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N-132 押し返せ


 ドンドンっと馬車の扉が叩かれたので慌ててとび起きた。

 急いで装備を整え、エルちゃんを残して馬車を出る。

 まだ空は朝焼けだ。

 

 「小競り合いが始まったとの連絡がありました」

 「場所は?」

 「アルトス殿の戦線全体とのことです」


 警備兵と共にテーブルに向かう。

 テーブルの上の天幕には光球が1つフワフワと浮かんでいた。


 テーブルの1つに端末を載せて、早速戦線の様子を伺う。

 どうやら、レムナム軍が俺達にようやく気がついたらしい。

 簡単な陣を急造してそこから撃っているようだ。

 200m程の距離を隔てて撃ち合っているから、ライフル銃ならこちらが一方的に相手を倒せるだろう。

 バリスタも使っているらしく、敵陣の何箇所かに火の手が上がっている。森を焼く為の放火用のボルトがまだ沢山残っているらしい。


 「アルトスさんから、その後の連絡は?」

 「入っていません!」

 「なら、戦況に大きな変化はないな。精々、俺達に向かって発砲していればいいさ。俺達の銃は相手よりも100D(30m)以上飛ぶ。俺達の弾丸で相手は倒れるが、相手の弾丸は板で防げる」


 厚さ3cm程の板を使って、横50cm高さ1.2m程の盾につっかえ棒がついた物を多数前線の部隊は持っている。

 連結用の穴が上下に付いているから、盾を並べて丸太を横に括り付ければ急造の塀を作れる。

 分担単位でこの盾を前に移動して行ば、敵の弾丸に晒されても大怪我をする事はないだろう。

 バリスタも全面に同じような板を付けているし、側面の板はは左右に展開できる。ある意味、自走砲に近い運用が出来る。


 旧王都の南、湖に近い場所に部隊が集中しているところをみると、そこが敵軍の本部なのだろう。前線から2kmは後方になるな。

 後続の部隊の集結も進んでいるようだ。ようやく俺達に気が付いたらしく急いで兵力を集中しているようだが、後方の部隊を全て前方に持ってくるのは、旧王都を反時計周りで迂回して行った獣や魔物の影響で出来ないようだ。

 兵力差は2個中隊以上俺達の方が上で、かつ装備も優れている。負ける要因が思い浮かばないんだよな。


 伝令兼従兵の若者が入れてくれたお茶を飲みながら、しばらくは端末を眺めていた。

 

 エクレムさんの部隊は早朝でも忙しく働いているみたいだ。ひょっとして夜間通して柵を補強しているのかな。

 森の焼け跡から次々と南に向かう兵士は焼け残った木材を運んでいるのだろう。

 サンドミナスとは、現在作っている砦が最前線になるから、出来るだけ頑丈に作っておきたいのだろう。それに、頑丈であればそれだけ駐屯する部隊を削減できる。


 タバコに火を点けてレムナム軍の後方を拡大してみていると、通信兵が馬車から出て来た。

 

 「エクレム様から連絡です。『ラティをアルトスに移動する』以上です!」

 

 そう報告すると、再び馬車に戻って行く。

 

 ラティを移動するという事は、魔物に対してバリスタで対応出来るということだろう。

 追加でバリスタが5台増えたから、それで対処出来ると踏んだのだろう。確かに20台を超える数がある。擲弾筒も30はあるから、1個中隊で大隊規模の敵兵を足止めすることは出来るだろう。

 

 そして、ラティは選抜したハンターに運用を任せて旧王都の迷宮出口を守備させればいい。


 再び仮想ディスプレイに目を向ける。

 そこでは分隊単位で戦っているレムナム兵の姿が映っていた。

 相手は熊みたいなやつだな。そしてこちらはサソリのようにも見える。

 戦っている後ろでは柵を作っているようだが、果たして間に合うのだろうか?

 

 アルトスさんの本隊から2個中隊程が旧王都の北東に作った柵に移動を始めた。

 バリスタ20台が一斉に旧王都の南の焼け跡目指して移動している。そして、ゆっくりと本隊も動き始めた。


 急いで馬車に戻るとエルちゃんを起こす。

 寝ぼけマナコで俺を見ているエルちゃんに急いで着替えるように促がした。


 「アルトスさんの部隊が動き出した。早朝から小競り合いがあるみたいだけど、いよいよ大攻勢が始まる」

 

 天幕の下のテーブルに戻ると、アイネさん達も揃っている。クラリスさんが起こしたんだろうな。


 「始まるにゃ!」

 「この部隊が位置に着き次第といったとところだろうね。後、1時間もないと思うよ」

 

 仮想ディスプレイでは、移動していた中隊が集結しつつあるのが見て取れる。

 そして、予想していた通り、1分隊がアルトさん達の王都突入部隊に合流すべく更に北に向かっている。

 

 「アルトス様より緊急連絡!『攻撃の許可を求む!』以上です」

 「私の名において、攻撃を許可すると伝えてください!」

 「了解です!」


 馬車を飛び出してきた通信兵が、馬車に走って行った。

 シイネさんが俺達に黒パンとお茶を出してくれた。簡単にハムを挟んだだけだけど、ゆっくり食事は出来ないからな。

 お茶で流し込むように朝食を終えて、旧王都の東の画像を食い入るように俺達は見詰め続ける。


 レムナム軍の手前に火炎が広がる。

 どうやら、バリスタの一斉射撃が攻撃の合図らしい。

 同時に地面が揺れたようにも見えたが、それは6個中隊が一斉に前進したからに外ならない。

 数十m程進んだところで一斉に盾を並べた。

 ゆっくりとバリスタが進んで行き、再度レムナム軍の前に火炎が広がる。

 そして、全軍がまた数十m前進していく。


 レムナムの監視部隊が次々と後方に逃げ始めた。

 このままじっとしていれば、次かその次のバリスタの着弾に巻き込まれるからな。

 

