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N-140 新たな敵


 別荘の作戦指揮所の大きなテーブルには、急遽来訪した明人さん達が座っている。新パラム王国からは俺とエルちゃんだけだ。

 邪魔をしないように指揮所の扉の前にはアイネさん達が目を光らせている。普段は通信機の前にいる少年兵達も移動式通信車である馬車の方に詰めていた。

 

 「レムナム国王の覇業は北米からの東進にあることは、ほぼ間違いない」

 「てっきり、東から来ると思ってたけど、西もあったのよね」

 「だが、規模はそれ程でもない。それに、この海を渡るのは大変だぞ」


 持参した世界地図を広げて状況を確認している。

 悪魔の軍勢は黒のキングで表されている。そんなキングが地図の上に200個程配置されているのだが、その1つが1個師団とユングさんが教えてくれた。

 悪魔の軍勢の基本構成は100らしい。昔のローマみたいだな。100人隊長、千人隊長。そして千人隊長を10人束ねる将軍と言うわけだ。

 将軍が1つの師団を率いる。現在ユーラシア大陸の東側には200個師団がいることになるから敵の総数は200万人ということか?

 とんでもない戦を明人さん達はしているようだ。


 「現在、北米から北極海を渡ってユーラシア大陸に移動する師団は20あります。毎月2個師団の割合で移動してきますね」

 「今のところはコンロンからアクトラス山脈の北を移動してくるが、テーバイ地方の東500km付近で南に展開している。

 おかげで、俺達は500km以上の防衛線を構築しなければならなかった。この上、西方からの侵攻が始まったら、防ぎようが無くなるぞ。狩猟民族の版図に大規模な壁を造営中だが、完成までに後、数十年は必要だ」


 「ユグドラシルと隠れ里は大丈夫じゃろうか?一応備えは万全と言っているが……」

 「通信は途絶するかもしれないけど、侵入されることは無いわ。アクトラス山脈とダリル山脈の稜線も警備が必要になるわね」


 「軍拡が必要じゃのう。少なくとも2つ、できれば3つは欲しいところじゃ」

 「明人。数の劣勢を今の装備では覆すことが困難よ」


 明人さんはジッと、地図を睨んでいる。

 ポケットから銀のシガレットケースを取り出すと1本を咥えてジッポーで火を点けた。

 何も言わず、ひたすら地図を眺めているぞ。


 「ユング。榴弾砲は作れるか?」

 「一応、105mmなら何とかなるだろう。155mmが欲しいが、移動が厄介だ」


 「後は機関銃か……」

 「北米では多用したが、問題は弾丸だな。精度をどれだけ出せるかで故障の頻度が左右する。少なくとも北米で使ったような機関銃は無理だな。ガトリングで何とか我慢しろ」


 「という事は、ボルトアクションタイプの小銃が主流になるのか」

 「それと爆裂球ってところだろう。200D(60m)以内に近づけさせないというのはかなり無理が出てくるぞ」


 「自動小銃も無理か……」

 「AK型なら何とかなりそうだ。だが、それでも弾丸の製造がネックになる。技術転用を考えると、俺達が製造することになるが、それだと量産が効かん。精々1中隊が良いところだ」


 「バビロン、ユグドラシルと話し合うか。やはり工作精度が出せないことと、火薬が必要になる訳だな」

 「早めに、出掛けることが必要だな」


 どうやら、方向性が見えてきたようだな。

 だが、エイダス島の話は長い会議の最初で終わっている。わざわざここで行なう必要があるのだろうか?


 「1つ、お願いがあります。もしも、明人さんの方に余剰の武器が出てきたら、俺達に引き渡せませんか?」

 「引き渡すも何も、俺達と同じ装備を提供する。どうやら、理想を言っている暇は無くなったようだ。

 良いか、俺達は東と北で精一杯。そんな所に東進してきた悪魔に対しては何とか軍拡で対応出来る。だが、この地図を見てくれ……」


 明人さんは大陸の地図の西の端を指差した。

 これが俺達のエイダス島なんだよな。北海道の2倍程の面積を持つ島だ。


 「上陸次第順次殲滅が基本だが、この2つの国はあまり俺達とは同調していない。たぶん滅ぶのは見えているんだが……。敵がそれを行なう上でも、この島は敵にとって重要だ。もし、この島が悪魔に蹂躙されたら、住民は1人も残らない。そしてこの島で編成された大軍団が一気に大陸の西岸に押し寄せて来る。

 大洋には、未だ見た事が無い巨大な生物がいるらしい。敵の船の半数以上が沈むだろう。だが連中の兵力は無尽蔵に近い。次々と船を出せば、やがて何百と言う数がこの島に集まる。そして攻めてくるだろう」


 ようするに出城みたいなものか。

 敵にも、味方にも利用出きるということらしい。


 「時間が早まったが仕方が無い。何時かは通る道だ。レムルの子孫に任せるよりも自分で対応した方が良いだろう」

 

