表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/177

N-137 別荘ができた


 王都の宮殿と破壊された迷宮を隔離する為の大きな壁を造り終え、ついでと言って湖に張り出した別荘を作り終えたところで、ユングさん達は帰っていた。

 

 お礼を言う俺に、頑張れよ!って言葉を残してさっさと帰ってしまったんだが、報酬はちゃんと受取ってくれたんだろうか?

 エルちゃんにフラウさんが渡した革袋には沢山の魔石が入っていた。

 ちゃんと受取ってくれないと、後が頼みづらいんだよな。


 別荘にしばらく暮らす事になるから、アイネさん達が商会のカタログをエルちゃんと見ながらメモを取っている。

 寝られればどうでもいいから、その辺りはお任せだけど、1つだけ注文を出しておいた。

10人以上が座れるテーブル。これは作戦会議をする上で是非とも必要だからな。


 そんなバタバタした日が続いている中、マイデルさん達が顔を出した。

 早速、テーブルの上を片付けると、お茶で再開を祝う。


 「長老からお前を手伝ってくれと言うから急いで来たぞ。ルミナス達に荷馬車を頼んだから奴らは少し遅れるがのう」

 「初めまして。ネウサナトラムの会社からこちらに来ました。ラザミルというものです」

 

 マイデルさんの横に座ったドワーフがそう言って手を伸ばしてきた。

 握手という習慣があるんだな。

 俺も手を伸ばして、彼の手を握る。


 「この挨拶は、村では一般的なんですが、よく分かりましたね」

 「アルトさんやユングさんには随分世話になったからね。そのせいだと思うよ」


 「ところで、ワシ達を呼んだ訳は?」

 「実は、バリスタの改良をお願いしたいんです。飛距離は350m以上。……一応、案はあるんですが」


 そう言って、テーブルに図面を広げた。

 飛距離を伸ばすには初速を上げれば良い。それは強力な反発力を必要とする。

 爆薬を使い方法もあるが、それは最後野手段だ。

 図面は3つの方法を絵にしたものだ。バリスタの弓部分を延ばす方法、現在のバリスタにもう1つバリスタの弓をX状に付けて強化する方法。最後は鉄の弓を付ける方法だ。


 「バリスタはワシも作ったから原理はわかるつもりじゃ。弓を伸ばすのはあまり感心せんのう。このX状にするものと鉄の弓を使う方法が良いじゃろう」

 「連合王国なら良質の鋼が手に入ります。製鉄所に隣接した大型工房なら、鉄の弓も作れるでしょう」


 ということで、2つのバリスタを製作して比較することになった。


 「ネウサナトラムの工場もおもしろい依頼はありましたが、このバリスタはまだありませんよ。腕を振るう甲斐があります。鉄の方は商会を通じて手に入るでしょう。港の商会に話をすれば20日も待たずに手に入ります」

 「金貨10枚を預けておきます。よろしくお願いします」


 「工房は、王都の工房を利用してください。工房2つを1つ荷纏めてあります。居住区は現在製作中なので、我等の馬車を提供します」


 オリザさんがそう言ってマイデルさん達を案内していく。

 後で場所を教えてもらおう。たまに遊びに行くのも良いかも知れない。

               ◇

               ◇

               ◇


 港から10台以上の馬車を連ねて、エルちゃん達が買い入れた家具が別荘に運びこまれてきた。

 別荘に隣接した長屋風の建物がアイネさん達の宿舎になるようだ。

 そして、突き出した半島のような敷地の付根には柵と一体化した石作りの2階建ての建物がある。

 この中が、オリザさん達の宿舎兼待機所になっている。10人程が常時待機して警備に当っている。


 オリザさんの部下達が大型のテーブルを1階の中央部に据えつけている。

 教室2つ分はありそうだな。

 湖に面して3方向に窓が連なっている。窓そのものは小さいけれど、ガラスが入っているぞ。

 暖炉も大型だ。太い薪が数本中で燃えている。

 煙突の上部は俺達の私室に繋がっている。

 私室は教室ほどの部屋が2つもある。

 当然、1階には風呂が付いている。毎日は無理だろうが、数日間隔で入れるだろう。

 

 そんな、リビングの片隅に無線機を備え付けて調整しているのはエリイちゃん達少年兵だ。長屋の2部屋を割り振って貰って、この場に待機すると言っていた。

 親達が王都に引っ越してきたらそこから通うことになるのかな。

 大きなテーブルが出来たところで、早速エイダス島の全体図と、パリム湖周辺の地図を広げて、岸辺で拾ってきた平たい石を使ってよく伸ばしておく。

 端末の仮想ディスプレイで敵軍の状況を確認して地図の上に駒を配置すれば、此処が仮設指揮所として機能する。

 20人以上が仮眠できる長屋も隣接しているから、かなり人数が集まっても何とかなりそうだな。


 サンドミナス王国もレムナム王国も兵を訓練するのに忙しそうだ。更に徴募を行なったのだろうか。現在ではレムナム軍が6個大隊、サンドミナス軍が5個大隊を擁している。

 レムナム軍の方が多いが、旧ガリム王国の治世は上手く機能していないようにも見える。

 町や王都から小さな煙が上っているのは反乱軍の仕業だろう。

 まだまだガリム王国を手にしたとは言えないようだ。

 

 サンドミナス王国は、旧ボルテムの町を放棄して少し南に下がった場所に頑丈な防衛線を構築していた。

 あれを破壊するのは、レムナム軍としても苦労はするだろう。

 そして、旧ボルテム王国との間は森を南下した獣と魔物の支配する土地になっている。

 エクエムさんが作り上げた森の南の柵は堅固だが、あえてサンドミナス軍が攻略に動くとは思えない。

 次の戦は旧ガリム王国の領土を廻る争いになりそうな気配が濃厚だぞ。


 2つの王国の港を見てみると、造船所が賑わってるな。

 どちらも内海の支配を考えているようだが、急に海軍を増強できる訳は無い。船を揃えて相手を威圧するだけでじゃないのか。僅かなことから大規模な海戦が起きる可能性が高いな。

 そんな中、サンドミナス王国の外洋の港であるサミナスを見た時だ。1隻の商船が出航して西に進路を取っていた。

 ズングリした船体は連合王国の商船でないことは明白だ。

 内海を進む訳ではないのは確かなんだがどこに向かうのだろう?

