表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/177

N-134 ひさしぶりの魚釣り


 「フム。長老達はレムルに采配を任せたという事になるか……」

 「実際の運営を見てみたいという事ではないか? 将来的にはそのようになるからな。今の内に手並みを見たいという事もあるのだろう。さてどうするのだ?」


 テーブルに付いているのは、俺とエルちゃん。それにアルトスさん、エクレムさん。アルトさんにディーさんだ。

 

 王都の西の柵は完成して、1個大隊がレムナム軍と1km以上離れて対峙している。

 アルトさんの連れてきた連合王国のハンターは王都の街並みに紛れ込んでいる魔物を片っ端から片付けている。

 そして、破壊された迷宮の入口にはアルトスさん配下の1小隊がラティを構えて魔物を待ち構えている。村のハンターが10人もいるから心強い。何と言っても黒レベルのハンターだからな。


 「一応、俺に任せてくれるという事で、今後を考えました。

 先ずは、南と西の戦線だけど、少し高い見張り台を作って頂きたい。遠くまで見えればそれだけ対応が早くできます。

 これは、エクレムさんにお願いしたいのですが。出来れば頑丈な石造りでお願いします。

 次に、王都の破壊された迷宮です。

 王都の宮殿とあわせて連合王国に発注したいと思いますが、アルトさん。手配をお願いできますか?

 最後に、慰霊塔は我々の手で造りましょう。アルトスさん、お願いします」


 俺の言葉に全員が頷く。


 「確かに、慰霊塔は我等の手で造るのが相応しい。形は連合王国に依頼すれば見事なものが出来上がるだろうが、それは宮殿で見せてもらえばいい。我等を生かしてくれた彼等には我等の手で感謝を捧げるのが一番だ」

 「それは良いが、俺の方は少し手伝って貰いたい気がするぞ。石造りの見張り台は俺達が作るには時間が掛かりすぎる」


 「それは、ついでに作ってやろう。此処と此処で良いな」


 アルトさんが身を乗り出して地図の2箇所を指差す。


 「十分です。ですが支払いの方は……」

 「我等の納める魔石の税金を2割とすることで、良いじゃろう。だいぶ稼がしてもろうた。少し還元せねばな」


 「ところで、どれ位魔石を手に入れたんですか?」

 「そうじゃな。ディー、どれぐらいじゃ?」


 「従来の貿易で手に入れていた魔石の10年分と言うところでしょうか。これで、念願の物が作れます」

 「あの汽車が出来るのか? 楽しみじゃな」


 とんでもない数の魔物を狩ったみたいだな。

 だけど、それを持ち帰ったら俺達の特産物である魔石を輸出出来なくなるんじゃないかな。


 「そんな心配顔をせずとも良い。魔石があれば色々と作る事ができるものがあるということじゃ。魔石の輸出は今まで通りに御敵われるじゃろう。更に迷宮が手に入ったのじゃ。遺跡の迷宮を他国に解放する事も視野に入れて置けばよかろう」


 貿易は変らず行なわれるという事か……。

 

 「王都が再び王都の賑わいを取り戻すには時間が掛かるでしょう。ですが、今は我等の版図です。先を急がず、できる範囲から始めましょう。

 それと、アルトさんに個人的なお願いがあるのですが、直ぐ南に湖があります。なかなか美味しい魚が住んでます。釣り道具を一式と船を何艘か用意していただけるとありがたいのですが」

 「リオン湖では我等もトローリングを楽しんでおる。アキトに話せば個人的に用意してくれるじゃろう。それに、湖の南と西は敵の版図じゃ。確かに哨戒は必要じゃろうな」


 俺達の会話を聞いてアルトスさんが慌てて地図を見る。

 

 「エクレム。場合によっては10艘は必要になるやも知れんぞ」

 「確かに、湖を渡られると厄介だな。岸辺にも何箇所か監視所を作らねばなるまい。全く大変なことになってきたぞ」


 湖を大挙して渡って来る事は無いだろう。大型の船なら別だが、そんな船では岸辺に近づけない。精々10人程度が乗る船だ。10艘で100人。1個中隊にも満たないし、それ以上なら目だってしょうがない。