 「王都の東の部隊が慌てて逃げてるにゃ!」

 

 東の城壁に沿って展開していた1中隊が確かに大急ぎで本隊に向かっている。

 途中にあった王都の城壁の門から王都内に入る兵士は1人もいない

 あの位置は結界の中になるから、魔物が徘徊しているのだろう。無事に移動出来るのは高レベルのハンター位だと思う。


 「これで、レムナム軍は後退してくれるでしょうか?」

 「全体を見る事ができる将軍なら直ぐにでも後退するさ。でも、俺達みたいにこの世界を映し出す物は持っていないだろ。それに、後ろの魔物の規模さえ判らない筈だ。

 しばらくは俺達と戦って、最後は敗走することになると思うよ」


 端末の仮想ディスプレイが映し出す上空からの画像は、この世界ではある意味反則に近い。

 戦全体の様子がいながらにして分るけれど、敵の将軍は信頼性の低い地図と偵察部隊のもたらす情報で状況を理解しなければならないのだ。

 

 後方に少なからず魔物や獣が逃走してくるのはあらかじめ予想していたのかもしれない。後続部隊を少し下げていたのはそれを考えてのことだろう。 

 敵には俺達が関所に築いた柵で森から溢れる魔物や獣に手一杯と思っていたのだろう。未だに、全体の布陣が思うように出来ていないようだ。

 かろうじて、前衛部隊を2段に作っているのだが、それすらいたるところで兵士の混乱振りが見られる。


 「アルトス様からの連絡です。『王都の東側城壁まで、後1M(150m)』との事です!」

 

 俺達に、そう告げて馬車に走っていく通信兵とすれ違いに、もう1人が馬車から飛び出してきた。


 「デルム分隊からの連絡です。『王都西側城壁の北端部に柵を設置。2分隊で柵に待機』以上です」


 ハンター部隊の方は順調だな。

 王都の監視部隊は山麓から王都の北側斜面に沿って降りてきているようだ。

 柵が出来れば魔物や獣は戻って来れないから、俺達の安全圏はかなり広がったという事になる。


 「これはアルト様の部隊ですよね。北の門に集結してますよ」

 「リザル族のハンターと合流したんだね。そして、アルトスさんの派遣した部隊とも合流出来たようだ」


 総勢100人にも満たないが、率いるハンターは連合王国屈指の連中だろう。だいたい、魔物相手と知って来る位だから、何れも腕に自信のある連中だろう。最低でも黒の中位位はあるんじゃないか?

 アルトさんは銀レベルって聞いたからな。


 「アルト様からの緊急連絡です!『王都奪回!』以上です!」

 

 此処まで来ずに、馬車の窓を跳ね上げて大声で通信兵が知らせてくれた。

 直ぐに、王都の画像を拡大すると北門から入ったアルトさん達が広場で簡単な陣をひいている。周囲の安全を確認して、1部隊を楼門の櫓に移動させているようだ。

 櫓に移動したのはアルトスさんの部隊から派遣された連中だろう。名目は立ったから、後は足手纏いにならないようにしたんだろうな。

 そして、広場の真中に2人を残してハンター達は王都の中に散って行った。

 広場に残ったのはアルトさんにディーさんだと思うが、だいじょうぶなんだろうか?ちょっと心配になってきたぞ。

             ・

             ・

             ・


 昼を過ぎても、アルトスさんの部隊は順調に西に向かっている。

 現在の前線は王都の南の門周辺だ。

 レムナム軍の主力は西に向かって退却し始めているが、決して敗走ではない。殿部隊がしっかりとアルトスさんの部隊を牽制している。

 次の戦を考えるなら敵将の判断は正しいと言わざる得ない。これは次の戦が難かしくなるな。


 ラクト村の部隊も東に移動している。

 俺達が小屋掛けした辺りに防衛線を構築するようだ。

 侵攻軍の後続部隊の一部もそれに合流している。


 「アルトス達は何処まで行くにゃ」

 「たぶん、この辺りで停止すると思うよ」


 王都を囲む森の出口から西に1km程の場所だ。

 そこまでは疎らな林が点在しているが、その先は荒地になる。

 敵の防衛戦までは3km程離れているから邪魔されずに防衛線を構築出来るだろう。

 それに、少し高台だから周囲を監視するにも申し分ない筈だ。


 「私は、この湖が気になるんですが……」

 「結構大きな湖だからね。敵は両軍とも海軍を持っている。船を作って湖を渡る事は出来るだろう。そのために、湖に監視所を何箇所か作ることは必要だと思う。だけど、見つけてしまえば脅威ではない。バリスタで狙い撃ちが出来る。

 森が焼けた今なら、湖に沿って道を作れるだろう。その道を使ってバリスタを移動させれば湖からの脅威は防げるよ」


 それにはバリスタの改造も考えねばならない。

 今のままでは重いからな。そして、もう少し距離が欲しい。

 後は、警備艇も考える必要があるだろう。湖には魚もいるからな。漁業も視野に入れといたほうが良いだろうな。

 


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