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N-138 新型バリスタ


 2人が別荘を去った後、暖炉の前で一服しながら、先程の会話を振り返る。

 傭兵という考えは俺が日本で育ったからか、考えには無かったな。

 確かにレムナム王国は、一度傭兵を使った事がある。

 そのおかげで、現在の状況に陥っているのだが、今度は傭兵集団と言うよりも、他国の軍を一時借り受けるという事になるだろう。

 訓練された軍ならばかなり手強いことになりそうだ。


 だが、その代償となるのは何だろう?

 俺達の迷宮を狙っているのか? だがそれはレムナム王国が是非とも手に入れたいものだ。

 だとしたら……。

 旧ガリム王国の版図はどうだろう。

 豊かな農業国であったはずだ。


 レムナム王国が手を握る国家があるとすれば、連合王国であるはずが無い。

 それは、大陸の西方にあるという王国の1つに違いない。

 国土が農業に適さなければ、旧ガリム王国の土地は魅力的な取引材料になるはずだ。そして、それはサンドミナス王国への牽制にも使える。

 サンドミナスとしては精々焼き撃ち程度の工作を繰り返すぐらいの攻撃が出来るだけだろう。下手に出兵しようものなら、東回りにレムナム軍が急襲するとも限らない。


 となれば、派遣される部隊の数は3個大隊ぐらいは想定出来るな。

 旧ガリムの派兵に2個大隊、北回りに俺達を攻める1個大隊。この1個大隊にレムナム軍は2個大隊を加えるぐらいは出来そうだ。

 そしてパリム湖の西に2個大隊は陽動として出動出来るだろう。

 それでも王都に2個大隊を残せる。流石にこれは動かせ無いだろうが、サンドミナスとの国境付近に中隊規模で軍を進めることは出来そうだ。


 対する俺達は3個大隊だ。

 どうする?

 先ずは、3個大隊を王都の西、パリム湖の南東、そして洞窟村の北部に配置する。

 俺達の軍隊の1個大隊はおおよそ650人だ。

 更に、民兵が1個大隊。そして屯田兵が1中隊に山岳猟兵が3小隊。これ以外はハンターを動員することになるが3小隊が良いところだ。


 ラクトー山の北と南に山岳猟兵とハンター部隊を1小隊ずつ配置して、村に1小隊を待機させれば、ラクトー山を越えようとする敵兵は阻止出来るだろう。

 となると、民兵と屯田兵は全て北の守りに振り分けることになる。

 全部で2個大隊と1個中隊……。

 

 互角の戦をしようとするなら、問題は兵器だよな。

 北の部隊にはまだ十分に散弾銃が行き渡らない。

 そして、バリスタも数台の筈だ。

 何とか敵軍が行動を起こす前に整備しておかないとな。


 それと軍資金も問題ではある。王都の整備に資金はいくらあっても足りないのだ。

 やはり、産業がないのは痛いよな。

 ドワーフ達もかつては大勢いたらしいが、現在は連合王国からやってきた者達を含めて10人程度だ。

 そして、農業は元々パラム王国ではあまり発展していない。

 ハンター達が命懸けで手に入れた魔石がこの国を維持しているのだ。

 それで、食料や武器等を手に入れるのだから無駄使いは出来ない。長老が預けてくれた金貨は未だ残っている。そして、アルトさんやユングさん達に貰った魔石も殆どが手付かずだ。

 あれを売って一気に軍備を整える必要があるな。

 マイデルさん達に頼んだバリスタもタダではない。

               ◇

               ◇

               ◇

 

 夕食は、パリム湖の夕闇を見ながらの食事だ。

 俺とエルちゃん、それにアイネさん達がテーブルに着く。

 地図を広げていたので、端の方で固まって食べることになってしまった。


 「お兄ちゃん。テーブルを1つ追加した方が良いですよ。執務用と食事用は別の方が良いと思う」

 「そうなんだけどね。アイネさんお願いできるかな?」


 「良いにゃ。カタログで調べとくにゃ」

 「それと、カタログにはないけど散弾銃をあれから購入してるんだろうか?」


 「とりあえず、こっちの部隊には配備出来たにゃ。残りは北の部隊にゃ」


 やはり、配備は遅れているのか……。

 