 俺達の王国に忍び込むことを目的とした連中が夜間1艘でこっそりとが考えられる手段だ。


「石造りの見張り所もそれを考えれば良い事じゃ。幸いにもおもしろい場所まで南に進出しておる。此処とこの2箇所に作って、王都の南にも小規模なものを造れば良い。2つも3つも一緒じゃ。任せておけ」


 大型建造物である見張り所を、2つと3つではかなり違うと思うのだが、アルトさんの頭の中では大差ないのかな。

               ◇

               ◇

               ◇


 一月もしない内にやって来たのは戦闘工兵2個中隊とユングさん達だ。

 全てトラ族の兵士だから、アルトスさんと比べても一回り大きく見える。


 「船は組み立てろと言っていたぞ。ドワーフならば簡単らしい。組み立てれば良いだけの状態で2艘持ってきた。後は図面があるからそれを使って組み立てれば良い。

 そして、俺達が連合王国の湖で使っているトローリングの仕掛けが5つだ。使い方ぐらいは分るだろ。ランディングネットは2個あるぞ。そして、これが釣竿だな。ようやく竹が手に入った時は明人が大喜びだったぞ。仕掛けはこの箱に入ってる」


 「ありがとうございます。ネコ族は魚が大好きですから……」

 「まぁ、それは仕方が無いな。明人も戦場で魚を釣ってネコ族の兵士達に振舞った事があるくらいだから」


 それも、物好きな話だ。

 意外と明人さんの趣味って釣りなのかな?


 「さて、2個中隊を連れてきたから、明日から作業を始めるぞ。前の王宮に外観は合わせるけど、内部は俺達で好きにやらせて貰っても構わないか?」

 「一応、内部の間取りの略図は書いて貰いました。出来れば同じようにお願いできますか?」


 そう言って数枚の図をユングさんに渡した。


 「分った。だが、装飾だけは出来ないぞ。それは俺達には無理だ」

 「構いません。よろしくお願いします」


 そして、王都の破壊された迷宮から工事が始まった。

 ラクトー山の岩場から50cm四方の石を切り出して、イオンクラフトがその石を運ぶ。50kgは越しているようなブロック化された石を戦闘工兵は易々と担いで並べるから、見る間に分厚い壁が破壊された迷宮の周りに立ち始めた。

 そんな広場の真中にフラウさんが1人で立っている。たまに魔物が出てくるんだけど、担いだ長剣で一刀両断しているようだ。

 残った魔石を拾ってユングさんがにこにこしている。もう1人のラミィさんは工事の監督をしているようだ。

 全員が体に張り付いたような黒いコンバットスーツを着ているから、ちょっと目のやり場に困るんだよな。

 

 船は急遽マイデルさんが召集されて組み立ててもらっている。

 図面はマイデルさんには理解出来るようだ。弟子を使って板を鋸で形にしているが、何時の間に弟子を取ったんだろう?

 エルちゃんは久しぶりにリスティナさんと会えて嬉しそうだ。

 ミイネさん達と仮設指揮所で編み物をしながら、話をしているぞ。


 そして、俺は早速湖の岸辺で魚釣りだ。

 王都から真直ぐ南に2kmも歩けば湖に出る。岸辺は岩が続いているから急深なんだろう。岸辺から数m先で水の色が変わって見える。

 中々いい釣り場だぞ。

 数本の竹を繋いで釣竿にすると、仕掛けを付けて、餌のハムの薄切りを付ける。

 さてどうかな……。


 ツンツンと浮きに当たりが出る。グィーっと引き込んだところを手首を返して合わせれば、竿は満月だ。

 そして、ゴボウ抜きにして手に入れた魚は、小屋掛けした時に釣れた魚と同じレインボウだ。

 用意したバケツのような桶に入れると、餌を付け直して仕掛けを放り込む。


 夕方近くなったところで、様子を見に来たアイネさん達と共に仮設指揮所へと引き上げる。

 何故か、獲物を入れた桶は2人が持ってくれたんだよな。先を急いでいるようで、ともすれば俺が置いていかれるぞ。

 