 ひょっとして、という事で旧ガリム王国の西に広がる森の西岸を見ていく。


 やはり……。

 小さな入り江が沢山あるが、その1つに砦がある。

 どうやら、物資をそこに運んでいるらしい。

 

 後には兵士も運ぶのだろう。

 サンドミナスに逃れた旧ガリム王国は自国の復活を狙っているようだ。

 しばらく2カ国で争ってくれれば良いのだが、レムナム王国はサンドミナスよりも俺達を狙っているように思えるな。


 北の砦に向かう荷馬車の出発点は、レムナムの西にあるガドナスとレドナスの2つの鉱山町だ。ドワーフが多く住んでいるらしいからエイダスの工業都市と言うことになるんだろう。

 レムナムはその版図に魔石を生む迷宮を持たないが、農業と工業を押さえている。

 サンドミナスは小さな迷宮を版図に持っているが、国土はそれ程肥沃ではない。

 本来ならばサンドミナスがエイダス島の統一を考えると思うのだが、レムナムに先を越された感じだな。

 いや、レムナムのボルテム王国の取り込みがレムナム国王の征服欲を誘ったのかも知れない。


 「アルトス殿、エクセル殿がお見えです!」

 

 部屋の外に待機している警備兵が扉を開けて俺に声を掛ける。

 そして、入って来た2人は大きなテーブルの向かい側に腰を下ろした。

 

 「結構大きいな。昔の宮殿にあった会議室を思い出す」

 「あぁ、そうだ!レムル。この暖炉の煙突に国旗を掲げてくれ。それで、この場が第2の我が軍の指揮所だと誰もが理解する。国旗は取り寄せるから、それを待てば良いぞ」


 「ありがとうございます。それで、お2人のご用件は?」

 「ちょっとした様子見だな。ここなら安全だ。王都が落着くまでは此処で暮らすと良いぞ」


 警備兵がお茶と灰皿を持って部屋に入って来た。

 それぞれパイプを取り出して火を点ける。


 俺達の顔には国を取り戻したという、ちょっとした達成感を形にして笑みが浮かぶ。


 「だが、ようやくここまで来たな。王都にあった白骨は全て回収して袋に詰めた。ほとんどのものが誰かを特定出来ない。クアルの妹達も残念がっていた。

 とはいえ、集めた中のどれかには違いない。王都の北門近くに慰霊碑を作ることにした。

 まぁ、形は窓の無い平屋に見えるが、地下深く石室を作って回収した亡骸を納めようと思っている。慰霊祭は長老が帰ってきてからで良かろう」

 「エルちゃんも喜ぶと思います。その辺りはアルトスさんにお任せしますのでよろしくお願いします」


 「任せておけ。それで、どんな状況なのだ?」

 「これが現在の状況です」


 そう言って地図上の駒の配置状況を説明する。


 「という事は、次の戦は北が舞台になるのか?」

 「はい。ですが、その時期は流動的です。現在のサンドミナス軍とレムナム軍の兵員は5個大隊と6個大隊。

 現在も、北の砦には資材を輸送しています。その規模からすれば3個大隊を下ることは無いでしょう。もし、レムナム王国が3個大隊をもって我が国北部を侵略するとなれば、これだけの版図を3個大隊で防衛することになります。

 いくらなんでも無謀です。

 そして、サンドミナス軍は我が国への侵略を一時棚上げして、旧ガリム王国への侵入を計っています。対応出来るレムナム軍の規模は2個大隊程度。簡単に橋頭堡を確保できるでしょう。そうなってくると急遽、侵略軍を戻す事もできません。

 サンドミナスとしてもレムナム王国を注目していると思いますよ」


 2人は俺の話を聞きながら地図上の部隊配置をジッと見ている。

 ある意味、三すくみの状態なんだよな。

 もっとも、俺達の状況では手が出せないけどね。

 手を出し易いのはサンドミナスなのだが、今度敗退したら、兵士を徴募するのが難しいんじゃないか?

 どうにか、レムナム王国と同じ位の力は付けたが、母体となる国家の国力がまるで違う。

 だが、レムナムとて、状況は理解してるだろう。

 少なくとも1個大隊、出来れば2個大隊がさらに増えれば、直ぐにでも戦を始められるんだろうけどね。


 「レムルよ。港の酒場で商人達の噂を集めるように指示したのはお前だったな。その噂におもしろいものがあったぞ。レムナム王国が北の大陸の西部にある王国と接触したらしい」

 「新たな貿易でも始めるのでしょうか?」


 「分らん。だが連合王国ではなく、連合王国とは敵対関係にある王国と接触を持ったという事が少し気になる」

 「まさか傭兵ってことは無いよな?」


 いや、ありえる話だ。少なくともボルテム王国とガリム王国の宝の一部は手に入れている。傭兵を集めるのは容易いだろウ。

 まてよ、新たな軍事同盟ということもありえる話だ。

 そうなった場合は確かに大隊単位でエイダス島に大陸から兵士がやってくるこ途になりそうだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