 「魔石の取引を商会としてくれないかな。それで、1千丁の散弾銃を手に入れたい」 

 「商会の人を此処に呼ぶのかにゃ?」

 

 「アイネさんに任せるよ。アルトさんから貰った魔石を預けるから、それで話を付けてもらいたい。それに、ある程度の軍資金を確保したい。これから北を何とかしなくちゃならないけど、軍資金が足りなくなりそうだ」

 「分ったにゃ。直ぐに出掛けるにゃ」


 食事を中断して4人で出掛けようとしたところを、慌てて引き止めた。

 先ずは食事だ。

 そして、それが終るとエルちゃんがバッグから革袋を取り出した。


 「全部資金に変えても問題ありません。お願いします」

 

 そう言って、エルちゃんが差し出した革袋をアイネさんはバッグに入れると、今度こそ4人で部屋を出て行った。


 「それ程、資金が必要だったんですか?」

 「あぁ、流石はレムナム国王。とんでもない手を考えてるようだ。今度は2つの戦線で戦わなければならない。武器が更に必要だ。兵士も欲しいけど、こればかりはどうしようもない」


 国力の差はどうしようもない。相手よりも性能の良い武器で補う他に手は無いからな。

 待てよ、レムナムと同盟を結ぼうとする大陸の国の武装はどうなんだ?

 連合王国と争った事があれば、こっちより武器のレベルが進んでいる可能性もある筈だ。


 端末を開いて、仮想ディスプレイを表示させると、早速連合王国の周辺諸国を探して概要を調べる。

 もし、同盟を結ぶとすれば直近の国だろう。

 それは、スパリアム王国になるな。

 大陸の西の外れだ。

 連合王国との間には数百km程の空白地帯があるが、これが遊牧民の版図になるんだろう。

 文化レベルは画像で見る限り、エイダス島のレムナム王国と違いが無い。

 騎馬隊を持っているようだが、その規模は小さいから、この島に部隊を移動させることは無いだろう。

 歩兵が主体で、武器はパレトと長剣のようだ。鎖帷子を着ている部隊があるが、殆どは革鎧だな。

 部隊構成は訓練場を見る限り同じに見える。

 これだと、レムナム軍を想定しておけば問題ないだろう。


 「どうしたんですか?」

 「これかい?……レムナム王国が大陸の王国と同盟を結ぶかも知れない。ちょっと相手国の状況を見てたんだ」


 「同盟を結ぶ理由がありません」

 「そうでもないさ。ガリム王国を差し出す代わりに兵士を派遣しろと言ったら、たぶんやってくるんじゃないかな。ほら、この王国は国土が荒地だ。農業には適さないんじゃないかな」


 「でも、折角手に入れた土地ですよ」

 「派遣する兵士を使い捨てにするつもりのようだ。俺達に8割、旧ガリム王国の治安維持に2割……。全部で2個大隊なら、仕事が終った後でレムナム王国の軍で対処できる」


 騙まし討ちより酷いやり方だ。

 だが、相手国の状況によっては効果的でもある。

 そして、最大の利点は一度に訓練された兵士を手に入れることが出来るのだ。

 覇王を目指すなら、これ位のことは平気でやるんだろうな。

 

 「どうやら、かなりの策士だと思うよ。それに、相手には俺達の10倍の国力があるんだ。まだ、何とかなりそうだけどかなり危ないことになるかも知れない」

 「お兄ちゃんが何とかしてくれるんでしょう?」


 脅えた目で俺を見ているけど、俺にだってどうにも出来ないことはある。

 だが、今のところは何とか出来る範囲だ。


 「あぁ、大丈夫。何とかするよ。俺達にはアイネさん達や、マイデルさん、それにアルトスさんだっているからね。だけど、決定的な差がある事も事実なんだ。これは人口の違いなんだけど、これを直ぐに解消することは出来ない。