 そして、今度はエイダス島の地図をテーブルに広げる。


 「この位置にレムナム国王が見張り所を作ったのは正解だ。敵は西と北から来るだろう。だが、レムナム王国にはそれを迎撃出来るだけの兵器が無い。

 上手い具合に敵はこっちに攻めてくるようだ。数回迎撃すればレムナム王国は衰退するだろう」

 「こちらから進軍せずともですか?」


 「迎え撃てばいい。少なくとも直ぐには動かんだろう。それまでには新たな兵器を供給出来るはずだ」

 「後で目録を送る。まぁ、とんでも兵器は無いからな。そして、教導隊は兵器と一緒に来る」


 ユングさんが率いて来るのかな。

 しかし、そうなると残るのはサンドミナス王国になる。

 そのサンドミナス王国は旧ガリム王国に食指を伸ばしているのだ。

 

 旧ガリム王国の残党も、レムナム王国が衰退したら勢いを増すだろう。

 ますます混迷してくることになりそうだぞ。


 「もしレムナム王国の兵力が衰退したと分ったら、パリム湖を版図にすればいい。

 ケリムの町まで進出して旧ボルテム王都を手に入れ、そこから東へと版図を広げれば、次ぎはサンドミナス王国が攻めてくる。それを迎え撃って相手国の勢力を削ぐんだ」

 「そう簡単に事が運ぶんでしょうか?」


 ほぼエイダス島の四分の一が新パラム王国の版図に入ることになる。

 ラクト村周辺の土地は良い畑作地帯になるだろう。

 そして、旧ボルテム王都を手に入れることで内海への出口を得ることになる。

 この状態を維持出来れば、レムナム王国、それにサンドミナス王国に進軍できる国力が溜まるだろうな。

 10年以上は掛かりそうだが、少し長期的な計画を立てておいたほうが良さそうだ。


 「この世界地図は置いておく。たまに眺めていてくれ。エイダス島だけを見ていては人間が狭くなるぞ」

 「頑張るのよ。そしてどうしてもダメな時は直ぐに連絡してね」


 美月さんが席を立つと全員が席を立つ。

 そして、部屋を出ようとしたときに、ユングさんが立止まって俺の所にやってきた。


 「お土産だ。皆で分けてくれ!」

 

 そう言って俺の手に大型の魔法の袋を置いていった。

 いったい何が入ってるんだ? タバコだと良いんだけどね。


 皆の後を俺とエルちゃんで後を追う。やはり見送るのがスジと言うものだろう。

 別荘の中庭に止めてある不思議な乗り物に全員が乗り込むと、青白い光跡を残しながら北東方向に飛んで行った。


 「ユングさん達は空を飛べるんですね」

 「ああ、今度機会があったら載せて貰えるかも知れないね」


 2人で、光が消えるまで手を振り続けた。

               ・

               ・

               ・


 作戦指揮所に戻ると、急いでアルトスさんとエクレムさんを部屋に呼んだ。

 別荘の宿泊施設で俺達の会議が終るのを待っていた2人は直ぐに副官を連れてやってくる。

 警備体制を通常に戻すと、アイネさん達もテーブルの端に付いた。

 とりあえずお茶を飲もう。

 スケールの大きな話を聞かされたから、ちょっと頭の切り替えが必要だな。


 「長い話合いだったな。我等の益になる話だったのか?」

 

 アルトスさんは常に俺達の国を優先している。まぁ、これでいいのだろう。


 「ちょっと、大きな話でした。この地図を見てください。これが俺達の世界だそうです。この左端の小さな島がエイダス島になります」

 「ちょっと待て! 世界はこれ程大きいのか?」


 「はい。ですが、俺達がこの世界を全部廻ること等不可能です。それ程世界は広いんです。

 ですが、この大陸は1つの国がどうやら統一したようです。そして、その先兵が東から進んできています。その数約100万人。

 そしてこの大陸の東からも船で軍隊を送っているようです。現在は北の氷に閉ざされた海の縁を廻るように進んでおりこの大きな島まで到達しているようです。

 レムナム国王が、なぜ兵士を休めずにこの島を統一しようとしていた理由が、このエイダスの地図のこの場所に作られた見張り所で分りました。

 レムナム国王は何らかの手段でこの大陸から進軍してくる船の存在を知ったようです。

 当然迎え撃つには軍備を整えねばなりません。そのためにエイダス島の覇王となることを考えたと思われます」


 「東の方から100万の軍勢では如何に連合王国の軍備が優れていようと、蹂躙されるのがオチだぞ。戦は数と言われている」

 「今回の海上からの進軍を考慮して3個大隊程軍を拡張すると言っていました。当然、荒地にカップの水を注ぐような話です。

 ですが、バビロンとユグドラシルの科学力を使えば迎え撃つ事は可能でしょう。これから、その2つと交渉を行なうと言っていましたが、俺は2つとも協力してくれるものと考えています。

 ここからが、我々に係わってきます。

 明人さんは言っていました。『俺達と同じ武器を供与する。』

 とんでもない武器が、3種類手に入ります。

 1つ目は、バリスタの10倍以上の飛距離持って、着弾と同時に爆発する大砲。

 2つ目は、連続して弾丸を発射出来る機関銃。有効射程は4M(600m)を越えるでしょう。

 3つ目は、一度弾丸を補給すると、連続して弾丸を発射出来る自動小銃。飛距離は2M(300m)程度と考えています。

 この3つが、俺達の軍隊に供与されます」


 全員があきれ返ったように口を開けてるぞ。

 このまま技術開発が進んでも100年以上先の武器になる。

 だが、明人さん達はあえてそれを作ると言っていた。悪魔は魔力に優れているみたいだから、接近戦をせずにすむ方法で対処することになるんだろうな。

 


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