住民を虐殺しながら南に進んでおり、山沿いに2個大隊が南下している。

 大きく中央が開いているのは、反乱軍の規模が小さいことから東西で挟撃できると考えているようだ。

 この状況が1年後なら、色々とやることがあるのだが……いかんせん早すぎる。

 サンドミナス王国に情報をリークしながら旧ガリム地方の戦を膠着状態に落とすしかないだろうな。

 

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