 辺りが暗くなった頃にようやく仮設指揮所に着いたら、みんなで魚の下ごしらえをしていた。

 焚火に早速串に刺した魚が並んでいく。

 誰にも取られないようにアイネさんが散弾銃を持って番をしているけど、ちょっと大人気ないぞ。


 「ご苦労様でした」

 

 エルちゃんがそう言って俺に【クリーネ】を掛けてくれた。

 ちょっと、魚臭くなってたからな。途中兵士とすれ違うと皆振り返っていたぞ。


 釣ってきたレインボウは20匹前後だ。

 全員で食べる事が出来ないから、順番で食べることになった。

 今回は通信兵までだな。残ったレインボウはスープになって皆に分けられている。切り身が1つ位は入っているのだろう。


 「いったい何年ぶりでしょう!」

 伝令のお姉さんがそんな事を言ってるぞ。通信兵は少年達だから初めてのようだ。トウモロコシを齧るように食べていた。


 「明日は朝早くから釣りに行くにゃ!」

 「そうだね。でも、釣竿がもう1本あるから、誰か付き合ってくれないかな?」


 「それなら、私が……。警備の者が誰もいないのは問題です。3人ほど連れて行きますから、沢山釣れれば運んで貰えます」


 それも良いな。ちょっと小父さんの警備兵だけど、魚を釣るのは1人より2人の方が沢山釣れるに決まってる。

 

 そして、次の日には警備兵だけでなく、馬車までが湖の傍にやってきた。

 まぁ、皆で来れば問題はないのだが、こんなんで良いのか?


 早速、警備兵の隊長である、小父さんにしか見えないオリザさんと岸辺で釣りを始める。

 たちまち数匹を釣り上げたところで、アイネさん達が火事で焼け残った木を使って焚火を作り、レインボウを炙りだした。


 魚が桶に数匹溜まれば直ぐに誰かが回収に来る。

 だいぶ釣れたと思うんだが、誰も止めろとは言い出さないんだよな。


 ちょっと休んで一服してたら、がんばれ!って励まされてしまった。

 

 「此処にいたのか? だいぶ釣れてるようだな」

 「ええ、朝から釣ってるんですが、誰も替わってくれないんですよ」


 俺の言葉を聞いて、アルトスさんが副官に代わるように指示している。ずっと見ていて彼も釣りをしてみたかったようだ。嬉々として替わってくれたぞ。


 アルトスさんと仮設指揮所行って驚いた。3つも焚火が出来ていて、その周りにはぐるりとレインボウの焼き串が刺さっている。アイネさん達が忙しそうに焼き串の具合を見てるんだけど、普段もあれぐらい一生懸命に仕事をしてくれればと思う。


 アルトスさんとテーブルに着くと、エルちゃんがお茶を運んできてくれた。女王様なんだけど、本人はあまり気にしないみたいだな。マイカップを持って俺の隣に座った。


 「王都の状況だが、かなりの速度で迷宮の壁が出来ている。数日で俺の部隊が引継ぐことになるだろう」

 「そうですか。エクレムさんの方の見張り台も半分ほど完成しているそうです。50D(15m)程の広さの建物ですが、3階建てとか。2階までは窓が無いそうです。天気が良ければ屋上で、悪ければ3階で周囲を監視する事ができると言っていました。最初に作った見張り台の資材を使って東の断崖に小規模の見張り台を作っているそうです」


 「かなり早いな。確かにユング様が言ったように装飾は無い。だが、王宮の外見は昔を思い出す。よくも知っていたものだと思うぞ」

 「それも、連合王国ならではのことでしょう。あまり深く考えずに、ここは彼等の好意として受け取りましょう」


 考えればおかしなことだが、今のところを見ていると連合王国からは敵意は感じられない。

 彼等なりに深い考えがあるのだろうが、今の俺達はその行為に甘えることにしよう。いずれ、俺達の王国の運営が軌道に乗れば恩を返す機会もある筈だ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