 それを武器の違いで補うことで対処するほかに方法が無い事も確かなんだ」


 タバコを咥えてユングさんに貰ったライターで火を点けた。

 地図の上の駒は明らかに俺達が劣勢である事を示している。

 だが、戦の基本はアウトレンジ攻撃だ。敵よりも長い射程の武器を揃えれば、一方的な戦をすることが出来る。

               ◇

               ◇

               ◇


 マイデルさんにバリスタの改造を依頼して一月が過ぎた頃、ようやく試作品が出来たと知らせを受けた。

 アルトスさんを誘って、試作品の試射に立ち会うことになった。

 焼けた森に試作したバリスタをガルパスが曳いて来る。

 丸太を輪切りにしたような車輪が4つ付いているところは同じだが、バリスタの弓は2台とも違っていた。

 片方は鉄の弓で、もう片方は通常のバリスタの弓をX状にして弦を張っている。


 「どうじゃ。一応は形にしてみたが飛距離がどうなるかはやってみないと分らんぞ。張力が倍近くあるからロクロは歯車を組み合わせてる」

 

 アルトスさんが部下に命じて、1M(150m)、2M(300m)それに3M(450m)の場所に杭を打って杭の頭に布を巻きつけている。

 ここから望遠鏡でみればおおよその距離が掴めるな。


 「一応、目安は300m以上という事で良いと思います。現在、俺達の持つバリスタが800D(240m)程度ですから、2M(300m)あれば敵と並びます」

 「そうだな。……やってみろ!」


 アルトスさんの言葉に、連れてきたバリスタ兵が数人先ずは鉄の弓を持つバリスタに走っていく。

 最大射程を得るために仰角を45度に上げて、ロクロのクランプを巻いていく。

 ガチン!と金具に弦が取り付いたところで、投げ槍のようなボルトを装填した。先端に取り付けた爆裂球の紐をバリスタの金具に引っ掛けると、発射準備は完了だ。だいたい5分程度掛かるみたいだ。


 リーダーが準備完了の赤い旗を上げる。


 「発射!」


 アルトスさんの言葉でリーダーが紐を引くと、ブン!っと空気を切る音がしてボルトが空を飛んでいく。

 はるか彼方に着弾して、直ぐに爆裂球が炸裂した。

 

 「……2M半と言うところでしょうか?」

 「そんな所だろうな。直ぐに分る」


 距離を確認しに行った兵士が帰ってきた。


 「飛距離は2M20D(360m)です」

 「うむ。もう2回発射してみろ」


 アルトスさんの言葉に再びロクロが巻かれていく。

 どうやら、目的は達せそうだ。

 

 3回の試射で、最大射程は350m程度であることが分った。

 そして、次のバリスタを試してみる。


 「X型は2M300D(390m)なのか……。これではX型を採用することになるが、作るのは難かしいのか?」

 「似たり寄ったりだな。だが、ワシもX型を推薦するぞ。これは鉄をそれ程使わん。ワシ等でも作れるんじゃ。あっちはそうもいかん」


 要するに、連合王国の製鉄所が必要になる訳だ。もっとも数十台を大至急作るとなればやはり連合王国に頼むほか無いだろうけどね。


 「後は、出来るだけこのバリスタを作る必要があります。これは連合王国に依頼しましょう。短期間で台数を作るとなればその方が早道です。それに、マイデルさんには次の依頼がありますし……」

 「我等でも作れるが早く揃えるためなら仕方なかろう。このバリスタを商会に運んで同じ物を量産して貰えば良い」


 「レムナム軍が移送しているバリスタは倉庫の大きさから見て20台程です。その3倍を作りましょう。王都の西の柵も陽動で敵軍が攻めて来るでしょうし」

 「そうだな。ボルトは各バリスタに50本。予備を100本で良いだろう。足りなければボルトぐらいは我等にも作れるはずだ」


 という事で、X状の弓を持ったバリスタは数人の兵士と共に街道を北に向かった。

 そして、マイデルさんとアルトスさんを連れて俺は別荘へと帰ってきた。


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